324話 Sランク招集①
おまたせ。
投稿遅れた理由? ……データって突然飛ぶんですね(遠い目)
◇◇◇
「――皆様、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
集まった者達へ労いと感謝の意を表し、グランドマスターの声が俺の横から聞こえてくる。多少雑音のあった部屋は声を合図になりを潜め、俺を含めこの場の全ての視線がグランドマスターへと注がれている。
今俺はギルド本部に足を運んでいる。勿論Sランク招集のために。
会議はVIP限定で扱われる厳かな部屋で行うらしく、そびえるように建つ本部の最上階から見渡す景色は圧巻の一言に尽きる。真下にある闘技場は当然としてオルドスの街も思う存分に見渡せる場所などここらには存在しないため、この景色を見れることが特別だろう。Sランクの地位に万歳である。
部屋の中央には部屋の半分を占める巨大な会議机があり、俺達Sランクは割り振られた席にそれぞれが着いている。全員の顔が眺められる円卓状に展開された席は会議に相応しく、それぞれのSランク保持者が座る様は圧巻……というよりも、異質という方が適切かもしれない。
筋骨隆々で逞しい者、子供と見間違いしてしまいそうな程幼い容姿の者、素顔を見せぬ黒衣を纏った怪しいオーラを放つ者、どこぞの名家の娘なのかか弱そうな者等々。種族も違えば歳も性別も違う。見ただけでは共通点すらなく、似つかない者達の集合した光景は異質と称するに値するだろう。
しかし、それこそ皆Sランクであることの証拠だろう。世界の頂点に君臨する者達が一般的な枠に当てはまることなどないのだから。唯一共通点を挙げるならば、それぞれがその身に強大な力を宿している者達であるということである。
「お待たせ致しました。ではこれより……最高位特別会談を執り行います」
グランドマスターの宣言と共に、この場に集まることのできたSランカー達の気が引き締まる。
今、運命の分岐点への最後の刻が動き出した。
ここから先は希望か絶望の二択のみ。どっちに転がるかは俺らの動き次第だ。些細な動きにも注意を払わなければならない。
グランドマスターが俺らをじっくりと一瞥している中、俺は言葉では上手く言えない気持ちで手に汗が滲んでいるのを感じた。落ち着かない気持ちは抑えきれず心臓がいつもよりも強く脈打つのが分かる。
待ちわびていたと同時に恐れていた瞬間。それが遂に来た。来てしまった。
「一つ。会を始める前に事前に何か申し出ておきたい方がいれば先にお願い致します」
会談中に余計な話の介入を避けたいのか、最初にグランドマスターからのお願いが……。――まぁ当然である。
本題を話さずに余計な話で盛り上がって時間だけ過ぎていくなんて話は聞いたことがある。Sランクが集まれる機会は限られているし、各々分かってはいるだろうが無駄な時間にしないためにも断りを入れておく必要はあるだろう。
……もしかしたら断りを入れておかないといけなかったのかもしれないが。
「……なら一ついいか?」
そしてその声に『連剣』の人が挙手をして席を立ち上がった。無言でコクリと頷いたグランドマスターを見て発言を許されたと感じたようで、グランドマスターへの皆の視線を今度は自分に集めて口を開く。
「今回は随分と無茶苦茶な開催だな? こんな強引な開催は過去に例を見ないが……」
「そのことに関しましては誠に申し訳ございません」
グランドマスターは指摘されることを予期していたのか、さらりと謝罪して頭を下げる。
無茶苦茶……というのは語るまでもない。『連剣』さんの質問は全員が感じていたことだ。皆の気持ちを代弁するかのように『連剣』さんは続ける。
「昨日ここにいる者の殆んどが抗議に来たのだが留守にしていたようで途方にくれていた。――グランドマスター。其方は昨日一体何をしていた?」
「うん、僕も聞きたいな。昨日無駄足になっちゃったし騒ぎはまた起こるしでもー大変だったんだからさ」
「……騒ぎの原因を作ったのは貴方でしょうに」
『連剣』さんの声に賛同する小人さんに対し姐さんは呆れた反応を示しているが……全く何を言っているのやら。
姐さんの言う通り騒ぎにしたのはアンタだろ。何故に被害者ぶっているんだ。
むしろ被害者は俺ですから。というかギルドで起こった騒ぎの大半の被害者が俺ですよ?
