表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
断章 それぞれの決意
276/531

274話 最後の備え(別視点)

 ◆◆◆




 湿気の少し強めな不快感、そして肌寒さをフリード達は感じていた。辺りは薄暗く、所々に松明代わりに発行する鉱石が点在するのみで、それ以外による光は一切ない。


「おとーさんっ!」

「シャロン!」


 幼い声と、やや低い声が交錯する。声が反響して長い間耳に残るのは、この場所がそういった環境であることに他ならない。まずは声が先導し、遅れて声の主同士は身体を触れ合わせることがようやくできた。


「おとーさん、おとーさんだぁ……っ!」

「っ……シャロン……!」


 幼子……ウィネスの娘であるシャロンは久しぶりに見る父に、本当にこの再会は子どもながらに嘘ではないのかと疑いたくなった。ただ、抱きしめられ、この冷えた空間で確かに感じる温もりは本物で、これまで仕事の暇を見つけて構ってくれていた時と変わらないままだ。

 それが分かった時、ポロポロと涙の大粒がシャロンからは溢れ出した。

 ウィネスも大事な宝である娘が自分の手の届く場所にいる事実を、何度も噛みしめているようだ。娘の涙はこれまで恐ろしい目に遭わせてしまったことが原因……その全てを受け止めるようにして抱きしめる力を強める。


「あなた……ずっと信じて待ってたわ。ありがとう……」

「待たせて済まない。……やっとだ、やっとお前達を取り戻せる……!」


 シャロン同様に、ウィネスの妻もまたこの時を切望し、そして信じていた。ウィネスはシャロンを片手で抱きしめ、もう片方の手で妻の肩を抱いて同じく引き寄せる。

 親子、そして愛する妻との感動の再会。ウィネスの瞳にも薄っすらと涙が浮かび、『ノヴァ』に味あわされた苦しみから解放された喜びを露わにしている。


 フリード達はその光景を家族から少し後ろに下がった場所から黙って静観していた。今この状況で水を差すような真似はしたくないと、そう全員が思っていたからだ。

 喜びの啜り泣きが聞こえてくることに暫くの間微笑ましく感じていた所で頃合いを見計らい、フリードはウィネス達には聞こえない程度の声で、静かに他の者達と最後となる会話を交わす。


 その表情に寂しげな色はなく、とても最後であるようには見えなかった。




「――そんじゃ後は手筈通り頼むぞ? 俺は……もう行くよ」

「っ……もうそんな時間か。あぁ、後は任せt「待ってくれ!」……てくれないのは悲しいッスねぇ、しょぼん」


 小さく会話を交わしたはずであったが、ウィネスの耳はそれを見逃さなかった。優れた聴力を持っていることに加えて、この音が反響する場所の特性である。この場で音を見逃すなんてことは余程のことがない限りは無理というものだ。

 それが例え最愛の家族と再会して喜びを分かち合っていたとしても、それを叶えたのはフリードのお蔭だ。ロクな感謝の言葉一つすら口に出来ずに別れてしまうことは決してできるわけがなかった。

 しかしヴァルダはというと、半ば決め台詞を奪われてしまったようになってしまったことで、やや豆鉄砲を食ったようになっていたが……。


「どこに行くつもりなんだ?」

「ちょっと『ノヴァ』達のいる所まで行ってきます」

「っ!? それならば我も連れて行ってくれ! 家族は取り戻した……ならもう奴らに遠慮する必要もない。報復をせねば気が済まない」


 一度家族の元を離れ、フリードへと詰め寄りながらウィネスはそう言った。その剣幕には迫力があり、切羽詰まった復讐心に染まった顔は並みの人なら簡単に怖気づいてしまいそうで、強い自己主張そのものであった。

 しかし――。


「駄目だ」

「何故だっ!?」


 あっさりと、特に考えるまでもなくフリードはウィネスの要求を突っぱねた。この時だけはウィネスに対して敬語だった口調もため口に近いものへと変わっていた。


「まだ家族のいる貴方が無謀な真似に出るなんてことは絶対にさせられない。第一貴方じゃ『リンカー』達の誰にも敵わない。精々直属の部下や(しもべ)と対等ってところでしょう。……それに、まだ人の領域を逸脱していない貴方には『リンカー』達は絶対に殺せない。――要は貴方の実力じゃ話にならないってことです、レベルが違う」

