273話 家族のために
店内ではお静かに……そんなことは誰もが知っているマナーである。
気分が高揚して多少の大きな声が出てしまう程度なら許されるかもしれない。部活帰りの中高生がファミレスで騒ぐのと一緒だ。これは若さ故の過ちとして多めに見る人もいるだろう。或いは、それは駄目だと注意する者も現れる可能性はある。
――ただ、今の俺達はハッキリ言って超迷惑の基準をとうに超えていたように思う。……ていうか絶対そうだろ。娯楽施設ではあるまいし、後でお店の人には謝罪しなければならないなぁまったく……。
「あ、アンリ……?」
「お父さん! 恥ずかしいことばっかり言わないでよ! どうしてそういうことばっかりしかできないの!? もう少し節度を持ってよ!」
「じ、事実じゃないか……」
「それに何よその態度の急変は。ツカサさん凄く引いてるの分かってる!? さっきまで敵意剥き出しだったくせによくそんな図々しく話せるね?」
「いや……それはだなぁ、アハハ、ハハ……」
アンリさんとヒナギさんの両娘による、父らへの非難が別々で展開されている。どちらもすぐ目の前で展開されている関係上、非常に耳で聞き取る作業が忙しい。聖徳太子が如何にとんでもない才能を持っていたのだと思う今日この頃である。
それはさておき。2つを同時に聞きとることは難しいと判断し、まずは2つの騒ぎの原因の1つ目、そのグループを見る。
アンリさんは席に座ったままのお父様の隣に陣取り、見下ろすような形で距離を詰めている。低身長な俺からしたら日常茶飯事的な光景であるが、慣れた……というより慣れざるを得なかったこの構図は、結構相手に対して縮こまりたくなってしまうものである。
極端な話、大人が幼稚園児を見下ろすと威圧的であるみたいなものだ。だからこそ、小さな子どもと接する時は目線を同じ高さに近づけるといいとかなんとか……。
これが大人にも効力を発揮するのか? その答えが今目の前にある。
「な、何ニヤニヤしてるの、気持ち悪いんだけど……」
「アンリがこんなに近づいてくれるのは昨日ぶりだから仕方ないよ。お父さん嬉しいな」
「っ……馬鹿! アタシ今真面目に怒ってるの!」
……あ、お父様怒られながら若干ニヤけとる。縮こまれと言いたいくらいの反応して火に油注いでますやん。
この状況で娘に近寄られて嬉しく思ってるとかホント頭おかしいなこの人。娘への愛が極限の境地に至ってるぞオイ。褒めて良いのか最早分からん。
ハーベンス家の方は一旦終了。
続いて騒ぎの原因その2、マーライト家の方を見てみると――。
「お父様! 何故グランドルにいらしてるのですか!? 来るなら来ると言ってください!」
「いやぁ済まないなヒナギ、急な便りであったのでそれは無理だったんだ。許してくれ」
「ま、まぁ、そう思っているのでしたらいいのですが……その、い……言っていいことと悪いことがあると思いますっ!」
「ハッハッハ! アネモネで別れた時以来の顔だな。娘のためならいくらでも親バカになってやるさ、それが親冥利に尽きるというものだからな。まぁヒナギ、私は全面的にお前を後押しするぞ?」
「っ……お父様意地悪ですよ! やりすぎです!」
こちらもアンリさんと同じで、ヒナギさんが同じ状態でトウカさんを責め立てているようだ。
トウカさん親バカの自覚あったのね、それは尚のこと質が悪い。
珍しくプンプン怒っているヒナギさんだが……ご馳走様です。怒る顔さえ映えるとは御見それします。赤い顔も、ちょっとキツくなった目つきも、両手で握りこぶしを作って胸の前でバタバタさせているのも、新鮮すぎてなんだか有難いとしか思えなくなるじゃないですか。
あぁ~、なんか俺も是非とも怒られてみたいn……おっと失礼、こりゃイカンイカン。遺憾なだけに逝かんようにせんとな……うむ。
一人フリーな状態に立たされたことで心に比較的余裕が生まれた俺は、このまま両グループの諍いを鎮めたい気持ちはあったものの、そもそもアンリさんとヒナギさんは何故ここにいるのかが一番気になった。
まだお二人の憤慨は収まってはいないところではあるが、このまま更に熱くさせてしまうのを黙って見ているわけにもいかない。それを防ぐ意味でも、多少強引に俺はそれについて尋ねることにする。
フッ、奥手な俺でも成長してるんだ。もう何にも臆することなんてない。
すぐに俺がこの場の主導権を握るという……通称『神代magic』をお見せして差し上げようではないか!
