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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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279話 真夜中の海の上で

さようならGW。

◆◆◆




「…………ふぅ。異常なし、か……」


 夢から覚め、寝ぼけることなく静かに意識が覚醒する。瞼を開けるとまずは天井、視線だけあちこち動かしてみても大した差異はない。どこもかしこも薄暗く、寝起きではまだ眼が慣れていないのか殆ど何も見えない。

 しかし、寝る前に確認した起きた後にまずやること、それをまずは確認してみるが……俺の安全性は確保されているようだ。二人の姿は何処にもなく、また気配もない。




 一時の安全(しあわせ)を噛みしめながら、ベッドに腰掛ける形で暗くなった室内を僅かに照らす窓の外を眺める。

 昼間には大海原だった窓の外には、殆ど何も見えない暗い闇が広がっているようだ。見えたり見えなかったりする白い光が点在しているのは、波が月に照らされているからだろう。つまり、もう夜の時間帯になっているらしい。

 昼は希望を感じるはずの海も、夜になってしまうと恐怖心しか感じられない。まるで別の世界に迷い込んでしまった気分だ。


 ……あ、そもそも俺は異世界に迷い込んでますやん。何を言ってんだ馬鹿。これ以上迷い込んでどうする。




 うん、とりま寝起きの自分へのツッコミはここらにして。

 結構寝たな……。ちょっと昼夜が逆転しちゃってるけど、まぁ偶にはいいか。大学時代……ていうか一応今も大学生なんだけど、それを思い出せる気分になれる気がするし。


 ここ最近は忘れがちになっているが、本来ならば大学に通っている身であることをふと思い出す。それが今はこうして異世界で旅をし、仲間と共に過ごす日々を送っている。

 一気に生活が変わったものである。


 俺はのそりとベッドから抜け出すと、少し肌寒さを感じてコートを羽織った。

 随分と寝たからか二度寝する気分にはなれない。特にやることもなく、気まぐれで夜風にでも当たってみようと考え部屋のドアノブを掴んだ。




 ◆◆◆




 ――相変わらず寝起きは運がないと思うんですけど、これは俺に一生目覚めるなと言う神からの忠告なんですかねぇ?


「ぶえっふ!? っ――痛い!?」


 船内の廊下を渡り切り、甲板に出るためのドアを無警戒に開けると、突如吹いた猛烈な突風に容赦なく身体を薙ぎ倒された。特に突風を意識した足取りをしているハズなどなく、上手く受け身が取れず甲板に置いてあった積み荷に思い切り鼻っ柱をぶつけてしまう。

 鼻奥に走る痛みが目元に涙を運び、視界が少し潤んだ。


 は、鼻打った……! 鼻血出そうなくらい痛い。

 なんなんだよ一体、夜風こんな強くは見えなかったんだけど……?


 鼻を手で押さえながら辺りを見回すと、ついさっきまでは静かだった海が荒れている。海も山と同様天候が変わりやすいと聞くが、そういうことなのだろうか? でも雲行きは全く怪しくないのに変である。


「……?」


 暗かった景色がより一層、暗がりを増した。

 一際大きな影が月夜に照らされ、船を覆っていることに俺は気が付いた。単に鼻の痛みに前かがみになって下を向いていただけだが、これぞ正に怪我の功名かもしれない……文字通り。

 その影の下には俺以外に、その影の元となっている存在に抗う人達がいるようだ。甲板の手すりに掴まっては皆夜空を見上げ、同じ場所を見つめている。


 俺もこの影の正体を……ハッキリと捉えた。


「ん~? 魔法効いてないっぽいね?」

「そうみたい、ですね……。ナナ様の魔法が効かないとなると、私達ではどうにもならない可能性が高いですね……」

「オイオイマジか、まともな遠距離攻撃なんて持ってねぇぞ俺ら、しかも海上とか……。オイジーク、お前さん見てないで手伝ってくれ!」

「あん? んな奴ら相手にしたところでつまんねーよ。旦那達の訓練にゃ丁度いいんだし、なんとかしてみろって。万一ヤバくなりそうだったら手伝ってやっから」

「ドラゴンを相手に訓練とか正気の沙汰じゃねぇよ!?」


 ナナを始め、セシルさんを除いた皆が少し慌ただしくしている声が聞こえてくる(ジーク除く)。特にシュトルムの声が際立っており、事の重大性が垣間見えるところである。


 皆そんなとこで何してんですか? 

