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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
断章 それぞれの決意
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268話 王のために(別視点)




「さて、この熱烈な愛情表現は一体何事かな? ジーきゅんからの告白と捉えちゃってよろすん? 運命の赤い血の線で結ばれてるってことだったり? きゃっ!」


 頬の血の筋に触れて血を拭うヴァルダは、手にしっとりと付着した血をジークに見せながらまたも馬鹿へと興じる。自分に大した怪我ではないが手傷を負わせた相手を前にしてなお、マイペースさは健在であるようだ。

 ――が、人差し指と中指の皮膚に潰れたように広がる血の跡は、少量であるとはいえ見ていて良いものではない。鮮血が鮮やかに光沢を放っており、不気味で痛々しい。


「そのとぼけた口調はやめろ。次そんな口の聞き方してみろ……次こそ当てるぜ(・・・・・・・)?」

「…………ハァ。ま、君には全部バレバレだったか、流石に」


 ヴァルダとは対照的に、ジークは威圧的な態度を変えぬままヴァルダの頬を見つめ、一層強く睨みを利かせて脅す。

 どうやらヴァルダの頬に浮かんでいる血の跡に胡散臭さを感じているらしく、下らないヴァルダの誤魔化しに苛立ちを強く芽生えさせたようだ。

 そんなジークに観念したのか、ヴァルダは溜息を吐いて両手を上げた。


「……やっぱりな。幻術の類か?」


 ヴァルダの頬と指に付いていた血が……忽然と消えて元通りの肌へと変わる。ツカサと会話していた時と変わらない肌に。

 これを幻術と称したジークに対し、ヴァルダは口を開く。


「ご名答。これは確かにその類のものと言えるね。正確には幻術じゃないが」

「ほぅ? 素直に認めるんだな?」

「君の前では嘘は付けないから仕方ないだろう? 隠すだけ無意味だ。……が、一応はその対策を講じていたつもりだったんだがね。でもそれも通じないとは……フッ、恐れ入ったよ。……参考までにどうやって気づいたのかな? 正直アレはギリギリで躱してみたつもりだったんだが……」


 ヴァルダはジークを見たまま、後ろの方を指さした。その指の指す方にはつい今しがたジークが投げつけたナイフが残っていて、そのことを言っているようである。


「そんなん簡単な話だ。お前が言った通り、血を見せつけてきた段階でお前が嘘をついてんのが分かっただけだ。……更に言わせてもらえば、俺が投げたモンをお前は咄嗟に反応した状況の中で目で追えてたな? それだけでもう普通じゃねーよ。ツカサと()り合う時と同じ速度のモンを追える奴なんて見た事ねーからな」

「むぅ、初歩的なミスをやらかすとは……ヴァルダちん不覚なり」


 ジークに幻術と言い当てられたことに間違いはないようだ。ヴァルダは舌を出して頭を掻くと、参りましたとジークにひれ伏す姿勢を取る。そしてそのまま店のカウンターに顎を乗せてふてぶてしい顔になると、一人文句を垂れるように呟くのだった。


「ふむふむ、やはり君も彼女同様に別格かぁ~。敵意を向けられて初めて分かった気がするなぁ。いやはや、あんまり言いたくないけど論外とか規格外とでも言った方がいいかもしれないかもしんないけどぅー」

「……」

「――それで? ジーク君は一体俺に何の用があるのかな? そうでなければ俺とツカサが話してるのを盗み聞きしたりなんて君がするはずないだろう?」

「あ? なんだ、最初っから気づいてたのか」


 ヴァルダの言った通り、ジークは司がヴァルダの店に入ったのを確認した後、店の脇の路地で気配を殺して話を盗み聞いていたりする。

 司の持つ【隠密】のスキル程ではないにせよ、『ノヴァ』に『闘神』と比喩される程の力を持つジークは、隠密さえも我流である程度こなすことが可能なのだ。戦いでは時に必要となる力であれば、ジークは全ての武器を巧みに操れる特性と同様身に着けることが自然とできてしまう。それがジークが『闘神』と呼ばれる所以だったりする。


 しかし、司は気が付かなかったというのに、ヴァルダはジークが隠れて聞いていたことを知っていたというから、ジークは内心では驚きだった。ヴァルダはそれまでの会話からジークに遭遇したのは全くの想定外だったと言っていたうえ、ジークは他者の嘘を見抜くことができ、また確認したばかりである。

