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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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25話 謎の黒ローブの男

 俺は5分ほど走り続け、門へと辿り着いた。


 途中辺りを見回しながら走ってきたが、やはりどこにも人は見当たらなかった。

 得体のしれないこの感覚は草原に向かうに連れて大きくなっている。ただし今は気持ち悪さではなく、身体がダルい感じに変化したが…。

 どっちにしろツライ。


 それほどに門を潜って草原へと出る。




 -そのまままっすぐこい-




 頭の中で声が響く。

 今まで同じことしか言っていなかったのに、ここにきて突然変わる。

 俺は言われるままにまっすぐに進む。


 そこからまた5分ほど走ったところで頭にまた声が響く。




 -きたか-




「っ!?」


 俺は足を止めて周囲を見渡す。俺の視界には草原しか映らない。


 だが、確実に何かここにいる!


『アイテムボックス』を使って咄嗟にアイアンソードを取り出す。

 ショートソードよりも多少性能が良いくらいだが、これが今俺の持っている剣の中では一番のものだ。


 ちっ! こんなことならもっと早くベルクさんの所で良い武器を買っておくんだった。


 俺は構えを取って集中する。そして俺の集中に比例して心臓の鼓動もどんどん早くなっていく。


 すると目の前で亀裂が入り、それが大きく広がっていく。

『アイテムボックス』に似ている気もするが、亀裂が黒いのでおそらくは別モノだろう。

『アイテムボックス』の場合は白の亀裂が入るし。夕方なのでよく映えている。


 どんな魔法かはわからないな…。


 亀裂はどんどん広がっていき、俺の身長くらいに達した。


 何だ?


 俺がそれを凝視していると、中から何かが出てくる。

 それは…




 人だった。




 人が…出てきた。全身を黒ローブに纏った俺と同じくらいの身長の人だ。あまり大きくはない。

 フードを被っており、顔は口元以外全く確認ができないため種族は分からない。


 …別に知らなくてもいいが。


 それよりも、幽霊とかじゃなくて安堵してたりする。俺にとってはそこが一番重要だった。


 俺が息をするのも忘れて見つめていると、そいつから声を掛けられる。


「来るのが遅すぎないか? 随分と待ったぞ」


 頭に響いていた声と同じ声…コイツだ!


 俺は確信する。

 だが…


「(コイツの声…どこかで聞いたことが…ある?)」


 先ほどから気になってはいたのだが、俺はこの声をどこかで聴いたことがある気がするのだ。ずっと前から知っていた気もするし、最近聞いた気もするので何とも言えないが…。


 俺が少し怪訝な顔をしていると…


「ああ、そういえばそんな反応したっけな。まぁ当然っちゃ当然だが…」


 そいつは俺の反応を見ていたのかそんな言葉をかけてくる。


 何を言ってるんだコイツは? 今の口振りだと俺の反応が分かっていたかのような言い方だな…。

 意味が分からない。


 俺はとりあえず尋ねてみる。


「お前は…何者なんだ?」

「あーそれは言えない。だがお前をよく知る人物…とだけは言っておこう」


 そいつは腕を組みながらそう答えた。


 はっきりしろや…。

 しかし…、俺をよく知る人物か…。 一体誰だ? この世界で俺と親しい人はほとんどいないはずだ。

 となると地球の人間ということになるのだが、数百年に1回くらいしかこの世界に地球人は呼ばれないと神様は言っていたからその線もないだろう。

 全然心当たりがない…。


 考え込んでいると俺のことを気にもせず話しかけられる。


「色々混乱しているとこ悪いが、時間もあんまりないから用件を済ませてもいいか?」

「…何だ?」


 俺は警戒を強める。


「はぁ~…意外にも結構覚えてるもんなんだなぁ。本当にそのままだ」

「…何を言っている?」


 さっきからコイツは一体何を言っているんだ?