 てか……は? ドラゴン? こんな海のど真ん中で? 珍しいな……。


 今影を作って夜の闇を一際濃くしているのは、なんとドラゴンであったらしい。俺が甲板に出てすぐに襲われた突風の正体はコイツのせいだったのだろう。羽ばたきか高速接近した際に発生したものと思われる。  (チッ、このクソドラ。)


 海上でドラゴンと遭遇するのは極めて稀である。ドラゴンの高い飛翔能力を持ってしても、流石に海を越える飛翔はリスクがデカいのだろう。過去にもあまり例はないと聞く。

 ただ、ヒュマスとボルカヌは全大陸一の近さを誇るわけで、実行するとした場合の可能性としては最も高くはある。今回は非常にレアケースと言えようか。


 でもさぁ……。

 またか、またですか。ホンット大きな生物に恵まれてますね私って。お呼びじゃないよ、帰ってどうぞ。これ以上何かしやがったら母なる海に還すことになりますよ?

 なるほどね、皆コレの相手をするためにここにいるのね。


「ほぅ? なら旦那、俺の相手でもすっか? 旦那も相当強くなったしな……腕試しすんのも悪かねぇだろ」

「何の冗談だそれは……」

「……だろ? それ考えたらこれくれぇ随分マシだろ?」

「基準おかしいだろ! 毎度のことながらお前さんの相手なんてできるわけないだろ!」


 ジークの無理難題に憤慨するシュトルム。


 うむ、激しく同意。ドラゴンがスライムと同等に見えちゃうのがジークだからなぁ。いくらシュトルム君がヒナギさん並みのステータスを手に入れたところで相手が悪すぎる。

 ジークの相手ができる人なんてミーシャさんとかくらいだって。

 一昨日もミーシャさんの為にどっか行ってたみたいだし、いい感じに距離が縮まってる感じがして微笑ましいこと微笑ましいこと。




 ――おっとイカンイカン、今はそんなこと考えてる場合ではなかった。曲がりなりにも相手はドラゴンだぞ。




 まぁドラゴンが出てこようがジークがついてるなら心配要らないと思うんですけどね。本人が言ってた通り万一もありゃしないわ。

 ナナの魔法が効かないのはちょっと驚いたけど、ナナが駄目でもポポは対空戦平気なんだし、こちらの戦力的に問題はない見立てしかできない事実がある。


「しかし、そうなると私が出た方が良さげですかね?」


 空を飛ぶ相手への対抗手段が限られている今、ポポがここで名乗りを挙げた。


 我が従魔の右腕ポポ、出動要請入りましたぁ。

 行けポポ、ラグナの災厄から更に強くなった姿をお見せしてやんなさいな。今のお前なら覚醒しなくとも平気だ、遅れを取ったりすることもない。


「待てチビ助、お前がやったら意味ねぇだろ」


 しかし、そこに横やりが入ってしまう。ジークが巨大化して飛び立とうとしたポポの身体を握り、この前ナナを捉えた時のように捕縛してしまったのである。

 まるで丸かじりしそうな距離にポポを持っていき、ポポを諭し始める。


「じ、ジークさん? 今こんなことしてる場合じゃ……」

「海の上、それも相手は空を飛ぶ獲物で魔法も効かない……こんな悪条件が揃うのも珍しいもんだ。自分が苦手な相手とむしろ戦わないなんてもったいないにも程があんぞ。強くなりてぇと思うなら、まずは己を知る。そんで対策練って、自分なりの解釈を見つけて、実践……それの繰り返し。お前等も修業時代そうしたって言ってただろうが」

「まぁ、そうですけど……」


 ジークの真面目な言葉に返す言葉がなくなっていくポポ。他の皆もどこかバツが悪そうな顔になり、ジークの言ったことの正当性を理解しつつあるようだった。

 確かに俺達の修業時代を振り返ってみると、相当無茶をしてたなぁと心底思う。それを皆にもさせなければならないのか、やはり……。


「本当に強くなりてぇと思うなら楽な道は取るな。呆気なくいずれ死ぬことになるぞ?」


 自分自身に反省する思いの中、ジークの容赦のない叱咤が飛ぶ。


 うむぅ、確かに。経験値目的のみなら別にいいんだが、強くなるという意味合いは幅広い。

 ステータスだけでは全ては語れない。メンタルは勿論、どんな局面でも耐えうる強靭な心を持つには緊迫した状況を経験することは非常に大切なものとなるだろう。

 絶対絶命の状況をとある閃きで打開する……それはこのような状況を積み重ねていった者が掴み取れる境地なのかもしれない。


 ジーク……戦闘時の状況判断とか半端ないしな。苦手そうなことに持ち込もうとしても覆されることの方が多いし、経験しなかったことは殆どないってくらいに動きに迷いないんだもんなぁ。それだけ経験を重ねているってことなんだろうけど。