「っ――!」

「分かってください。奴らを潰すのは俺達の仕事だ、貴方の仕事じゃない。貴方には他にやって欲しい仕事がある」

「他のこと、だと……?」

「はい。ウィネスさんが納得できるかは分からないですが、それは連中に苦汁を舐めさせられた他の人達(・・・・)にも言えることだ。我慢しろとしか言えない」


 ウィネスは自分の欲求が叶わないこと、そして復讐心という強い感情の捌け口がなくなったことで、行き場のない感情に自分自身を蝕まれ、襲われる。

 唇を嚙みしめ、拳を強く握りしめている姿は二つ名として名の通った『連剣』には滅多にない姿である。

 フリードはウィネスに背を向けると、後方にいた仲間達一人一人の顔を見て会話を続けた。


「アレク、ナターシャ、ヴァルダ……ウィネスさん達のことを頼んだぞ。2週間後が上手くいったら、後はアイツと行動してくれてもいいし、自由にしてくれてもいいから」

「馬鹿、この期に及んで何言ってんだよフリードさん。最後まで付き合うさ、ここまで来てそりゃないだろ」

「当然だね。言われなくてもそのつもりだよウチも」

「勿論俺もだ。フフフ、それはなんでかって? だって俺は、貴方のことが! ちゅきだかr「アレク、ナターシャ……ありがとな」……酷い!? 最後の告白さえ聞き入れてもらえないとは。最後までお固い奴だなぁ全く……」


 フリードの最後の確認に各々が即答という形で返答をしていくが、なんと締まらないことかヴァルダはこの状況であっても自分の道を曲げないようだ。相変わらずいつものように冗談なのか本気なのかも分からない求愛を示す。……が、フリードは慣れたようにそれを無視した。

 ただ、全員の意思は既に決まっていて、また覚悟も強いことは確かなようだ。それはフリードと培った、仲間としての絆……或いは別のモノも起因していそうである。今日出会ったばかりのジークを除き、真っ直ぐな瞳でフリードにその考えを伝えている。


「へーへー、分かりましたよ分かりましたん! お前の意思は確かに受け取った。俺達はそれを必ず受け継ぎ、そして伝えよう。希望ある未来に繋がることを祈って……。――さらばだ、愛する者よ」

「何も分かってねーだろお前、最後の最後でそれかよ。態度が180度反転しまくるの止めろや……まぁお前らしいっちゃらしいけど」

「恐縮でぇーす!」


 裏で至れり尽くせり動いてもらっていた働き者のヴァルダに感謝はしているが、やはり溜息をつきたくなるフリードの表情は曇っている。

 しかし、決して暗くはない。要はいつも通りだった。


「アンタ、本当にそれがなかったら良い男に入るんだろうけどねぇ……。フリード様、先祖一同、僅かばかりの恩しか返せずに申し訳ありませんでした……! 必ず、必ずや貴方様の望んだ世界へと導くことをウチは誓います。ウチが天寿を全うして死んだとき、それを手土産に貴方様にお聞かせ致します……!」

「りょーかい、なら楽しみに待ってるよ。こっちこそ無理難題を押し付けたのにしっかりこなしてくれてありがとうだ、俺の方が貴女には感謝してる。一族の皆に、ナターシャのこと話しとくよ。残った末裔は、確かに皆の意思を世代を超えて受け継いでいたってな」

「有難き、お言葉です……! 貴方様とお会いできたこと、大変光栄でした」


 ヴァルダに物言いをした後すぐに真面目な顔つきになり、最後まで自身の恩を返せなかったことに肩を震わせているナターシャを、フリードは優しく励ました。そんなことを言われるのは間違いで、むしろこれ以上ないくらいだと本気でそう思って……。

 フリードよりもナターシャの方が遥かに背は高く、また振る舞いもナターシャの方が大人びている。それでも、フリードがまるで子どもを相手にしているような光景だった。


「……別れの言葉はしないぜ。いつかまた、フリードさんと会えるって分かってるからな。する意味がないし、俺はしたくない」

「そうだな、確かにそれもそうだ。……でも、本当にアレクはそれでいいのか? 学院長のトコ戻った方がよくないか? そういう約束だったろ」

「あの時はな。でも俺があの人を守れるようになったのも、結局はフリードさんから貰った力のお蔭だ。アンタがいなきゃ俺は弱いままだった。『ノヴァ』と()り合うなんて夢のまた夢だったはずだし、どうせ連中を潰さない限りは結果は変わらないんだろ? だったらまずはアンタに協力するさ。あの人は……それから先、静かに見守ることにする。そっちの方が気を張る必要もなさそうだしな」

