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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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308話 ジルバ②

 


「失礼します」


 入る許可をもらったヒナギさんはドアを開くと、まるで面接にでも来たのかと思うくらい丁寧に入っていく。

 その動作の無駄のなさの不意打ちに感嘆せざるを得なかった。


 う~む……やはり非の打ち所がねぇわ。いちいち動作が上品で流麗なのは素晴らしすぎませんか?  ……ハイ、素晴らしいんです。

 ホントなんでこの人こんなに完成されてるんだろう……。最早人類の至宝レベルですな。


 なんて考えながら俺もセシルさんと共にヒナギさんの後に続く。


「失礼しまs――ぅぇええええっ!!?」

「ツカサ!?」


 ーーが、待ち受けていたのは悲惨なものだった。


 店内の全体像をなんとなく察したくらいだった。俺が店内に足を踏み入れた途端、その一歩目は地に着くことはなかった。

 いきなりポッカリと開いた床に、流れるように落ちたのだ。無重力となった身体が俺の内蔵を持ち上げて気持ち悪く、だがそれ以上に全身の毛が逆立って気持ちはパニック状態に即座に変わっていた。


「っ……な、なんだこれ!? ビビったぁ……」


 しかし落ちるのであれば足場を作ればよい。そのまま落ちぬように『エアブロック』で落下を回避し、穴からはすぐに這い出る。


 急な出来事にも咄嗟に反応できる程度には俺も修羅場を潜り抜けているのだ。油断していたのは否定しないが、まさかこんなところでここまでの警戒を必要とするなんて誰が予想できるというのだろうか?


「大丈夫ですかカミシロ様!?」

「え、えぇ……取り敢えずは」


 すぐさま駆け寄ってくるヒナギさんが慌てているのをなだめながら、内心では悪態をつく。


 くっ……なんだこのバラエティー番組は。俺の大事な部分が縮こまってるんですけど?

 一般人だったらどうなってるか分からんぞ。


 穴を振り返れば真っ暗闇の空間が広がるのみで、風の流れさえ感じられない。

 密閉されたどこまで深いかも分からないトラップ。そこに嵌まってしまった時を考えるとゾッとする。


「ほぅ、奈落に落ちんとはやるな。見かけによらず大した反応だ」

「っ……いきなりなにするんですか!」


 偉そうに俺へと称賛の声を投げ掛ける声が聞こえ、俺はすぐにそちらに目を向ける。そして反射的に文句をぶつけていた。

 手には赤いスイッチのようなものを持っているのだから疑いようもない。言動からもトラップを作動させたのはこの人で間違いないだろう。


「儂が入れと言ったのは『鉄壁』だ、お前らではない。……小娘の方は命拾いしたな。儂は小娘だろうと容赦せんぞ」


 この工場の主である俺達の尋ね人。ドワーフのジルバさんは仏頂面でそう言うと、ずんぐりむっくりした身体で俺らの前に仁王立ちする。

 ドワーフであるため背丈は俺よりも低いが……老齢に似合わない逞しい筋肉はマッチさんとタメを張るかもしれない。

 煤で黒く汚れた白い髭と額に着けているくたびれたゴーグルは、ベテランの職人であることを証明しつつ生きた時間の差をそれとなく感じさせてくる。


 でもこの野郎……やっぱネジぶっ飛んでやがる。予想してた通りだ。

 初対面で見ず知らずの人になんて歓迎の挨拶だ。死でお迎えするつもりか!

 ちんだけに落ちんわゴラ!


