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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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305話 狂える者達(別視点)

「何やってんの……てかなんでここにいんの?」

「確かにヤバい奴が来やがったな」

「貴方って人は……」

「えぇー……運命の再会で開口一番それって酷すぎないか? ガックシ……ボロ糞言われて悲しくなってくるね」


 角から現れたのはヴァルダだった。両手をズボンに突っ込んだチャラ男風に、緊張感のまるでない姿での登場はシュトルム達からすれば一発殴りを加えてやりたい程腹ただしく映ったようだ。

 何故ヴァルダがここにいるのだと、落胆せずにはいられない。一斉に不満をぶつけている。


「……ちぇ、はいはいさーせん、なんかよく分かんないけど俺なんかが出しゃばってすんませんでしたー。もう二度とこういうことしないとは言いませんから許して下さい」

「なんで拗ねてんだよ。しかも確約してねぇし」


 シュトルム達に対して口を尖らせるヴァルダは、頭を数回掻いて不満気な様子だ。実際この場に現れただけでいきなり言葉攻めを食らったのだからある意味正常でもあった。


 だが、これは単純にヴァルダの存在がシュトルム達にとっても酷いだけに過ぎない。この状況を度外視したとしても、見ただけで無条件に非難の言葉を生んでしまう。

 それがヴァルダなのだ。本人の過去の言動の数々に問題があるだけだった。




「というかヴァルダさん。ホントになんでここに?」


 未来の司ではないことに落胆と安堵の両方を感じていたシュトルム達は、最後に大きく盛大な溜息を吐いた後、ヴァルダがここにいる理由を尋ねる。

 ヴァルダであろうがなかろうが、ここにいる理由は普通の理由ではないことは確かなのだ。


「んー? そりゃツカサを助けにきたから……ただそれだけなんだが?」

「え?」

「何を驚く? ツカサの危機を俺が察知できないわけがないだろう……言わせるなよ」

「「「(気持ち悪い)」」」


 ムッとした顔で心外だと言わんばかりに目を細めるヴァルダは、腕組みをしながら今度は逆にシュトルム達に文句を突きつける。

 言葉だけ聞いていれば頼もしい限りではあるのだが、ヴァルダの性格を知っている手前とてもそうは思えない。シュトルム達には悪寒と嫌悪感が同時に駆け巡り、少し身震いした。


 どんだけソレ(・・)を貫き通してるのだと。


「――まぁそこらへんにしとけ。どうせコイツは変わらねぇんだからよ」


 ヴァルダの曲がってきた角から、また別の者の声がし意識がそちらに向くシュトルム達。

 それもそのはずだ。


「悪ぃ悪ぃ、待たせたなお前ら」


 角から姿を出したのは、ずっと待っていたジークであったからである。


「ジーk……え?」


 遅くなったこと、随分と余裕そうな顔で緊張感のなさそうなこと。特にナナはそれらをすぐにでも言い放ってやりたいところであったが、それよりも気になる部分に注目してそれどころではなくなる。


「……」


 ジークが片手で抱えているセシルの姿を見てしまっては。

 金髪が床まで届きそうなくらいまで垂れ、目を閉じて身体もだらんとしているのだ。単なる眠りとは違うのは一目瞭然だった。セシルの身に何かあったことを疑わずにはいられない。


「セシル!? ど、どうしたの!?」

「――こういうことだ」


 ナナがセシルの身を案じて叫ぶと同時に、ジークもその答えを行動で示した。


「っ!?」

「何を!?」


 ジークが片手を振るうと、青いロープが2方向に向かって真っすぐ投擲される。標的はシュトルムの肩に止まるポポとナナ。ロープは2匹に当たる直前で網状に広がると、2匹の身を包んでいとも簡単に捉えてしまう。


「「ぁっ!?」」

「……まずは厄介なチビ二匹」


 捉えたことを確認したジークは2匹に反応させることなくロープを思い切り手繰り寄せると、眼前まで迫る2匹をそのままセシルを沈めた時と同じく、『ソウル・インパクト』を用いて意識を刈り取った。


 2匹が苦悶の声を上げると同時に拘束を解き、そのまま2匹を片手で器用に空中で掴んだジークは、抱えているセシルのローブにあったポケットに取りあえず2匹を放り込む。両手が塞がることは避けたかったのかもしれない。


「(何が、起こった……?)」


 ジークの挙動の速さをシュトルムは捉えきれてはおらず、辛うじて見えたのはポポとナナが手繰り寄せられ、意識を失うに至るまでの間だけだ。最初にロープを投擲したことには全く反応ができず、気が付いたらポポとナナが肩からはいなくなっていた。


