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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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287話 テリスの危機!?(別視点)

投稿が遅れてすみませぬ。

◇◇◇




 草の匂いがそよ風に舞うグランドル西草原。

 寝転べばのどかな雰囲気に惑わされ、簡単に夢へと誘われそうな心地よいその日に、草原には既に先客がいたようだ。


「ふふっ、今日の調査はここまでかなぁ」

『ピギッ!』

『ピギェー』


 草原の中にポツンとある大きな岩のような石。その上に腰掛けている1人の少女の回りを、数匹のスライムがチョロチョロと動き回っている。


 お世辞にも可愛いとは言えない鳴き声を出すスライムであるが、そのスライムに向けるテリスの笑顔は眩しい。

 スライムを自分と同じ尊い存在として捉え、対等であろうとしているからこその笑顔だった。


「うん! 帰ろっか!」


 テリスが石から飛び降りて呼び掛けると、スライム達もぞろぞろと後に続いていく。


 この場には言葉で会話ができる者は誰もいない。しかし、スライム達がテリスを護衛するように取り囲んで移動する光景とあれば話は別だ。スライム達こそがテリスと会話をしていたのは明白だった。


 かつて司が会話を感じろと思っていた時同様に、テリスもここ最近はスライム達と意思疏通を交わせるようになっていたのだ。父親であるダグのスライム研究を手伝ううちに自然と。


 この事実を知ったら司がまた冷や汗をかきそうなものだ。ただ、テリスはもう自覚しているが、テリスのステータスには【従魔士】の文字が刻まれており、実際のところはその影響による。

テリスには【従魔士】の素質が元々はあったようで、司と接触したことは単なるきっかけに過ぎない。




「……天まで届く風よ! 『エアロサイクロン』!」


 テリスは空を見上げて少し、ジッと流れる雲を見つめた。そして空を掴むように手を掲げると、詠唱と共に練り上げられた魔力を放出する。


 放出された魔法は空を穿つ風の嵐となって、ここら上空一帯の雲を少し吹き飛ばした。雲は嵐が直撃した部分はポッカリと穴が開き、その周囲の雲は散り散りになって空の青さを開けさせていく。


 「うん、1日1回上級魔法。今日も忘れず達成できた」

『『『ピギィーーー!(おぉーーーっ!)』』』


 今テリスが使った魔法は、風属性上級に分類される『エアロサイクロン』である。発動当初は規模が非常に狭いのだが、空気を圧縮して高速回転させたものを放つことで徐々に拡散して範囲を広げていき、発動の終わりが近づくにつれて軽視できぬ恐るべき広範囲攻撃魔法と化す恐るべき魔法。


 この年齢では考えられない上級魔法の行使。テリスが最早日課となったコレを始めてから、既に1ヶ月は経過していた。


 司の魔力循環伝授により、テリスの魔法の資質は劇的に向上した。同世代では群を抜いてトップに立つ魔力の扱いと魔力量を誇ることとなった今、上級魔法を放っても何ら支障はない。涼しい顔を崩していない。

 かつては初級魔法だけですぐに限界が来てしまっていたテリスだが、その面影はどこにもなかった。

 無詠唱を習得していないのは幸いなことである。


「明日は光属性の番だけどどうしようかな……」


 首をやや傾けて悩む愛らしい表情とは裏腹に、言動がややおかしいテリス。勿論本人は無意識である。


 普通なら上級魔法という大規模な魔法を使うことに慎重になるものだが、やはり使えるようになった魔法が増えると使いたくなってしまうものである。

 危険な事ほど手を出したいという、誰しもがその欲求を少なからず求めたことのあるこの感情は、幼いながら聡いテリスにも当然あり、むしろ子どもらしさが垣間見えた瞬間でもあった。


 その気持ちを考慮し、魔力循環を伝授してしまった自分がそうさせた事実もあってか、司はテリスととある約束を交わしている。




『1日1回上級魔法。約束ね? マジお願いします』




 司から土下座までされてのお願いには、テリスも黙って頷くしかなかった。

 ただ、自分が魔法を使えるようにしてくれた司を慕うテリスにとっては、別にそんなことをされずとも了承するものではあったりするのだが。


 テリス自身も、いくら司から1日1回と言われても、本当なら迂闊に使ってはいけないことなのだと理解はしていた。しかし、それでも1日に1回だけという司からの条件の提示を大変喜んだ。