「……っとに、なんでその見た目で中身が不良じゃないのかねぇ……やっぱり親思いの優性不良児だなぁ」

「なんだよそれ。つーかあの人は親じゃねぇよ、保護者だ」

「あんま変わんなくね? それ」


 過去にアレクを優性不良児と……そう称したことをフリードは思い出していた。遠い日の記憶だがその記憶は鮮明で、当時のままの姿をしているアレクを前に懐かしさを覚えていた。そして、アレクは思いやりの精神を持った人として立派な奴だと……改めてそう感じざるを得なかった。

 フリードは自分は立派ではないが、どこかアレクと似た共通点があったのだと思った。




「ジーク」




 最後、フリードはジークへと視線を向ける。堂々とした振る舞いはどんな時も相変わらずな、今日久しぶりに見たその顔を今一度。


「アイツのこと……今回もよろしく頼むわ。手ぇ掛かる奴だけど」

「んなこたとうに知ってる。次こそはお前みたいにはならねーようにする……してやる。だから安心して行け。俺がお前に(・・・・・)言えんのはそれくらいだ」

「ハハ、相変わらずカッコイイくらいに真っすぐだなお前って。ハァ……お前も変な奴を認めちまったもんだ。今の俺だから言うけど、すげぇ光栄だったよ。俺の時は、お前の期待に応えられなくてゴメンな」

「知らねぇよそんなことは。俺はその事実を知らねぇし、見てねぇ。そして今後そう思うこともない……そうだろ? つーか俺ならお前に謝られるのは筋違いだって思うだろうよ。むしろお前をそうさせちまった自分を一番情けなく思う」

「お、おう。――う~ん、フェリミアがヤバいのかお前そのものがヤバいのか……いや、間違いなくお前自身がヤバい奴なんだろうな、ここまでくると。あ、勿論良い意味な?」

「何言ってんだ馬鹿。お前も大概だろうが……」


 本人達にしか分からない会話は、周りにはよく意味を理解させられない。フリードとジークだけは、お互いが同じ心境で、そして認め合っていたことを分かっていた。




「――んじゃウィネスさん、お別れです。会ったばかりで変な話ですけど、もう二度とここにいる俺(・・・・・・)とは会うことはないでしょう「っ!?」だから最後の挨拶をしときます…………さよなら。いつか、またどこかで」

「待ってくれ! っ!?」

『もし少しでも俺に恩を感じてるなら、最近Sランクに上がったばっかりのちっさい奴の味方をしてやってください。多分2匹の鳥連れてるんですぐ分かります。少なくとも『ノヴァ』達の犠牲になる人は多少マシになるでしょうから』


 別れは唐突すぎた。まだ話すことはあるだろうと誰もが思いたくなる中、フリードは『ゲート』を即座に展開させると、その中に身を投じて姿を眩ました。その中から聞こえた最初で最後となるフリードの要求を、ウィネスが忘れることはないだろう。

 フリードは、もしかしたら湿っぽい別れを嫌ったのかもしれない。最後までウィネスに礼を言わせなかったのも、協力関係となったことで礼を言われる筋合いはないと思ったからである。フリード自身がウィネスを利用してしまっているように感じていたからでもある。はたまた巻き込んでしまったという考えもあるだろう。


 感謝を言えないままとなってしまったウィネスは口を開けて放心状態になるが、その肩を軽く叩いてヴァルダは諭す。


「例え自分は報われないのが分かっていても、過去の自分に見ることができなかった明るい未来を託す。『連剣』さん、アイツはああいう奴なんです。諦めてください。心残りがあるなら、アイツの言った通り自身の家族を守り、そしてアイツの助けにこれからなってやってくださいな」

「……」


 ヴァルダの言葉に何も反応しないウィネス。まともな人物であるからこそ、礼儀を果たせなかったことにすぐに順応できはしなかったらしい。後悔の念が全身から滲み出る。近年は秩序とモラルの乱れたSランクの中でも、ヒナギ同様に一線を画す正しさを持ったウィネスにとっては大きな失態であったようだ。