えー、コホン。俺もツッコミを入れたいのは今は置いておいて……。
グランドマスターが不在であったことが俺らに無益な時間を与えたのは事実だ。その釈明を求めたいのは俺も一緒だ。
昨日は俺らもグランドマスターを総力を挙げて探したのだ。精霊、魔力感知、気配察知等々を使って。――しかし、見つけられなかった。別の大陸にでも行っていたのかは分からないがグランドマスターの足取りは全く掴めず終いであった。
昨日はそのお蔭で無駄にヘトヘトになっただけに終わったし、会えなかった焦りもあってか心が乱されてアンリさんに情けない姿を晒す羽目にもなったわけで……。まぁ半分八つ当たりだけど俺も腹は立っている。
ただ、まともな高速移動手段がない中で別の大陸に行ったというのは考えにくい。転移結晶を持っていてそれを使ったならば可能ではあるが……非常に希少な貴族御用達の品をたった一日の為に浪費するのも考えにくい。一体どんな方法を使ったのかは実際疑問である。
「ねーねー、昨日皆でお祭りでもしてたの?」
「いやお祭りではないッスよ。ちょっとした面倒というか……」
「え~? なぁんだ、つまんないのー。お祭りだったら皆と遊べたのにー」
「まぁまぁ、お祭りはまた今度ってことで……」
グランドマスターとの会話がある一方で、会話に加わっていない者達二人の会話が小耳に入り込んでくる。両者共に獣耳を生やした若者達だ。
一方はこの前打ち解けている『真影』さん。身なりも前回と変わらずでありラフな話し方をしている。
そしてもう一方の人物だが……こちらは聞いてはいたがまさか本当に、というのが俺の素直な感想である。
小人さんは十分に子供っぽいが実際は三十路間近の中年男。でも今『真影』さんと話して一喜一憂しているもう一人の獣人さんは紛れもない幼い子どもなのである。年齢で言えば10歳くらいだろうか? 背丈も小人であるライツさんとそれほど変わらないし、口を尖らせて文句を垂れている姿は正直愛嬌の方が強いくらいだ。
『真影』さんにはこの前相応の実力を見せられているのでSランクとしての疑いの余地はない。でも子どもの方は明らかにこの場にいてはいけなさそうな存在に見えるうえ、なにより見た目が全く実力があるようには思えず無邪気に振る舞う子供にしか見えないのだ。さっきから小さな虎耳とフリフリと跳ねている尻尾は最早和みしか感じられないし、グランドルにいたガキんちょやテリスちゃんみたいに守ってあげたい部類に入るだろう。
――が、先入観だけで判断することの危うさを身を持って知るとは正にこのことだ。というのも、とんでもないことにこのお子さんもこの場にいる以上ちゃんとSランカーなのだ。しかも授かりし二つ名は他のSランカー達とは放つ格が違う大層なものであり、俺もその二つ名の響きは脳裏に強く印象付けられていたのでよく知っていた。――その名も『武神』。
一昨日に『真影』さんから話を聞いた限りでは、思考は幼いもののそれが逆に持ち前である抜群の機動性と動きが読めないスタイルを確立させているらしく、戦闘力に関してはこの歳で既にSランクの中でも最強クラスと名高い。話によると秘技と呼ばれる拳は大地を割り、脚部は空をも割るとのこと。……どんだけやねん。
なんでも生まれが由緒正しい部族の出身であるらしく、何代にも渡って受け継がれた秘技を継承し既に免許皆伝にまで至っている模様。『真影』さんをして絶対に怒らせたくない人の一人であるらしく、子どもであるが故に何に機嫌を損ねるのかがイマイチ掴みづらいそうだ。今もやんわりと接しているのはそういうことだろう。
