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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
断章 それぞれの決意
274/531

272話 二人の父②

◆◆◆




「あの子はよく周りを見ている子だった。昔はその理由を可哀想に思ったが……今となっては無駄にならなくて良かったように思う。ツカサ殿もそう思わんか?」

「え、ええ、そうですね。ヒナギさんの気遣いの早さにはいつも助かって、ます……」

「ムッ、アンリだって気遣いはできるぞ。そこは僕の妻によく似ている……。それでいて負けず嫌いでもあるし、そんなあの子に愛されるなんて君も憎いなぁ全く……」

「そ、そうですね……ヒナギさんと一緒で、俺は2人に頭が上がんない、ですよ?」

「ふむ……ツカサ殿は腕が立つ。するとやはりその隣に立つにはヒナギが相応しいのではないか? 女ではあるがあの子はそんじょそこらの輩には歯が立たないだろうしな。非常にお似合いだ」

「いやいや、流石にそちらには敵わないかもしれないが、アンリだって王都の学院の出だし腕は立つさ。それに腕だけが魅力なんじゃない、あの娘の一番の魅力は心の豊かさだ。隣に並んで立つことも一つの形……でも、隣で笑って献身的に支えることもまた一つの形だと僕は思う。男女の間柄の形の正解はその数だけ存在するのだから、必ずしもお二人がお似合いということになるわけではないですよね?」

「……なるほど、一理あるな。中々手強いな?」

「まだまだこんなものではないですよ。娘のことを語らせてもらって僕の右に出る者はいない自負がありますからね、フフフ……」


 お父様、トウカさん。またお父様、トウカさん……と視線が順番に移り変わる。その都度相槌を打ってはいるものの、もう何度繰り返したことか。俺のボキャブラリーは既に底をついて、ありきたりな事しか言えていなかった。

 2人はお互いに好敵手を見つけた眼差しで薄く笑みを浮かべると、ウズウズと早く口を開きたさそうにしている。早く娘のことを語らせろ……俺にはそう言っているように感じる。

 俺はテーブルの端に陣取り、2人の言い合い(たたかい)をその場で半傍観していた。




 ……何コレ? なんでいきなり父親同士の娘の誇り合いが始まったし。


 最高の仲裁人が来てくれたと思ったけど……違うわ。まさかトウカさんまで極度の親バカだとは思わなかった……。

 ヒナギさんとは和解したわけだけど、すぐにまた離れ離れになっていたから寂しく思っていたんだろうか? トウカさんは全面的にそれを行動に出す人ではないと考えていたのだが……まさか違ったとは。

 後で東のその後とか聞きたかったのにこの状態だとなぁ……。


 類は友を呼ぶとでも言うのか、やはり人とは見た目と中身が必ずしも合致しないものであるようだ。お呼びじゃないから是非とも帰って頂きたい。勿論両方。

 だ、誰か普通の親はおらぬか!? ここに普通の親はいましぇん。普通の俺には荷が重すぎるから誰か助けてくださぁ~い。




 まともな会話らしい会話が始まったかと思えばまともじゃない。かれこれそれで早30分は経っただろうか。

 俺がこの短い間に見た全てを……ダイジェストでお送りさせていただこう――。




 □□□




 30分前――。




『二人の諍いがなくなったところで、お互い親睦を深めようと思うのだが良いかな?』

『そ、そうですね。僕は……彼のことをまだよく知らない。アンリがあれだけ頑なに自己主張するくらいだし、アンリが君に惹かれた何らかの理由はあるんだろう。聞かせてくれないか?』

『はい? えっと……ど、どうぞ?』




 20分前――。




『アンリは小さい頃から凄くモテモテでね、寄り付く子達を追い払ってくれと、泣きながらよく懇願されたもんだよ。今は何故か(・・・)落ち着いたみたいだが、君は運がいいな。このこのぉ~』