 ウィネスの態度から、妻と娘も今さっきまでいた人物が助け出してくれた人物なのが分かったのだろう。ウィネスへと寄り添い、その思いを共有し合っていた。

 しかし、この反応はフリードが人の域を脱していないと言ったことの証明でもあるかのようでもあったと……ヴァルダは密かに思っていたが。


 そんなウィネスには少し時間が必要だろうと察し、ヴァルダは次の行動へと移ろうとする。


「さて、こんな湿っぽい所にいるのもアレだ。連中に勘付かれるのも面倒だしさっさと退散しよう。ジーク君、君はこれからグランドルに戻るだろう?」

「あぁ。俺はお前らについてくわけにはいかねぇからな」


 他の者とはここで別れるつもりであるジークはそう言った。一緒には行けない理由があったからだ。

 ただ――。


「そこでだ。急に話を変えたようで変えていなくて済まないが、君と君が気になっている娘に特別大サービス……グランドルのギルドに置いてある魔法の入門書を借りてみるといい。――す、するとどういうことでしょうか!? なななぬぁ~んとその本を読むとその娘は魔法が使えるようになっちゃうんですよー、ハイ拍手~!」


 突然、ヴァルダはそんなことを言いだすのだった。いきなり奇妙なことを言われたことにジークは訝しげな表情になるが、当然聞き返したくもなる。

 無駄に盛大なヴァルダの自演の拍手だけが辺りに木霊している。


「ちょっと待てや、なんだそりゃ? 俺魔法なんて使えねーぞ? 適性ねーし」

「違う違う、君が使えないことくらい分かっているとも。その本を利用するのは君ではなく、今言ったその娘だ。その娘……まぁミーシャ譲は使えるようになるはずだ。本人は適性が無いと思い込んでいるらしいが実際は少々違くてな。まぁ騙されたと思ってやってみたまえ」


 拍手を止めてジークを指さしながら言うヴァルダに対し、いきなりミーシャのことを持ち出され、そして自身の淡い感情を悟られている様にジークは苛立ちを少し覚えた。一般ならこれを恥じらいからくるものだと内心では分かるのだが、ジークは自身に湧き上がったそれの原因をイマイチ理解していない。

 だが、苛立ちは本物であることくらいは分かっており、この時ヴァルダが嘘を言っていないのもそれに余計に拍車を掛けていたりする。

 個人的にジークはヴァルダの相手が得意ではないのだ。好き嫌いではなくあくまで苦手という認識である。


「……よく分かんねーが、その魔法の本とやらもお前の残した物ってことか?」

「ピンポーン、大正解。この私ヴァルちゃんが本気出して書いた由緒溢れる傑作だよ? ツカサもこの世界に来た当初それを読んでいるし……意図的に読ませた(・・・・・・・・)。国宝どころか、世界全体で厳重に管理しなきゃならないレベルの物だっていう自信があるね。凄いっしょ? 俺のクイズに正解した景品はそちらになりまーす。……あ、絶対にミーシャ譲以外の人にはまだ見せちゃ駄目だぞ?」


 国宝だけでも相当な代物であることは分かる……が、それに留まらない代物がグランドルのギルドに存在しているという。そして、それはヴァルダが筆者であるとも。

 ヴァルダが筆者でそれだけの才能があるのは先の説明で分かるとして、世界全体という表現がヴァルダの思い込みだけなら疑いの余地はあるものの、司が読んだという事実にジークは着目した。

 ヴァルダとナターシャ、そして自身。その中でも司は特に異常とも言える領域に群を抜いて立つ人物だと思っているからだ。自分は例え魔法が使えなくとも味わったことがあるからこそ分かる。司は特に魔法に関しては驚異的な威力と魔力量を持ち、他に並ぶ者は存在しないと本気で思えるから。何故司だけがそこまで離れた存在になっているのかは、今日初めて分かってから今までずっとジークの疑問であった。

 しかし、ようやく納得がいった。あの司が、このヴァルダの書いた本を読んだことでその域に達することを可能にしたというのであれば十分合点がいく。

 1+1が2となるように、司自身の持つモノとヴァルダの才能が重なった結果なのだ。司程ではないにせよ、ミーシャにも効果は必ずありそうな予感をジークは覚えた。


「しかし、なんだって俺がそんなことを……」


 分からない点が埋まったことはさておき。

 いきなり何故こんなことを言いだしたのかが不明であるままなのは変わらない。ジークはまず、ヴァルダがこんな話を持ち掛けたことを問う。

 しかしよくよく考えてみれば、ヴァルダの言い出した理由は至極当然とも言えた。


「仕方ないだろう? 俺も君自身に認識阻害の力を施してはみるが、万が一にでも今回のことがセシル譲に見抜かれては一大事だ。セシル譲が今回の件にあまり関与しないならまだしも、本人の存続に関わるのだからな……必ず何処かで計画は狂うのは必至だ。そして、今日のツカサ達のキャッキャウフフ~な集まりに君がいないのは不自然にも程がある。……ならばいなかった理由を嘘で塗り固め、そして本当にしてしまえ。コレを見守りに欠席した理由にするには十分だと思うぞ。十分行けるはずだ」