 ジークと戦っている時のことを思い返してみると、嫌でも言葉の重みが分かってしまう。

 ジークとて幼き頃は弱かったはずだ。俺の様に成長速度に補正が掛かっていないのなら、その期間も比較的長かっただろう。嘘をつく奴でもないし、自身の経験則にも則って今こんな発言をしているのだと思われる。

 ジークの今の強さはスキルや魂による部分は当然あるとは思う。だが、現在の域に達しているのは一つ一つの積み重ねがあってこそでもある。それが『闘神』と言われる所以に違いない。

 今強く言っているのは、ジークなりの優しさかもしれない。皆も本気で頼るばかりの発言をしているわけではないだろうが……。




「――あ、ツカサさん!? 大変です、大型のドラゴンです!」


 切羽詰まった状況の中少々シリアスな雰囲気になりそうになったところで、アンリさんの一声が意識の切り替えとなったようだ。その声を合図に一斉に俺の方を多くの眼が見つめてくる。


 どうやら、皆さん俺が今この場にいることに気が付いてくれたようです。正直無視されてるのかと思って寂しかったけど、そんな余裕がなかっただけだったんだろうね。


「いたのご主人? 早く言ってよ」

「お前何気配消してんだ?」


 え……気配消したつもりはないんだけど……皆酷いな。それだけ俺が存在感ないってことなんだろうけど、もう少し言葉は選んで欲しいわ。

 ……ま、いいや。へぇ~O型かぁ、確かにそれは大変だ。だって俺と相性あんまし良くないし……俺A型なので。


「グォオオオオッ――!!!」


 皆の危機意識とは裏腹にクソくだらない冗談を考えたものだが、上空に静かにだが確かにいた存在が大きく咆哮して自己主張を始める。

 月の光をバックにした姿は大体シルエットで確認できるが、頭部は妙に角ばっていて翼が大変立派なのが印象か……。大きさは大体10m前後、ほぼ成体のドラゴンと見て良さそうである。

 ビリビリと身体の内にまで響く音波の嵐は暴風とは別に海を更に荒れさせる。暴風が海の表面を削る様に荒らすなら、この咆哮は海の内部を轟かせるように荒らしているものだ。人畜無害の海の海産物の皆様の就寝を妨げているため非常に迷惑極まりない行為……このまま放置しておくわけにはいかないだろう。


 気付けば、それまでは動いていた船も動きが止まっている。

 恐らく……というか当然だろうが、船員達も異常が起こっていることに気が付いたのだと思う。咆哮もそうだが、巡行中の安全確認を当然しているのだから先程ドラゴンに船への急接近をされたのを目視確認したに違いない。まさか気絶して止まったとかではないことを祈りたい。


 一応少なからずではあるが俺達以外にも旅客はいる。前みたいに大騒ぎになる前に片をつける必要がありそうだな……。


「っ……皆様、来ましたよ!」


 一瞬だけ風が止んだと思った瞬間だった。頭上のドラゴンが……急降下を始めた。攻撃を仕掛けてきたことを察したヒナギさんが声を立てて警戒を促す。


 ありり? もしかして俺のギャグを見透かしてお怒りになってしまったとか……? あらまぁ、それはどうもすみませぬ。  (クソドラが生意気な。)

 オイタする子にはお仕置きしなきゃですねぇ?  何もしてこないなら見逃すけど、敵意があるなら容赦しないぞ? ジークには悪いが、他の人もいることだし俺も介入させてもらう。


「オォオオオオ「『衝波弾』」っ――カッ!?」


 接近される前に、先手で軽く『衝波弾』を顔面目掛けて打ち込んだ。息を吐きだしている中にぶち込んだせいか苦悶の声をあげるドラゴンに、ぶっちゃけ自分でも引いた絵面となったと後悔する。