 話が読めない…。


「ああ悪い悪い、こっちの話だ。それで用件なんだが…」


 疑問を感じながら耳を傾ける。

 黒ローブは腕を組むのをやめながら…


「ちょいと手合せ願おうか」


 そう言ってきた。

 しばし沈黙が辺りを支配する。


 まぁ、予想はしてた。

 ここまでするようなやつだし、そうなんじゃないかなーとは思ってた。

 こっちは既に臨戦態勢とってるし、いつでも戦える状況だ。

 負ける気はしない。それにもう恐怖もあまりない。相手が幽霊やホラー的なものじゃないならいつもの戦闘と変わらずに対処できる自信がある。

 ただ対人戦に関してはほとんどないが。


 俺は剣を強く握りしめる。

 しかし俺はコイツの次の言葉に驚いた。


「負ける気はしない、とか思ってるだろ?」

「!?」

「お前のことをよく知る人物だと言っただろ? お前の考えることくらい分かるさ」

「本当に何者なんだ…お前は」


 今のはハッタリか?

 それとも心が読めるのか、何か未知の魔法でも使っているのか…どのみち答えはわからないが。

 俺が頭の中で考えていると…


「あんまり絶対とかって言うのは好きじゃないんだが、あえて言う。お前は絶対に俺には勝てねぇよ」

「本気で言ってるのか?」

「ああ本気だ。安心しろ、手合せが目的だからな。目的はお前を殺すことじゃない」

「…。随分自信があるんだな…言っておくがおr「あー時間がないって言ったろ? さっさと始めようぜ。…構えな」


 俺の言葉を遮ってそいつはそう言い、両手を重ねるようにして構えを取る。

 俺はその構えに見覚えがあったが、相手が臨戦態勢を取ったのでそれを頭から追いやり、意識を集中する。


 武器は特に見当たらない。どうやら体術や武術の心得があるみたいだ。

 ローブの中に何か隠しているのかもしれないが…。


「じゃあ行くぞ?」

「後悔させてやる」

「はいはい言ってろ」


 来るっ!


 小手先だ…まずは5割ってとこか。カウンターをぶちかましてやる!


 俺は奴の攻撃に備える。


 が…



「スキだらけだぞ?」



 突然耳元で奴の声が聞こえる。

 咄嗟に振り返ったが遅かった。


「ぐあっ!!」


 俺は顔面を殴られ地面を転がる。

 いや、正確には殴られたのかさえ分からない。


 一体奴は何をした? 完全に何も見えなかった。

 辛うじて剣を離すことはなかったが、それは運がよかっただけだ。


 久々に感じる痛みに顔をしかめるが、すぐに立ち上がり体勢を立て直す。


 それにしても痛ぇなオイ。5割くらいの力で油断していたとはいえ俺のステータスを上回っているだと?


 こんなことは初めてだ。 


「…あ、大丈夫か? 軽く殴ったつもりなんだが…」


 心配してくれてありがとう。でもするくらいならこんなことしないで欲しいんですけどねぇ!


 何だコイツ? 考えていることが本当にわからん。


「ペッ! たいした攻撃力だな」


 強気な口調でそう言って俺は唾を吐き捨て、立ち上がる。

 頬が痛い。口の中を切ったのか血の味が口内に広がっており、鉄くさい感じがする。


 それにしても奴は今何て言った? これで軽くだと…? 

 まだ全然本気ではないということか。信じられないが…。


 だが実際俺は奴が背後に移動したのも視認できなかったし、傷もつけられている。つまり、少なくとも俺の防御力を上回る攻撃力をコイツは持っていることになる。

 非常にマズいぞこれは。全力でいかないと殺される!


 薄れていた恐怖がまた再燃し、足が微かに震えはじめる。


「大丈夫そうだな。まぁお前本気出してはいなかったみたいだが、今ので精々5割くらいだろ? 大体確認できたし…オーケー。ほれ、今度はお前の番だ。全力で俺に攻撃してみな。避けたりはしねぇ…真っ向から受けてやるよ」


 そんな状態の俺のことも知らずに奴は話しかけてくる。


 どうやら追撃はしてこないみたいだ。

 それは助かる…が、信用していいのか?


