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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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297話 神鳥使いと『呼ばれた』男(別視点)

「なっ!?」

「うそっ!?」

「え? えぇええええっ!?」


 世界でも頂点に立つ力を持つはずの者達が驚愕し声をあげる。そしてそれを気にせず悠々と現れるのは……今まさに話題になっていた黒コートの男だ。


「よぉ? ハハ、お前らとは心の底から会いたかったよ…………邪魔すんぞ」


 顔を窺えないくらいフードを深く被っているが、その見た目の持つ暗さとは真逆に至って普通のテンションで話しているような印象の黒コートの男。

 『ノヴァ』のトップ達を前にして悠々としているように見えるのは、それだけの余裕があることを嫌でも思い知らせる。対照的に『執行者(リンカー)』側の者は余裕をなくしていた。


「お、お主……どうやって……!?」

「っ、マジで『ゲート』を使えやがんのか……! ここまで入り込んできやがるとはな……!」


 黒コートの男の背には例の黒い空間が出現している。どうやらこの場に現れたのはこれが理由であるらしいが、一瞬で空間移動を可能とするのはかなり限られた移動方法である。そしてこの黒コートが使っているのは『ゲート』だ。


 精霊の抜け道やナターシャの使う不思議な力のように別の手段ならまだしも、有り得なかった現実を今『執行者(リンカー)』達は見ていた。


「ジークがいなくなって完全に自分達しか入れない空間を作ってさぞ安心してたんだろうが、残念だったな? お前ら以外なら唯一俺も入れるんだよ」

「な、何故『ゲート』が使える!? それはあの方からのみ授かることのできる力のはずだっ!」


 『クロス』が受け入れがたい事実に憤慨し答えを求めるが――。


「……だったら何だよ? てかうるせぇから黙ってろよ老害、この場で肉片に変えてモンスターの餌にしてやろうか?」

「っ!?」

「お前に『記録』の力があろうが、既に知ってる俺相手にはそんなもの関係ないからな。お前の力が尽きるまで、最初から当たり前のように殺し続けてやるだけだ。積もった恨みさえありゃお前の対処なんぞどうとでもなる」

「儂の力のことも知っておるのか貴様!?」

「――いや、でもやめとくか。お前のその腐ったような肉じゃモンスターの方が不憫だもんな。悪い悪い、忘れてくれ。雑草の養分の足しにするの間違いだ」

「この……っ!」


 自分の反応を無視して勝手に話を進められ、『クロス』は歯を食い縛って盛大に男を睨み付ける。


 しかし――。


「……あ? んだよそのショボい眼力は。もしかして威嚇のつもりか? ――笑わせんな。無駄に生きてる割にその程度かよ」

「っ……!?」


 向けられた睨みにそう吐き捨てると、男はフードの奥底から覗く金と銀の両目で『クロス』を捉える。

 睨まれている当の本人は別として、見事な光彩を放つ金銀の瞳はまるで芸術品と称されても不思議ではない美しさを誇っており、見るものを魅了する。


 ――だがそれは客観的な印象に過ぎない。瞳を向けられた者は全く別の印象を叩き込まれている。

 今『クロス』は、全身を引き裂かれている錯覚さえ覚える、無慈悲かつ果てしない憎しみの力に当てられて身動きさえ取れなくなっていた。


 別にこの瞳が束縛する効力を持ち、それが働いているわけでもない。

 単純に男の持つ憎しみが、『クロス』に恐れを植え付けたのだ。


「このバケモンが……!」


 『クロス』と男のこの短いやり取りを、幼稚だがそういい放つことしか『銀』はできなかった。


「おう、よく分かってんじゃねーかチンピラ筆頭の『銀』さんや。お前の方は大好きな玩具の開発は順調か?」

「あ? 玩具だと?」

「そうだ。今回も(・・・)イーリスでお前のその玩具如きにしてやられたのは情けない話だよなぁ」

「してやられた……? どういう意味だそれは……」

「その俺が言うのも変だが…………安心しろ、片っ端から全部ブッ壊して絶望させてやるよ。お前の考え出した理論なんぞ全て否定してやる」


 やはり、男は勝手に話を進めるだけだった。『銀』の言葉に耳を貸す様子は見られない。


「老害とチンピラだけじゃねーぞ。さっきから黙ってるお前らも全員絶望させてやる。お前らの親玉は論外だが、俺もバケモンの部類だ。何かしようとか考えるだけ無駄だ……お前らの力は通じやしない……!」

「「「ッ……」」」


 格の違いを主張する男に誰も反論ができなかった。それは身をもって本当に格の違う存在を知っているが故だった。


「いきなり現れたかと思えば色々と言ってくれるな。我らが主は化物ではない。お前と一緒にしないでもらおうか?」


 だが一人だけ、男に真っ向から楯突く者がいた。――『絶』だ。

執行者(リンカー)』の中心的人物らしく、他の面子が気圧されているのを止めようと行動に出たのだろう。命知らずともいえたが。


 しかし――。


「……バカが、んなもん同じだろうが。自分一人の力じゃ楽に死ぬことも出来ない領域にまで至った奴は人であろうが神であろうが全てバケモンだ。俺もトキも、そしてソラリスもな」


