327話 Sランク招集④
「命を握る……? どういう意味ですか?」
「これから話すんでそのうち分かりますよ」
俺の言った意味を今理解する必要はない。どうせ後で嫌でも身体でそれを理解するんだからな。
「え? でもちょっと待って。二人が招集開催を促してたんだね?」
「はい」
ギルドから来た通達に俺達の名前がないのは分かってたけど、その辺は通達とかはやっぱりされてないのか。まぁ影響力の低い俺の名前を持ち出してくれない方が結果的に好都合だった可能性はある。
「どういうことだよグランドマスター。なんでコイツらが招集開催に携わってんだァ?」
ま・た・お・ま・え・か……!
「問題でも?」
「ありありだろ!」
このチンピラ2の無駄にデカい苛立った声はなんとかならんもんかねぇ。こちらはその癇癪癖に苛立ちたいわ。
表情こそ依然として変わらないが、内心グランドマスターもそう思っていることだろう。見た目は涼しい顔で怒りをさらりと受け流しているかのようだ。
「……ふぅ。何も問題などありませんよ。カミシロ様達が招集を願ったのは事実ですが、開催を最終的に決定づけたのはギルドですから」
「はぁ? ならさらおかしくねぇか? アンタさっき詳しい話は自分も知らねぇ風の口ぶりだったじゃねェかよ。それで何をどう決定づけたってんだァ?」
そこまで俺みたいな下っ端がつけ上がるのが嫌いか――と言いたいところだけど、疑問としては一理あるか。
グランドマスターは中立の立場だ。この場の誰の味方でもない。俺もさっき確かにグランドマスターが今回の会議内容をこれから聞く的な言い方に聞こえてはいたが……。
会議前に会議内容を把握していない進行役がどこにいる? そもそも何故今回の会談がそれで開催に至ったのか? と疑問視するのは間違ってはいない。
要はグランドマスターの根拠なき実行は無謀の極みとでも言いたいのだろう。
俺らとしては有り難いんだがそれは何故に……?
「理由ならありますよ? カミシロ様とマーライト様の進言だけではないのです。セルベルティア王族クリスティーナ姫、そしてセルベルティア直属の冒険者である『千変』、『魔射』、『重撃』……通称トライデントのお三方、並びにハルケニアス国とリオール国を治められているハイリッヒ殿下とリーシャ女王からも招集開催の督促を受けておりますので。その全ての方の要求をギルドは呑むに値すると判断したまでです」
「おーぞく?」
「こりゃまた……大層な人達が出てきたッスね」
へ? うそん……。
理由を求めた視線が集中される中、グランドマスターから呟かれた確かな理由が明らかとなる。
王族という言葉は多少の効果はあったのか、チンピラ2は声を荒げることはなかった。話を聞く態勢になったのを見逃さずにグランドルマスターはそのままの勢いで続ける。
「ラグナの災厄以降からですね、カミシロ様達が招集を願ったのは。当時はお世辞にも招集を決定付けるだけの力はこの方には殆んどありませんでした。そもそも内容も伴っておらず説得力もなかったものですので、私もギルドの役人達も見向きもしなかった要求でしたよ」
うっわボロクソ言われてるわ……。――でもそうだろうな。俺が一人だけ息巻いているようにしか見えなかったと思うさ。それこそ相手にするだけ無駄な輩にしか映らかなかっただろう。
けど未来の記憶があるだなんて言って信じる奴がいるかよ。嘘も方便だと割りきってそれっぽく聞こえるように捏造するしかなかったし、そんな風に招集を促すことしかできなかったんだよ。
「ただ、カミシロ様の意志を後押しする声が各地から届き始めたのです。グランドル、セルベルティア、イーリス……次第に有力者達の大きさを増してね。流石にこれには目を止めるしかなかった。――実際出てしまった被害も軽視できない程です。セルベルティア王城を直接襲った賊など初めてでしょうし、特にイーリスではカミシロ様達がいなければ地図上から国が3つ消えていたとも……。私達がカミシロ様達の訴えようとしたことに少しでも耳を傾けていたのなら、こんな悲劇を生むこともなかったかもしれません。何かしらの対策ができたのではないか? そう思うのです」
