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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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304話 神出鬼没(別視点)

 



 ◆◆◆




「ジークの奴……遅いな」

「グランドマスターは一体どこにいるんでしょうね? 少なくとも私達の感知する範囲外であるのは間違いないですけど」


 ギルド本部の病棟内。白熱球程度の灯りに晒された廊下の司が療養中の部屋のすぐ近く。そこに備え付けられた椅子にシュトルム達は今座り込んで待機していた。


 ギルドの総本部は設備が充実していることもあり、病院としての機能も担っているのである。流石にグレードで言えば最高峰とは言えないが、それでも十分な程の医療技術を誇る程だ。

 病棟内ということもあり、時間も夜間帯。他にも療養中の人が少なからずいる手前、会話は周りには聞こえないくらいコソコソとしたものだが、そこは地球の常識と変わらないようだ。身体を労わる気遣いやモラルは世界共通ということだろう。


「こんな事態なのにセシルもいないし、ちょっとパニクってきたな~」


 ナナの言うこんな事態とは、司が倒れ伏したことである。

 リーダーである司は皆の重心なのだ。欠落しただけではパーティの統率は崩れはしないとはいえ、重心のいないパーティは不安定になるというもの。加えて自らの主の危機が再び訪れたのだ。軽口で言ってはいるがナナは最初は酷く取り乱しており、今ようやく落ち着きを取り戻しつつあるだけだったりする。


 それを内心思いつつ、シュトルムはナナのボヤキに返答する。


「セシル嬢ちゃんか……。やっぱ何かあったのかもな。ツカサが倒れた時、えらい動揺してたし。途中で持ち直したように見えたんだがなぁ」

「うん。多分、セシルには何か見えたんだと思う。ご主人の心の中がどうなっているのかがさ」


 司が倒れた時、取り乱した者を数えればそれは全員該当することはする。ただ、アンリやヒナギ、そしてナナとは違った意味で奇妙な動揺を露わにしていたのがセシルである。

 心配とは別の何か、あの一瞬の間にセシルに何が起こったのかは未だ本人にしか分かってはいない。


「それより早くジークさん戻ってこないですかね。このままじゃ何も進展しません」

「ね。なに道草食ってんのかな……まったく」

「まぁ落ち着けって。ジークが自分から言い出したんだから、信じて待つべきだろう」


 耳元から聞こえてくるナナの八つ当たりの文句を、シュトルムは大人びた落ち着きで宥める。


 司が今苦しんでいる現状を改善できそうな可能性のある人物というのは一人しか皆には思い浮かばない。

 グランドマスターであるヴィオラただ一人だけだ。


 しかし、司が倒れた後すぐにヴィオラを追求しようとしたメンバーであったが、あろうことかヴィオラは忽然と姿を消してしまっていたのだ。それはまるで消えてしまったように。

 ナナの魔力では感知の範囲外なのか感知すら出来ず、シュトルムの精霊による捜索でも一向に見つからない。ポポが気配を探ろうとも察知できない状態がこの夜間まで続き、正直お手上げ状態だったのだ。


 セシルは司が倒れてからは何故か皆から遠ざかる様にして一人になりたいと言って別行動を始めてしまい、天使の力を借りることもできない。――となると、並外れた嗅覚とポポ以上の気配察知を持つジークに頼る以外なかった。

 ジーク自身も、俺が一番探し出すのは早いと言ってヴィオラの捜索に即座に行動を移した。


 ただ、そのジークが暫く前に出て行ったっきり戻ってこないのだ。

 ジークならば身の心配は要らないとはいえ、今の状況が状況である。負を連想させる連鎖は苛立ちとなってストレスをどんどん積み上げてしまっていた。




「そう、だね。一番信じて待ってるのは、アンリとヒナギだもんね。私達g……」




 それでも、言われていることはナナも内心では分かっている。シュトルムに言われるまでもなく、ジークは仲間として信じているのだ。ただ、苛立ちが滲み出てしまっていただけに過ぎない。

 問題ないと言おうとしたところだが――ナナは口を閉ざさざるを得なくなってしまったが。


「ナナ?」

「いきなり黙ってどうしt……」


 不自然な言葉の途切れ方に、ポポとシュトルムは違和感を覚える。

 ナナの変化に気付き声を掛けたシュトルムだが、シュトルムとナナと同じく途中で口を噤んで真剣な顔へと変わっていく。


「……なぁ、俺は今初めての感覚に直面してんだが?」

「シュトルムにも分かる? おかしいよね……急にここら一帯の魔力の流れが変わった……」

「魔力の流れが?」


 お互いに似た力を持つ者同士、ナナとシュトルムには通ずる感覚があるらしい。だがポポは魔力関係のことには割と疎いためよく事態が呑み込めていなかった。

 少なくとも、自分には分からないことが2人には分かることだけはポポは理解した。


 シュトルムはそれまで越し掛けていた椅子から立ち上がると慎重に辺りを見回す。見回すとは言ってもここは単なる狭い廊下であるため、それもすぐに終わってしまう。

 別段変わった点は見受けられないが、感じる感覚は確かに異常を示しており警戒を解くわけにはいかなかった。


「魔力だけじゃねぇぞ、精霊達がいない。――いや、消えてるな」

「精霊が?」

「こんなことは初めてだ。精霊達はこの世界のあらゆる場所に根付いているハズだよな……」


 シュトルムだけが唯一身近に感じている精霊達。世界中のあらゆる場所に存在し、言葉も交わし合えたはずの存在をシュトルムは今感じ取れないらしい。過去にない現象に頭を唸らせ、眉間にシワが寄っている。


