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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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293話 裏の歴史②(別視点)

ちょっと短いですが投稿です。

⬜⬜⬜




 ……じゃ、ヴィオラさんの大まかな話が終わったから私も話そうかな。ヴィオラさんが言った認識で概ね間違ってないから、私は皆が疑問に思った部分とかの話の細かいところを補足させてもらうね。





 現代じゃ人が踏み込むこともないような未開拓の土地。鬱蒼とした森が深く続く場所の中にひっそりと集落を作ってさ、その中で私は生まれた。

 30人くらいの規模の本当に小さい集落だったんだけど、当時の私にはそれが大なのか小なのかさえ分かってなかった。まだその時は比べられるものがなかったしね。


 生まれた大陸も、その集落の名前も覚えてなんてない。だって覚える必要なんてないことだったから……。その集落が私の全てで、私の世界。天使に生まれたことで運命づけられた当たり前のことだった。

 今考えると全く平和だったなんて言えないんだろうけど、それでも当時の私の知る限り大きな問題もなく静かに暮らせてて平和だったよ。




 外の情報も入らないけど、私達のことも外界には漏れない隔離されたような集落。だから戦争の末期で『英雄』が現れたとかも知らなかったし、自分達が排除されようとしているだなんて意識は殆どなかったの。子どもだった私には尚更ね。




 でも、私達は自分達の世界を一瞬で全て奪われたんだ。……現実を思い知らされたの方が正しいかな。

 『英雄』の側近で幹部でもある奴が率いていた……連合軍の大隊の手によって私達の世界は壊された。これさっきヴィオラさんが話したのと似たような展開かもしれないんだけど実際のことだから。


 これは後で聞いた分かったことだけど、大隊の中に『千里眼』を持ってる人がいたみたいでさ、私達の集落はとっくに見つかってたみたいなの。

 天使の力は強大だっていうことは向こうも分かってたから慎重になってたみたいで……多分各個撃破を狙ったんだろうね。昼間の時間帯で食料確保で大人が狩りに出かけるのをすかさず狙い撃ちして、気が付いたら殆どの大人がいなくなってた。

 私含め集落に残ってた子ども達も流石にいつまで経っても大人が帰ってこない事態に違和感を感じてたんだけど、遅いなって気づいた時にはもう手遅れで両親どころか集落がその日になくなったよ、襲撃にあって。


 4人くらいしか子どもはいなかったんだけど、子どもの天使なんて大した力なんて持ってなくてさ、ましてやまともに争い事を経験したこともなかった。初めて見た異種族の人と私達に向けられる敵対心を直に見て、戦慄した記憶だけは今でも鮮明に覚えてる。……すごく怖かった。


 集落内で大人達が喧嘩するようなことなんて殆どなかったし、そういう争いと呼ぶべきものに対する免疫がちっともなかった私達は、悪意が分かったら……もうなりふり構わず逃げるしかなかった。本能に身を任せてたって言ってもいいかもしれない。人一倍臆病だったの。

 夕暮れ時、ひたすら深く生い茂った森の中を逃げて、でも向こうは私達をいたぶる様に少しずつ追い詰めてきたんだ。異種族が怖い存在だっていう話だけは聞いてたけど、まさにその通りなんだなって頭の中に刻み込んだ瞬間だった。

 私達を排除することに一切の容赦なんてなかった。


 皆とは気づいたらはぐれてて……それから日暮れまでずっと逃げて、流石にしびれを切らしたのかは分からないけど、隊の中にいた一人が何か魔法っぽいのを撃ってきてさ、それに私思い切り当たっちゃって……転倒しちゃったんだ。

 うつ伏せで後ろを振り返った時にはもう遅くて、倒れた間に周囲の木々に何か施してたんだと思う。一斉に木が倒れてきて……私はそれに生き埋めにされる形で巻き込まれて意識がそこで一度途切れてる。




 次目が覚めた時は、全身に走る尋常じゃない痛みと暗闇だけが私を覆ってた。流石に真っ暗闇で何も分からないから痛みを堪えながら暫くジッとしてたんだけど……日の出で少し明るくなってその光を目指して暗闇から脱出して驚いたよ。自分の運の良さに。

 木がこれでもかってくらいに倒れて来たのに、私は運よく押しつぶされることもなく生き残れたの。あの時の運の良さは自分でもこの先一生訪れないって断言できる。

 倒れた倒木が奇跡的に積み重なって私を生き埋めにしたみたいで、私の身体を潰すことなくスペースができてたんだ。

 隊の奴らが死体を確認するようなこともしなかったのは多分それが理由なんじゃないかな。到底生きているとは思わなかったんだと思う。


 傷む身体に木々の破片が食い込むのを堪えて這い出た後は……どうしていいかも分からなくて独りで肌寒い森を彷徨った。

 集落がどうなったかを確認しに戻りたい気持ちはあったけど、自分のいる場所がそもそも分からなかったからどうしようもなかったの。見慣れない場所に初めて来て思考なんてまともじゃなかった。あの時は外の世界がただ怖く映ってた……。

 当てもなく足を動かして進んだけど靴なんか履いてなくて、服もボロボロに破けてとにかく寒かった。翼も折れててまともに動かせなかったし、天使の力で自己治療しようにも上手く出来なかった。


 空腹はなんとか自生してる木の実とかで誤魔化してたけど、結局体力の限界が来て行き倒れになったんだろうね。また意識を失って次目を覚ました時……私はまた見慣れない場所に、遺跡の跡地みたいなところの十字架に張り付けにされてた。