「「「……」」」
窓の外に広がる空へと向けていた視線を落とし、目を閉じて静かに話すグランドマスター。その姿はまるで宣教師のようで、説得力を秘めた気持ちが溢れでんばかりだった。誰一人口答えすることはなかった。
「私は後悔していますよ。これはギルドの誤った判断であったと……。だからこそギルドは遅まきながらも動いたのですよ。これ以上問題が膨れ上がるのを防ぐのは勿論、ギルドが把握していない得体の知れぬ驚異がまさに迫りつつあるのではとようやく理解してね。そしてその脅威をカミシロ様達はいち早く察知し、同じく関わり、携わってきた者達はカミシロ様に希望を託したのだと考えました。……現にカミシロ様は関わってきた数々の地で英雄と謳われる規模の実績をこの短期間で残しています。……結果が語るのは紛れもない事実だけです。皆様がカミシロ様をどう思おうが、カミシロ様を慕う人達は大勢いるのです」
客観的事実に基づいて今回の招集は確定された……そういうことだろう。しかし、気持ちという目に見えず証明のしにくい部分を持ち出してここまで豪語するなんて驚きである。正直もう少し手堅い考えをお持ちの人かと思ったが……。
個人の感情を優先したようにも聞こえるこれは反感を買う可能性が高いはずだ。この人なら絶対に分かっているだろう。でもそれを分かった上でここまで言ってくれているのだから、俺らとしてはそのグランドマスターの言葉の数々には最早感謝するしかない。
言われたように、この会が無駄ではないと結果で語らせていただきましょう。
「国ぐるみでそいつと何か企んでるかもしれねェとは思わねェのかよ?」
――そう思ったのも束の間、邪魔が大好きなチンピラ2はまたも会話に立ち塞がって来るのであった。
お好きねぇ君も。ええ加減にせぇや。せっかくいい流れになったと思ったのに。
ゼビアさんが言ったように脳みそが本当にないだろと言いたくなる気持ちを俺はグッと堪える。
Sランクになるにはギルド側で確かな基準があるはずである。それなのになんでこんなモラルがなさすぎる奴がSランクの地位にいるのか全く謎だ。この短時間の間にマイナスの好感度が100%を振り切ってる勢いで未だなお降下中である。
『剛腕』はSランクの中でも強者の部類に入る稀有な強さがあるらしいからだそうだが、チンピラ2も一緒か? その割には噂も聞かなければ見た感じ威圧にも芯がない印象だけど。
「まだ納得がいかないご様子ですか。では問題の詳細も詳しく知らないにも関わらず、各地の有力者達が下手をすれば信用を失いかねないこんな大胆な声明をすると思いますか? しかも一個人に対し。――万が一世界規模であるギルドの恩恵を失えば国の安寧はおろか、財政すら圧迫して破綻します。今となってはギルドの存在は国の存在に引けをとらないのですから、そんなリスクを冒してまでカミシロ様を支援する理由はどのようなものになると言うのですか?」
「ぐっ……」
「それほど事態は切迫しているということです。今、動かなければならないと危機感を感じたに他ならない。バーン様も気持ちが自身の行動を後押しした経験がありますよね? 今は貴方が現在に渡って成している事と根底は一緒だと思ってください」
「っ……」
チンピラ2に対する疑問が芽生えた俺の一個人の考えはさておき。奴が喚けばそこは何もせずとも入る援護射撃がチンピラ2を迎撃する。グランドマスターの言葉に言い返す言葉が見当たらないようで唸る声のみ発している有様なのは無様であり、バツの悪そうな顔でチンピラ2はそこでようやく押し黙り大人しくなる。
首に縄付けておかなきゃいけない狂犬もとい叫犬だなこれは。
しっかし、今の現在進行形で成していることとは一体? Sランク特有の何か訳アリな匂いが漂ってますな。
