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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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29話 従魔の責任

「こんにちは~」


 声を若干潜めて俺は恐る恐るギルドへと入る。

 ぶっちゃけさっきまでいた気しかしないのだが、5日も経過しているということでとりあえず挨拶はしておく。

 …違和感しかないが。


 そんな俺の声に真っ先に反応したのは、マッチさんだった。


「ツカサさん!? 今までどこに行ってたんですか!? 急に来なくなったので心配していたんですよ!?」


 とりあえずマッチさんのいるカウンターまで近づく。


「えっと、すいません。色々ありまして…。というよりたった5日くらいでそんな大げさな…」

「いえいえ心配しますよ。だって貴方はギルドの有望株なんですよ? 何の連絡もなくいなくなったらそれは心配しますよ」

「あー、申し訳ありません。以後気を付けます」


 まぁ不可抗力ではあるが、実際に心配をかけてしまったのは事実なので素直に反省する。

 …どう反省していいのかはわからんけど。


 にしても、俺ってギルドの有望株だったのか…。

 問題児とかではないぶんまだいいんだけど、何か照れるな。


「…といっても、冒険者はそういう方が多いですし、ギルドもそんな束縛をするような権限はないのであくまで個人的な心配にすぎませんが…。まぁ頭に留めておいてくださればいいです」

「マッチさん…。はい。わかりました」


 やっぱりマッチさんは職員としてだけでなく、人間性もしっかりしているみたいだ。そんな人にはこちらもそれ相応の気持ちで対応したいと思う。

 人の善意を無下にするような奴にはなりたくない。


「まぁまぁ、この話はこれで終わりにしましょう。長くなってもあれですし…」


 ポポがそう言ったので、マッチさんとのほっこりする会話は終了した。


 まぁ、マッチさんも通常業務があるし納得。


「ご主人」


 後ろから声を掛けられる。ポポではない。


 これは…ナナの声だ。


 俺は咄嗟に後ろを振り向く。さっきのポポみたいな展開だけは勘弁だ。


 そして防御の姿勢を取る。

 さっきのポポの経験もあり、洗練された動作で姿勢を取れたのではないかと思うくらい迷いがなかったと思う。


 自惚れだがちょっとカッコよかったんじゃね?