 男は『絶』の発言が下らない口答えに聞こえたのか、無愛想にまた否定を重ねる。そして嘲笑と悲哀の入り交じったような声で、やるせなさを露にするのだった。


「バケモンになれて初めて文句(ざれごと)は言え。お前らにバケモンの何が分かるってんだよ」

「……まさか現神と主様の真名まで知ってるなんてね。アンタ、本当に一体何者なのよ……」

「――ちょ、ちょっと待って下さい!? さっきから気になってましたけど……貴方のその声って……」


 正体不明な人物が誰なのか? その議論をつい先程まで続けていたわけだが、たったある1つの点が『白面』の脳裏にある情報とかみ合う。


「あ、やっぱり『白面』も思ってた……? だ、だよね……やっぱり……」


 そしてそれは『虚』も感じていたことだったようだ。


 『白面』と『虚』がこれまで黙っていたのは、男の声に聴き覚えがあったからである。二人同時に声に聴き覚えがあると分かったことで、考えている人物の正体はみるみる浮彫になっていく。


 ――あり得ない。そう思いながらも。




「貴方……もしかして『神鳥使い』さん、ですか……?」

「「「なにっ!?」」」

「……」

「無言ってことは……当たり……?」


 情報として姿を知ってはいても、声を実際に聴いたことのある者は限られている。以前間近で聞いたことのあった声色に『白面』は恐る恐る確認のため口を開くと、同じ考えをしていた『虚』も揃って正体を見破るに至った。




「――そりゃ流石に口開けば分かっちまうか。正解正解。だが随分と遅かったな?」




 一度黙りに入ったかと思われたが、男はさも驚いた様子もなく自身の素性を素直に認めた。

 静かに判明したその答えはまたも『執行者(リンカー)』にとってはあり得ないものであり、現実を疑わせる程だった。


「どういうことだ!? 今アイツはボルカヌにいるはずだろ!? そんなわけあるかっ!」


 特に反応したのは『銀』だ。男の正体に対し叫ぶように否定をする。科学者で研究者でもある『銀』にとっては特に衝撃的なことであったらしい。


「そんなわけあるんだなぁコレが。すぐに現実から目を逸らすなよ、曲がりなりにも研究者だろ? くそったれが先につくけど。――今ボルカヌにいるアイツは俺だ。そんでここにいる俺はアイツ……それは事実だ」

「同じ存在が同じ時間に同時に2人も存在できるわけがねぇ! 世界はそれを許容できないはずだ!」

「だが現にできてる。残念でした」

「馬鹿な、第一『時』を越える真似なんてのは現神しかそもそも不可能なはずだ! だが現神も世界への介入を許されていない……お前という存在自体があり得ねぇ……!」

「そうだな。言った通り『時』を越えるのはトキ以外には不可能だな。よくお分かりじゃないですか」


 次々飛ばされる否定の物言いを全てさらりと一蹴する男は、それまでの口調が変わるくらいに『銀』とは対照的に極めて落ち着いている。相手を手玉に取る様に小馬鹿に返答していく様は余裕の表れでもある。

 『クロス』に見せていた怒りの感情も無いわけではないが、今は嘲笑い滑稽する感情が勝っているようだ。それが相手に分かる様にわざと伝えてやりたいほど、男にとって『銀』が騒ぎ立てている現状が馬鹿馬鹿しくて仕方がないようであった。


「っ……じゃあ今俺達の目の前にいるテメェは誰だってんだよ!! 現神でもねぇテメェが何で未来から(・・・・)やって来れる!?」


 『銀』は頭の整理が上手く出来てはいないようだが、それでも最も今疑問に思えることを確かめるために、男が未来から来た司であることを前提に聞くのだった。


「もう察せよ……。――少なくともお前が何を喚こうがアイツも俺も同じ存在……お前らに分かりやすく言えば『神鳥使い』だ。……いや、正確に言うとちょっと違うか。俺の方は『呼ばれた』って方がいいかもな。どっかの連中のせいでな……!」


 再び、激しい怒りの感情が男から解き放たれる。今度はドス黒く、ナターシャとアレクに一度見せかけたオーラと共に。黒煙のように漂うオーラは男を中心に飛散し、吹きすさぶ砂嵐の様に『執行者(リンカー)』達へと降り注がれていく。


「俺の知るポポとナナはもういない……! 皆も、親父や母さん達さえも……! あったのは脱け殻になった世界だけだ」


 視界を暗い負の闇に遮られ、瞬く間に明るさを失っていく空間。男の姿を捉えることすら危うくなりかける中、その中で不気味に男の金と銀の両目だけが鈍く光っているのは、まるで絶望を象徴する存在に映る。


「くっ、なんていう憎しみのオーラなの……!? まるで主様を見てるみたい、だわ……!」

「ま、まさか……人が時を越えたというのか!? あの時空の奔流に耐え抜くなど……!?」

「それって人を捨ててない? 最早……」


 呼吸をすることすら苦しい感情の波に打たれる中、『執行者(リンカー)』は男へそれぞれ思ったことを再度口にしていく。


「だからバケモンだって言っただろうが。どいつもこいつも馬鹿発言しやがって……いつ俺が自分は人だなんて言ったよ?」

「「「っ!?」」」

「こちとら人なんてとっくに捨ててんだよ。俺が何年バケモンやってると思ってんだ?」

「まさか、お前現神の――「これ以上はもう話すだけ無駄だな」


 最後『銀』が何か言いかけたが、そこで男は話に区切りをつけたようだ。会話に割って入り、この場に何故自分が現れたのかその理由を告げる。




「ちと早いがアイツに代わって宣戦布告だ。ソラリスは復活させない。お前等は全員皆殺し。そんでトキの力はお前らに奪わせねーよ。それが俺の(・・)望む最高の形……ま、そういうことだ。だからお前らの好きにはさせねーよ。さーて、せめて運命の分岐点が来るまでの間大人しくしててもらおうか?」


次回更新は1週間は先です。


※10月27日㈮追記

次回更新は10月30日㈪です。

今週仕事量が半端ないんです。すいません。


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