まぁその前にこんな子どもの見た目をした子の機嫌を損ねるとかするわけありませんが。(小人さんを除く)
お兄さんは子どもと女性には一応優しいつもりなので。
結論から言うと、とにかく滅茶苦茶強いのである。物語とかでよくある「この人もしかしたら別世界の転生者じゃね?」としか思えない人物らしい。
まだ大層な二つ名の重みを理解できているのかは知らないが、末恐ろしすぎるモンスターチャイルドここに極まれりである。『闘神』の異名を持つジークと『武神』は似ているのかもしれない。
「……で、どうなんだ?」
「それは昨日私がここを離れていたことと、本日にどうしても開催をしなければならなかったことに関係します。来られなかった方には悪いですが、時間がそれほどに惜しかったのですよ」
自分に非があったことを認めた上で、それでなお自分の判断に疑いを持っていないような態度をグランドマスターは示すのであった。凛とした眼差しを『連剣』さんへと向け、数秒の間視線を交わす。
すると――。
「はぁ~……も少し納得のいくモンを期待してたんだがなァ。んだそりゃ」
ここで、今日お初に目にする方から野次が飛ぶ。
ドカッと机を揺らす程の大きな音がした方を見れば、足を机の上に乗せた魔族のチャラい男性がデカい態度で異論を唱えているようだった。偉そうな態度の『剛腕』とは違って、こちらは粋がってるだけのような印象だが。
癖毛金髪に耳にはピアス。首にはシルバーアクセを身に付けたチャラい人。これだけの要素があれば嫌でも目に付くというもので、最初この部屋に入った時にこの人は苦手だなぁと思っていたが……その先入観は間違ってはなさそうである。
俺、こういう人苦手だわ。
「ちょっと、汚い足乗せて机揺らさないでくれる? 相変わらず態度デカいのよ……皆そう思ってるわよ」
と、ここでチャラい人を注意するのはチャラい人の隣に座っていた同じく魔族である女性の人。
短く切り揃えられた白髪のショートヘアに眼鏡をかけており、肌の露出を控えたぴっちりとした模範的な冒険者の恰好に加えて、机の上には会談の記録をするためかノートまで持参している。それだけで明らかに真面目系の人なんだと分かってしまう人である。
多分、この場でも一位二位を争う真面目な人なんじゃないだろうか。勿論トップにいるのはヒナギさんである。
「ハッ、知ったことかよ。うっせーんだよ鉄女」
「全く、これだから脳みそ空っぽの馬鹿は。相変わらずこの場にいてもアンタは無意味ね。邪魔よ」
「あァん? んだとテメー!」
「いえ、脳みそ空っぽ以前に脳みそが無いのだから言葉の意味も理解できなかったか。それなら仕方なかったわね」
「っ……いい度胸だゼビア……! 今日こそ決着つけてどっちが上か分からせてやるぜ……!」
「勝手にやってなさいよ」
「逃げるつもりかよ!」
「逃げる? それは何の冗談かしら。大体決着なんてつくわけないでしょ。それより大声出さないで。うるさいのよ」
二人の口論はものの数秒で一触即発の域にまで到達してしまったようだ。ゼビアさんと言うらしい人の反論と挑発を馬鹿正直に真に受ける性質なのか、チャラい人が席を立って青筋を額に浮かべている。おー怖い怖い。
……つーかチャラい人、態度悪い自覚あったんかい。だったら直せよ。見た目大人でも素直になれない反抗期か?
そういえばセルベルティアにもこんな人達いたなぁ。2回目に絡まれた時にポポが盛大に脅してたから更生してるといいけど……恐らくそれは無理だろうな。更生できるチンピラは極少数だろうし。それだとあの人達は今日も元気にカツアゲ中でしょうか?