 ちなみにポポは俺の肩に止まっていたため、その急な動作についていけずに吹き飛ばされていた。


 まぁすぐ飛んで戻ってきたけど…。ゴメンちょ。


 そしてナナはというと…特に動く気配がない。

 ただ床にポツンと立っているだけであり、俺はそれを見下ろす形で見ている。


「…何してるの?」

「えっ? これは条件反射というか何というか…。咄嗟にでちゃっただけなんだが…」


 ナナが白けた目でこちらを見ている。


 もしポポと同じ展開なら警戒しないはずがないでしょ。

 でもあれ? 読みがはずれたか? なんもない…。


 てか俺だけ構えててなんかバカみたいなんですけどー。

 マッチさんとポポがついていけない顔してるんですけどー。

 俺を置いていかないで欲しいんですけどー。


 俺が内心冷や汗をかいているとナナが口を開く。


「で、ご主人は今までどこに?」

「…色々ありまして、ハハハ」


 なんかナナの言葉が冷たい気がする。

 少なくともいつもの感じじゃない。語尾も伸ばしていないみたいだし…。

 思わず敬語になっちゃったよ。


「そう…。ケガとかは…してるね。というより初めてみた。大丈夫なの?」

「ああ、これはちょっと色々あってな…。まぁ俺の凡ミスだよ。別に問題ない」


 ナナに言われて頬の腫れのことを思い出す。


 意識したら少し痛く感じてきた。早く腫れが退いてくれるといいんだけど…。

 痛いのはイヤ。


【HP自動回復(特大)】があるからそのうち治るだろうけど、まともに怪我したのは今回が初めてだからどれくらい掛かるかは分からない。


「言われてみれば頬が腫れてますね。どうしたんですか?」

「本当だ…。まさかご主人が怪我をするなんて…気づきませんでした」


 オイ。

 あんたら気づいてなかったんかい。分かってる体で話してるのかと思ってたぞ…。

 ぶっちゃけ怪我について触れられなかったから、内心不安だったんですがねぇ。

 マッチさんはまぁいいけど、ポポよ。

 お前俺の従魔だろ…。しっかりしてくれ。


「ホントにただの凡ミスですよ。怪我しない人間なんているわけないじゃないですか」


 俺の心の声はそのままに、極めて冷静に落ち着いた返答をする。


「大剣をその身一つで受け止めるような人が何言ってるんですか…」


 …。

 そういえばそんなこともありましたね…。

 うん、これは俺が悪いな。最初の段階で変な印象を与えてしまったのが原因だろう。

 マッチさんゴメンなさい。俺は論外です。


「確かにそんなこともありましたけど、それはそれです。今回のは自分でつけてしまった怪我なんですよ。それくらいは誰だってあるでしょう?」


 ペラペラと適当に返答しているが、これはあながち間違いではないと思う。

 だって怪我した原因って未来の俺によるものなんだもん。一応俺自身ということになるから間違ってはいないはず…。


「まぁそうですね…。いえ、思えばツカサさんが怪我をしているのを始めてみたものですから…」

「あー、そうかもしれないですね。まぁ俺も人間だったってことですよ」

「ハハハ、そういうことになりますね」

「その言い方だとなんかそう思ってなかったみたいな言い方じゃないですか?」

「正直今まで疑ってたりします(笑)」

「酷いですよ!?」


 そんな他愛もない会話をマッチさんとする。


 というより以外にも人間と思われていなかったことには驚きを隠せないぞ? 疑いは腫れたけどさ…。

 でもちょっとヘコむわ~。


 そんなことを考えていると…


「そう…。とりあえず平気なんだね?」


 ナナが声を掛けてきた。


 そういえばコイツとの会話中だったな…忘れてた。

 お兄さん反省してます、ハイ。


「ああ、問題ないぞ?」

「ならいい。後で詳しい説明よろしく」

「おう」

「…ふい~。とりあえず今回はこんなところでいいかな~。次はないからね~?」


 ナナが大きく息を吐き出していつもの口調に戻る。


 なんだ? 次って?


 俺が考えていると…


「…返事は?」


 ニッコリしながら顔に怒りマークを付け、ナナが言ってくる。


「は、はいっ!!」


 その姿に気圧され、俺は元気よく返事をする。


 こ、コイツは敵に回しちゃダメなやつだ。次はないってそういう意味だきっと。


 咄嗟にそう判断する。


「ん、よろしい」


 これは、あれだな。怒ってたんですね。多分心配をしたからこその…。

 こういう反応をされたら流石に気づくわ。


「…何ていうか、どっちが偉いのかわからないですね」


 俺たちのやり取りを見ていたマッチさんがそんなことを言ってくる。


 まぁ、一応俺がご主人なんですけどねー。

 正直なところ従魔兼家族ペットだしそんなもんどうでもいいんだけど。


「まぁ俺達らしくていいんじゃないですかね?」

「そうとも言えますが…。というよりツカサさんくらいじゃないですか? こんなに従魔が自由なのは? 普通の【従魔師】はもっと厳しい誓約を課していたりするらしいですけど…」


 他の従魔師を俺は見たことないんで、普通というのが分からんのですよ…。

 会える機会があったら話を聞いてみたいもんだ。


「へぇ~、そうなんですか。でもまぁ、コイツらそこら辺のやつらと比べたら知能あるんで…」

「確かに…しっかりしてますもんね、ポポさんとナナさんは」

「いやぁ、それほどでも」

「照れちゃうよ~」


 マッチさんの言葉に2匹は照れている。

 が…


「…ですが、この5日間のことは忘れたわけではないのでよく覚えておいてくださいね? 一応貸ですからね?」


 マッチさんがため息を吐いて言う。


 …やっぱり何かあったのか?


「…はい」

「ううっ、は~い…」


 2匹は俯きながら返事をする。


 オイ、お前ら一体何したんだ?

 責任は俺に来るんですが…。


「お前ら…。マッチさん、コイツら何したんですか?」


 聞いてみる。


「ツカサさんは気にしなくてもいいですよ? 今回のは個人的なお願いとしてポポさんとナナさんに協力してあげただけですので、ツカサさんに何か責任が行くということはありません」

「は、はぁ…?」

「ただ、今度ポポさんとナナさんをお借りすることがあるかもしれませんので、それはご了承願いたいのですが…」

「ええ、それは構いませんよ? どうぞどうぞ」

「言質は取りました。ふふふ、ポポさん、ナナさん、よろしくお願いしますね?」

「「…あい」」


 コイツらが何をしたかは知らんが、俺は関係ないみたいだし、特に干渉はしない方針でいこう。


「あと、捜索の依頼は取り消させてもらっても大丈夫ですか?」

「おっと、そうでした。取り消してもらって大丈夫です。本人ここにいますし」

「分かりました。では私は通常業務に戻らせていただきますね」

「はい。俺たちもこれで失礼します」


 ギルドでの会話はこれで終了した。




 早く宿に帰ろう。

 もう休みたい。

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