294話 裏の歴史③(別視点)
◆◆◆
フリードに安息を与えられた私はフリードに付き添いをしてもらって集落に戻って、誰の安否も不明な非情な現実に大泣きした。
数日間さ迷ってようやく戻れたそこに、私の知る集落はなかった。
誰一人としていない孤独な場所。静かに……だけどちゃんとそこにあった私達の世界は無残にも崩壊してた。思い出の詰まった自分達の家も、溜まり場にしてたお気に入りの場所も、全部……見る影もなくなってた。
信じたくなかった。ついこの前まであったものが突然無くなって、心に穴が空いたみたいだった。私にはもう誰もいない、もう独りっきりなんだって絶望した。
そんな私を……フリードは放っておけなかったんだろうね。私を不器用ながらも気遣ってくれて、自分のこともあるはずなのに別れないで一緒にいるって言ってくれた。
フリード的にはその場を早めに離れる意味もあったとは思う。けど私は、それをきっかけに初めて外の世界にフリードと一緒に飛び出したの。
最初は家族を失った悲しみは癒えなかったけど、フリードがずっと私を支えてくれたからあの時は耐えられたんだ。
あの時はただ安心できる存在が……心の温もりが欲しかった。私を受け入れ、守ってくれるような安心を覚える存在が。フリードも俺も一人だって言って、私と同じ立場でいようとしてくれて……都合よくいたフリードに私はただ甘えてたんだ。
……いつ見放されてもおかしくないくらい無愛想でさ、無関係のフリードに八つ当たりだってしたこともあった。でも、そんなどうしようもない私をフリードは見捨てないで、真正面から受け止めてくれた。
感謝してもしきれないよ……。
――フリードと行動するようになって私は色々と世界を見て回った。そこで初めて知ったの、世界ってこんなに広くて美しかったんだって。
辺り一面の青々とした草原も、険しい山の渓谷も、光輝く湖や果てしない不毛な大地も。故郷以外での季節の移り変わりや人の流れ……その全てが新鮮で美しく見えてた。
歩けば景色が千差万別に変わっていくことも、海の向こうには別の大陸があって色んな人達が住んでるってことも……何も知らなかったから。
大陸を横断しながら行けるところは大抵見て回った。海もフリードが滅茶苦茶な方法で渡ってヒュマス、ボルカヌ、マムス、イーリス、アニム、魔大陸の全大陸に足を運んだよ。今じゃもう数少ない、魔大陸とかの秘境にあった龍人やとある部族にも会ったことだってある。
……え? 無茶苦茶な方法? ……船を使わないで渡ったりとかかな? それくらいフリードって何でもできて非常識だったし。大海原で野宿したりしたのもちょっと楽しかったな。
勿論道中では色々とトラブルもあったよ? 私がポカして天使だってバレたことも何度もあったし、フリードの力が大きすぎて無意識に騒ぎを起こしたこととかね。
行きついた街で私の正体がバレた時は、街ぐるみで私とフリードが命を狙われるなんてことも何度かあったんだよ? どこかの大陸で指名手配にされた時は二人で焦ってたよ、ハハ……。
でもさ、降りかかってくる面倒事……ありとあらゆる驚異からはフリードはたった一人で私を守ってくれた。極力相手を傷つけず、穏便に。
その理由を聞いたら、フリードは自分自身の為でもあるけど、何よりも私が狙われることのない時が来た時に責め立てられる要素をできる限り少なくして、自らの正当性を主張できるようにしておきたいからって言ってた。実際フリードは『英雄』との決戦までの間それを貫き通したんだから凄いよ……誰にも真似できないと思う。
最初から最後まで、フリードはずっと私の為に動いてくれた。自分のこともあるはずなのに、ずっと気を張って私を引っ張ってくれて……いつの間にかフリードと一緒にいることが私にとって当たり前になってた。気付いたら本当に独りじゃなくなってたの。
いつも私の傍を離れないでくれて、水浴びの時以外は殆んど一緒にいた。寝るときも私が怖いって言えば寝るまで抱き締めてくれたし、なんだか保護者で兄みたいでもあった。――まぁ実際やってることがそうなんだけど。
私は心が見えてるなんて一言も言ってないのに、私のして欲しいことはよくしてくれた。
……あ、ゴメンそれはやっぱり嘘。結構的はずれなこともしてたかも……?
