290話 二人の同胞
久々の一人称は難しすぎました。
◇◇◇
「――ポポ、ナナ。もういいぞ」
ジークに促されて帰路についてから少しした後、近くに感じていた2つの気配を感じ取って2匹を呼ぶ。するとその言葉を待っていたかのように颯爽と2つの小さな影が地面に映り、フワッとした風と共に両肩に重みを感じた。
ポポとナナだ。
「ずっと見てたのか?」
「うん、ずっと見てたよ。だってご主人演技下手すぎだったし、明らかに大丈夫じゃない雰囲気満載だったし。ジークが来なきゃ私達が止めてたよ?」
うんうんと頷きながら語るナナに、やっぱりかと改めて思った。
2匹が皆の元に戻っていなかったということと、そうさせるだけの俺のあの時の誤魔化しの下手さが間違っていなかったことにである。
「……そんなに下手だったか俺? 内心思ってはいたけど」
「あんな打ちひしがれてる姿を見せておいて、急に何もなかったみたいに落ち着いたこと抜かしてんだから疑問に思いますって」
「だよね。あ、これマズくね? ってぶっちゃけ思ってた」
「あ、そッスか」
実際俺は俺なりに上手くやり通した自信があったんだが……ポポとナナの前には全てお見通しであったようだ。殺意は隠そうと思っても隠せるものではなかったということか。
「嘘つくのも難しいな……もう少し上手くなりたいもんだ」
「いやいや無理無理、そんなことご主人ができるわけないじゃん。だって不器用なんだから」
ヌッ。
「かえって不自然すぎてぎこちなくなりますよ? それこそ不審者を疑うレベルで」
ムッ。
「というかやる意味ある?」
「1割くらいの意味なら……?」
「…………」
ハァ?
「お前等言いすぎだろ! シャラップ!」
心無いことを言われ放題。急速に高まった突発的なストレスが爆発して憤慨する俺。
なんでいきなり耳元でこんなボロクソに言われなきゃならんのじゃい! 確かに自分でも下手だったとは思ってたけどっ!
「うわぁ……血まみれの恰好で言うと迫力あるね。本当に殺人者みたい」
「あ」
「またもや『浄化』の出番だね~。ほいっと」
ナナがマジ引くわ~みたいな顔で俺を見ているのでまた鷲掴みにしてやろうかと手を動かしかけたが、言っていることにハッと自分の今の状態を思い出した。
今の俺は『剛腕』の血がべったりと振りかかっている状態だ。ジークとの対話の流れでそのことを忘れていたが、このままの恰好で戻っていたら確かに殺人者と言われかねない。ナナはすぐに『浄化』を俺に掛け、衣服を汚れ一つないものへと戻してくれた。
ちっ、怒るに怒れん。残ったポポだけで我慢しよう。
「……」
「あ、あのぅ、ご主人? なんで私遊ばれてるんですか? やめへくれまふぇん?」
身体に不快感はなくなってスッキリ爽快となっても、さっきの殺意やら女の子の正体のことやら、そしてナナのあの顔のウザさで心の中はモヤモヤしたままだった俺は、ポポの身体を揉みくちゃにすることで発散する。
悪いなぁポポ君、ナナの分も君が償ってくれたまえ。というかお前も遠慮なく言ってたよなぁ?