「あのさ、アンリ、ヒナギさん、取りあえず一旦落ち着いたr「「無理です!」」あ、ハイ。ど、どうぞ続けてください……」
俺の決意とやらは、僅か数秒程度しか発揮されなかったらしい。
うん、無理でした。まるで映画に一瞬しか登場シーンのない売れない役者みたいだったなぁ今の俺。
俺の制止の声は届きはしたものの、2人の吐き捨てるような却下の仕方は、えげつなく俺の積み上げたメンタルを一瞬にして瓦解させる。これで俺が相手を嫌いに思っていたり、敵意があったりしたなら心折れずに済んだことだろう。――しかし、今回はそれとは真逆である彼女さん達である。有無を言わさない圧力というものが確かにあった。
これまで二人が俺へと放ってきた言葉というのは、どれもが非常に暖かい優しさに溢れていたに違いない。今なら分かるが、鬼神、般若状態になったアンリさんですらまだ暖かいようなものだ。あの状態は確かに怖いことは怖いが、正体はアンリさんのヤキモチやらが大半の原因であるし、愛されていることが実感できる分まだマシだ。
だが、今のは確実に冷たかった。横やりを入れるなと、心底邪魔されるのを嫌った反応は身を速攻で退くには十分すぎた。
それだけ父親に物申したいことがあったってことなんだろうけど、そんな睨まなくたっていいじゃないですか。しかもダブルパンチ。
まだ俺が話してる途中で急に遮られると……なんだかとっても俺自身まで否定させられた気がするんだよ。ネガティブ思考かもしんないけど。
俺の入る幕はない、というよりも入り込む隙間すらないようだ。そういうことなので、俺は散らばったガラスのメンタルを回収して補修しつつ、ポツンと窓から見える景色を眺めることにする。
本当に、何故こんなことになってしまったのか全くもって分からない。それに、自意識過剰などではなく本当に今回の話題の元とも言える俺が何故、こんな状態に立たされる羽目になっているのかも分からない。
もういいよ、ちょっとの間だけだけど気が済むまでやらせとこう。きっとここ最近だけでも色々なことがあったし、普段から文句らしい文句すら言わない二人なんだ、ストレスも結構溜まっていた可能性もある。それが父親という存在が現れたことで解放され、発散に繋がっているのかもしれない。
「はぁ……なんでこうなるかなぁ」
あーあ、ジークみたいにガチもんの威圧が俺にも使えたらいいのになぁ。
◇◇◇
司らの会合の時を同じく、魔大陸北西部では――。
「……?」
小石も吹きすさぶ荒廃した大地、かつては豊かであった自然の恵みである川跡。その干上がってしまった底を導として歩く魔族の男は、一定の速度で進めていた歩を止めた。
男は数多くいる魔族の種族の中でも、特に耳が発達している種であるらしく、魔族でありながらエルフのように伸びた耳をしきりに動かし、何かに注意を払っている。
やがて肩に下げていた荷物袋をそのまま地面に落とし、背中に背負っていた二又の剣を掴んではすぐに臨戦態勢へと入ったのか、両手で柄を握って構えると、ジッと神経を集中させてただ一点を見つめるだけだった。
周りには誰もいない。人はおろか、モンスターの気配すら感じないが、男は表情を強張らせてしきりに前後左右を静かに五感の全てを持って確認する。
すると、突然砂嵐が男の前方に不自然に発生し、蜷局を巻いて天を貫いた。
明らかに違和感のあるその砂嵐に、得体の知れない正体はコレが原因であると思ったのだろう。より一層、表情を強張らせる。
「驚かせたならスンマセン。どーも、何かお困りですよね? ……まぁお困りじゃないと困るんですが」
「……誰だお前達は?」
砂嵐の中に人影が一つ見えたかと思うと、2つ3つ、4つ5つと数を増やしていく。そしてそれまでその場で停滞していた砂嵐が突然彼方へと飛んで消え去っていくと、5つの影は人の形をした影、そして確かな実体となってその場に姿を晒す。
フリード、ナターシャ、アレク、ヴァルダ、ジークの5人である。フリードを除いて全員背が高く、また無意識に漂わせる雰囲気が尋常ではない領域に達している。男は自分の力にそれなりの自信があったこともあり、如実にそれを分かってしまった。対面しただけで、額に汗が滲むのが分かった。