『へ、へぇー……確かにアンリからは浮いた話を聞いたことありませんでした。講師をしてなければ会うこともなかったでしょうし、確かに運が良かったのかもしれません、ね……』

『いやいや、ヒナギも負けていないぞ。親の私から見てもあの子は相当な美人だろう。つい最近聞いたが、密かにヒナギを気にかける者達が各地にいるそうだな?』

『そ、そうですね……先日イーリスに赴いた時も大勢いました、ね……。種族問わない人気っぷりですよ、ヒナギさんは誰にも分け隔てなく接しますから……』




 10分前――。




『アンリは料理上手で――』

『ヒナギは裁縫が――』

『……』




 □□□




 はい結論。馬鹿二人から馬鹿三人になりました。内二人は馬鹿の前に親が付きますが。


 いやね? お父様からは敵意を持たれなくなったことはいいんですよ? love&peaceへの第一歩と言っても過言じゃない。だってお父様の第一段階を突破したようなもんだからさ。

 ……でも肝心のアンリさんのこれからと、アンリさん自身の秘密っていう二段階目の話がまだ残っている。

 こちらとしてはそちらに移行したいと思っていたのに、トウカさんが来たことでちょっと……というかかな~りややこしくなってきちまったなぁ。どうしたもんか……。


 ちなみにだが、トウカさんはヒナギさんと俺の関係について殆ど知っているとのことだった。それ故に特に驚いた様子もなかったようだ。

 どこでそれを知ったのかを尋ねたところ、なんとまたもやヴァルダが関与していたらしい。

 2週間程前にアネモネの自宅に一通の手紙が届いたそうで、文面については詳しい話は語られなかったが、恐らくヒナギさんの身辺のことが書いてあったのだろう。その手紙によってグランドルまでやってきたというのが大きな理由だそうだ。


 2週間前となると、俺らがイーリスへ向かった頃である。アンリさんのご両親がグランドルにやって来た時期と重なる。

 アネモネからグランドルまでは、ポポとナナで飛んでも早くて2日掛かることを考えると、どのような移動手段であれトウカさんはほぼ最速でグランドルまで来ていると分かる。この迅速な対応はトウカさんの親バカ認定する確かな証拠でもあるに違いない。早すぎる……。




 ただ……ヴァルダは一体なんなんだ? アイツ、俺の未来を先読みするような特技でも持ってんのか? 怖いんですけど。今日の日の為に事前にトウカさんに手紙を送りつけるとか……未来を見通しているようにしか思えん。一体何をどうしたらそういう行動に踏み切れるのか全く俺には分からない。

 しかし、情報屋としての先見の明が神掛かっているにも程がある……が、ヴァルダならあり得ると思えてしまうし、狙って出来そうな気もしなくもない。

 ――なんにせよ、アンリさんだけでなくヒナギさんの家族にまで手を出すとは、アイツ案外キーパーソン的な役割をしてると思うのは俺だけだろうか。本当に恐ろしいくらいに有能な奴だ。8割くらい有害でもあるけど。


「久しく会ったあの子が男に視線をずっと注いでいる姿には感慨深いものがあったよ。知らぬ間に色々成長したのだなと……。あどけなさは大人の魅力と色気へと、いつしか変わっていたようだあの子は。子の成長とは早いものだ」

「それには同意します。感慨深いものがありますよね、あれだけ小さかったのに今ではもう立派な女性になってしまってるんですから。僕の娘もいつの間にかこんなに大きく……」


 俺の考察の傍らで、今もなお娘のお褒め合いは続いている――かと思いきや、いつの間にか割と普通の会話へと落ち着いていたらしい。

 流石に疲れてしまったのか知らないが、お互いに娘の成長について思い耽っているようだ。過去を思い返し、アンリさんとヒナギさんが生まれた時から今に至るまでの成長過程を脳内で流しているのだろう。

 親として培った、親にならなければ得られぬモノを元に……それが今2人の顔には滲み出ている。俺には到底真似できそうもない、暖かみのある表情だ。


 あーこれだよこれ。俺が見たかったのはこういう顔なんですよ。ようやく父親らしいご尊顔をしてくれたようで嬉しい限りッス。

 ……ん? それまでの顔はどうかだって? ……そりゃもういい加減にしろって感じでしたが何か?