「私、小娘って歳じゃないんだけど?」


 俺がいたことで罠に引っ掛かることのなかったセシルさんは穴を迂回し、ジルバさんにジト目で抗議した。

 実際、セシルさんは真実を知る者以外には理解はされないだろうが、この世界の誰に対しても言える権利はあるだろう。見た目は小娘と言われても仕方のない容姿だとしても、こちらこそ生きた年期が別格なのだから。


「ならもう少し背を伸ばしてから言うんだな。人族でドワーフの儂より少し大きい程度では言われても仕方なかろう」

「ム……」


 いや、小娘でいいかもしんないわー。


 ジルバさんが適当に言ったことにセシルさんは目を細めた。ムッとしているのは言わずもがな身体が小さい、ということに対してだろう。

 両腰に手を置いて身体を大きくしようとしているみたいな姿勢になるが、それが小さいことを認めているようでもあり皮肉な行動となっている。


 セシルさんもなんだかんだ子ども扱いされるとムキになるよね。イーリスでは男のエデンを小さいと言われてキレてたし。……まぁそれはしゃーない。

 でもほっぺ膨らませちゃってまぁ……。可愛いトコありますネ。

 あとちなみにセシルさん人族じゃありませんから。


「そのローブも身体のサイズに合ってはおらんしな。見栄を張ったところで虚しいだけだぞ」

「これはこれでいいの。昔からずっとそうしてきてるから」


 イーリスでは普段の全身ローブを着用していなかったセシルさんだが、今は着用している。

 流石にイーリス以外の所では天使の存在を知られるわけにはいかないためだ。簡単に天使の存在をイーリスみたく他の人達に理解されるとは思っていない。

 ただ、イーリスでは受け入れてもらえた事実はセシルさんの心の変化として表れている。ここ最近はフードも被らずにサラサラの見事な金髪を晒してはいるが、これがなんともまぁ人目を惹くのである。


 つまり、セシルさんマジ天使な状態となっているのだ。

 地球なら天使萌えとかの人がいたら絶句するくらいの境地のお方に、セシルさんは見事昇華されたようです。ハイ拍手~。

 それくらいの美少女力とインパクト……多分本人は自覚ないんだろうけど、ここに来るまでにすれ違った人達が何人二度見したことか。セシルさんとヒナギさんのツートップもこれまたエグイ。

 卑猥な意味ではない目のやり場に困る状態というやつである。


「フン、まぁ別によい。小さい者が虚勢を張るのは昔も今も変わらんからな。――お前らもそれと同じだけか」


 ――だが、この輩にはセシルさんの見た目(アビリティ)は意味を為さなかったようだ。

 それと同時に俺のアビリティが発動。目の前の輩に対してストレスゲージがグイグイ上昇していく。


 なるほど、先程からの気に障る発言の数々は俺らのヘイトを貯めるためだったんですね。ちゃんと意味があったなんて……。




 ――ハァ? 地面と同化させるぞこの見た目豆タンク野郎が。

 ベルクさんの師匠だかしらんが、さっきから言いすぎじゃないですかねぇ?




 二人の会話を第三者として静観していたはずが、最後の一言で俺にも飛び火したことが分かった。


 小さいの標的をナチュラルに俺も込みにして言うとか良い度胸ですわ。種族の特徴を言い訳に好き勝手言ってくれやがりまして……!


「……どうした? そんな怪訝そうな顔をして?」

「「……」」


 お前のせいだよ!


 さも不思議だと言わんばかりの豆タンクの質問に、俺とセシルさんの顔の筋肉がヒクつく。

 言葉を交わさずともこのジジイをぶちのめしてぇという意識が共有され、だがそれを支えに手が出てしまいそうな衝動をなんとか抑えつける。




 ……いや、一応この豆タンクが俺らに対して強く当たるのは分かるっちゃ分かるのよ? この豆タンクが言ったここに来ることに関して関係のない俺とセシルさんが、許可もなくズカズカと入ってきたことにご立腹だってことはさ。

 神聖な工場に入って来るんじゃねぇよっていう職人気質が滲み出て、それがそんじょそこらの人よりも強かっただけなのは分かりますとも。


 でもこの程度でねぇ……。ちょっと怒りの沸点小さすぎません? もしかして見た目に比例するんですか? 

