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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
断章 それぞれの決意
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271話 二人の父①

 えー……一言言わせていただきたい。何がどうなってるのでしょうか?




 本来ならば俺とお父様野郎の2人だけの会合は、俺からしたらもう一人のお父様であるトウカさんの追加により、最早当初の体を失くしてしまっていた。

 俺、お父様野郎、トウカさんの3つどもえ? の状態である。トウカさんはともかく、迷惑な客の身であることを承知で引き続き会合は継続中だ。俺達は元々いた席へと再び揃い、店内の重苦しい空気を一心に受けながら対面し合う。


 ただ、3人となるとどうしても席の構造上隣り合う形で座ることになってしまう。現在使用している席は二手に分かれて向かい合う形式のテーブルで、俺かお父様野郎のどちらかの隣にトウカさんは座る必要があった。

 一応は俺の隣に座るという判断に至ったようだが、俺はアネモネでご自宅に御厄介になったことがあるくらいだ。夜更けに酒も飲み交わしたし、今日会ったばかりの人の隣に座るよりも居心地、遠慮が要らないと感じたのだろう。……多分だが。




 しかしまぁ……なんですかね、この状況。トウカさんは日本人に似た顔つきで俺と一緒の黒髪だし、隣に座ってるとなんだか今の俺って息子みたいに見えなくもないのでは? ふむ……。

 ――フッ、いやいや、何を言ってるんだろう俺は。この状況でよくそんな馬鹿なことを考えられたもんだ。

 正しくはお義父さんの間違いでした、だろ? なんちて……。




「ところであの、貴方は一体何方ですか? 彼とはどんなご関係で?」


 少しだけ頭で馬鹿を考える程度に落ち着いた俺を知らず、困惑した様子で、急に介入したトウカさんへ当然の疑問をぶつけるお父様野郎。


 へぇ? 俺のことを彼だなんて言い方できたのか。というか今みたいな口の聞き方ができたことに驚きだ。流石に人前だからか?

 でもまだ俺の訂正の要求には応えてもらってないんですけどねぇ?


 お父様野郎に対し俺が嫌悪感しか示さなくなった問題については、まだ何も解決していない。

 怒りが幾分か収まったとしても、それは消えたわけではないのだ。さっきの話が別のアクシデントで有耶無耶になっていることは否定しないし、見知らぬ人が急に現れてしまったのだから今困惑していることは仕方がないと俺も分かりたくはないが分かる。

 ――だが、訂正するまで俺がこの嫌悪感を無くす、もしくは減らすことは決してない。


 俺は胸に残る怒りを抑え込みつつ、二人の会話を静かに見守ることにした。


「おっと、紹介が遅れて申し訳ない。私は先程お二人の話題に少し上がっていた、ヒナギ・マーライトの父親だ。名をトウカ・マーライトと申す」

「は? 父親? ヒナギ・マーライトの……?」

「うむ、お初にお目に掛かる。急に私がこの場に出てきたことについては、些か頭が追いついてこなくても仕方がないと察する。しかし、私も其方と同じく娘がツカサ殿を好いているという同じ事実を共有する者だ。それに免じてこの場に同席することをお許しいただきたいのだが……駄目だろうか?」

「は、はぁ……? 構いません、けど……」

「そうか、感謝する」


 やや敬語の抜けた厳格そうな発言をするトウカさんであるが、態度は謙虚そのものである。手は膝の上に置いて背筋を伸ばした姿勢になると、深々と礼をして挨拶をしている。

 俺と初めて会った時と変わらない口調であることから、誰に対しても変わらぬ話し方をするヒナギさんとある意味似ているのかもしれない。


 一方でお父様野郎は、言われた通り理解追いつかぬままに必死に顔を取り繕い、トウカさんをやり過ごすように言葉を少し濁す。

 少なくとも、トウカさんがヒナギさんの父親であるということだけは理解しているはずだ。トウカさんがヒナギさんの父親だと公言した時、目を丸くしていたのが分かったから。


「なら早急に話に移らせてもらおう。お二人の会話は最初から聞いていた。――して其方、もう少し言葉は慎重に選ぶべきだと思うぞ? 娘の選んだ者をあまりいじめないでいただきたいのだが?」