ただ、フリードの優しさは本物だよ? 底抜けな包容力の塊みたいなものだったし。
――旅はさ、毎日肩身の狭い旅路だったのは間違いないけど、でもそれまで集落で暮らしてた私にとっては外に出れるだけで肩身の狭さなんてなかったようなものだった。怖くもあったけど、それと同じくらいに楽しさも感じてた。
子どもの時の経験って大人に結構影響するとかって聞くけどさ、私の場合ってすごくそれに当てはまると思うんだよね……アハハ。
私がこんな冷めて捻くれてるのは多分、フリードのせいだねきっと。色々非常識だったし私狂わされちゃってるのかも。
◆◆◆
旅を始めて半年くらいした頃……ここまでは私達は二人しかいなかったんだけど、新しい大切な家族がそこからできていくんだ。
ヴィオラさんも言ってたドラゴンとペガサスの子ども……クーとルゥの二匹がね。
……話がいきなり唐突かもしれないんだけど、フリードと一緒にいれば唐突じゃないことの方が珍しいから仕方ない。
最初に出会ったのはクーの方だった。その時いた大陸を高い場所から見回して一望してみたいっていうフリードの要望で、標高のかなり高い山を登ってる最中にね。
クーは一言で言えば真っ白。全身を汚れ一つない白い鱗に包まれた……純白の竜だったの。フリードがふらっと食料調達のために何処かに出掛けて戻ってきたら……いつの間にかちょこんと頭の上に乗せてた。
皆は見たことある? 頭の上にも乗れちゃうくらいに小さな竜の赤ちゃんって。ポポとナナみたいに可愛いくてさ、しかも幼いのに人語を少しだけ話せたんだよ。拾って間もないはずなのにフリードを親に思ってるみたいになついてて、喉を鳴らしてじゃれてたっけ。
フリードってば自分が親だからって色々言葉を覚えさせようとしてたよ。クーも健気に親のフリードの真似をしようとするから少しずつ言葉を覚えちゃって……一つ覚える度にフリードがすごく褒めてた。
けどフリードとクーが楽しそうにしてる反面、私はその時は楽しくはなかったな。
だって、クーがくるそれまではフリードは私だけを構ってくれてたのに、いきなり拾ってきたクーにフリードの意識が向いちゃったからさ。正直クーに嫉妬してたよ私。
この時はその感情が何なのか分かってなかった。でも自覚なんてなかったけど、私その時既にフリードのこと好きだったんだと思う。フリードは鈍感だったし、歳の差もあったから気付いてもなかったとは思うけど。……まぁ私自身も気づいてなかったんだけどさ。
フリードにとって私は、あくまで保護する対象にしか見えてなかったんだろうね。
……ちょっと話逸れたけど、ドラゴンを育てたことのある人なんていないし、何もかも手探りの状態でクーの世話がいきなり始まったの。躾からケアまで……鱗と牙を磨いたり、爪を研いだりとかの諸々全部を一からね。ある意味生態調査みたいだった。
クーはすごく好奇心旺盛で元気な子でさ、毎日毎日ちょろちょろと動き回るもんだから苦労したよ。問題に直面しては二人頭を抱えて唸ってたなぁ。そんな生活がすごく大変ではあったけど、クーの存在にこっちも元気を分けてもらってはいたからお互い様と言えなくもないんだけど……。
――なのにさ、クー1匹を育てるってだけでも大変なのに、その後ペガサスの子もフリードはどこからともなく拾ってきたのには呆れたよ。というか、今じゃなんで拾ってこれるのか疑問に思えるくらい。問いただしたら「なんか見つけた」とか言うし……。
そのペガサス、名前はルゥって言うんだけど、フリードは両腕でしっかり抱き抱えてさ……まだ生まれたてで立ち上がることもできないくらいに弱々しかったの。ルゥとの初対面の印象はそれだった。
こっちはこっちで元気一杯のクーとは正反対に大人しくてさ、所謂インドアって言うの? なんかそんな子だったなぁ。必要な時以外は動かない、仮に動いたとしても凄いゆっくりって感じ。見てるとこっちもそののんびりペースに巻き込まれそうになりそうだったよ。
……でも、手は掛からない子だったかな。人語こそ流石に話せなかったみたいだけど、クーと同様に知能は凄く高かったみたいで、聞き分けの良い子だった。
モンスターは種別が違かったとしても、生まれて間もない頃に共に生活することで群れを形成する仮説。ラグナの時にギルマスが言ってたそうだけど、あの仮説は多分間違ってないよ。
喰うものと喰われるもの。モンスターの頂点に位置するドラゴンと、その下位に属するペガサスは本来なら相容れることはない。自然の摂理に従って、本能のままにクーがルゥを糧にしようとするのも時間の問題だと私達は思ってた。でも、クーとルゥは実の兄妹みたいに仲がよかったんだ。
クーがまだ生えそろってない牙とはいえ、ルゥの柔らかい身体を毎日甘噛みしながらじゃれてたし……幼いからこそ加減ができずに取り返しの付かない危険もあるんじゃないかって思ってたのに、むしろその逆だった。
クーがルゥを傷付けることの方が考えられなかったんだ。同族意識が芽生えているんじゃないかってくらいね。
二人だけからクーとルゥの2匹が加わっての旅になって、この組み合わせがそれはもう凄く目立つ目立つ。
私とフリードはなるべく目立たないようにローブとかコートを纏ってたんだけど、純白の竜なんてそれは珍しいだろうし、ペガサスなんて世界にとっては天使同様に抹殺の対象だったから、一層旅は気が抜けないものになったのは思わぬ痛手だったのは否めない。
けどね、本当に身を隠して旅をしてる身分とは思えなかったけど、例えそうでもよかった。フリードが2匹が増えてからは凄く楽しそうにしてたから……。
愛らしい生き物に弱いのか知らないけど、滅茶苦茶2匹を可愛がってたよ。
でも、その時フリードが心の何処かで寂しさを感じてもいたことを私は知ってる。何か腑に落ちない……そんな感じ?