特に、その中で唯一異質に見えてしまうフリードが4人の先頭に立っていること、この点に男は着目、グループのリーダー的人物であるのだと察し、最大の注意を払うべきだと判断したらしい。
小さいからといって油断するなどとんでもない。そんな見た目だけで判断する程に目は腐っていない自負が男にはあったのだ。
……が、現れたかと思ったら、フリードの最初に発した発言がどこかおかしいことに内心拍子抜けを食らってもいた。フリードの話し方がやけにフレンドリーだったこともある。
ただ、それが相手の狙いである可能性も視野に入れ、男は得体の知れぬその人物達全てに敵意をむき出しにするのだった。
「……貴方、『連剣』のウィネスさん、ですよね?」
フリードはウィネスの質問には答えず、自分が聞きたいことだけを聞いた。男……ウィネスは、この時点でフリードが人の話を聞かないという認識をまず持った。
「我に何か用か?」
「ちぃっとばかし話がありましてね」
「……」
「あ、無言ってことは聞きますってことでいいんですかね? なら……単刀直入に言わせてもらいます。――貴方は俺に殺されるか殺されないかが左右される人なんです「っ!?」そのどっちになるかの瀬戸際が今この時なんですよ」
フリードの言うことに少し意味の通じない点はあるものの、ウィネスは自分が分かってしまう点もある事実にフリードの言葉を無視できない。
やはりか、と……ある程度予想はし強がってはいたウィネスであったが、早くも内心では焦りが出始めていた。その証拠に、フリードから『殺す』という発言が飛び出した時、声をあげそうになってしまった。
この人物達の誰にも自分は全く敵わないと……雰囲気だけで既に悟っていたのだ。今の状況はウィネスからしてみれば非常に危うい状況として映ってしまっている。自分は狙われている……そんな認識を持っているのである。
「……我が? お前は一体何を言っている?」
震えそうになる声を精神力で押し留め、平然と答えるウィネスの内心を理解できるものが果たして世界にどれだけいるのだろうか? 顔だけしか伺うことの出来ない者達ではまず気が付くことはないだろう。それ程に大した演技を見せていた。
フリードも内心ではその姿に感心を示してはいたが、特に何も言わずにそのまま話を進めていく。
「貴方……『ノヴァ』って組織に接触を受けたことはないですかね? てかあると確信してるんですけども」
「……」
ウィネスは押し黙る。言われたことに心当たりしかなかったからである。
顔には出さずとも、無言で全てを吐露しているようなものだ。問われた内容はそれ程ウィネスにとって機密事項に値するものであったらしい。
フリードは何度か独りでに頷いて納得すると、気にすることなくまたも話を進めていく。
「図星か。……じゃあそういうことで話進めますよ? 貴方が何を持ちかけられたのかは流石に知らないっス。だからどっち側につくかだけを教えてください。……『ノヴァ』なのか『世界』なのか、貴方はどっちにつくつもりですか?」
「それを聞いて、お前はどうするのだ?」
「『世界』側につくんなら何も言わないし何もしない。そのままどうぞお好きにしててくれってだけです。――でも『ノヴァ』側だってんなら、まずはこっち側に誘う。そんで勧告が効かないなら……悪いけど最終的には確実に死にます」
5人に聞こえるのではと思う程の大きさで、ウィネスの喉を鳴らす音が荒廃したこの地に響く。タイミングも悪いことに、今この時だけは風が止んでしまっており、5人は耳を傾けていたわけではないが聞こえてしまっていたりする。
「あ、勘違いしないで欲しいんですけど、この場合は俺らが貴方を殺すとかって意味じゃないんで。『ノヴァ』に貴方は殺されるって意味ですからね」
フリードは、ハッと気づいたような仕草を取ると、あくまでも死ぬ原因が自分達ではないことを主張する。その割に言っていることが辛辣であるのだが、そこは割り切ったように気遣いを見せずにズバズバと言い放っていく。