「ん? 信用できないって顔をしてるな。大丈夫だぞ。さっきも言ったが今回の俺の目的はお前を殺すことじゃないからさ」


 さっきから言っているがコイツの目的とは何なんだ?


 頬の痛みを堪えつつ聞いてみる。


「…お前の目的は何だ?」

「あー…。説明すると長くなるから省くが、目的はお前に忠告することがあったからの1つだけだ。…今バトってるのは俺が確認したいことがあったから+きまぐれ、悪ぃな」


 これが噂に聞くバトルジャンキーってやつか? 理解できんな。

 帰れ! お前は超サ○ヤ人とでも戦ってろ!


「ったく、気まぐれで戦うのかお前は…。まぁとりあえずわかった。それで忠告って言うのは?」

「その前に全力で俺に攻撃してこいや。その後にその話はしてやる」

「…Mなのか、お前?」

「違ぇよ! んなわけあるかっ! ただの興味本位だ」


 それにしても…。

 コイツの声を聴いているとなんだか安心できる気がする…。殴られ攻撃されたのにも関わらず、俺は不思議と警戒することもなくコイツの言葉をなぜか信用し始めてしまっている。

 そのせいか変なことを言えるくらいには俺は落ち着き始めていた。


 なぜだろう?


 …。


 まぁ今は考えても分からないか…。つーか全力ね…。

 全力でやったら周りがとんでもないことになるんだが…。

 草原が荒れ地になっちゃうしなぁ。明日騒ぎになったら嫌だぞ?


 ってあれ? なんでアイツは周囲に影響を与えていないんだ? あれだけの早さだったら俺よりも影響が出ていてもおかしくないのに…。


 と俺が疑問に思っていると


「周りの被害を考えてるんだろうが大丈夫だぞ? ここには…、いやこの世界には俺たちしかいないからな。いくら暴れようが何をしようが問題ない」


 …はい? 今何て? この世界って何ぞ? 説明ちょーだいな。


 先ほどの考えはとりあえず置いておいて、今の発言に今度は疑問を浮かべる。


「分からないだろうから簡単に言うが、俺の魔法でこの世界を作った。この世界にいるのは俺とお前だけだ」


 おおう。

 タイミング良く説明してくれてどうもありがとう。


「…魔法でそんなことができるのか? しかもこんな大規模な空間を鮮明に…」

「風景は発動者の記憶を頼りに再現可能だ。どうだ、気づかなかっただろ? まぁ世界に招くことができるのは5人くらいが限度だから作ったところで寂しいもんだがな…。それに魔力の消費が尋常じゃないっつうデメリットもあるからあんまり使えないし」


 ここは、魔法で作られた世界だったのか…。

 見た目は全然変わらないので気づかなかったが。


 でも本当のことだろうな。思い返せば誰も人はいなかったし、コイツが今言った、招くことができるのは5人が限度っていうのも本当だろう。

 それにしても凄い魔法だ。そんな相手のことも理解できずに俺は…。


「…色々気になることもあるだろうが時間が本当にあんまりないんでな、早く準備しろ」


 聞きたいことは山ほどあったが、コイツは話を終わらせ防御の構えを取っている。

 先ほどと同じように手を重ねるように前に出し、今度は腰は少し落として構えている。

 俺の好きな漫画に出てくるような構えだ。


 …。


 まさか…な…。


「…分かったよ。多分お前なら死なないだろ。全力でいく」

「よし、来いや」


 俺は少々コイツの正体に心当たりを感じながらも、攻撃の準備を始める。

 魔力の循環はしているのでいつでも魔法は発動可能。


 …行くぞ!!


 俺は奴に向かって走り出す。


 だがそれでも奴は動かない。


 俺は奴にどんどん近づいていき、そして剣が届く範囲まで距離を縮め、奴の首目掛けて剣を振りかぶったところで転移魔法を発動、背後に回り込む。


 今までの相手なら急に消えたとしか思わないだろう。それくらい一瞬の出来事。

 俺の視界には、後ろ向きの奴の姿が映っている。




 もらった!!