「あぁ……そういうことか。言い訳にしろってことだな」


 何食わぬ顔でグランドルに戻ったところで、今日の出来事に少なからず興味を示していたジークのことを身内の者達は知っている。まさか欠席するなどとは思っていなかっただろうし、その説明を求められるだろう。通常なら用事ができたと言い訳をすればよい。余程疑心暗鬼になっていなければ、それで済んでしまう話である。

 しかし、セシルにはそれは通じない。天使という種族の力で心が見える上、ジークが司に向けている本心を既に知っているためだ。とても言い逃れはできるとは思えなかった。


 抜けているようでいて抜けていない。今自分がこの場に居ることができているのは、ちゃんとフリード達が後先考えた末の結果であることにジークは気づいた。つくづく伊達に裏で動いてはいなかったと思うのだった。


「フッフッフ、題して、『気になるあの娘のハートを掴め(偽?)』だ。本当になるかどうかは君の考え次第。ま、有用に使ってみたまえ」


 今の状況を仕方のないことのように言いつつも、それを上手く利用しているような作戦にジークは逃れる術を失くした。

 全てヴァルダの掌の上……そんな気がしていた。少なくとも、今言ったヴァルダの作戦名はともかくとして、実行せざるを得なくなったのは事実だ。使えと命令されているようなもの。本当になるかどうかは自分次第というのも嫌らしさが込められているなと思わざるを得ない。


「お前すっげー嫌な性格してんな。……ちっ、まぁいいさ、ここはお前の想像通り踊らされてやるよ。そんで、アイツいなくなったが俺はどうやって帰りゃいいんだ?」

「ナタさんがいるから平気なのでは? 【龍気法】を使えば恐らく今日中には帰れるだろう」

「仕方ないから近くまで送ってやるさね。あまり近づきすぎるとナナ様と王様に気付かれそうだから、ちょっとは歩いてもらうのは勘弁しておくれよ?」

「悪ぃな……頼むぜネズミ」

「待った、いい加減ネズミとか言うのやめな。ウチのどこがネズミなんだい? こんなデカいネズミいやしないよ」

「しゃーねーだろ? もうそれでこれまで通してきてんだからよ。文句なら連中に言え。それかコソコソ嗅ぎまわってたお前自身の行動を見直すこった」


 ナターシャとはこれまで敵対する関係でしか出会ったことは無かった。その時は当然険悪の仲であったが、今はもう同じ志を共にする仲間である。仲間がどんなものかを知ったジークには、これまでのいざこざは関係ない。

 ナターシャもサバサバした性格であるために、一つの事を除いて過去を水に流せるタイプだから良かったのだろう。ジークにはもうあまり何も思っていない様子だ。ジークと案外似たタイプであるのが幸いした結果である。


 ちょっとした言い合いを交えながらも、帰る手筈は次第に整った。




「それじゃ2週間後……未来の分岐点となるその日にまた会おう」

「おう。……オイ、アレクっていったか? それまでに精々精進しとけよ?」

「分かった。足手纏いにだけはならないように努力しとく。でもジークさんも俺に追い越されないようにした方がいいぞ」

「ほぅ? 言うじゃねぇか……だが、悪くねぇ。しかも嘘も言ってねぇしお前も中々に面白そうだな? 今度ガチで戦り合ってみるか?」

「それは勘弁してくれ、あと冗談だから本気にしないでくれよ」

「え? なになに? 面白そうだからヴァルちんも混~ぜt「「却下」」……あい」

「まともな奴がここには誰一人としていないねぇ……言ってて悲しくなってくるよ」




 ジークとアレクがヴァルダに鋭く断りをいれる様を、ナターシャはやれやれと見つめては呟いた。

 残った者達の関係は非常に良好な様子である。少しずつ、新たに加わったジークとの仲は深まっていった。

次回更新は少なくとも1週間は先です。


※追記

月曜には投稿できそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