「「ふぅ……」」


 先程までは、まだネタが尽きないのかと思うくらいに口からは新鮮な言葉の数々と事実が出てきており、個人的に就活に困らなさそうだなぁとか思いながら2人を見ていた。俺もこんなに饒舌な語り口を持てるのなら是非とも持ちたいものだ、と……。

 でも、この人達がさっきまでしていたのは自己PRではなく自子PRですがね。就活じゃない、むしろ婚活に近いと思う。






 そんであのー、和んでるとこ申し訳ないんだけどさ、俺は一体どうすればいいの? このままお二人の娘さんのお話聞かせられてりゃいいんですかい? 


 今のままでは話が進まないと危機を覚えた時だった――。


「それでツカサ殿、今のを聞いてどちらが一番魅力的だい?」

「うぇっ!?」


 ゲッ!? いきなりだんまりできる空気じゃなくなりやがった。しかもよりによって非常に困る質問かよ。


 もう休憩は終わりだと言うのか。トウカさんによる、2人の彼女さん達のどっちが一番かを決めて欲しい要請が来てしまう。

すると当然――。


「そんなのアンリに決まってるだろう? 余裕で(・・・)

「ほぅ? 言うではないか。勿論ヒナギに決まっているだろう? 当然(・・)

「あ、えっと……」


 お父様の方も刺激され、負けじと張り合わないわけがない。すぐさま反応して身体を前のめりにすると、俺との距離は少し近づいてやや威圧的だ。勿論トウカさんも。俺は双方の最上級の言葉と視線の強さを前に、口を仕方なくも閉ざすしかなくなってしまう。

 自分の娘が一番だと決めつけて疑わず、そして譲らない。親の愛が確かに深い証と言えば聞こえは良いものの、人はそれを単に親バカと言うのである。


「フッ、随分な自信があるようですね?」

「こちらの台詞だそれは。まさかヒナギと比べようとは……其方、その蛮勇は称賛に値するぞ」


 口を閉ざして答えをあぐねていると、俺の返答を待つよりも先に、まずは対戦相手を蹴落とそうと思いついたらしい。まずはお父様の挑発が入るが……トウカさんは臆することもなく言い返す。

 2人の視線はバチバチと火花を散らすように拮抗しており、どちらも娘を想う気持ちでは一歩も負けておらず、一瞬たりとも油断も隙も見せまいと振る舞っている。まるで食物連鎖の頂点に位置する虎とライオンの対立を見ているかのようだ。


 でもあのね、それは俺がアンタら2人に言いたい。何故アンタらが対立してんだよ。そもそも矛先を向ける相手は俺じゃないの? そんなんじゃハイエナに得物を掻っ攫われるの目に見えてますよ? 

 ……つーか、お父様の態度急変しすぎてこれも怖い。この30分で何があったと言われそうなレベルの変貌を遂げてるのに気づいているのかこの人は。




 トウカさん発端のこの質問だが、正直俺は冗談抜きで困っていたりする。俺が確かにそう思ってはいても、二人には恐らく納得のいかないと思われる返事しか返せないためだ。


 俺は、アンリさんとヒナギさんが好きだ。その気持ちはどちらも同じ大きさだと思えるもので、順位を付けることは出来ないししたくない。順位付けしてしまえば、愛という概念に対して失礼だと思うからだ。……俺が言うと説得力ないけどさ。

 でも、二人が言いたいことも間違ってはいない。一人から二人になったことで、必ずその中で競争が生まれてしまうのも必然である。その首位の座が気になるのは人として普通の感性をしていると言えるし、尋ねられたことに関しては不思議でもなんでもない。


