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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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26話 記憶の欠片

「俺が人を殺すかもしれない、そんな場面に遭遇する? なんだよそれ」

「動揺するのも分かるが、恐らく事実だ」

「恐らくかよ! はっきりしろよ!」


 驚愕こそしていたものの、俺が人を殺すことなんてありえないと思っていたので、俺は案外冷静な状態を保っていた。


 人を殺すか、殺さないか…。

 一体どんな状況だよ? 一般人には究極の選択に等しいんですけど。

 誰か人質にでも取られるのか?


 う~ん…分かんねぇなぁ。

 ちなみに俺はこの世界で人を殺したことはない。もちろん地球でもないが。


 一度依頼でスラムっぽい所に寄ったことがあったのだが、その時に誰かが殺されるのは目撃したりしたが…。あれは…非常に胸糞悪い。

 当然吐きましたよ…。それが普通の反応だろうけど、周りからは若干変な目で見られた。

 多分この世界では人の命は地球よりも遥かに軽いんだと思う。

 奴隷もいるくらいだし、地球と違って人の扱いが随分と雑なんだろうな。

 異世界ものだとよくあるじゃん? 多分そんな感じ。


「スマンな、確定した未来だと断定はできないんでな…。とまぁそんなことがあるわけだ」

「俺の未来を知っているのかよ?」

「ある程度はな…」

「なぜ知ってるんだ?」

「それは教えられない」

「…。まぁとりあえず、信じよう」


 言わなくても大体予想はついてるがな…。

 コイツの正体がほぼ分かっているからこそ、この話を信じることはできる。

 信じたくない事実ではあるが…。


「じゃあその話が真実だとして、殺さなかった場合と殺した場合ではどう違うんだ?」


 気になることを聞いておこう。


「まず殺さなかった場合だが、その場合はその後に非常に後悔する未来が待っている。それこそ全てがどうでもよくなってしまうくらいにはな…」


 奴の声が沈んだ感じになる。


 悲しんでる…か? それにしてもハッキリしない言い方だ。

 てか人を殺したら俺はどのみち非常に後悔すると思うぞ。


「なぁもっと具体的に話してくれよ。抽象的すぎて想像がつかないんだが…」

「悪いな、誓約で詳しくは教えられないんだ。勘弁してくれ…。結構無理をしてここにいるんだ」


 誓約? 無理してる? 

 どういうことだ?


「誓約って何だ? それに無理をしてるって一体…?」

「スマン、それも言えない」


 何だよ、何も分かんないじゃん。

 どうしろってんだよ…。


「それで殺した場合だが、その場合は俺もよく分からない」


 はぁっ!? 何言ってんのお前?


「オイオイ! なら殺さない方がいい気がしないか?」

「それでもいいのかもしれねぇな…。だが、後悔はするだろうが、それ以上の非常に後悔する結末を避けることは可能になるはずだ。ただしお前が人を殺したことによってどうなるかは分からないし知らないけどな…。それがある意味最悪の結末に繋がるかもしれないが」


 ややこしい。頭が混乱してきた。

 何をどう判断すればいいんだ…。


「ただ、俺から言わせてもらえば、できれば殺す選択をして欲しい。酷なことを言ってるのは分かってるが…」


 酷すぎるわっ! ついていけねぇよ!


 と、俺がツッコんでいると…


「!? グッ、ゲホッゲホッ!!」

「!? オイ、どうした!?」


 突然奴が口から血を吐き膝をつく。


「クソッ! もう魔力が…。時間がないか…。あー、安心しろ、ただ魔力を使いすぎただけだ。お前がもっと早くきていれば余裕があったんだがな…このバカ」


 いやいや全然安心できないんですけど、手とか口まわりとか血だらけですよ貴方。

 俺めっちゃ動揺してるよ?

 あとバカ言うなコラ!


 というより魔力の使いすぎでこんなんなるの? 初耳だぞ…。

 身体が怠くなって気絶するくらいじゃないのか?


「命を削る覚悟があれば、ハァ、限界を超えて魔力の使用は可能だ。ハァ、まぁご覧の通り、こんなザマになっちまうけどな」

「心を読んでの説明ありがとう。あと無理して解説しなくていいから! というよりこんなことになるくらいならさっきバトんなくてよかっただろ!? アホかお前は!」

「したくなっちゃったもんは、ハァ、仕方ないだろ?」


 そんなことを言ってピースサインをしてくる。


 余裕あるなお前。あとその恰好でピースサインって、凄い不気味だぞ?

 …あ、オイ! 歯を見せるんじゃねぇよ! 歯が赤く染まってグロいだけだぞ、こっち見んな!


「キ…キラーン」


 こ、効果音を加えてきやがった!