「まさか、この異常はお前さんらが……?」

「あぁそうだ。正確にはコイツとネズミ、あとグラマスのおかげだがな」


 残されたシュトルムが辛うじて投げかけた言葉に対し、ヴァルダを指さしながら、他の協力者の2名の力も借りてこの事態を意図的に引き起こしたとジークは言う。


「そんで次は旦那……アンタの番だ」


 声色はいつもと何ら遜色はない。しかしいつものやる気のない瞳ではなく、『夜叉』と相対した時に見せていた本気の敵意。その眼差しを今ジークはしていた。

 目が切り替わってからジークが行動を起こすまではまさに一瞬だった。シュトルムに反応する時間すら与えない。


 ジークはシュトルムの四肢を貫かぬよう、展開した【刃器一体(ソウルアーム)】を槍へと変換してシュトルムの頭上から幾重にも枝分かれさせて撃ちだした。

 シュトルムの身体を紙一重で躱し、かつシュトルムの自由を限りなく奪いながら足元の大理石を容赦なく砕いて突き刺さる無数の槍は、まさに大胆かつ繊細。神業の一言に尽きる芸当だった。


「くっ!?」


 槍が竹林のように生えた光景を作り上げると、その中心で槍の鎖に縛られたシュトルムは成す術もなくジークへと強く呼びかける。

 それ以外のことができる余裕などなかったのだ。唯一動けそうなのは口だけだった。


「お、お前さん……一体何を……!? いきなりなんでこんなことを……!? セシル嬢ちゃんまで……!」

「……ハッ。旦那、そりゃ愚問ってもんだろう?」


 上手く言葉をまとめることも出来ない程に、今シュトルムは混乱していた。身内にいきなり敵意を向けられ、しかもその人物がずっと待ちわびていた奴なのだ。急変した態度は否応なしに疑問を心に植え付ける。


 ジークはシュトルムへの返答として、卑しい笑みを浮かべながらシュトルムへと近づく。そしてシュトルムに触れられる位置までやってくると、腹部に手を置いて言うのだ。


「俺を誰だと思ってんだ? 『ノヴァ』の一人……『闘神』と呼ばれた戦闘凶だぜ? 戦いをいきなり吹っ掛けて何か変なところでもあったか?」


 今自分がしていることに、何もおかしなことなどないと。


 言い終わると、置かれていた手には青いオーラが宿った。


「ぐっ!?」

「終わりだ」


 無抵抗なシュトルムに迷いなく一撃を叩き込み、苦悶の声をあげさせるジーク。セシル、ポポ、ナナに続いて作業のように犠牲者を出していく姿は見る者を恐怖に陥れる姿をしていた。




 これで一先ず落ち着ける。

 ジークはオーラを引っ込めて臨戦態勢を解くが――。




「……は、ハハ……嘘が、下手、だな……お前、さん……は……!」

「っ!? (ちっ、加減を見誤ったか……!)」


 息も絶え絶えに、まだシュトルムは意識を辛うじて保っていたらしい。ジークにとってもこれはどうやら誤算であったようで、内心舌打ちする羽目になった。

 しかし、シュトルムはそのまますぐに果ててしまい、結局は大した意味もない抵抗に終わったようなものだったが。




 槍の鎖に縛られたシュトルムは崩れることもできず、そのまま槍に身体を預ける形で目を瞑る。その表情は安心を微かに浮かべており、余計にバツの悪そうな顔をジークはするしかなかった。


「――お見事。投げ縄を使う人なんて初めて見たよ」

「そりゃな。俺も初めて使ったからな」

「……マジ? ホント冗談じゃなく恐ろしいな。達人ばりの手際をいとも簡単に……」


 ジークの手際を後ろでずっと見ていたヴァルダは、ジークが縄という個性的な武器を使用したことに感心したらしい。

 あらゆる武器を自由自在に扱うことのできるジークのことは知っている。だから縄という珍しい武器であっても一度くらいは使用したことがあると思い込んでいたのだが、一度も使ったことがないと聞いてジークの力にも興味を抱くことになったようである。


「間近でそれを見れたのは収穫だ。いやぁ~世界のシステムの範疇を超えてるチート能力ですわ」


 ジークの力に対し、ヴァルダは満足した様子でそう称した。


 聞いていただけのことはまだ自分の知識にするべきではないとヴァルダは考えているのだ。実際に自分でそれを見て知り、そこでようやく自分の経験として生かせる土俵に乗る。知識欲に取りつかれているヴァルダが知りたいのは、嘘偽りのない正しい知識を知ることなのである。