 それはそれはお気の毒に……。

 あ、今俺とセシルさんは関係ないんで一緒にしないでくださいね。俺ら見た目と比例しないで反比例してるくらいですから。




 とにかく、この近辺に人が少ししかいない理由がよく分かった。この人がこんなんじゃこの辺りに人が寄り付くわけがない。

 この人の癪に触れればそれだけでアウトで、大人も子ども? も容赦なく鉄槌が下るのだから。

 どうせ先程の落とし穴だけしかトラップがないなんてことはあるまい。床に罠があったのなら天井や壁の何の変哲もない場所から予想外の刃物が飛んできたとしても別に不思議じゃないとしか思えない。


 だがこの言いたくても言わない燻った気持ちは一先ず胸の内にしまっておくとしよう。

 だって大人ですし? 小さくないですし? 寛大な心をアピールしようとか微塵も全然思ってないですし?


「……それで『鉄壁』よ。急にどうした? あれから3年くらいだったか」


 うん、そんな俺とセシルさんの心境は当然の如くスルーされました。そりゃ口に出してないんだから無理もないんだけど。


「はい。その節は大変お世話になりました。覚えていてくださったのですね?」

「当然だ。認めた者を忘れる真似はせん。……あの頃よりも、少し大人びた雰囲気を纏うようになったな。幼さはもう抜けきったといったところか」

「ありがとうございます」


 ヒナギさんと豆タンクの二人は2年前を思い出しているようで、懐かしそうに語る。2年間お互いに音沙汰もなかったのなら、久々の再会は話題も多そうだが――。


「うむ。それに比べ――」

「「?」」

「この二人は随分と子供っぽいようだな? 随分とお粗末だが……」


 オイてめぇ、やっぱミンチにするぞ♪

 いちいち俺らを引き合いに出すな。


 どうしても俺らを貶したいのか、それとも苛立ちを抑えきれないのか。豆タンクは一言余計な発言をする。


 確かにヒナギさんとは比べるまでもなく子どもですけども……面倒くせぇ。

 ベルクさんよくこんなのに耐えられたな。尊敬する。


「な、なかなか初対面の人にもストレートですね? 随分と(・・・)

「よく言われる」


 じゃあ直せよ! 


「……」

「……?」


 皮肉を強調して言ったつもりだが、気にもしない態度にいよいよ怒りが臨界に達しそうになる。

 口を開いたら何を言ってしまうか分からなかったため、俺は無言でベルクさんにしたためてもらった紹介状を突きつけることにした。


 もうさっさと用事済ませて退散したい……。

 この人厄介さで五指に入るの間違いだろ。


「ベルクか……」


 豆タンクは差し出された紹介状に一瞬目を留めると、無言でそれを受け取った。そして一通り目を通すと考え込む素振りを見せている。

 封をされていたため一体どんな内容が記されているかは俺には分からないが、少なくともこの人を唸らせる程度の内容は記載されていたようだ。


「『鉄壁』。折れた刀を見せてみろ」

「え?」

「何を呆けている。そのためにここに来たのだろう? 時間を無駄にするな」


 ヒナギさんが一瞬呆けてしまったのも無理はない。前置きもなく急に話が進んだのだから。

 豆タンクは紹介状を近くのテーブルへと置くと、額のゴーグルを目に装着してヒナギさんを催促する。


 この人をすぐに動かせるベルクさん……パネェわー。流石弟子と言えば良いのか。


「……」


 ヒナギさんの愛刀を受け取りながら作業場にドカッと座り込んだ豆タンクは、刀の状態の確認に入ると集中し、細部にまで目を通しているようだった。

 とても声を掛けられる雰囲気ではなくなり、息を呑んで俺らは成り行きを見守るだけだった。


※1月29日追記

次回更新は多分来週あたりです。

また更に追記して連絡します。


※2月5日追記

次回更新は明日です。


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