結局本人は思い出せず終いだったみたいだけど、フリードが2匹を拾ってきて育てようと思った理由は、何かしらあったんじゃないかって思う。
◆◆◆
それから更に半年したくらい。2匹が少し大きくなって手があまり掛からなくなってきたあたり……各大陸を一通り周り終えて、私達は天使の生き残りが数多くいる集落に行き着いた。
……そこについてはさっきヴィオラさんが言ってた通りだよ。
いきなり取り囲まれて私達が立ち往生してる最中に、フリードはそこの集落にいた人達と私は一緒にいるべきじゃないかって考えてたみたいで、私をそこの人達の元に行くかどうか聞いてきたの。
――勿論答えはNo。私は他の天使達に会えたことは嬉しかったけど、フリードのその言葉に頷くことは絶対に嫌だった。
確かに、そこの人達は私を保護しようとしてくれてたし、馴染みのあった安心を覚える姿の人達だったのは間違いない。――でもそこで頷いたらフリードが何処かへ行っちゃうんじゃないかって……もう二度と会えなくなるような気がして出来なかった。
フリードのことだからそんなことはしないに決まってるのにね……。あの時の私はフリードに依存してたこともあるけど、大切な人が自分の傍から離れることが何よりも怖かったんだ。
結果的には私が天使だってこともあって集落で暫く厄介になることにはなったんだけど、そのことが原因でフリードが私を誑かしてるんじゃないかとか、自分達に近づくために私を傍に置いてるとかって言われる原因にもなって……あの時一番フリードを傷つける原因になってたのは私の存在。
集落はさ、私のいた集落と然程生活レベルは変わらなかった。各地を転々としながらでそれだから結構凄いことだとは思うけどね。
だから不自由は……それ程なかったかな。食料も生活基盤も一定の水準は確保してたみたいだし、集落全体が安定してた。まだその時は居心地の悪さはあったけど、決まった定住地ができたことは喜ばしいことだったよ。
警戒はされながらも、何も起こらない淡々とした日々が少し続いて……フリードへの警戒が少し解かれて油断に変わったくらいに、事件は起きてたみたい。
集落の子どもだけ、誰にも気づかれずに連合軍に連れ去られたっていう事態がね。
驚いたよ、だって夜に寝て朝目が覚めたら見知らぬ場所にいるんだもん。牢屋みたいな一室に、集落の子ども達が全員詰め込まれてて……何が何だか分からなかった。私は事件が起きたことにすら気付いてなかったよ。
ようやく事態を把握し始めた頃にはもう、フリードがすぐに助けにきてくれてたしね。やっぱりフリードは連合軍に対しても極力危害を加えずに無力化して、私達は悠々と集落に一緒に戻った。
だから事の大きさにビックリしたのは集落に戻った時の大人たちの反応かな。これ以上ないくらいに心配してたから。
これは後から分かったことだけど、天使の子どもが連れ去られる理由はなんか生贄に最適だとかなんとか……。生贄が何をもたらすのかはともかく、そもそも人を生贄にしてまでやろうとしているその行いが馬鹿らしいって話だけどね。
それからはフリードも集落の人に認められて、楽しい日々が続いたよ。フリードは自分がされてきたことを全部水に流して、何事もなかったみたいに集落の人達と仲良くしてた。
人族だったけど……フリードは天使の一員みたいに皆と心を交わし合ってたんだ。
『心なんて見られたって構いやしない。見られたところで、それが俺なんだからどうしようもない。その俺を皆が認めてくれてるから今俺はここにいられるんだ』って、普通に言えちゃう人だったからそれも当然だったのかもね。この言葉はよく覚えてる。
――けどその輪の中にさ、余計な横やりが入って来るんだよ……『英雄』の殲滅宣言がさ。
宣言が出されてすぐに、フリードが思い詰めた顔をしてたのはよく覚えてる。ちょっと独りにしてくれって言って……その一日はずっと誰とも接しなかったの。
……明らかに自分を責めてたよ。俺のせいだってね。
ようやく皆の元に戻って来たと思ったら、いつも安心を覚えてたフリードのその顔は決意に満ちてた。柔和な笑みではあるんだけど、眼が真剣って言えばいいのかな……。