 そして今、ジークの力を正しく知った。


「でも一体どうしたんだい今のキャラは? 君らしくもない」


 それともう一つ、知りたいと思える姿を見せたジークのことをヴァルダはついでに聞きたいとも思っている。

 ジーク自身、確かにする必要もない姿を見せた自覚はあったのだろう。隠す理由もないため正直に話すのだった。


「備えってのは、必要だろう?」

「備え?」

「こんなのはまだ序の口だ。当日にはもっと抗う必要があるんだしな……」

「あー……予行演習のつもりという意味だったのか」


 ヴァルダが聞きたかったことは、ジークがシュトルムに向かってあんな態度を見せたことにある。

 この後に施す処置を考えれば、シュトルム達を無力化することについては言葉を交わす必要も、役を演じる必要もそもそもないのだ。その理由が分からずに聞いたつもりであったが、深く考える必要もない理由が答えなのだと悟り、やや納得した様子をヴァルダは見せる。


「今回ばっかしは流石にn……ってオイ、何だその呆けた顔は?」

「いや、君でも不安とか抱えることあるんだなぁと思いまして」

「あん? 何言ってんだお前。んなの当たり前だろ、アホか」

「(ジーク君も人なんだなぁ……確かに当たり前なんだが)」


 ジークの吐露にどこか微笑ましさすら覚える感覚を覚えたヴァルダであったが、それは無理もないことかもしれない。そもそも、今のこの時間はヴァルダはフリードから聞き及んでいる範疇でもないのだから。

 予測不可能な事態は何処にでも存在する。だが、ヴァルダはまさかジークが先に待つ役目に不安を抱いているとは思いもしなかったのだ。そのような性格と度胸はしていないと……そう思い込んでいた。

 身近な者が予測不可能な反応をしたことに内心で驚きと悩みを抱えていたりする。


「ったく、どいつもこいつも……。あんな目で見てくんじゃねぇよ……」


 苦しそうな声で、弱音にも似た言葉がジークから漏れる。


 ジークが手をあげようとした最中、セシルもポポもナナも、そしてシュトルムも。皆信じられないという顔をしていたのが脳裏に焼き付いてその時を思い起こさせていた。ジークはそのことに悪態をつくことでしか堪えることが出来なかった。

 特に、シュトルムが尽きる間際で言った言葉はジークの内に最も大きな打撃を与えていた。


「ツカサと交わしている『血の誓約』は今の一連の行動を違反とは見なしていないんだし、気にするなとは言わないが……割り切れないものなのかい?」

「簡単に言ってくれるな、それでもなんだよ。誓約があろうが俺が我慢しようが、俺の中の『血』は今のをそう思ってはくれねぇ。今までは全く反抗したことなんてなかったくせに、いきなり好き勝手暴れてくれやがる……!」


 また胸に爪を食いこませるようにして何かを堪えている様子を見せているジークの額には、先程は出ていなかったが小さな粒が数個出来ている。それらはツー……っと目尻の横を抜け、異端とされる首元のタトゥーまで落ちていく。


「ジーク君はもう休んでいいよ。残りは俺がやっておこう。君のその苦痛……『血の誓約』よりよっぽど辛そうだしな。それは当日までもう味わう必要はない。恐らく、君がもたなくなる(・・・・・・・・)


 それを見たヴァルダは今後のことも考え、今はジークを気遣うべきという判断に至ったようだ。

 ヴァルダとて人である。決して心まで鬼ではないのだ。今は甘さを見せてもいいと思えたようだ。


「すまねぇ、不甲斐なくて悪ぃな」

「それはお互い様だろう。元々一番厄介なシュトルム君達の突破が君の役目だったんだし、こっから先は俺の領分だ。任せろ……選手交代だ。――皆を安全な場所まで運んでおいてくれるかい?」

「分かった」




 ジークは【刃器一体(ソウルアーム)】を解き、シュトルムをそのままもう片方の手で担ぎ上げる。そのままヴァルダの指示通りゆっくりとこの場を後にしていき、やがて姿は見えなくなった。

 遠ざかっていく足音も聞こえなくなった辺りで、ヴァルダもまた神妙な顔つきをして考えに耽る。


「(想像以上のキツさ、か……。となるとやはり他の面子も読めなさそうだな)」


 少しずつ予想外の事態に見舞われることが増えて来たことに、ヴァルダもまた不安を隠しきれはしない。全てを台無しにしないためにも、さっきジーク達へと言った気を引き締めるという言葉を自分にも強く言い聞かせる。


「(さて、何事もなく終わるといいんだが……)」


 予想不可の事態が起こる可能性をにわかに濃くし、ヴァルダは司が眠る部屋のドアへと目を向ける。

 そして音もなく、ヴァルダの姿は廊下から忽然と消えてしまうのだった。


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