チャラい人の言動に、かつてのチンピラ達を思い出してしまう。
よし、このチャラい人はチンピラ2と呼ぼう。セルベルティアの二人は合わせて元祖で。
「いつもいつも気に食わねぇんだよお前のその馬鹿にした言動はよ」
「あっそ。それはこっちの台詞ね。いつもいつも耳障りなのよアンタの言動はね」
この犬猿の仲の二人……彼らは『灼熱』と『白蓮』の二つ名を持つ人達である。お互いの性格もそうだが、二つ名が示す力はお察しの通り……その相反する性質上対立してしまうのも無理はない、のかもしれない。
でも……う~ん、ゼビアさん真面目だけど口はあんまし良くない? それともこのチャラい人にだけ? 犬猿の仲ならその可能性はなくはない。
「――グランドマスター。今のバーン殿の声は皆の不満そのものでもある。私も此度の急な日程変更には異論を申し立てたかったからな。だが何より、召集に間に合わなかった者が7名もいるのは問題と考えている。果たして小規模なまま開催をして良いのだろうか?」
「今はそれだけの価値がある……とだけ言っておきましょう」
「価値、だと……?」
「ええ、断言します」
「……そうか、なら分かった。その価値とやらも含め話を聞くとしよう。これ以上の反発はまず話を聞いてからにしておく……会談前にすまない」
「感謝致します」
チンピラ2がゼビアさんの席の真横にまで迫ろうとしたところで、『連剣』さんの声がその動きを止めさせた。
今正にチンピラ2の手が出ようとした瞬間だった。手を出させる前に仲裁にも入ろうとしたのだろう。『連剣』さんは険悪に包まれかけていたこの場の空気を一瞬にしてコントロールしたかと思えば、瞬く間に自分がこの場の雰囲気の支配権を握ってみせた。
すげぇ、あの二人の口論を無理矢理止めるのと同時に話を元の流れに戻したよこの人。しかも態度のデカいチャラい人が反論の声も出してこないとか……アンタ何者や。……いや、『連剣』さんですけども。
やっぱり『連剣』さんはここにいる人達からも一目置かれてるのは間違いない。滲み出すリーダー感が半端ないし、昨日も直接話してて思ったけどやっぱりむっちゃまともそうな人だな。
敬意を込めてこれからは貴方のことはマスターと呼ばせてくだされ。勿論私の心の中限定で。
あとチンピラ2さん名前はバーンって言うんですか、そうですか。確かに頭弾けてそうだし納得納得。
――さて、無理矢理やってた平常心を保ちがてらの思考はここまでにしとくか。ともかく……会談は無事始まりそうだな。
一応最終確認と相談がてら昨日ヴァルダに連絡してみたところ繋がらなかった。招集日が急に変更になったから、アイツのことだし必死こいてギリギリまで情報を掻き集めようとしてくれているのかもしれない。アイツはそういう奴だし、そういうところが非常に頼れるってのもある。今朝にも連絡しては見たが繋がらなかったため新情報は一切ないのは不安ではあるが、ないものねだりをしても仕方がない。なら俺は情報が古くともそれを信じるしかないのだ。
『ノヴァ』……お前らは一体どこから来る? 正面からか? それともこの前みたいに不意打ちを狙ってくるか? それとも――。
対策という対策でもないが、会談の場は俺が、そしてアンリさん達はジークが。パーティ最強の俺とジークの2人でどちらの陣営も最低でも守る手筈となっている。向こうも既に臨戦態勢にいつでも入れる状態になっているから抜かりはないはずだ。
俺とジーク二人が相手ならどうしても連中は戦力を割く必要が出てくるはず。一か所に固まって集中砲火を食らうよりも、戦力を効率よく分散させた方が生還の確率と事故を防げる確立は上がると踏んでの結果だ。
この考えが功となすか仇となすかは不明。しかし、最早功とさせるほかない。それになにより……この方が俺らが動きやすいってのもある。
魂を易々と奪わせはしないし、俺の仲間も誰一人奪わせてたまるか。必ず守る……今回こそ、必ず……!
今日こそ俺らの全力の力を解放する時だ。奴らに目に物見せてやる……。
波乱が待ち受けているのが分かり切っているSランク招集。
俺は――いや俺達は、遂に運命の刻へと足を踏み入れようとしていた。
※6/1追記
次回更新は今日です。