 ……何が何だか分からなかったよ。その時の状況が何なのかとか、この場所が何処なのかとか、何で張り付けにされてるのかとか色々とね。

 でも唯一分かってたのは、私が恐れを抱いていた他種族の奴ら……私を追いかけまわしていた奴らがそこにいたってことかな。それと全身を紫のローブで包んだ奴らが複数。


 視界に映る人全てが害のある敵って事実には恐怖で声が出そうになったけど、そんな大きな悲鳴を上げる体力すらなかったから何の抵抗も出来なくて、痛い身体を押さえる余力もない身体で成すがままに……私は自分の張り付けにされた足元に薪がくべられていくのを黙って見ている事しか出来なかった。


 その行為がどういうことなのかはよく分からなかったけど、皆さっきヴィオラさんが言ってた生贄って覚えてる? ……多分そういうことなんじゃないかな。


 今じゃ考えられないかもしれないけどさ、生け贄って本当にあったんだよ。実際私はフリードと一緒に旅をすることになってから生贄の話を各地で聞いたりしたことがあったから、似た状況の話を聞いたことがあるし間違いないと思う。

 私という供物を対価に、連合軍は何か禁忌の儀式を行おうとしてたみたい。……生きたまま焼かれて死ぬところだったんだ、私。




 でも私はその時死なずに済んだからこそ今此処にいる。こんな誰の助けも無い状況で私がなんで生き延びることができたのか? もう大体想像つくよね。




 私がフリードと会ったのはその時なんだよ。私が12歳くらいの時だったかな……。




 ちょっと話盛ってるとか嘘ついてると思われそうなんだけど、なんかこう……颯爽とその場に現れるとかじゃなくてね、凄い勢いで空から降ってきたんだよねフリードって。隕石みたいに。

 その落下の衝撃があまりに凄いものだったから連合軍が儀式用に地面に描いてた魔法陣みたいなのが破壊されちゃって、儀式なんて出来る状況じゃなくなったの。

 当然いきなり現れたフリードと儀式を邪魔された連合軍の奴らがそれで揉め始めて……私は単に死ぬのが遅くなったなとしかその時思ってなかった……いや、多分何も考えることすらしてなかったのかも。この辺はちょっとよく分かんないや。


 ――でもそう思った矢先に、私は死なないことが確定しちゃったんだけどね。暫く揉めた後に、急にフリードが「意味が分からん!」って叫んだ時には……もう全部終わってた。

 フリードが一体何をしたのかは分からない。でも屈強そうに見えた連合軍が泡を吹いてその場に崩れ落ちていくのを見て……意味が分からないのはこっちの方だって感じだった。


 フリードは事が終わると私を十字架からすぐに解放してくれて、当時じゃ本当にあり得ないんだけど、一瞬で私の傷の手当てをしてくれたの。私達天使みたいに、不思議な力を使って。


 折れた翼も、身体中が軋むみたいに走っていた痛みも、瞬く間に無くなって健全な状態に戻ったんだ。

 今にしてみれば単に回復魔法だったんだろうけど、あの時は私は魔法なんて全然知らなかったし、この力は何だろう……って本気で疑問に思ったもんだよ。


 身体の痛みはなくなったけど、蓄積されてた疲労は消えるわけじゃない。身体に力が入らなくてフリードに支えられたまま私が目を見開いて異種族ってことも忘れてフリードを見てたら、「何があった!?」って真顔で言ってくるし……。ホント、変な出会いだったんだよね。


 その時かな、フリードがさっきまで一緒にいた連合軍の奴らとは丸っきり違うって思えたのは。

 連合軍からは私に対して悪意しか感じなかった。でもフリードは違った。それこそ両親や集落の家族が私に向けてくれるような暖かな心を……何にも毒されていない純粋な想いを感じたの。


 まるで自分と一緒のようにさえ見えた……っていうのかな? うん。




 ちなみにフリードって名前なんだけどさ。さっき天使の祖先に守り神がいてその人と同じ名前だったっていう話があったと思うんだけど、フリードにその名前を付けたのって私なんだよね、実は。


 なんでかっていうとさ、フリードに助けられたあとお互いに名前を聞きあったんだけど、フリードは自分のことを一切覚えてなかったからなの。これは心を覗いて私以上にフリードが驚いてたから間違いない。

 多分落下してきた時の衝撃が原因だとは思うんだけど、所謂記憶喪失になってたみたい。




 世間知らずな子どもの私と、自身のことを忘れたフリード。

いきなり似た者同士な私とフリードの最初の出会いはこんな感じ。


 その日からお互いに身寄りもないから一緒に行動して、私はすがりつきたいっていう意味も込めてフリードと彼を呼ぶことにした。

 フリードが好きに呼んでっていうから、私は唯一知ってた偉大なる人の名を借りたの。




 それがフリードが生まれた瞬間。真の『英雄』と言われた人の始まり。


 ……ごめんね? 私なんかが名付け親みたいになっちゃって。でもこれが真実。フリードが一体何者なのかは……一番近くにいた私にも分からない。




 そして、それから1年間私達は世界各地を渡り歩いたんだ――。

次回で過去の話は終わりです。

次の更新は1週間は先です。


※9/6(水)追記

次回更新は9/11(月)です。

遅くなって申し訳ありませんm(__)m

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