 それにもかかわらず、ジークは今の今まで盗み聞きがバレていたことに気が付かなかった。ヴァルダがジークが盗み聞きをしていることを知っていたなら、出会った段階でジークはヴァルダの態度ですぐにそのことを分かったはずなのだ。


 それなのに分からなかった事実に、ジークは表情こそ変えなかったが更にヴァルダへの不信感と警戒の意識を強くする。ヴァルダが最初言っていた意味ありげな『対策』とやらが、恐らくは関与しているのだと……。

 嘘を見抜けない可能性があることを念頭に入れ、ジークは一般人は皆がこういう気持ちなのかと感じながら慎重に口を開く。こんな経験はジークにとっては初めてであった。

 ヴァルダに対するいつも見ていた人物とは全く異なる人物像が、ジークの中に出来上がっていく。


「ツカサと違って俺は周りには結構警戒してるからね。でもまさか入って来た瞬間に仕掛けられるのは想定外だった」

「へぇ、そうかよ。……って、んなこたぁ聞いてねー。俺が聞きてぇのは……お前がツカサを密かに誘導してるんじゃねーかってことだ」

「うん?」


 そこまで言ってジークは立枠に寄りかかるのを止めると、ヴァルダのいるカウンターへと堂々と近づいていく。ヴァルダを見下ろす形で睨むジークだったが、机に手を叩くように置いて話を続けるのだった。

 ただ、それでもヴァルダは微動だにしていない様子であった。


「ツカサや他の奴が何か困った時、動こうとする時、お前結構な比率で話に絡んできてるよな? セルベルティアん時の異世界人発覚、姉御とツカサをくっつけるためにセシルが悩んでる時の協力、俺達がイーリスに行ってる時、すれ違いでグランドルに来たアンリの親と偶々ギルドに来ていたお前と出会ったとかよ……。俺が知ってるだけでざっとこんなところか? 流石に不自然なくらい都合が良すぎるんじゃねーか?」

「そうかい? 情報屋も最近は変わりつつあるんだよ。お客を待つんじゃなく、自ら提供しに行くスタイルってやつがね」

「ハッ、それをツカサ限定でやってるってか?」

「いや? 他の人にもやってることだよ」

「……誤魔化すなよ。なら、なんでお前からは俺の知らない奴らの匂いをほとんど感じねぇんだよ。お前がそんなスタイルやってんならどうしたって他の奴の匂いがつくはずだ。俺らの知らない奴らも相手にしてるってんなら、必ず匂いは付くはずだよな? ……言っとくが単純な匂いなんかじゃねぇぞ、魂の匂いがな」

「……」


 事実を言われて図星なのか、ヴァルダはそれまでは軽快に返答していた口を噤んだ。ジークの前では嘘を付けないため迂闊なことは言えないからなのか、もしくはジークを例の『対策』とやらで突破しようと試みているのかは分からないが。


 ジークにとって匂いは2種類ある。一つは体臭や香り等の嗅覚を刺激する、人ならば誰しもに備わっている五感で感じるもの。しかし、ジークはもう一つ、魂そのものが放つ匂いというものを感じ取ることが可能なのだ。こちらは実際のところ無臭でジーク本人にしか分からないが、それぞれで違う匂いを放っているのは間違いない。


「この店だってそうだ。お前程有能な奴の店が、まさかツカサの匂いしかほとんど感じねーとは思わなかったぜ。ヴァルダ、今言ったそのスタイルってのは苦し紛れの嘘だな? 見抜けなかったが……確信した」

「やはり、君の前ではこの俺でさえ余裕でいるのは無理か……」

「ヴァルダ、テメェ……一体何者だ? 言い逃れできると思うなよ」

「えっと、俺はその通りナニモノd「あ゛ん?」……あい」


 言っていることが矛盾したヴァルダの言葉の数々。余裕でいられないのに余裕しゃくしゃくの茶化しは、既に高まっているジークの癇に障ったらしく、声だけでヴァルダは縮こまった。

 しかし、ツカサよりもヴァルダに対して辛辣に当たるジークにヴァルダがいつも通りでいるのは、ある意味余裕を心の内では感じていることの表れであるのかもしれない。


「一応その質問にはちゃんと答えさせてもらうよ。だから睨んだ顔はやめてくれ、普通に怖いッス」

「……」

「……コホンッ、えー、ちょっと時期が早くなったかもしれないけどなんとかなるかぁ。俺が何者であるかについてだけど――」


 それからヴァルダは、今度こそ本当に自身のことを明かすのだった。




 ◆◆◆




「――その結末は、変わるんだな?」

「変えるんだよ。そのために俺達はいるんだ。俺はまだまだ世界を見続けたい願望があるし、アイツは未来を変えたい願望があるから利害が一致した。そうじゃなければここまでひっそりと生き続けてきた俺だよ? こんなところで無茶なことしたりしないさ」