 うるせぇっ! お前の歯は別に光ってねぇんだよ! 最初の恐怖、あの感じはどこにいったんだよ。

 自分の心配しろやゴルァッ!


「と、冗談はさておき、ハァ、これだけは覚えておいてくれ…」

「冗談に見えないんですけどねぇ!? それで…なんだ?」

「お前にはこのままだと悲劇が必ず訪れる。よく考えて行動することだ。ハァ、お前にあんな思いをさせるのは…グフッ!? …ゴメンだからな…!」

「もういい! 喋るな!」

「ホントはもっと伝えることがあったんだがな…。まぁこれも、ハァ、いい結果につながるのかもしれん」


 奴の口から大量に血が流れ、ボタボタと地面に落ちる。


 全然平気じゃないじゃないか…!


「願わくば最悪の選択を取らないことを祈っているよ。それじゃあ、グフッ!? …頑張れよ」


 奴がそう言った瞬間、俺に異変が訪れる。


「ぅぁっ…! な、なん…だ…!? 頭が…割れる…っ!」


 突如俺は激しい頭痛に襲われた。

 今まで体験したことのない激しい痛みに、俺は頭を抱えて膝をつく。


「ぅっ! これ…は、一体…!?」


 どうやら奴も俺と同様の状態なのか、頭を抱えている。

 チラリとそれを確認したが、それも束の間。俺は激しい痛みに耐えることに集中する。

 正直痛みを耐えることにしか頭がもう回らない。


 そして激痛の中、俺の頭に何かが流れ込んでいくのを感じた。




 白いモヤモヤ…。これは…誰かの記憶?














『ぐぅっ…、このままじゃ…!』

『あなたは誰? どこから来たの?』

『ゴメン。お世話になります』

『うわぁぁっ! ごめんなさいでしたーーー』

『ねぇねぇ、早くご飯食べよ?』

『私はお前を認めないからな!』

『えっ…ちょっ…マジで…?』

『オカマだけにお構いなく! キャーーー!! 恥ずかしーー!!』

『ヘイヘイヘ~イ! 滾ってきたぜぇ~っ!』

『まったくお前らときたらいつもこんな感じなんだからよぉ』

『俺は男でもイケるっ!! ヘイ! バッチコ~イ! お兄さんの魂みせてやるぜ!!』 

『お前らっ! 俺に続けぇえええっ!!』

『君は理解不能だね。まったく分からないよ』

『アルゥ~! やっぱり俺にはお前だけだぁ~』

『はぁ、楽しい日々だねぇ。今日も平常運転だ』

『うわぁ…素敵』

『ハッ! セイッ! さぁ皆さんご一緒に!』

『お前が来てから本当に賑やかになったな。ありがとよ』

『ここはどうか見逃してもらえないですかね?』

『クソッ! 胸糞悪ぃ』

『いつもお疲れ様』

『私なら大抵のことは教えてやれるはずだ』

『ああ、そうか…。やっぱり俺は…』

『私がそばにいてあげる』

『あ? お前何言ってんだ? 羨ましいじゃねぇかコノヤロウ』

『ったく、何処に行ったんだよ…』

『安心しろ、必ずやってやる!』

『あの、ですね。私も一応男ですので…』

『もう! もう少ししっかりしてよ~』

『ああ、これが幸せってやつなのかね』

『へっへっへっ…。恨みは忘れないモンなんでなぁ』

『今までありがとう…!』

『うわぁああああああああああっ!!!』















 頭の中に一気に情報が押し寄せる。

 そしてそれが終わると頭の痛みは消え、何もなかったかのような状態になった。

 うずくまっていた俺はゆっくりと立ち上がり、呟く。


「ハァ、ハァ、今のは何だったんだ…一体」


 見たこともない場所、人物…。

 俺の記憶ではない。

 …。


 っ、そうだ! 奴はどうなった?


 奴の方を向いてみると…


「…はは、懐かしいなぁ」


 奴はさきほどと変わらない姿勢だったが、そんな言葉が俺には聞こえた。


「…えっ? どういう…」

「互いの存在が混じり合い始めたか…。これ以上は本当にマズイな」


 それを言った途端、奴の体がどんどん薄れ始める。


「じゃあな」

「オイッ! 何か知ってるのか? まだ聞きたいことが…」



 俺が言葉を発しているうちに奴の体は完全に消え去り、後には奴の吐いた血と荒れた大地だけが残った。


「………」


 消えちまったな…。最後に大きな謎ができてしまった。

 答えを知っていそうな奴はもういないし、どうすりゃいいんだよ…。

 違和感しかない…。


 あと、アイツは…無事だろうか?

 命を削ると言っていたから無事とは言えないかもしれないが、できれば無事でいてほしい。


 だってアイツは…






 多分、俺だろうから。

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