あとそれと……思いの他滅茶苦茶協力者いたんだな、俺……。クリス様はともかくリーシャやハイリが知らぬ間に援助してくれてたのはマジ知らんかった。多分ハイリの計らいだな……というか間違いなく。リーシャがやったところでスムーズに連絡が出来てるとは思えないし、むしろギルドに失礼を働いてるに決まってる、うん。
ちなみにトライデントの三人。君達はハイリ達以上にビックリですよ。セルベルティアであの時別れ際に顔は広いとか言ってお別れしたっきりで……まさか本当にやってくれているとは。ぶっちゃけあんまりアテにはしてなかったです。ホントすんません。
これまでの小さな積み重ねが今実を結んだのかと思うと感慨深い。決して俺の行いは無駄ではなかったと思えるのだ。
間違ったと思ったこと、正しいと思ったことは数え切れないがでもそれは今は関係ない。ただ事実として俺には多くの協力者がいる……それを今実感している。
……てか一気に話進んだなオイ。さっきまでの無駄話なんやねん。
「私のところまで督促を送りつけてくる方はそういらっしゃらない。過去にただ一人の為だけに動いた国がどこにありましょうか。少なくともカミシロ様が人の心を突き動かす方であると感じましたよ。――もしこれで実のある会談にならないのであれば責任を取って私はこの座から身を引きましょう。そして今後は今回の例を教訓にしてくだされば良い。それでもご納得いただけませんか?」
「――バーン殿、グランドマスターがここまで言うのだ。今はそれでよいな?」
「……へーへー。とりまそれでいいぜ」
『連剣』さんによる取りまとめによってこのわだかまりの終わりとなって一件落着といきたかったところなのに、今度は俺が待ったを掛けたい衝動に駆られてしまう。
ちょっと待って欲しい。あのー、いくらなんでもやりすぎじゃないですかね……。なんでそこまで貴女がする必要あるんですかい?
「グランドマスター、何もそこまでしなくてもいいと思うんですけど……」
嬉しいことを言ってくれてるのは分かるよ? 実際めっちゃ信用しようとしてくれてて嬉しいんですよ?
けど過剰なおせっかいは逆に猜疑心と恐怖に変わるんですわ。
企んでいるのはむしろグランドマスターの方では? と一瞬警戒したものの――。
「いいえ、させてください。私は自分の判断は割りと正しいと信じてますから」
えぇー……。
アンタ天然入ってんのかとツッコみを入れたくなる無垢さを見せつけられてしまい、芽生えかけた猜疑心は吹っ飛んで拍子抜けさせられてしまうのだった。
なんともまぁ、気の抜けるような理由を言うもんだ。割りとって……そこは言い切らないのかよ!? ニコッと笑ってる場合か。
つーかヤベェよヤベェよ。グランドマスターから俺何故か無性に信用されてるんですけど? 何、この妄信的なまでの信用……運命の人に出会いましたみたいな瞳向けるのやめて欲しいよ。勘だけど個人的理由がそうさせてるような気がしてきたぞオイ。
……まぁ、グランドマスターの期待を裏切るつもりはないし、信用してもらえているというなら俺もグランドマスターの立場を守らせてもらうとしよう。
この謎はその後にでも聞いてみるとしようか。
「えー……こっからは俺が……。グランドマスターの言う脅威が迫っている事実をお伝えします」
何度埒が明かないと思ったことか。
グランドマスターへの返事は取りあえず無視し、この場の主導権を握るために俺は口を開いた。
というかさっきの俺の「解放させてもらうとしましょうか?」のアレ。アレ言ってから結構俺放置されてたし台詞が完全に空回りしてんじゃねーか。意気込んで言った分滅茶苦茶恥ずいわっ!
これから『ノヴァが』共がやってくるっていうのに真面目さと焦りを忘れそうになる展開の数々は一体何の補正だよ! 馬鹿さSランクの招集じゃないんだぞ全く……!
※6/11追記
次回更新は明日です。