一方ウィネスは、自分を殺せるような集団が自分を殺すわけではなく、あくまでも別の要因で死んでしまうこと。ウィネスは一応、それとなくそうではないかと察していたこともあり、別段驚くことはそこまでなかった。自分を取り巻いている環境を考えれば、そうなってしまうのも想像に難くなかったからである。
「突然大勢で現れてこんなこと言い出してスンマセンね……あ、実際喋ってんのは俺だけか。でも、俺の言ってることって貴方は心当たりのあることもあるはずだから、全部嘘を言っているとは思えないはずですよね?」
「……まぁ、そうだな。『ノヴァ』という言葉を知っている者は少ないらしいからな」
「ですね。知ってちゃマズイって気もしますけど……それは置いておいて。で、どっちなんですか? お聞きしても?」
「……」
短い間に、再度のフリードの返事の催促がやってくる。
『ノヴァ』がどういう集団であるかをある程度知っているウィネスからしてみれば、選ぶべき方を間違えることなど有り得ない。
しかし、例えそのような認識があろうともウィネスの腹の内は揺るぎないモノによって決まっていた。ウィネスには、これ以外に道はないのである
「我は……『世界』ではなく『ノヴァ』を選ぶ。こうするしかないんだ! 家族を人質に取られてる!」
「……」
ウィネスの叫びがつんざく。
選びたくないのに、選ばざるを得ない。家族という自身の宝を盾にされ、自身の選択を強制的に定めさせられてしまっているのだ。この状態では、まともな返答を返すこともままならない。
「来るなら来い……! 家族を見捨てて死ぬくらいなら、家族を想って戦い、死んでやる!」
生きることを半ば諦めたのか、態度で敵意は示しつつもウィネスの瞳にはやるせない感情しか宿っていなかった。
その姿とは裏腹に、フリードは飄々と忠告をするのだった。
「ハイハイ、構えた所で無意味ですって。貴方じゃ俺はどう足掻いても殺せない。それは分かってるんでしょう?」
「くっ……!?」
「てか俺達は貴方を殺すなんて一言も言ってないから争う意味ないんですけど。命は大事にしてください」
フリードの忠告を聞いても、ウィネスの構えが解かれることはない。理由としてその構えを取る以外のことが出来なくなっているだけである。
一度自分の命を懸けた覚悟を決めてしまったことで、脳が、身体が、やや固まってしまっているようだった。
「しっかしまぁ……自分が死ぬことが分かってても立ち向かう、か。あーあ、やっぱり貴方みたいな人は見捨てらんないですわ」
「……な、なに?」
固まっていたウィネスであったが、フリードのこれまでとは違う安堵の声に脳が反応、身体がほぐれていったようだ。
期待したくもあるフリードの言葉に耳を傾けていく。
「貴方には守るべき家族がいることは知ってます。でも、俺にも守りたい人達がいるんだ。……ここで提案です。もし俺と手を組んで『世界』側につき、そして契約してくれると言うなら、その家族の人達を今すぐ救って俺らが保護することを約束します」
「なんだとっ!? いや、しかし……」
願ってもない、提案だった。
『ノヴァ』達から一刻も早く妻と娘を取り返し、逃げおおせたいと考えていたウィネスにとってこれ以上のことはない。フリード達も得体の知れない団体で信用はできないかもしれないが、今はそんな考えよりも先に家族が『ノヴァ』から解放されるということに意識が向いてしまっていた。
「その証拠に、さっき言った条件はそのままに前払い制で今すぐ助け出してもいいです。勿論、貴方には同行してもらって俺が言ったことが嘘ではないことを信じてもらいます。その時は……絶対に俺らと手を組んでもらうことを約束してください」
「っ……ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「はい? ……あっ、もしかして何とち狂ったこと抜かしてんだクソガキとかって……思ってたり?」
「何処にいるかさえ分からないんだぞ!? そんなことができるわk「できるよ」っ……!」