 脱力した状態からの早打ちは拳銃の早撃ちと似ている。腕を電流を走らせたような感覚でしならせ、拳を迫りくるドラゴンへと突き出したまま制止していると、砕けたであろう牙が周辺の海に血と共に落ちていくのが見えた。


 ……あーあ、あれじゃもう食事は難しそうですねぇ。年齢知らないけど、その歳で入れ歯はさぞ苦労しそうですわ。


 勝負あり……力の差は歴然。危機感を抱いてドラゴンがこのまま素直に引き下がってくれたらという思いだった。それを信じ、一時警戒を下げて構えを解いたのがいけなかった――。


「――ぬぉっ!? うぁっ!?」

「オイ!? 何やってんだツカサ!?」


 またしても突如として吹き荒れる謎の突風に身体を薙ぎ倒され、今度は積み荷の角に思い切り後頭部をぶつけてしまう俺。自分でも分かるくらいに悲惨な音を立ててしまったためシュトルムの心配する声がアホ臭いと言わんばかりであるが、痛みに悶絶しそうでそれどころではない。この刺さり具合的に、角が頭部を抉って見過ごせないレベルで身体にダメージを与えていると思われる。

 ステータスという概念がなかった場合、打ちどころが悪くて死んでる可能性が高かっただろう。


 か、角っこは反則だろ……後頭部に刺さった……痛い、痛すぎる……! 

 ゲッ、嘘みたいに頭から血が少し吹き出しとる。この角っこめ、ドラゴンより強いとは侮れん。


 俺の中で、ドラゴンよりも強い無機物が新たに確認された瞬間である。


 というか何故だ……何故また吹き飛ばされた俺? てか何故まだ突風が来るんだ?


「「グルル……!」」

「ぇ……ちょっ!? ドラゴンって1匹じゃないの!?」

「あ? 気づいてなかったのかお前。相手は3匹いるぞ?」


 ファッ!? マジッスか!?


 謎の突風の正体、それは至極単純なことが原因であった。相手は1匹ではなかった、ただそれだけである。

 他の2匹は少し小さめの個体だったが故に、どうやら最初の個体の後ろに隠れていたようだ。一緒に突撃を仕掛けていたらしく、俺が一匹目の折れた牙を見て余所見している間に迫っていたようだ。船に大きな被害こそないものの、突風は甲板に叩きつけられて船を大きく揺らし、俺を薙ぎ倒したということらしい。


 ……はぁ? 何それ意味分かんない。


「――フッフッフ、久しぶりですよ、私をここまでコケにしてくれやがった奴らは……!」


 一度ならず二度までも……許さぬ……!


 胸中で沸々と湧き上がる苛立ちが徐々にだが無意識に漏れだしていく。その負の感情は言葉として解き放たれ、風吹き荒れる中でも負けじと響き渡る。


「馬鹿じゃねーの頭おかしいだろ何だよ3匹って意味分かんねーよ1匹でもヤバいのに3匹ってふざけんなよしかも何で同時に突進してジェットストリームごっこしてきやがるんだよ気づけるわけねーだろ馬鹿野郎!」

「お、オイ落ち着けツカサ!?」


 えぇいうるさい、これが叫ばずにいられるかってんだ! シュトルム黙らっしゃい!


「旦那の言う通りだぜ、海のど真ん中とはいえ真夜中だろ? もう少し声押さえろよ」

「え、ツッコむところそこなんですか!?」

「いや、だってそうだろ」


 お前はお前で急に真面目ちゃんになるな! 俺よりもうっさいのが3匹いるだろうが!

 俺はギャーギャー、アイツらはビュウビュウでグオォオオオッだぞ? どっちが煩いかは明白だろ! 俺はうるさくねぇ!