 それは、その時に同時に言いつけられたもうひとつの約束もあってか、テリスの中では確固たるものとなっている。




「へぇー、君凄い魔法使うね? ちょっといいかい?」


 明日のことを考えて気分よく歩いていたテリス一行の元に、1人の人物が姿を現す。


「へ?」

「そうそう、君だよ君。グランドルの街の子かな?」

「は、はい。そうですけど……」


 テリスが不意に声を掛けられて慌てて振り向くと、そこには灰色の髪をした男性が。

 20代半ば程の人物ははにかんでテリスへと手を振りながら少しずつ近づいてくるが、テリスが困惑するのも無理はない。

 見渡しの良い平原で人が歩いていたら気が付かないわけがないのだ。しかもつい先程までフィールドワークで周囲の調査をしていた関係上、人影が周囲にはなかったことをテリスは知っている。


「そっかそっか。んー? どうかしたのかい?」

「ぁ、その……」


 灰色髪の男性がテリスに呼び掛けるが、テリスは上手く対応ができなかった。


 人見知りがいくらか改善されたとはいえ、街中でもない場所とあっては話は変わる。街が見える範囲で危険度が低いとはいっても、草原というモンスターが一応闊歩する一帯での他者との遭遇は警戒心を覚えるのは当然である。

 更にこの人物の得物であろう腰にぶら下げられた鎖鎌を見てしまうと、どうしても萎縮してしまうのは無理はなかった。

 光を反射して鈍く光る刃が、まるで喉元に刃を突きつけているような感覚をテリスは覚えていた。


「(だ、誰だろうこの人? ちょっと怖いなぁ……)」


 内心では緊張で喉がカラカラになりそうになるテリスのことも知らず、男はテリスに会話をぶつけていく。


「もしかして僕のこと怖いかな? ゴメンゴメン。でも小さな女の子が1人でこんなところにいるなんて変だからさ、ちょっと気になって声掛けただけだったんだけど……」

「あ、そう……ですか……」

「うん。でもさっきの魔法見ちゃったらその心配はなさそうだね。ここらの低ランクモンスター……そのスライム達みたいなレベルなら気にするだけ無駄か」


 それまでは柔和な表情をしていた男性だが、テリスを囲うスライム達を見るや否やまるで蔑むような眼差しに一瞬なったのをテリスは見逃さなかった。

 虫けらを見るような邪な眼は、純粋な子どもであるテリスには酷く抵抗を覚えるものだった。


『ピギギー!』

『ピギャー!』

「……あ?」


 スライム達も自分達が低俗に見られていることが分かったのだろう。もしくはモンスターならではの不穏な気配を感じ取ったのかもしれない。自らに向けられた敵意をぶつけ返すように喚くが……。


「はぁ~……下等な分際で全く、目障りなんだよね。お前らみたいな存在がいるのはさ」

「ひっ……!?」


 男の癪に触れたのか、男から感じていた雰囲気が遂にガラッと変わった。元々微かに滲み出ていた不穏な雰囲気が決壊したかの如くとめどなく溢れ出ると、テリスはかつて味わったことのない恐怖に成す術も無くなり無意識に悲鳴が零れる。


 テリスがこの時思ったことは、やはりこの人物は危険な人物であるということ。

 今のこの状況から見て明らかに不自然な現れ方をし、自分が不審に思った感性は間違っていなかったのだと……テリスは直に恐怖を刻み込んで体験するという形で理解した。




「ふ、不審者ーっ⁉」

「「っ!?」」

「お巡りさーん! ……ん? いやこの場合は兵士さんか。いい歳した大人が幼女に手を出そうとしてますよー! ラルフさんカムプリーズ!」


 そこに突然、この場には適さないような飄々とした叫びが舞い込む。

 恐怖などとは全く違う明るい声色にテリスと男は即座に反応すると、男はそれまでのナリを潜めては呆気に取られた顔になっているようだった。


「テリス嬢! ご・ぶ・じ・かっ!」

「ヴァルダさん!」


 それもそのはずである。少し離れた所から背をのけ反らせてつま先立ちをし、身体を奇妙にしならせた人物が指を指していたのだから。

 本人はこれをスタイリッシュなポーズと思い込んでいるようだが、大半の者は関わりを持とうとはしないだろう。そんなポーズである。


 それを救世主と呼ぶべきかどうかはさておき、テリスには今は少しでも恐怖薄らぐ要因になり得たことなのは確かである。ヴァルダの登場には多少安堵したがーー。


「……あ、あれ? 俺のこの新ポーズ見ても何の反応もなし? ちぇっ、結構イケてると思ったんだけどなー、つまんないの」


 口を尖らせてぶつくさと文句を言うヴァルダは、いつもと変わらない態度であるようだ。空気を読まないとも言うが、自分を貫き通している。


「一体誰だい君は? 僕が知ってる情報だと見ない顔ぶれだね。……てか君の方が不審者に見えるんだが」

「何を言うか! どこからどうみても俺はまごうことなき不審者でしょうが!」

「……き、君みたいな奴はデータになかったんだけどな」


 不審者に思われなかったことが心外だったらしく、ヴァルダがクワッと目を見開いて憤慨する。対する男はというと、ここまで頭のネジが飛んでいる存在をむしろ知らなくて良かったと思ったのか白い目でヴァルダを見るだけだった。