この時点で私はもう嫌な予感しかしなかった。だってその時のフリードの顔は……私と一緒にいるって言ってくれた時と同じ顔だったから。次に出てくる言葉をやり通す覚悟なんだって分かっちゃったんだよ。
案の定フリードは俺が原因だからって、その宣言に真っ向から抗うって言い出して……クーとルゥを連れて飛び出そうとしてた。
皆それは駄目だって言って止めた、勿論私も。でもフリードの決意は固くて誰にも止められなくて……最後の最後まで必死に引き留めて泣いて懇願しても駄目だった。
宣言があったその日の夜、フリードは私達の前からいなくなった。クーとルゥを連れてね。私はまた……独りになった。
家族を失った気分で、どうせならフリードに会うことなくあの時死んでればよかったってその時本気で思ってたよ。こんなに辛いなら死んだ方がマシだって、今までずっと私と一緒にいてくれてたはずのフリードを恨んだ。ホント最低だよ、私。
集落の皆に心無い言葉で当たり散らして一頻り泣いた後、ここで私はとあることを思い出したんだ。
フリードも多分予期してなかったというか忘れてたであろう懸念、それを実行に移してしまった。またフリードに迷惑を掛けることも忘れて。
私はフリードの傍にいたい一心で……堪らなくなってフリードに預けてた弓矢があったことを思い出してさ、『ポータルアロー』で強制移動したんだ。
ヒナギ達は見たことあると思うんだけど、本来アレは射った矢の先に移動するもの。でも厳密には射ってさえいれば発動条件は揃うんだよ。
旅をしてる間私だって何もしてなかったわけじゃない。フリードからは身を守る術として、また生きていくための狩りの練習と称して弓の扱いは練習してたからさ、自然とそれくらいが使えるようにはなってたの。
そして……まだ扱いが下手であらぬ方向に飛ばした矢を、フリードが不思議な空間に収納してることが脳裏をよぎったんだよ。
もしかしたら何本かはまだ使われずに残ってるかもしれない……そう思ったの。
結果私のその考えは功を成した。いや、成してはいないか。『ポータルアロー』は発動して、私の視界は瞬時に別の場所へと切り替わった。
でも当たり前だけどさ……移動した先は戦場だったんだ。しかもフリードが『英雄』と一騎打ちをしてる最悪のタイミング。
フリードはいきなり出てきた私を見るや驚いて目を見開いてて、『英雄』はそれを好機と捉えたのか攻勢に出始めた。
私は凄い邪魔だっただろうね。フリードは私がいるから思うように全力が出せなくて、私を庇いながら『英雄』と戦ってた。それまで無傷だったのに、逆にフリードを傷だらけにさせる結果にしたんだよ。
フリードが仕方なく守りに入るしかなくなって、ボロボロになってくのを見てようやく気付いたよ。あぁ……また私は重荷で邪魔になってるって。また余計なことをしてしまったって。その時気づいたってもう遅いのにね。
『英雄』の最低で調子づいた罵声と挑発に耐えながら、フリードは私がいるからって理由だけで本気を出さなかった。出したら私がその影響で死ぬのが目に見えてたからだろうね。あの場に私は全く相応しくない実力しか持ち合わせてなかったから。
フリードがいよいよ身体の限界が近づいてきたくらいになった時……そこにね、頼もしい助太刀が入ってフリードは『英雄』に打ち勝つことができたの。立派な姿になったクーとルゥが来てくれたんだよ。
最初は見違えたよ。クーは成体の竜と変わらない大きさにまで大きくなってたし、ルゥは頼りないいつもの姿が嘘みたいに凛とした佇まいをしてたから。
2匹がフリードにトドメを刺そうとした『英雄』を邪魔してさ、咄嗟に今度はフリードが勝機と捉えたんだろうね。2匹で私を守る盾になるように命令して……攻勢に出たんだ。
――そこからは、数分も掛からなかった。
守るっていう心配事のなくなったフリードは、まるでリミッターが外れたみたいに一方的な強さを見せつけた。