「お前のそれは旦那を軽く超えてやがるな……」

「シュトルム君のことか。彼も結構貪欲だけど、異世界人のことについてじゃないとそこまでだろう? ――だが俺は違う。全てを見たいし知りたいんだ。俺が知り得る範囲の情報を全て知れるまでは死ぬつもりなんてない」

「まるで化物だな」

「う~ん、君と方向性が違っただけで一緒でしょうに」

「……だな。ったく、例外なくどいつもこいつも化物ってことかよ、まともな奴がいやしねぇ」


 ヴァルダの正体についてを聞いたジークであるが、大体予想は付いていたようで、少し驚いただけでその事にはそこまで思う部分はないようだった。しかし、引き続き根ほり葉ほり聞きたいことを掘りだしていく中で、ヴァルダの目的とその身内の関係、その情報量の多さと濃密さ、そして今後避けられない事実を聞いてしまって疲れが一気に溜まってしまったらしい。ジークは店内の椅子にドカッと座り込むと、顔を天井へと向けたまま微動だにしなくなった。


「ヴァルダ……本当に、俺がツカサに言ったことって間違いじゃなかったってことだよな?」

「そうだな。成立した取引を無理矢理覆すことはもうできない。そこに関しては神の領分であるし、俺達人がどうこうしてなんとかなるものでもない。アイツなら或いは……とも思ったが、やはり中途半端な力では駄目だったそうだ。正規の手続きを踏んだところで、もう戻るべき資格を失っているのだからどのみち不可能と言っていたがな。この世の理にも位というものが存在するが、今回の場合は覆すことはどう足掻こうが無理だ」

「……そうかよ……」


 ヴァルダの説明にジークは力なく納得し、悲壮感漂う雰囲気を振りまく。

 司のことについて、まるで自分がその状況に置かれている思いだったのだ。その現実を受け入れたくない一心で、司に取って変わったように意気消沈していた。


 この後、本来であればジークは司とアンリ父の会合を見に行くつもりであった。しかし、今はとてもそんな気力が湧かなくなってしまっていた。

 口では今回の件は皆と同様に関わらないと素っ気なくしてはいても、その実内心は事の顛末が気になっていたのだ。それはジークに限らず他のメンバーもだったりするが……。

 シュトルムの精霊師のスキルを使い、『安心の園』からこっそり観察しようという企画を立てていた程であるが……自分は参加しても今聞いたことが頭から離れないとしか思えなくなっていた。そのため、余計なことを考えている自分はその場にいてはいけないと思うに至ったらしい。

 それ以前に、ツカサや他のメンバーと今対面して素面でいられる自信がなかったとも言える。


「アイツが今の君を見たら泣いて喜ぶだろうな。……その気持ちだけで十分だと思うよ、元々決まっていたことに関しては変えようもない。アイツはその事実を受け入れたんだ、ツカサも自ずとそれを乗り越えなければならない」

「だが、ツカサはこの世界から帰る意思を変えたことなんてこれまでになかった。アンリと姉御と付き合うことになって幸せそうにしてやがっても、その意思は捻じ曲げなかったんだぞ。理由は聞いたことねぇけど、それだけ向こうに残した未練があるってことだろそれは」

「まぁ、そうだろうね」

「ツカサに……救いはねぇのかよ……!」

「……それを決めるのはツカサ本人だ、俺達が決めることじゃない。だがな、俺達は彼女がいたことでツカサと巡り会えたのも事実だ。彼女がいなければツカサがこの世界に来ることはなかった。それに、どのみち地球でも未練を残したままになった事実に変わりはないし、ツカサがどう思うかは別として俺は現状的には満足しているけどね」

「ツカサとお前は違うだろうが! そんな比べ方をする意味はねぇ!」

「うん、それもそうだな」


 ヴァルダに叫んだところで意味はない。どう足掻いても手の届かぬ願いだということはジークにも分かっているのだから。だが、まだ真実を聞いたばかりでは吠えずにはいられなかった。