 俺は剣を振りぬく。



 ゴォウッ!!!!!



 その動作の余波で土煙が立ち、あたり一帯が包まれる。

 1秒にも満たない、一瞬の出来事であった。




 …確かに手ごたえは感じた。これで屠れなかった奴は…今のところいない。




 だが煙が晴れると…




「『転移』か…。まぁ対峙した相手への奇襲にはもってこいだな」


 奴がポツリと、そんなことを言った。

 予想していた通り、奴は無傷だった。


 くっ! やっぱりな…。


 俺の剣は奴の首には当たっておらず、しかも後ろ向きのまま右手で防がれていた。


 俺の姿を確認するまでもないってか? ここまでの差があるのかよ…。


 そうして奴は俺の剣を跳ね除け、ゆっくりとこちらを向いた。




 ピシッ…




 奴に跳ね除けられた剣にヒビが入り、そしてボロボロと崩れる。

 どうやら剣が今の攻撃に耐えられなかったようだ…。いや、むしろよくそれで済んだというべきか。


 それにしても、奴のこの防御の仕方…。

 …やっぱりコイツは。


 先ほどの心当たりが確信へと少しずつ変わっていく。


 …というより、こんなに近づいても口元ぐらいしか確認できないってどういうことだ? このフード一体どうなってんの?

 あの爆風をものともしないとか、それもはやフードの役割を越えすぎていると思うんですけど…。

 こっちは顔さえ見えればそれで確信できるんだから、はよ取って顔見せてみなさいよ。もしかして恥ずかしがり屋なの? シャイなの?


 無傷だったことに驚愕するよりもそちらに意識が向いてしまう。


 だって本当に不思議なんだもん。てかそのローブ欲しい。どこで売ってんの? 


「魔法については指摘は特になし、だが剣の扱いが雑すぎる…。力の余波がこんなにあるんじゃまだまだだな。ステータスに頼りすぎだ。もっと一点に集中できるように心掛けろ。いや、やれ」


 なんか指摘されてます。強制っぽいです。


「あと早く【隠密】のスキルを習得しろ。そうすりゃ周りへの影響は心配する必要もなくなる」


 そんなのあるんですね…。

 あい。覚えます。


 素直に頷いておく。


「じゃ、あとはめんどいから省略するな。本題に入るわ」


 えっ、終わり? もっとなんか聞かせてくれよ~。


 俺のことはお構いなく奴は話を進める。

 ちなみにもう恐怖心はまったくと言っていいほどにない。


 怖がる理由がないからな…。


「…真剣な話だから良く聞いてくれよ。そして…考えて考えぬけ」


「…」


 表情は分からないが、言葉に真剣さが籠っている気がする。

 …気がするだけだが。

 まぁ向こうは本気なんでしょうね。ちゃんと聞きますよ? はいどーぞ。


「…お前はこれから様々な出来事に遭遇する。その出来事の中で多くの者に囲まれ、慕われる存在となるだろう」


 あれ? なんかマジっぽくね?

 というより慕われんの? それは嬉しい。


「この話を聞いて特に意識することは何もない。お前はお前らしくあればいい…。中々それを貫き通すのも難しいこともあるだろうが、それがお前自身の幸福につながっていくだろうからな」 


 ふむふむ。


「だが」


 ん? 何ぞ?


「その中でお前は、ある時、ある場面で、ある選択を迫られることになる」

「それは…一体?」

「…」




 …。





「……」





 ……。





「………」





 ………ってオイ、溜めるなよ! はよ言えや! 時間ないんじゃないのかよ!


 俺が内心そう思っていると…




「自分の気持ちを押し殺して、人を殺すか、殺さないか。その2択だ」




 …。

 急にそんなことを言われ、顔が引きつってしまう。


 それは随分と重い…話ですね。




 奴から出た言葉に、俺は驚愕した。

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