それに最近構ってあげてなかったから丁度いいスキンシップみたいなもんだと思うんですよ私。
ですよね? そうですよね? ……そうだと思え。
「お前達の相変わらずの言葉攻めに関しては一先ず許そう」
「いやご主人、ゆるひてないれすよね!?」
「ヴァルダに言われたってこともあるけど、俺も俺でさっき知った記憶から、本当に正しければ招集日に連中は来る線はより高くなったと思ってる」
「むひれすか……。れも、言いひらにゃいんれすね?」
「記憶はあくまで記憶だって、ジークから言われてな。確かにそれもそうだって思ってさ。前々から少しは自分でもそう思ってはいたんだけど、皆を失ったっていう恐怖に固執してそのことばかりしか起こらないと思い込んでた。……だからさ、ちょっとだけ未来とは違う結果になりつつある今、記憶通りに全てが起こるとも限らないと思えたんだ」
「ふみゅ? またひろひろとあとで話を聞ふことが増えらみたいれすね」
ポポは俺がお仕置きをしていることに最初抵抗していたが、抵抗しても無駄だと悟ったのかされるがままになると、そのまま真面目な会話に混ざってくる。
俺が羽をビヨンビヨンと広げたり、ゴロゴロと掌で転がしたりする中での真面目な返答はハッキリいってシュールである。……それはしている俺にも言えることかもしれないが。
罰を受け入れて抵抗することへの諦めの良さを見せるポポはナナとは雲泥の差であり、なんだかそれだけで許してしまいそうになるが……ナナの分もあるので今回それは無しだ。
ちなみに、ナナだったら口うるさく助けを請う苦しい言い訳が連発されているに違いない。
少し話が逸れかかったが――。
「あの女の子が一体誰なのか……それはまだ分からないけど、連中がこの場に来る可能性だけはどう足掻いても高い。ヴァルダも言ってたが招集日っていう絶好の機会を連中が逃すわけがないんだ……!」
「ご主人……」
「まだ詳しいことは何も話してないし言ってることも意味が分からんかもしれないけど、実際俺自身も良く分かってないところがあるから今言えることはそれだけだ。だからさ、またそれかよって呆れるかもしれないけど、俺は馬鹿で空回りばっかだし、今分かってることに全力でぶつかっていこうと思う。だからポポとナナにお願いしておくことがあるんだ。もし連中が来た時は――」
これだけはポポとナナに伝え、確認しておきたい。俺とお前らの決断・選択を。
俺の慈悲も何もない身勝手であり、それを快く快諾してくれるお前らの意思を今。
一瞬の気の迷いが命取りになる。命取りとは『ノヴァ』に逃げられるということ。
絶対に奴らを1人残らず殺すために、俺はポポとナナにある事を告げておいた。
◆◆◆
「さて、ここなら邪魔も入りません。まずはようこそおいで下さいました皆様。……カミシロ様と『鉄壁』様に至ってはこの地に早くお越しいただいたことにより一層の感謝を」
『剛腕』の対処を任せたジークを除き、皆と合流して少々騒ぎを経た後。
グランドマスターと対面する俺ら一行を前に、手始めの挨拶を投げかけてくるグランドマスター。ソファに深く腰掛けて膝の上で手を組む姿が様になっており、若干男性でも通じそうな貴族服の姿は非常に似合い、よく映える。どこか軍の作戦を立案する部隊の指揮官のようでもあった。
ギルドマスターの部屋以上の広さの部屋がこの人の地位の高さを象徴しているようでもあり、内装も中々に厳かでピリピリとした独特の空気が肌に刺さるようだ。この人もこの空間も、世間一般でいうところの普通とはかけ離れたものなんだという意識を高まらせる他ない。
今俺らがいる場所はグランドマスターの執務部屋だ。人の目がある場所での話は避けたいという向こうからの提案があってここにいるわけだが、俺ら的にも好都合だったので素直に提案を受け入れて今に至る。
ちなみに、一緒にいたシュレンさんとは一旦お別れをしている。シュレンさんも只ならぬ雰囲気の俺らに気が引けたらしく、空気を呼んで別の用事があるとその場を後にした。
セシルさんお墨付きの安全な人という判定のとおり、あの人は案外まともな感性してるわ。初対面の人のモノを奪取する挨拶はアレだけど。
「あの、それだけで大袈裟なのでは?」
「毎度余裕を持った日程を設定しても全員が揃うことなんて稀ですからね。こうして1週間も早くお越ししてくださる方々には感謝してしまいたくなるんですよ。本当に、困ったものです」
視線を窓の外へと移すグランドマスターは呆れを溜息にして放出する。
Sランク招集を控えた俺達に向けた感謝を述べられても、感謝される理由が幼稚すぎることには違和感しか感じない。……が、グランドマスターの表情からは嘘がちっとも感じられないのも確かだ。
俺とヒナギさんは当たり前のことをしているまで。日時を守って来日するのは当然だが……話しぶりだとSランクの人達はそれもできない人達が多いということだろう。なんでだよ。しかも来ない奴いるんかい。
理由があるならばともかくその線は噂を聞くに薄そうだし、Sランクはモラルのない集団かよオイ。『剛腕』はモラルなんて微塵もなかったから現実味ありすぎるけど。
「愚痴ったところで仕方ありませんね、すみません」
「いえ、心中お察しします」
若干申し訳なさそうに謝るグランドマスターにヒナギさんはすかさずフォローを入れる。ヒナギさんがちょっと少々苦笑いなのは、言っていることが真実であることの証だろう。ヒナギさんも前回の招集の時に同じことを思っていたのかもしれない。
「……ありがとうございます。やはり以前も思いましたが、相変わらず綺麗で真っすぐですね貴女は。そんな類稀なる貴女を、時代が違えば私は憎むことなど無かったのでしょうね」
「え?」
「ただの独り言です」
グランドマスターはヒナギさんをまじまじと見ると、目を瞑って思いに耽ったように動きを止めた。
友好的な会話が繰り広げられたかと思ったのも束の間、会話の中にさり気なく不穏な発言が聞こえてきてヒナギさんが思わず聞き返すが、周りで聞いていた俺らも今同じ思いだった。
な、なんだ今のは? ただの独り言の割にはやけに……。
グランドマスターへの不信感は更に続く。
「皆さんのことは既に知っておりますので自己紹介は頂かなくても結構です。今ココにいない方である元『ノヴァ』の一人……『闘神』様のことも存じておりますから。ただ――」
「……?」
言いたいことを隠すかのように、俺の隣に座るアンリさんを興味なさげにチラッとだけ見たグランドマスターに、俺は確信を覚えた。一瞬だけであっても、俺の内面を見透かした時みたいなその眼差しが決め手だった。
やっぱりこの人は俺にとって重要人物に当たる人だ……!
