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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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325話 Sランク招集②

 



「では早速本題へと移りましょう。まずは既に殆んどの方が挨拶を済ませているかと思いますが、今回初出席であるカミシロ様がいらっしゃいますので……始めに挨拶をどうぞ」

「……はい」


 会談が始まって早々、司会進行役のグランドマスターより俺の最初の仕事はまずは挨拶しろとのことらしい。

 どさくさに紛れてここにしれっといるのもモヤモヤするし、新顔なら当然っちゃ当然か。返事をして俺は席を立った。


 席を立った瞬間から、視線をいきなりガンガン感じる。世間の尊敬と畏怖を同時に抱く者達が一斉に俺を見ているのだ。流石に世界のトップ達の視線は一般とは違うプレッシャーがある気がするなと心で思う。


「……あれ? そういえばあのお兄さん誰?」


 一人だけ、プレッシャーを全くと言っていい程に感じないお子さんはいますが。


 今まで俺が新顔であることを意識していなかったのか、またはそういう者が初出席であることを理解していなかったのかは分からないが、『武神』がキョトンとした顔で放心している。やはり歳相応の子どもっぽさは隠しきれていないようである。

 正直ここに何をしに来てるのかすら理解してない可能性すらある気がしてくる。


 てか背が足りないから小人さんと一緒で椅子が特注のものになってんですね。あら可愛い。

 ……ま、これから挨拶するから大人しくしててね?


「えー、今グランドマスターが仰ったように必要ないかもしれませんが形だけ……。改めてよろしくお願いします。……多分300年振りくらいに異世界から来ました神代司です」

「え゛っ!?」

「ハァッ!?」


 俺が自己紹介を言い終える前の時点で、目の前の机が大きく揺れる。そして目を剥いて見られることで一層視線が強くなる。

 皆盛大に驚いているようだ。特にチンピラ2は机に乗せていた足のせいでバランスが悪かったのだろう。椅子が倒れそうになってバランスを取るのに必死だったのを俺は見逃してはいない。


 ハハ、案外効果あったみたいだな。異世界人の影響力も捨てたもんじゃない。




「おやおや、いきなりですね? 流石異世界人……常識外れのことをしてくれますね?」


 しかし、Sランカーがざわめくこの場で唯一驚いた反応を見せなかった人もいた。


「……割と驚くだろうなって予想してたんですけど、全く驚いたように見えない貴女も大概だと思いますがね。元々知ってたんですか?」

「えぇ、それとなく聞いてはいたので」


 グランドマスターだけは驚きを見せた反応が全く見られなかった。探りを入れてみても飄々として受け流されてしまうし、平静を保つ能力に非常に長けている印象といったところか。


 やはりこれがグランドマスターとしての格なのか? もし仮に初耳で驚かれなかったのならその肝っ玉に恐れ入る。……女性だからタマないけど。

 これで実は男でしたって言われたら俺が驚くわ。――いや引くわ、前倒しで速攻冒険者辞めますよ。


「さ、流石に昇格が早すぎるとは思っていましたけど……」

「そうでしたのね……こ、これは……!」


 姐さんが俺の冒険者家業の経歴に対し納得のいった反応をする一方で、驚きから即座に切り替えて手を忙しなく動かしている人もいる。


 ゼビアさん……予想通りノートに早速何か書いとる。貴女は書記担当か何かですかな? やっぱし真面目さんか。


「ふむ……伝承に伝わっている話では他の人らも凄まじくて手に負えない程だったそうだが……。急に現れた新星はそういうことか」


『連剣』さんが腕組みをしながら静かに頷く。こちらも驚いたのは一瞬ですぐに平静を取り戻す辺り大した人だと思う。


 確かにこれまでの俺の実績考えたら余りにも突拍子すぎて勘付かれてたとしても不思議じゃないわなぁ。

 バレないようバレないようにと振る舞っていたのが全部空回りして今がある。冒険者登録初日とか学院とかラグナとか。後悔はないとはいえ過去の自分に反省である。




 ――ぶっちゃけ最初に挨拶くらいあるだろと予想はしていた。そして今の挨拶は予めそう言う予定で考えていたものである。

 第一印象というのはインパクトが大事なのだ。人間関係も第一印象が重要というのは割と良く聞く話……出だしは良好と言える。

 本音を言えば俺は親しくもないこの人達のことはどうでもいいと思っているのだが……最後の譲歩、なけなしの気遣い程度はくれてやってもいいかとは思えたのだ。俺が今異世界人などと口走ったのもそれが関係している。嫌でも話に集中させてやる心遣いをしてあげたつもりなのを察して、しっかりと自分達の置かれてる状況を理解してもらいたい一心だ。




 ……それで話を聞かない奴はもう知らん。せめて魂だけは易々と明け渡さないように最期まで勝手に足掻けばいいさ。


「――っ!? っ……!」

「む?」


 現状に満足する一方で、俺は不意にある人と目が合った。だがそれが非常に気まずく、一瞬目を背けてしまって失礼を働いたことにすぐ後悔する羽目になった。しかも向こうに悟られた。

 ――『漆黒』さんである。


「あの、神鳥殿。もう気にされるのはよしてほしいのであります。昨日の一件は恐らく某の身内の不始末から生まれた仕方のない間違いに過ぎないと思っておりますゆえ。……詳細は後程聞かせていただけるのでありますよね?」

「……えぇ、必ず。昨日は本当に申し訳ありませんでした」

「それならそれを落とし所にしてほしいのであります。貴殿はきっと悪くありません」


 殺し掛けるところだった奴が目の前にいるのに、『漆黒』さんは俺に対し微笑みかけてくる。

 いつもだったらこんな優しさを見せる人に俺は深い感謝の念を抱いているはずだ。だが今回ばかりはどうしても別のモノが邪魔して素直にそう思わせてはくれそうもないのが複雑すぎる。