ウィネスの半狂乱したような叫びに、フリードは淡々と対応する。――が、淡々の中に相手の心情を察したような不思議な安堵感を含めた言い方で。
「ふむ、クソガキ云々については無視ですか……まぁ別にいいけど。……えぇ、できますよ。だって俺は知ってますから。今この時が訪れることも、貴方の家族が人質に取られることも、全部……俺は知ってるんだ」
「なにを……言ってるんだ……?」
「回りくどいことして悪いッスね。誓約がなかったらさっさと奥さんと娘さん助け出してるところなんですが……こっちも中々面倒なしがらみがあるんですよ。下準備が色々とね……」
疑問に簡素に答えると、フリードは最後の方は独り言のように小さく呟いて誰も聞き取ることは出来なかった。しかし、フードで顔が見えなくとも身体から漂ってくる負のオーラを前にしてしまっては、察せない方が無理というものであったが。
チリチリと……行き場を失ったオーラは空に消えていく。
訳アリはお互い様であることをウィネスは知った。
「…………」
目を瞑り、構えていた姿勢も崩し、完全な無防備を晒すウィネス。フリードの提示する選択についてを審議している様子だ。今無防備な姿を晒しているのも審議の一環であり、相手が自分に本当に敵意を持っていないかの確認でもあった。
そして――。
「……我は、『世界』につく。いや、つかせてくれ。だから頼む……妻と娘を救ってくれ……!」
ウィネスは、そう口にしたのだった。
状況はこのままではどうせ何も変わらない。それならば、少しでも望みのある可能性に賭けたいと考えたのかもしれない。
いずれ家族全員が死ぬ結末を迎えるよりも、全員が生きて未来を掴み取る可能性のある選択をウィネスは選んだのだ。
「……はい、任されました。貴方の影響力は強いって知ってましたからね……あ~もしもここで断られたらどうしようかとか考えてましたけど、その必要がなさそうで良かったです」
「そ、そうなのか……?」
「そりゃそうですよ。Sランクで何十年も働いてるベテランの貴方ですから。認知度も他の人とは段違いだ。……それに、他の奴らと違って確かな力量を見破る眼力も持っているのも間違いないみたいですしね。あ~、マジ良かったぁ~」
張り詰めていた空気の中にこぼれる、盛大な気の抜けた声。フリードは大袈裟に地べたに尻餅をつくと、そのまま背中も地面に預けてしまう。
フリードはフリードで、ウィネスを仲間に引きめるかどうかで結構気を張っていたようだ。心底安堵した声で語尾を伸ばしている。
「さてと……」
しかし、それも束の間であった。
寝そべった状態から一気に立ち上がったフリードは、突っ立っているウィネスに向かって話し掛ける。
「じゃ、提示した条件通り、そゆことで。会ったばかりですし急な間柄になっちゃいましたが、早速助けに行きましょうか。これからよろしくです。『ゲート』」
「な、なんだコレは!? まさか、『ノヴァ』達の……?」
フリードが『ゲート』を出現させると、案の定ウィネスは大層驚いたようだ。ただ、驚いたのは『ゲート』を見たからではなく、使ったことに対してだ。
どうやら『ゲート』が『ノヴァ』だけに許されているということも知っているようである。
「俺の場合はアイツらとは違いますけどね。使ってるモノは一緒でも、これを使える理由は別です。……簡単に言えば混じっただけですから」
「あ、オイ……ちょっと待ってくれ!? まだ理解が……」
『ゲート』を使用できる理由も半ば適当に済まし、ウィネスをずるずると引きずって『ゲート』に入っていくフリード達。それまで黙っていた他の面子も、その後に続いてぞろぞろと『ゲート』へ姿を消していく。
内部は『精霊の抜け道』同様に、粘つくような異空間が渦巻いている。移動している中で、ウィネスは当然の疑問でもあることを最後尋ねた。
「なんで、我を助けてくれるんだ?」
「それは、貴方みたいな人は個人的に好感を持てるから。それと、俺は貴方に信用されたい理由があった……ただそれだけですよ」
遂に仕事が始まってしまった……。
次回更新は1週間後くらいになりそうです。
※追記
次回更新は4月3日月曜です。