『ノヴァ』という単語が飛び出してくるがこれは予想の範囲内である。俺の内面を知り尽くしている時点でこの人は未来の俺と関わりのあった人だと、すれ違った時に咄嗟に俺はそう判断していた。だからあの時俺は足を止めず、そのまま促されるままに闘技場へと飛び出した。
信用できない相手じゃない……直感的にそれを悟って。
今まで謎でいたアンリさんの秘密について何か知っている雰囲気を持っていることも今分かった。幸いにも向こうから接触を図ってきた節はあるし、狙いは不明だが敵ではないだろう。未来の俺の記憶に何故アンリさんだけがいないのかも分かるかもしれない。
このチャンスは不意にはしない。
「……さて、前置きも頃合いですね。そろそろ本題に入るとしましょうか。――とは言っても、皆様が疑問に感じていることにお答えするだけになってしまいそうですけどね……特に貴方様の」
真正面に居座る俺を真っすぐに見据えるグランドマスターは、俺を強調してそう言った。
ここまで自発的に言われてしまうと逆に疑いそうになるが、ここまでくれば乗りかかった舟だ。遠慮なく聞きたいことを言わせてもらおう。皆も色々と聞きたいことがあるようだが、先手は俺がきらせてもらう。
「じゃあ最初に。何故俺の内心を理解してたんですか。此処に来てから感じたあの想いを、皆ならまだしもなんで初対面の貴女が真っ先に理解してるんですか?」
単刀直入に、俺の内面を見透かしたことへの疑問を俺は唱えた。これについては自分の中で答えがほぼほぼ出ているような内容ではあるが、一応確認のためである。
実際のところ皆ですら知り得ない突然湧いた想いだったはずだが、だからこそ本来ならあり得ないのだ。グランドマスターの発言は、予め知っていたかのような言い当てだった。
「ツカサ、そりゃどういうことだ?」
「さっき俺が闘技場に出る前にこの人とすれ違った時、俺の内面を見透かした発言をしたんだよ。小さすぎて俺にしか聞こえてなかったけどな」
「そうなのか? あの時そんなやり取りしてたのか」
シュトルムの疑問に答えつつ無言で俺は頷き、グランドマスターを見つめる。
いつもなら「あら凄い美人じゃないですかやだー」とか場違いなアホなことを考えたいところだが、今はそれ以外のことで頭がいっぱいだ。一瞬考えただけですぐに闇に葬った。
この時の俺の一時的な判断はまさに英断であったと、後に自画自賛したい。
「……アレ、どういうことです?」
「はい、約束通りお答えさせていただきます。簡単に言ってしまえば貴方様のその想いを前もって知っていたからですよ。この地に憎しみの記憶が強く残る貴方様は、この地に来ればまず間違いなく記憶の断片が呼び覚まされると分かっておりましたので。もう1人の貴方様からはそうお聞きしておりました」
「……」
「「「は?」」」
グランドマスターの声が、エコーのように何度も繰り返される。
俺、もう1人の俺。もう一人の……俺……未来の……俺……!