「だから、ツカサが真実を知った時、君達でツカサを支えてやれ。君達がツカサを居場所としているように、君達がツカサの居場所になってやってほしい。アイツは……それすら叶わなかったからな。帰る場所も、作れたはずの居場所さえも失い、独り孤独に彷徨い続けた果てに願ったのが今だ。やはり、君達パーティだけは特別なんだよ。何も知らぬままに死んだらしい俺が同情するのはおこがましいと思われそうだが」

「っ……」

「――とまぁ、そういうわけだ。さて、ここからが本題だ。2週間後……ジーク君はどうする? 傍観するのか、それとも協力してくれるのか……。もしかして邪魔する側に回ってしまったり?」

「……ハッ、できることなら邪魔してやりてーもんだぜ。だが、どれも最悪の選択ばっかだな」


 強気な口調だが、ジークの声は弱弱しくなっていく。

 ツカサに救いがないと称した様に、今のジークもまた救いのない選択を迫られている。言うなれば、究極の選択である。

 究極の選択を迫られ焦燥に駆られた姿はこれまでにない姿であり、異様な光景を今この場に作り上げている。ただ、ヴァルダはその姿を見ても動揺することもなく、冷徹と言われても仕方のない態度でジークを論した。


「邪魔をする選択はまぁ論外だがね。となると、残りは二つなわけだ。傍観か、協力……どちらかは必ずやらねばならないことになる。そうでなければ全ては崩壊し、この時間は終わりを告げるだけだろう。……君の性格的に傍観なんて真似はできないはずだとは思うがね」

「……ハァ、王を2人選んじまったことがここまでキッツイことになるとはな。しきたりを無視した代償か……クソが」


 悪態をつくジークであるが、自らに振りかかった状況に悪態をついているのであって、自分自身の行動には後悔はなかった。

 ジークは事実を認めないことが嫌いである。後悔するということを自分の生き方を認めないことのように考えており、それは即ち自分に関わった者達すらも間接的に否定することになりかねないと思っているためだ。


「その割にはどこか本望そうでもあるじゃないか。……そう思えるということは、君が優しくなったってことだろうね。少なくとも俺の知っている情報では君はこんな性格ではなかったよ。あらホレちゃいそう。それもきっとツカサの影響……君自身の本心も確かにそうなってきてる。これは良い変化だ」

「そういうお前も今までの話し方はなんだったんだ? 随分とまともな口の聞き方がやりゃぁできるんじゃねーかよ」

「だってやらなかったらさっき殴ったじゃん。君にやられると超痛いんですけど」


 若干ジークに不満を持っているらしいヴァルダは、自らの頭部を摩る。茶髪の髪に阻まれてしまっているために分からないが、確かにその頭部には殴られたことによってできたたんこぶがある。

 たんこぶができた経緯には、真面目な話の途中に何度かヴァルダのいつもの茶々が入ったことに、いい加減ジークがキレたことによる。それに伴い拳骨という名の制裁が下されたのである。

 余計な話を今聞きたくないジークには茶々入れが不快でしかなく、割と本気の力で殴ったのだが……ヴァルダは思いの他ピンピンしていたりする。ただ、それっきりは茶々は入れなくなったのだが。


「(確かに、『銀』に言われるくらいだし俺は感化されてきてんだろうな。多分認めちまった時からか……)」


 ヴァルダの文句に普段からそうしてろと内心吐き捨てたジークは、ヴァルダの自分の印象についてを噛みしめるように思い返す。すると、この前に『銀』に言われたことが心当たりとして上がってしまう。

 自分では少し変わった程度に思っていても、周りからは随分と違うなんてことはザラだ。ジークは今それを実感している気分になっていた。


「万が一の可能性がある……ジーク君、その時だけでもいいんだ、だからできれば手を貸してくれ。今が無いことにはどうしようもないのは君にも分かっているだろう? 今回は俺達がやらねばならないから不安がどうしても残る……君の力があれば心強い」

「(やらなきゃ今は無くなる。……だが、やっちまったら俺の居場所もなくなる、か。……へっ、上等じゃねぇか)」


 ヴァルダの後押しを聞いてはいたが、それがジークの心を突き動かす理由になったかと言えばそうではない。確かに自分で決め、最もマシに思えると信じた選択をジークは選んだ。

