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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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319話 決戦前夜①(別視点)



◇◇◇




「――ってことがあったらしい」

「うっそーんっ!?」


 静かな暗闇に、真昼でも早々にない男の驚きの声が辺りに木霊する。


「え、あっぶね……ツカサに人殺しさせるところだったとか今日イチの驚きなんですけど。シュトルム君達よくギリ間に合った。よくやった、ほんっとに良くやった、今だけツカサ以上に愛してる……グッジョブ……!」


 今日の昼間に起こった出来事をジークから聞いていたヴァルダであったが、握りこぶしを盛大に震わせ、感極極まった様子を見せている姿が本気なのか演技なのかは分からない。しかし、どちらにせよ司が人殺しをしないで済んだ点については本当に安堵しているようである。


「あの者達がいなければ本気でマズかっただろう。我には彼を止める手立てなどないし、九死に一生を得た思いだったな」


 今宵はまた、例の禁止区域にてヴァルダ達の密会が執り行われているのだ。前日とは違ってヴィオラはこの場にはいないが代わりに今回はウィネスがおり、現場に居合わせていたこともあって詳細な報告をしているらしい。


「その時に彼が見せた鬼の形相はそれまでと比べて尋常ではない豹変ぶりだった。余りの気迫に他の者達も動けずにいたのだがな……Sランクとは名ばかりであると思い知らされたよ。シュバルトゥム殿下の方がよっぽどその名に相応しいだろう」

「そりゃ……シュトルム君ももう化物一歩手前まで来てるし比べるもんじゃないと思いますけど」


 致し方のないことだと思いつつ、難しい顔をして答えるヴァルダであったが、ウィネスの顔には自嘲の色が見えていた。

 自分達は司の気に当てられて動けずにいたなか、シュトルムは迷うことなく司を止めたのだ。それができない自分達との格差を目の当たりにしてしまうと、曲がりなりにも世界の最高峰と言われる立場が全くなかったのである。


「ただ、あの温厚そうな者をあそこまで変えるとは……。一体どうしたらあそこまで……」

「人は何があって変わるか分かんないですから。ツカサは未来と今の記憶を2つ併せ持ってるから、変わり幅も確立も通常の人よりも大きいんです」


 自分達のことはさておき。

 司よりも永く生きているウィネスは自らの人生経験を省みるも、激烈な感情に即座に切り替わる程のことがあったとは言い難かった。妻と娘を人質に囚われて『ノヴァ』に抱いていた恨みつらみ。司のそれは、そんな生易しいものではないと肌で感じていたのだ。

 ヴァルダはそんなウィネスに諭すように短く、簡潔に告げると、腕組みをして情報の整理と現状確認を進めていく。


「ふ~ん……そっかそっか。なら無害の『漆黒』さんには悪かったけど、決戦前夜に良いこと聞けたな。良い感じに下準備出来てたみたいで良かったよ。これなら明日はもっと仕上がってそうだな」

「――一つ聞きたいのだがよいだろうか?」

「はいはい、なんですかな?」


 独り言を周知するように呟くヴァルダであったが、ウィネスにはここでとある言葉が引っかかったようだ。ヴァルダを邪魔するつもりはなかったものの、自分も計画に携わる者として最低限のことは知りえておきたい気持ちが芽生えたらしい。


「其方達がやろうとしていることを詳しく聞いたわけではないから憶測になるのだが、恐らく其方達は明日……彼と本気で対峙するつもりなのではないか?」


 ウィネスは自分が言うことを冗談半分恐れ半分にヴァルダに問う。ヴァルダが決戦と口にしたことで、ウィネスは直感的にそう思えたのだ。


 司との本気の対峙。それは手も足も出るはずのない実力差を知っている手前、不安を覚えないわけがない。生唾を飲み込む音が聞こえそうな程、ウィネスは間違いであって欲しいと願うも――。


「本気で対峙するつもりはないんですけど、しないとこっちが歯が立たないから仕方なくですけど……まぁそうですね。それがどうかしましたか?」

「っ……」


 特にはぐらかすでもなく、ヴァルダはウィネスの問いを素直に認めて素面で話したことで願いは儚くも散っていく。

 未来の司に助けてもらった恩を返さないつもりは毛頭ない。そして二度と会うことが出来ない以上、その仲間であるヴァルダ達に協力することでその恩を返すつもりなのも変わることは無い。

だが、それが無意味に等しいのではと思うと躊躇してしまいそうになったのだ。


「彼が……この前会った彼と同一人物だというのは声を聞いて確信した。しかし、この場で最も非力な我が偉そうで済まないが、彼の相手が務まる者がいるというのか? 彼は其方達以上のように見えるのだが」

「んー……現状まともにタイマンで勝てる奴なんてどこにもいないと思いますけどね、うん」

「負け戦をするつもりなのか?」

「んなわけないじゃないですか。別に今回勝ち負けが重要じゃないですし」

「?」

「俺らは俺らの役目を果たせればそれでいいんです。試合に負けて勝負に勝てスタイルなんですよ」

「それはどういう……?」

「それでも内容的に無事では済まないのは間違いない。俺は戦うのも嫌いだし痛いのはもっと嫌ですから、出来る限り不用意に傷つくつもりはないんですけどね」


 異論を唱えていくうちに、ウィネスの不安は困惑へと変わっていった。決戦と言うからには雌雄を決する意味合いかと思っていたのだがそれはどうやら違うらしく、ヴァルダ達もまともに司とやり合うことは避けているらしい。実力差を弁え、誰も勝てないと分かっているようだ。


 ヴァルダはウィネスの内面が分かっていたようだが、気にせず語り始める。ジークとウィネスに背中を向け、暗闇の中を数歩進んで何も見えない方に向かって。


「アイツのことだから何してくるか分かったもんじゃないんですよ。これまで会った奴の中で誰よりも土壇場で何をしでかすか分からない恐ろしさがアイツにはある。【無限成長】だなんていう凶悪な力のせいでどんな方向性に進化するかなんて誰にも予想できやしないんですから。今のアイツと未来のアイツは別物なんです。ステータスだけじゃなく、それ以外も(・・・・・)……」

「察するに、『それ以外』……という部分が重要なのか?」

「ま、そうですね。計画の第二段階目において、俺らがやる羽目になったことの消化は勿論最重要ではありますが、アイツの中の二つの感情を爆発的に引き出すためにもやるわけですしね。【無限成長】の強制乱用に近いですけど……俺なら死んでもやりたくないですね」

「……」

「取りあえず、余計なこと知って動きに迷いが生じられても困るんで。ウィネスさんは言われたこと取りあえずこなしてくださいな。……大丈夫、今回は誰も死にませんから。アイツとの約束に誓って死なせはしない」


 ウィネスにはヴァルダの言っていることの大半は理解できなかった。しかし、ヴァルダが最後に振り返って見せた頼もしい表情が語る意味だけはそれとなく理解した。

 司と対峙することに対しての十分な備えがあるということ。そしてなにより、自分を気遣ってくれているのだということを。


「了解した」


 そんな二度とないかもしれないヴァルダの頼もしい表情を見てしまったのだから、ウィネスはもう頷くことしかできなかった。




 その一方で――。




「(コイツいつもこんな雰囲気なら誰も文句なんていわねぇのにな。勿体ねぇ奴)」


 ジークはいつもとのギャップ差を目の当たりにしてむしろ残念がるのだった。

投稿遅くなり申し訳ありませぬ。

今回短いんで次回更新は明後日です。多分夜かと。

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