 ――しかし例え、ハッキリしておくべきだ、優柔不断は最低、死ね、と罵られることになろうとも、俺は順位付けに関しての回答は断固拒否させていただく所存だ。そういった声が世の中に少なからずあることは分かるが、俺には俺の感性がある。世間と自分の感性が違うから世間に合わせてしまっていては、それは俺という一人の人間が人として死ぬ瞬間そのものである。

 アンリさんとヒナギさんは、そんな答えを出す俺を好きになったわけではないはずであると……俺は信じている。いや、今となっては信じたいかもしれないが。




 取りあえず、人は色んな意味での死が多い悲しき生き物なのだ、そうなのだ。だから良い子の皆さんは社会的に死ぬのだけは絶対避けましょうネ?





 俺そっちのけで、またトウカさんとお父様の2人は勝負を始めるらしい。今度は、トウカさんの方から仕掛けるようである。

 今、トウカさんの口が開いた――。


 だがこの後、トウカさんによる壊滅的爆弾発言がまさか飛び込もうなどと、誰が予想できただろうか?


「しかしツカサ殿はヒナギと既に裸の付き合いをしている身だ「ぶっ!?」実際はそちらのお嬢さんよりも随分と親密であると私は思っている」


 なっ、なんですとぉーっ!?


 突拍子もない発言に、喉を潤すために注文した飲み物を吹き出してしまった。飛び出した飲み物は真下、テーブルに顔を向けたことで拡散しなかったが、迷惑かつ下品な醜態を晒してしまった。

 口元が盛大に湿った顔で、慌ててトウカさんが何故そのことを知っているのかを聞く。


「なな、なんでそのことを!?」

「うん? あの日、ツカサ殿と二人で飲んだ時、酔った勢いで私に話してくれただろう? 覚えておらぬか?」


 ば、馬鹿な……酔った勢いでそんなことを話してしまったというのか。確かに、翌朝セシルさんにテンションがおかしいみたいなこと言われたのは覚えてるけどさ、そっちは全く覚えてないんですけど……。

 み、皆さん? 飲みすぎには気を付けましょうね? じゃないとその、今の私みたいに取り返しのつかないことになります。

 マジか……司ちん、何度目か分からない一生の不覚なり。


 随分と、嫌~な状況に追い込まれている確信があった。今さっきまでかいてなかった汗が額に滲む。髪がピトリと張り付いて少々不快だ。しかし、汗を拭うことすらままならぬ。

 今の状況で幸いな点が一つだけあるとすれば、トウカさんに怒った様子が見受けられないことだろう。もしも怒っていたなら、俺はあの日かその翌朝に殺されてるはずである。




「「いい加減にしてっ!!!」」

「「ぐぅっ!?」」

「あ」




 突如俺達の座るテーブルに瞬く間に現れた二つの人影。それに気が付いたときには事が既に終わっていた。

 双影の腕の一振りが、二人のお父様それぞれの頭部へと直撃し、煙を立ち昇らせて撃沈の狼煙を上げている。視線を俺がズラしてみると、顔を真っ赤に染め上げた二人の鬼神の女性が同じく拳から煙を放ち、佇んでいた。上下に動く肩が今に至る行動の理由なのは明白であるようだ。

 双影の正体とは、アンリさんとヒナギさんだ。

 2人がどうしてこの場にいるかもそうだが、アンリさんはともかくとしてヒナギさんが手を挙げることに驚いてしまう。トウカさんの爆弾発言も重なって、マーライト家の見方が変わりそうな衝撃である。


 ヒナギさんが手を上げるところなんて初めてみた……。ま、お父様らは自業自得だと思わんでもないけどね。

こ、これでも短縮したつもりなんだ! 

俺は悪くn(ry


次回更新は月曜です。

しばらくパソコンに触れない状況でして(-_-;)

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