「ジークさんの思考が理解できませんね……ナナと同じくらい予想の斜め上をいってますよ」

「あれ? なんで私とばっちりくらってるの? ポポちょっと酷くない?」

「いやまぁ、事実ですし」

「むっか~! なにそれ!」


 もう、滅茶苦茶である。ジークはアンリさんとコントみたいなことを始め、ポポとナナはひょんな一言で始まった口論を展開してしまう始末だ。

 負が負を呼んで連鎖し、喚き立ってしまうこの場の収拾をつけるのは骨が折れそうだ。それを比較的まともに残ったシュトルム達も感じていたらしい。


「皆様、今はそれどころじゃ……」

「オイオイ、なんなんだよもう……お前さんは良識あるのかないのか分かんない奴だな。……だが、ヘビーワイルドドラゴンは初めて見たな……厄介な速度だ。あの巨体でこの速度、そんで暴風か……」


 面倒くさい人らを他所に(俺含む)、ジークの言動に頭を掻きつつ、ヒナギさんと共にシュトルムは冷静にドラゴンの分析をして正体を暴いたようだ。頭上のドラゴン達は、種類的にはヘビーワイルドドラゴンというらしい。


 へぇ、流石知識の宝庫シュトルムさんですねー。ちょっと分析しただけで種類が分かっちゃうなんて御見それしやす。


 俺もドラゴンの姿はさっき転倒中にしっかりと目に焼き付けたし、確かにワイルドだなぁと思わないでもない。というのも、天を貫かんばかりの角に、見たものを凍り付かせる恐ろしい顔つき。荒々しい鱗を全身に完備した巨躯でありながら敏捷性に優れるその姿は、確かに危険という意味でワイルドな感じはしたからだ。

 だが――。


「ったく、何がヘビーワイルドドラゴンだよ、ただのヤクザ顔したドラゴンじゃねーか。しかも何だあのリーゼントみたいな角は? 一昔前の不良じゃねーか!」

「う、う~ん……確かにそう見えなくも、ない……?」

「ヤクザ顔はドラゴンのデフォルト顔だとして……リーゼントは確かにそう見えますね」


 俺のドラゴン達に対する印象にはポポとナナも少なからず同意できる部分があるようで、それなりの反応が返って来る。口論を止めて2匹共ドラゴンを見つめると、顎に手を当てたり首を曲げたりして意思表示をしていた。


「ワイルドだなんて聞いて呆れる……通りすがりの奴に気まぐれで手を出すなんざ俺からしたら大人になりきれてない餓鬼みたいなもんだ。ベビーチャイルドドラゴンに改名しろや!」

「変なネーミングだな」


 うっせ!  


 ジークにシレッと鼻で笑われたようなツッコミを受けるが、本気でそう思ったのだから俺は訂正する気は一切ない所存である。


 俺は今から赤子の躾を始めるのだ、そうなのだ。赤子には愛情の方が効果的? いえいえ、大きい赤子には逆効果です。スパルタ教育とはどんなものかお見せしてやろう。




「オラ来やがれ3馬鹿が! (あや)してやらぁっ!」


 更生の余地なしの不良共に向かって、俺は思い切り飛び出していった。







 ――その後、折角の得物を俺が仕留めてしまったことでジークに小言を言われました。

 ドラゴン退治してまさか怒られるとは思ってもみなかったですん。しょぼん。




 ◇◇◇




「終わったかな? 皆には悪いことしたな……」


 丁度ツカサ達がドラゴン達の相手をしている時、その場に居合わせなかった仲間の一人であるセシルは、風の音が静かになっていったことで事が終わったということを悟っていた。

 風の音と咆哮が窓を揺らしているのをチラチラと眺めていたセシルの顔は暗い。元々表情の変化に若干の乏しさを持っているセシルではあるが、今は困惑と焦りが混じった顔なのがハッキリと分かる表情をしている。


 セシルも外で何か騒ぎが起こっているのは分かっていた。自分もすぐさま駆けつけて皆と合流したい気持ちはあったが、最近になって自身に起こっている変化が顕著に表れ始め、その対応に見舞われたために参戦することは出来なかった。


「なんでなんだろう、急に」


 セシルの足元には、何枚かの抜け落ちた羽が無造作に散らばっている。暗がりでもハッキリと分かる……純白の羽が。

 その一枚を拾い上げ、眼前に持ってきてはクルクルと回し、盛大な溜息をセシルは吐く。


「やっぱり気のせいとかじゃない。どうしよう……困ったな……」




 自分に言い聞かせるように呟いたその言葉を聞いている者は本人以外に誰もいない。

 安心と不安を孕んだ声色は、セシルの心境に戸惑いを植え付けた。

次回更新は少なくとも2週間先です。

やっぱり時間が取れても3日に一話くらいが限界でしたね……精進せねば。

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