「優しいわね、『漆黒』さんは。貴方みたいな紳士はワタクシ素敵だと思いますわ」

「そ、そんなことはないのであります。あ、あまり持ち上げないでくだされれ!?」


 呂律の回っていない『漆黒』さんの慌てふためく声が目立つ。

 昨日女性は苦手と聞いていたが本当のことらしい。昨日俺らの一部始終を見ていた姐さんに褒められただけで盛大にキョドっている始末であり、ある意味コミュ障に近いレベルかもしれない。




 それはさておき――。

 でもなんか調子狂うんだよな……。だって『影』の見た目した人が良い人とか考えられないだろ? どうしたって奴の印象しか出てこねぇし。

 昨日俺に非があったことは認める。――でもまだ油断はしないし出来ないけどな。

 疑心暗鬼になるくらいは当たり前じゃなきゃいけない。安堵させてから平然と裏切るなんて連中なら何食わぬ顔でやってのけるんだ。こっちはこっちで心にメッキを常に掛けたままくらい当たり前に出来なきゃ全て持っていかれてしまう。


「わぁ~……! ね、ね!? 異世界人! 異世界人ってすっごく強いんでしょ!? 見たい見たいー!」


 一人、めっちゃ興奮してるお子さんがいらっしゃるみたいですね。

 ハイいい子いい子。あとで構ってあげるから落ち着いてくださいお願いします。今そんな気分じゃないんだ……それか飴ちゃんでもいるか?


『武神』の無邪気さには心が落ち着かされる。まるで『漆黒』さんの件で荒みかけた心は一気にまた元通りになっていくようである。キラキラしてこちらを見る眼は興味津々といった感じで、『真影』さん的に言えば俺はターゲットロックオン状態に等しいっぽいが。


 何この可愛い生き物、まるでウルルさん並じゃないか。こっちはショタっ子ちびっ子マジ獣人ですけども。最早Sランカーのマスコットだろ『武神』。

 ただし、マスコットだけど地面と空を割れるらしいです。凄いね、最近のマスコットキャラはそんなこともできるのか。


「フン、テメェが異世界人だって証拠はあんのか? 噂の一人歩きじゃなかったのかよ?」


 と、ここまで驚きの声等しか上がらなかったわけだがチンピラ2による尋問がスタートしたようである。見てみるとデカい態度はそのままに、ただでさえ元々ツリ目で威圧感があるのにそこから更に目を細めて俺を怪しそうに見ている。


 別にチンピラ2の言い分も間違ってないし正常な反応ではある。でも証拠と言われるとねぇ……。


「……エスペランサー」


 証拠と言われ、机に立てかけていたエスペランサーへと呼びかけるとエスペランサーは宙へと独りでに浮かび上がる。

 証拠と言われて示せるものも中々ないのである。異世界の身分を示すものなど俺以外に必要ないのだから基準自体がこの世界に存在していないようなもので、これもまた予想していてはいた展開だが難題であった。


 唯一証明できそうなものとして宝剣であるエスペランサーの適合者という名分はあるが……これもよく考えればセルベルティアでは文句なしの効果があっても他では証明にはイマイチ欠けるんだよなぁ。


「あ? なんだァそりゃ……?」

「セルベルティアに遺されていた宝剣です。これはご存知ですか?」

「あ゛ー……聞いたことはあったっけか? まァ知ってるな」

「コイツを自由に使えるのは理由になりませんか?」

「ハンッ、誰にも抜けなかった剣が抜けたから異世界人気取りってか? そもそも異世界人にしか抜けねェって話自体俺ァ信じちゃいねーからなァ」


 ですよねー。全員が全員、宝剣を扱えること=異世界人っていう図式が当てはまるわけでもなし。

 これまでにも何度か適合者に近しい人でもいたのか、神殿で僅かに反応したりしてたらしいからなぁエスペランサーは。


 300年は昔の伝承で強く伝わっているのは宝剣が残るセルベルティア周辺の地域に限られる。他の地域では異世界人への認知と信仰がそれとなくあるのみで、魔大陸出身である彼には大した意味を為さないのだろう。

 しかも、もしエスペランサ―が異世界人達全員と適合した過去があるのなら話は別だが、生憎と適合者はこれまでに『勇者』さんただ一人である。エスペランサーの次の適合者である俺が異世界人だと示す証拠になるのは、異世界人特有の波長を感知できるセルベルティア以外では難しいだろう。

 チンピラ2の言い方には若干腹が立たないこともないが、間違ったことは言っていない。


「ちょっと馬鹿、一体なんで突っかかってるのよ?」

「別に俺は異世界人であろうがなかろうが知ったこっちゃねェんだよ。ただ、新米がいきなりデケェ態度してていい度胸してるなと思っただけだ」

「……デカい態度はどっちよ」


 言うな。ゼビアさん、それ皆分かってることだから言う必要ないから。無駄に血を上らせるだけだからやめときなって。


 ふむ……確かに俺はSランクとしちゃ新米だ。在籍期間の長い人からしたら下っ端的存在だし、自己紹介の内容がどうであれ態度がデカく見えたことが癇に障ったかもしれない。

 要は俺が気に入らないってことだろ? アンタの性格なら真っ向から言えるだろうに。

 ――でも俺にとっちゃそれが何か? って話だけどな。怒りを買ってでもそれで俺の話に集中してもらえるなら構いやしないわ。むしろ安い。




「――そいつが言っていることは恐らく本当だ」




 俺の話題で俺の存在を皆に植え付けるのが順調に進む中、俺の身分の証明に対し肯定の考えを持った味方が急遽声を上げるのだった。


※6/3追記

次回更新は今日です。

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