 なんともお恥ずかしいことに、どうやら最初から俺らのみっともない醜態は全て見られていたようだ。現状説明は不要であるらしい。

 苦笑気味に笑うトウカさんの顔が親父と少し重なり、どこか懐かしさを覚えたのは内緒だ。


「い、いじめだなんてそんな……僕は……」


 お父様野郎は少し顔を青くすると、尻込みしてトウカさんに返答していく。言っていることと思っていることは違うような、矛盾した態度だ。


 ただ、娘が選んだ者というのは……? なんか腑に落ちないな。どっちの、どういう意味で言ってんだろ?


「物議が白熱していたようだし、一時の勢いもあったのだろう。……いやはや、私も偉そうに語ってはいるが、客観的に見ていたからこそだ。其方と似たような状況になれば同じことをしていたかもしれん。娘は……何にも代えがたい大切な宝だからな、気持ちは分からないでもない」

「そう言っていただけると、少し気が楽になります」

「だが、其方の発言は中々に辛辣なものでもあったと思う」

「あ、はい……」


 トウカさんがお父様野郎を戒めさせようとする発言をしたものだから、先のやり取りの非難か……と思ったがそれだけではないようだ。客観的という言葉通り、相手の立場に立ったお父様野郎への理解も示したご様子である。

 悪い点を先に述べ、それから擁護する言い回しはどこか狙っているような気さえする。お父様野郎もトウカさんを訝し気に見ていた目を少し潜ませると、平常心を次第に取り戻しつつあるようだ。青い顔から回復していく。


 しかし……凄いなトウカさん。この面倒なお父様野郎をすぐに手懐けてるんですけど。

 副業は調教師か何かで? 勿論正しい意味での……ゲフンゲフン。


「勿論、ツカサ殿にも非はあると思っている。私はツカサ殿が激昂した理由をまだ知らないが、それでももう少し自制心を働かせるべきだっただろう。必要な時に自制できてこそ、自制とは意味のあるものなのだからな」

「……すみませんでした」


 はい、仰る通りで……返す言葉もございません。


 謝るべき相手の顔を見ることもなく、テーブルの片隅を見つめて俺は呟いた。

 激情に駆られて自制を失ってしまうのは俺の直すべき部分だ。直そうと思って直るものかは分からない。しかし、無理だと決めつけて諦めてしまうのは逃げである。

 直さなくては、ならない。


「だが、親思いであることは純粋に好感が持てる。親にとっての誇りだろう」

「……」


 お父様野郎を非難しつつ、俺にも非があったと窘めるトウカさんは、なんだか学校の先生のように敬いたい人の様に映った。

 場を取り持つと言っていたことに間違いはないらしい。トウカさんは俺らどちらの味方でもなく、あくまで中立の立場で話をしている。


 不本意ではあるが、お父様野郎が青い顔から回復したのも分かるもので、少しでも理解をもらえると心が安らぐような感覚がある。共感してもらえている事実がそうさせているのだろう。




 暫し、沈黙状態になる。その間はトウカさんが注文していた飲み物が運ばれてきたりしたことのみで、それ以外にこれといって変わったこともなく、また会話もなかった。

 でも、この無意味に思える時間は正直有り難い。トウカさんの登場、怒った事実と少しの反省、これからどう動くか等について、考える時間が出来たようなものだからだ。動揺は時間の経過で収めることはできると俺は思う。




「――しかし、どうしてだろうな……」

「「……?」」


 話の切り口の候補が頭に幾つか浮かんだと思いきや、突然トウカさんに出鼻をくじかれてしまったようだ。感慨深そうに、俺ではトウカさんの今の心境を到底汲み取ることさえできない表情で、一息ついて一声を静かに放つ。

 俺は一度、思考を中断して耳を傾ける。


「場を取り持つとは言ったものの、お二人どちらにも肩入れしてはいけない状況であっても親の立場となるとそうもいかない自分がいるのだよ。……私はツカサ殿の父親でもあるしなぁ。どうしてもそちらの味方をしたくなってしまうね……ハハ」

「「……」」




 …………うん? ゴメン、もう一回言ってくれます?