これまでフリードが力を振るう場面っていうのは何度か見てきたけど、それがほんの少し力を出してる程度に過ぎなかったんだってハッキリと分かった瞬間だった。
自分自身が武器であり、武器を生み出す器。周囲に夥しいくらいの鋭利な刃を展開して操って、可視化する程の濃密な魔力を身に纏ってた。
その時のフリードの両目はさ、薄い金と銀に変色してて……この姿が、フリードが本気を出してる姿なんだって初めて分かったの。
……冗談半分に聞いて欲しいんだけど、多分フリードはツカサ並みに強かったんじゃないかって思うよ。以前ツカサにはさ、ツカサとフリードは少しだけ似てるって言ったよね? その理由の一部はそれも含まれてるんだよ。
◆◆◆
『英雄』に最後の一撃を与え、『英雄』の身体が動かなくなって戦いはようやく収まった。フリードが連合軍最強の相手である『英雄』を打ち破ったんだよ。
同じく傷つき疲れ果てたフリードもそのまま地面に倒れそうになってて、私を守ってたクーとルゥもフリードの状態に合わせたみたいに身体が元通りに戻って疲れ果ててた。私は二匹を連れてフリードに駆け寄って支えようとしたんだけど……嫌な予感は、終わってなかったの。
私とフリードの別れは無慈悲にも突然やって来たんだ。私は独りになることは避けられない運命にあったみたい。
フリードは私の前にいきなり現れたときみたいにさ、今度はいきなり消えちゃったんだよ。私の目の前で。
戦いは終わったのにフリードがしきりに辺りを見回して警戒を何故か始めたと思ったら、近寄る私に来るなって叫んだと同時だった。黒い不気味な渦が急に現れてさ、フリードはそこに引きずり込まれたの。
どういう理屈かなんてよく分からないけど、私は一切引っ張られたりはしなかったのに、傍にいたクーとルゥも黒い渦に引っ張られて呑み込まれてさ、渦に姿を消してしまったんだ。
フリードは残った力を振り絞って渦に引き込まれる力に必死に抗ってたけど、少しずつ……フリードの身体も渦に呑み込まれていった。
私はフリードだけでも助けたくて近づこうと思ったけど、フリードが見えない壁を作って私を近づかせないようにしてて……私はフリードが消えていく様をただ見ていることしかできなかった。
フリードのその時の、私が巻き込まれないようにしてくれた最後の優しさが今でも痛い。あの人を少しでも恨んでしまった自分が恥ずかしい……あんなに優しい人はこの世界の何処にもいない、いるわけないから……!
フリードはね、お別れだって言ってた。それと独りにすることになってゴメンって。
だけど完全に呑み込まれる直前に、フリードは私に残酷な希望を与えたんだ。
『必ずまた会える』、『絶対に天使だと誰にも悟られるな』。この2つを。
これが私が今までを生きてこられた源だよ。フリードの言葉だけを信じて、今までずっとまた会えることを願って……これまで生き永らえてきた。
この時は焦ってたからフリードの心なんて見る余裕もなかった。一体フリードがどんな想いで私にその言葉を言ったのかは分からない。でも、私は永遠に答えが分かるはずもないその言葉を馬鹿みたいに信じた。――いや、信じたかった。
フリードのいない世界は私の世界じゃない、フリードのいる世界が私の世界なんだって思いたかったから。
それにまだ私は、フリードに自分の想いをただの一度も告げられてなかった……。
あの人にもう一度会いたい。
あの人に会って感謝の気持ちを伝えたい。
あの人にごめんなさいって謝りたい。
あの人に思いきり抱きしめてもらいたい。
あの人にとびきりの笑顔を見せたい。
苦手だった弓も、上手になったって見せてあげたい。
あの時より少しは、大人っぽくなった私を、見てもらいたい。
泣き虫、だった私だけど、少しは我慢強くなったって、褒めてもらいたい。
約束破ったけど、また信じたいって思える、仲間が、出来たんだよって、伝えたい。
――でも何より……貴方が大好きだったことを伝えたい…………!
フリード……貴方に会いたいよ……もう一度。
次回更新は1週間は先です。
※9/20(水)追記
次回更新は9/25(月)になります。
更新遅くて(ry