 座っていた椅子から立ち上がってヴァルダの元まで歩み寄ると、真面目な顔をして真剣な意思を表明する。




 ジークの中で、覚悟が決まった瞬間だ。




「例えどれだけ裏切り者と言われようが……上等だ、やってやるよ。フェリミアは自らの選んだ王の、王達のために在る……! そのために俺は動くだけだ」


 結局、どんなことがあろうとも自分の中に残る芯の部分はそれに尽きるのだとジークは思った。自分にとっての最優先事項かつ、血によって定められた逃れられぬ宿命。


「フフフ、クハハハハハッ! 初めて会った時の刺々しいだけの君はもう何処にもいないみたいだな? ツカサはアンリ譲のこととなると馬鹿になるが、そうかそうか、ククッ! ジーク君は王達のこととなるとここまで馬鹿になるのか、恐れ入ったよ。フェリミアの血、か」


 みなまで言わずとも、ジークの答えを察したヴァルダは盛大に笑う。大きく出たなと、ジークの選択に大変満足した様子で。

 ヴァルダもジークにつられてその場に立ち上がった。目線はヴァルダの方が低いが、それはジークの背が高いだけだ。ヴァルダもそれなりに背丈は高い。


「……死にてぇみたいだな? オイ」

「あ!? 嘘です嘘嘘、いだだだだだっ!? や、ヤメテーッ!? 私の棒を握る相棒が潰れちゃうううううううっ!?」


 ヴァルダがカウンター越しに握手を求めると、ジークは乱暴にその手を握っては強く握りしめる。間違いなく、ヴァルダの発言に対しての意趣返しである。

 ジークの誇る力の強さの前では、尋常ではない程に実際痛いのだろう。ヴァルダがかなり焦ったように解放してくれと懇願し、店内に悲鳴を轟かせた。


 数秒の地獄の後、解放されたヴァルダは握手した手を片方の手で摩りながら、自分の発言を勘違いしていると反論する。


「全く、股間以外も潰れたら大変なんだぞ全く……。というか、俺は別に君を馬鹿にしたわけじゃなくてだな、褒めて言ったんだよ? それだけアイツが認められてるってことだからな」

「……それが?」

「酷いな、ゴメンの一つもないのか。いや、それでこそ君って気もするがね。……だが俺にもその気持ちは分かるぞ、アイツ普通に見えて異常なくらい仲間想いで良い奴だもんな。……フェリミアの一族元長候補さんの御眼には適ったようだね」

「さぁて、どうだかな。……だが、お前らに協力すんのはその時だけだ。それを忘れるなよ。俺が認めたのはツカサ(・・・)なんだからな」

「うむ、十分だ。アイツもそれで大満足って言うだろうさ、予定より早いし驚くだろうな――おっと? 来たみたいだ」

「っ!? こいつは……」


 微かな魔力の動きを2人は感じた。だが、微かであっても秘めたる力は巨大な魔力を。

 ジークが後ろを振り返った時には、突然店内に現れたモノに一瞬目を奪われてしまう。それもそのはずだ、『ゲート』がそこにはあったのだから。

 まるで手招きをしているように見える空間の揺らぎに、ヴァルダはカウンターを出て導かれるように近づいていく。


「元々向こうから今日は超久々の出張の予定を入れられていてね、時間が来たみたいだ。さぁさぁゆこうじゃないかジーク君! 本日限定、我らが王の元へとな!」

「あ? やっぱテメェ俺を馬鹿にしてんだろ。ボロ雑巾にして俺が連れてってやろうか?」

「え~……もすこしだけ優しくならない? 俺の相棒の長さ分でいいから優しくなってよ」

「死ね! 死ぬまで死ねよテメェ!」

「ひぃ~んっ! ジーきゅんがいじめるぅ~」


 『ゲート』に入る前に、一波乱置きそうな空気へと一変する。やはり自分のことを馬鹿にしていると思ったジークは憤慨した。その傍らにはジークを茶化しては楽しんでいる姿を見せるヴァルダ。そこに先程までの凄絶とした空気の欠片はない。

 まるで司とヴァルダが揃った時の構図と似ているが、ヴァルダを相手にすれば大体この構図となってしまうのだ。相手がジークだとしても関係なく、これはヴァルダの成せる業とも言えそうだ。


 2人は、うるさいままに店内に出現した『ゲート』の中へと消えてゆく。

 ジークは今日の結果を見届けることは皆に任せ、自分は自分のできること、そしてやるべきことを実行するために動き出した。

次回更新は土曜です。

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