 しかし、その白けた態度が更にヴァルダの不満を買った。


「なぬ!? お、俺を知らない、だと……馬鹿な!? グランドル一の変態の異名を持つ情報屋兼変態紳士、このヴァルダさんを知らんと言うのかねチミ!?」

「知らないね」

「ガーン……しょぼん」


 スッパリとヴァルダの反論を一言で一蹴する男に、ヴァルダは魂が抜けたように干からびた。

 いきなり現れていきなり意気消沈。殺伐とした雰囲気は既にヴァルダによって開放されたように見えたが、刹那ーー。




「ぐっ⁉ な、なんですとぉーっ!? 命だけはお助けー!?」


 男は目にも止まらぬ早さで腰の鎖鎌を手に取ると、寸分の来るいなくヴァルダへと鎌の矛を投擲する。鎌はヴァルダの右肩を大きく抉りとると男の手元にすぐ戻っていき、鎖の金属音を鳴らす。

 血の滴り落ちる鎌が草原に赤い着色を施していき、ヴァルダが言動の余裕さとは裏腹に痛みに顔を歪ませて膝をついた。

 赤黒い血が流れる肩は、明らかな重症だった。


「ヴァルダさん⁉」

「ま、君が誰かは後で確認しとくよ……殺してから。でもいきなり現れたから少しはまともな助太刀かと思ったけど大したことないな君。軽く投げたのに回避もロクにできないとか……僕の前に現れた時点で君の死はもう確定したね」

「は、速い……!」


 頭を垂れるヴァルダに男は嘲笑すると、ガッカリしたような溜め息を吐いた。自分の予想とは違った結果に落胆したとでもいうべきか。


 無情にも流れていく血はちゃらけたヴァルダにも流石に危機を感じさせたようだ。額に汗を吹き出しながらテリスへと声を張り上げた。

 発声で力む程度でも肩が痛んだが、それは声で紛らわして。


「テ、テリス嬢、に、逃げるんだ! 振り返らず、真っ直ぐに街まで走り続けろ! 俺が時間を稼ぐ!」

「そ、そんな!?」


 ヴァルダからの指示にテリスは困惑する。確かに今すぐにでも逃げたい気持ちはあったが、身体が恐怖によって硬直して思うように動かなかったのだ。また、突然のことの連続に思考が追い付いていなかった。


「行くんだっ! いいか、絶対に振り返るんじゃないぞ! 俺のことは気にせず全力で走れ!」

「っ!」


 しかし、ヴァルダの有無を言わさぬような本気の叫びにテリスを縛っていた恐怖の鎖は解き放たれたようだ。ヴァルダの言葉をしっかりと理解し、咄嗟的にこの場の離脱を図るために動き出す。


「それでいい……」


 テリスが走っていく姿を眺めながらヴァルダは安堵したように薄く笑う。

 ただテリスはヴァルダとは正反対に悲しい顔をしていたが。後ろ姿であるため、テリスが目にはいっぱいの涙を溜めていたことをヴァルダが知っているかは分からないが、大方子どもであることを考えその予想くらいはしていたのだろう。薄く笑ったのはその心境を察したものでもあった。


 だがテリスの涙は恐怖からくるものが大半ではあるがその一部は別だ。テリスは幼いながら、ほぼほぼこのままでは死んでしまうであろうヴァルダを見捨ててしまったような、罪悪感を既に持っていたのだ。

 恐怖と罪悪感、その二つが涙の正確な正体である。


「へぇ? 熱い展開じゃないか。ま、そんな展開に意味なんてないんだけどね? 君はここで死ぬ、それだけだ。あの子もすぐに追いかけて殺すね」

「っ!? なん、だと……!? ぐっ! ぅあっ!?」


 ヴァルダとテリスのやり取りを傍観していた男は二人の会話を称賛すると、気味の悪い笑みを浮かべて絶望させるような発言をした。そして動ける状態ではないヴァルダの顔面を蹴り飛ばして仰向けにさせると、今度は左肩に鎖鎌を掛け……また引き裂いたのだった。


「痛みに抗うその声をもっと聞かせてくれるかい? 君も中々にいい声をしているよ」




 草原に、ヴァルダの冗談でもない悲痛な声が轟いた。

次回更新は一週間は先です。

本当はもう少し書いて投稿しようと思ったんですが時間的に無理でした。


※7/27(木)追記

次回更新は明日7/28(金)です。

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