「……っ! それだけじゃないです。ココ……病棟とは言えこんなに静かでしたっけ? 空気の流れさえ消えてますよ」

「「……」」


 余程閉鎖された場所でなければ空気の流れは少なからずある。そもそも人がいる場所ならば空気の流れが途絶えることはない。


 ポポの言う通り、気が付けば辺りは不気味なほどに鎮まりかえっていた。生き物の気配が存在していない、死の空間へと突如変貌してしまったようだ。


「何か、ヤバそうなのに巻き込まれたみたいだね」

「『ノヴァ』ですかね」

「分からない。でも普通じゃないのは確かだろうよ」


 魔力の流れや精霊消失の異常だけでなく、ここら一帯の空間そのものが異常に巻き込まれていることをシュトルム達は察した。


 この異常の答えを知る者はいない。だが、ナナは思い当たる節があったらしく、その確認としてシュトルムに一つ頼みごとをするのだった。


「ねぇシュトルム、ご主人のいる部屋のドアってさ……開く?」

「ドア? ……え、開かねぇぞ!?」


 巨大化もできぬ狭い通路では、ポポとナナでは扉を開けることは困難である。手っ取り早くシュトルムに目の前にある扉を開けようとしてもらうも、ドアはガチャガチャと強引な力を加えても微動だにしない。ドアノブだけが動くだけという奇妙な結果が続くだけだった。


 この時点で、ナナはある可能性が頭に浮かんでいた。


「ポポ、この状況ってさ、ご主人が言ってたのと似てない?」

「というか、まさしくそれじゃないですか」


 ポポにも言わずとも伝わっていたのだろう。かつて司から聞かされていた、別空間に招かれたという時の話を。

 時が止まったような世界に自分だけがいる。人の気配は消え去り、成す術もなくなってしまった……未来の司による空間形成。今自分達が置かれている状況はそれに似ていると。


「ご主人達の反応はあるから、この前みたいにご主人だけが別の空間に飛ばされたとかじゃなさそうだね。というか、私達丸ごと飛ばされてるっぽい?」


 ただ、聞いていた話とハッキリと違うと分かるのは、司の存在は感知できるということだった。扉は開かないが、部屋の中にいるというのだけは間違いない。それをナナはここらの空間にいる者が丸ごと異常に巻き込まれたのだと推測する。


「オイオイ、それがホントなら未来のアイツがここに来てるってことか?」

「その可能性は高いかもしれないです。それしか思い当たりませんし」

「(シッ! ねぇ、何か聞こえない?)」


 イレギュラーにも程がある人物が迫っている可能性が浮上し緊張が走るが、ナナの声に皆耳に意識を傾ける。

 すると、静かになった廊下の奥からは子気味良く響く足音がこちらに向かってきているのが分かる。

 どうやら足音は廊下の曲がり角から聞こえてきているようだ。


「(足音か? って、こっちに来てるぞ!?)」

「(構えだけはしておきましょう)」

「(一体誰だろ……魔力波が読めない……!)」


 着実に、聞こえてくる音は大きくなりつつある。


 シュトルム達はゴクリと生唾を飲んで廊下の角を凝視しながら、各々で足音の主への対策を講じていく。

 ポポは音を立てることなく羽兵に突撃の陣の隊列を組ませて待機させ、ナナは魔力を練り固めて即座に発動できる準備を整えた。シュトルムは腰の剣へと手を掛け、邂逅の時を待つ。


 相手が未来の司である可能性もあるが、全くの別人という可能性は否定できない。未来の司であれば要らぬ気苦労に終わるだけだ。

 しかし、全くの別人であれば話は変わる。どんな者で、何を目的としてこの事態を引き起こしたのかを問いたださねばならない。今はとにかく情報が欲しいのだ。最悪、身動きの取れない身体にする展開も視野に入れているが、どのみちこの迷いなくこちらに一定の速度で向かってくる足音の主は只者ではない。

 後者の可能性は高そうだと、シュトルム達は腹を括った。




「「「――っ!」」」




 後3歩……後2歩……後1歩……。

 角からかの者の足が先行して見えた瞬間、シュトルム達の緊張は頂点に達し、脈打つ心臓が一際大きくなった。







「お? 愛しのダーリンの部屋はこっちかな?」

「「「はぁ?」」」







 ――が、力んだ身体は車がエンストしたように力を失くす。

 自分達の備えは何だったのだろうか? 緊張で流れた冷や汗も、呼吸を止めて神経を研ぎ澄ませていたのも、一瞬にしてぶち壊された思いだった。

 ふざけるなという無意識の主張が3人からは自然と出てしまう。


「あ、シュトルム君達じゃないか。一体そこでなにしてんの?」

「「「それはこっちの台詞だ!」」」




 角から現れた人物。それは面倒くさい人物の上位陣には必ず入る、ヴァルダだった。

 目をパチクリとしながらの何も考えてなさそうな話しかけに、シュトルム達は息を合わせてツッコむのだった。

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