普通なら聞くこともないような、あり得ない発言。サラッととんでもないことを聞いてしまって、緊張とは違う意味で心臓の鼓動が脳を揺らすのを感じた。
予想が的中した俺はともかくとして皆も意味が分かってしまったらしく、皆呆けた声が漏れてしまっていた。しかし、声には出さずとも一番の驚きを内心で覚えているのは俺だろう。
「……え? もう1人の、ツカサ……?」
「それってつまり……」
「やっぱり、未来の俺はまだこの時間にいるんですね……!?」
未来の俺がまだこの時間にいることはイーリスの一件で濃厚となったが、それを確信へと導く言質を取れかけ思わずソファを立って机に俺は身を乗り出す。グランドマスターを威圧してしまうような態勢になってしまうことも気にせず。
相手の立場などは最早気にしてはいなかった。
「えぇ、まだいますよ。今も人知れず独りで動いていらっしゃいます。あなた達を守るため、そして何より自分の為に、未来を変えるために」
「っ……!」
もう、冷静に我慢してはいられない。落ち着いていられる程の興奮どころではない。全身がカッと熱くなる感覚がした。
「今の貴方様に言うのも可笑しな話ですが、恐らくあなた達の今があるのはあの方が動いてくれているからです。私の知る限り、未来ではこの場にはシュトルム様とアンリ様はいなかったはずですからね」
「「っ……!?」」
シュトルムとアンリさんがビクッと肩を揺らして唾を飲む。2人の『いない』という意味は恐らく違うのだろうが、シュトルムに関しては自らの死による『いない』だ。今生きていることが本来とは違う現実を実感したようだった。
俺らがどう反応しようが対照的に落ち着いた姿しか見せないグランドマスター。この淡々とした対応が聞きたいことの多い俺にはじれったく映る。
もっと聞かせろ……俺の知り得ないこと、その全てを……!
いや、でも次は何から聞く? 焦って言葉が出てこない……。何を、聞けばいい……?
「それでは私をあの時助けてくれた方は……やはりカミシロ様だったのですね」
独り考え定まらない俺を他所に、ヒナギさんが胸に手を当て深く目を閉じる。
ヒナギさんはヒナギさんで死に掛けた事実があり、今回いなかった可能性がある。シュトルム同様に今生きている事、それを噛みしめているのかもしれない。
続々と皆の口から言葉が飛んでいく。
「あのでっかい船を消したのも未来のご主人ってこと?」
「そうなるんじゃないかな? アタシとジークさんが落ちる時に黒ローブの人を見てるから、それが未来のツカサさんだったって言うなら流れ的には……」
「ご主人が死にかけた時に聞いた人物の声も、未来のご主人で間違いないのかもしれませんね」
未来の俺がいれば納得できる点が皆にはいくつかあるようで、当時の出来事を鮮明に思い出して頷いてる様子だった。
しかし――。
「お前ら待て待て、そもそも本当にグランドマスターの言っていることが本当なのか? ってことが先だろ」
だがそんな中、シュトルムが落ち着けと言わんばかりに大きめの声で歯止めを利かせてこの場を黙らせる。一斉にシュトルムに視線が集中し、飛び交っていた言葉はピタリと止んだ。
俺は俺で記憶を元にこの人にある程度の信用を置けるが、何も事前情報のないシュトルムからすれば判断する基準が見当たらなかったようだ。
それをどう証明するのか? まずはそこからだと疑いの眼差しをグランドマスターに唯一向けている。
「ここぞというところではしっかりされるんですねシュトルム様は。この場では貴方が一番冷静ですね。シュトルム様の仰ることを証明させていただくなら、それを証明できる方がこの場にはいるではないですか。……そうですよね? セシル様」
「っ! そうか、セシル嬢ちゃんには全部見えてんのか」
「……」
嘘かどうかハッキリさせるには、セシルさんの力に頼ればいい。グランドマスターは確かに最も正確な方法を挙げるのだった。
セシルさんのことも知っている……ここまで聞けばもう分かったようなもんだとも思うがな。
「セシル様はもう気づいているようですけど、私の方からも今の発言を信じていただくにはこれが一番早いでしょう。そして私が嘘偽りを言っていないかどうか……それはセシル様が一番よく分かっていらっしゃると思います」
「そっか、本当に私の勘違いとかじゃないん、だね……。貴女も、私と同じ……」
これまでずっと黙っていたセシルさんがようやく口を開いた。まるで今の今まで金縛りに遭い、ようやく解放されてすぐに絞り出したような……小さな声で。
セシルさんの言葉を聞きながら、グランドマスターは背筋を伸ばし、背中から一気にあるものを広げた。
う、嘘だろ? アンタもなのかよ……!
「お、オイオイ……一体どんだけ歴史的遭遇を果たせばいいんだ? 俺達はよ……」
シュトルムがやっとの思いで引き攣った顔をしながら述べるのも無理はない。
俺らはその正体を知っているが、まだ見慣れない姿に戸惑い注視してしまう。
「そういえば私の方はまだ自己紹介がまだでしたね。冒険者ギルドのグランドマスター……名をヴィオラと申します。そしてセシル様同様に……私も生き残りなのですよ」
体格の差なのかセシルさんよりも少しだけ大きい純白の羽が、グランドマスターの背中に広がった。
次回更新は1週間以内です。
※8/12(土)追記
次話は既に投稿済みです。