 飲み物を手に、器になみなみと注がれた液体に映る自分の姿を見ながら、トウカさんはしみじみとした言い方でとんでもないことを言い放った。

 俺とお父様野郎の目が点になるのが分かる。向こうからしたら俺がそんな目をしていることを不思議に思いそうだが、俺も初耳なのだから仕方がない。

 既に、整理していた考えは全て虚無へと早変わりしていた。


「と、トウカさん!? いきなり何を!?」


 えええええええええっ!? ど、どどどどういうことだよ一体!?

 マジでトウカさんが、俺のお父さん? いやお義父しゃん!? ぱ、パピーですと……!?


 更なる動揺再び、である。俺はすぐさまトウカさんに説明を求める。


「そ、そこまで話が進んでいた、のか……?」


 いや、進んでねーよ。トウカさんの考えだけが進んでるんだよ。

 俺の今の慌て顔見てなんでその結論に行きつくんだよ。アンタの目は節穴か!


 お父様野郎が俺とトウカさんを交互に見る。こちらもまた明らかな動揺をしているようで、想像しているよりも遥かに俺達が先を行っている関係だと思ったようだ。……俺も今初めて知ったが。




 てかやっぱりトウカさんって事前に俺とヒナギさんの関係について知ってたのか!? 全然驚く素振りもない……。さっきの俺らの話を聞いたことで知ったのなら反応が薄すぎるしそれはないだろうけど、何故にそんなことを言いだすんだ。

 ここにいることと何か関係あるのか?


「ハッハッハ! 冗談だよ冗談、真に受けないでくれ」


 俺達の反応を見て楽しんでいたのかもしれない。トウカさんは極めて落ち着きつつも豪快に笑うと、冗談だと口にする。


 冗談のレベルじゃないし、とてもそうには聞こえなかったんですけど……なんか雰囲気が。酒の席で言うんだったら分かりますけども……。


 トウカさんとの多くはないやり取りの内、似たような……というかまんまこれと同じ会話をした時を思い出してしまう。


「いきなり驚かさないでくださいよ」

「すまないね。――でも、仕切り直しはできそうだろう? このまま重苦しいままでは伝わるものも伝わらない。今、お互いに済ませなければならないことを済ませておいたらどうだい?」


 トウカさんに若干呆れを覚えてしまったが、トウカさんなりの雰囲気の乱れを変える意図があったようだ。俺とお父様野郎に目配せしては、早くしなさいと催促してくる。

 上手く逃げられた感がプンプンするのはともかくとして、チャンスをいただいたのは確かである。向こうもそれを察したのだろう――。


「その……済まない。口から出まかせで言われのない酷いことを言ってしまった」

「っ……すみません、ちょっとカッとなりました。謝るのは、俺の方です」


 まずはお父様から、そして俺へと――。

 トウカさんに導かれるままに、俺とお父様は自然に和解へと繋がっていくのだった。




 場の空気に流されるのはあまり快く思わない。それは自分の意思の弱さを受け入れてしまったように思えるからだ。


 ただ、それでも俺も現金なもので、あれだけ腹立だしい思ってはいても許したくなってしまうから……なんだかなぁ。

 薄弱な意思。それに尽きるショボい自分を情けなく思いつつ、そんな自分を嫌には思えていないという自分本位の気持ち。これも直せるものなら直したいものである。




 お父様野郎でなく次からは今まで通りお父様と普通に呼ぼう。お父様という呼び方は普通じゃないかもだけど。

うわぁ、全然話進m(ry

次回更新は水曜です。ここ最近すみません(-_-;)

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