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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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256話 『宴』:リーシャ&ハイリ①

 ◆◆◆




「ツー君来るの遅いなぁ~。……オイコラ! 早く来なさ~い!」

「もういるんだが?」

「うおっ!?」

「キャァアアアアアッ!? ちょ、ちょっといきなり湧いて出てこないでよ! ビックリするでしょ!?」

「知らんわ」


 リーシャが遅いと言い出したので、俺は何を言っているんだと思いつつ後ろから声を掛けた。すると、俺がいつの間にか後ろにいたことにリーシャは大層驚いており、悲鳴を上げて俺へときつめの口調をぶつけてくる。

 一緒にいたシュトルムやハイリにクローディア様も同様の反応であるが、リーシャだけがオーバーリアクションを際立たせている。


 観衆の視線を掻い潜って俺は騒ぎの中心に降り立ったのだが、【隠密】の効果で物音が立たないものだから気づかれなかったようである。突然そこに現れたように見えたようだ。

 ギョッとしたように身を仰け反らせて驚きを露わにしていく観衆達の動きのシンクロ率はほぼ100%で、正直俺はしてやったりな気分に一瞬だけなれた気分だ。

 さっきまで追いかけまわされたり痴態を晒したりと散々な目に遭わされていただけに、俺の鬱憤もそれなりに溜まっていたのだ。狙っていたわけではないが、運よく仕返しができてよかったと思う。


 ……というかさ、来いと言われたから来てやったというのに、なんで急いでやってきた俺が悪いみたいな言い方をされにゃいかんのだ。理不尽ッスわ。


 遅れて俺が現れたことで周囲からはどよめきがしてくるが、さっさと本題に入ってしまおうか。


「そんで、どうしたんだ?」

「あ、あぁ、それなのだが……「ちょっとちょっと、まずは挨拶でしょ? ハローツー君、元気だった? ホラ、こんな感じ。これが会った人に対する基本だよ?」


 ……と思ったのだが、リーシャが挨拶を先にするべきと親の様に構ってきてしまって中断されてしまう。お手本を見せていますと言っているかのようにドヤ顔を俺に見せつけてくるリーシャ。


「……この前ぶりだなハイリ。遠くからわざわざ大変だったんじゃないの?」

「其方の従魔がいたからそうでもないさ。助かったぞ」

「あーごめんうそうそ! 流石に冗談だから! ワタシを無視しないで!?」


 俺がハイリに向かって声を挨拶をすると、反応がないのは流石に堪えるのかリーシャは無視して欲しくない表明をして手をバタバタさせる。


 無視が一番のイジメみたいなことを聞いたことがあるけど、あながち間違ってないかもしれない。精神的苦痛も肉体的苦痛と同様に辛いものがある。


「リーシャは見ての通り相変わらずなのだ。面倒かもしれんが大目に見てやってくれ」

「はぁ……」


 ハイリが気の毒そうに見つめてくる瞳を前に、俺は溜息が零れてしまう。


 まぁ、知ってた。俺よりも遥かに付き合いの長いハイリがこう言っているくらいなのだ。これまでに色々と手を尽くしてきたことは想像に難くないし、それに対してリーシャがどういう態度を取って来たかも簡単に想像がついてしまう。シュトルムの顔を見てもハイリと同じ表情であることから、もうこれはリーシャの個性として根付いてしまっていて、直せるものではないのだろう。


 普通な人に会いたいなぁ、ハハハ……。


「む~ハイリ酷い! ……それよりツー君? 今『宴』の最中なんだよ? 何よそのしかめっ面は。ホラホラもっと笑って~!」

「ぬ、このっ……やめい! だから来たくなかったんだよ、リーシャのこれに付いていけないから!」

「酷いなぁ、そんな言い方しなくてもいいじゃん。お祭りだよお祭り、テンション上げてこー!」


 だからと言って、「はいそうですか」とそのテンションに合わせるなんて嫌であるが。

 リーシャの両手が俺の両頬をグネグネと動かしてくるのでその両手を掴み、俺は引き離してリーシャと距離を取る。

 そして、その光景を見て微笑ましげに見る人が1人――。


「ツカサ様とリーシャ様は大変仲がよろしいのですね。まるで旧知の友人に再開した……そう見えますわ」

「あのクローディア様? そういう発言はちょっと控えていただけます? さっきのやり取りでもう懲り懲りなんですけど俺」

「あら失礼、またお怒りになってしまいそうですわね……フフ」


 そうなったらそれはそれで楽しそう……シュトルムの腕に抱き着いて微笑ましく笑うクローディア様はきっとこう考えていそうである。だが、先の出来事が合った手前、俺はこの考えに勘弁して欲しい衝動を抑えられない。またアンリさんの嫉妬心に触れたら俺が辛いから。


 今更で当然なことだが、リーシャは女性である。背はヒナギさんと同じくらいで出る所は出ている体つきは十分に女性としての魅力を引き出していて、王族という地位や立場を高めていると思えそうだ。特に、胸元が少し空いて肩が露出している服は少々刺激の強さが感じられ、機敏な人は男を誘ってるんじゃないかと考えそうなものである。


 ……ま、一応結婚願望があるくらいなのでその狙いはありそうである。

 取りあえず、そんな恰好をしている奴と仲が良いなんてのは余計な勘違いを招く要因となってしまいそうなので、せめて接触するような事案はやめていただきたいです。


「旧知の仲、か……」


 さっきは別のことでリーシャに拒否反応を示してしまったものの、クローディア様の旧知の仲という発言……これには少し納得できてしまう自分がいる。リーシャ達はともかくとして俺は。


 リーシャとハイリとこうして会って会話をするのはまだ2度目だ。俺が眠りについてようやく起きたと連絡したら、すぐさまオルヴェイラスまで足を運んできたのが一回目の会合だった。つい最近、今日も合わせてたった2回会っただけで旧知の仲なんて称されるのはおかしなもので、自分が対象となっているわけだが流石に俺でもそう思わざるを得ない。

 しかし、俺はたった2回どころかそれ以上にこの2人と会って会話をした記憶があるんだ。あの日『ノヴァ』が襲来してくる前に、シュトルムから2人を紹介された記憶が。今みたいに馬鹿をやって、シュトルムみたいに変わった王族がいるんだなって分かって……2人の国に遊びに行ってたりしてたっけな。でもやっぱりそこでも馬鹿をやって、ひたすらに楽しい気持ちになれてた。


 具体的に俺達がどれくらいの仲を深めたのかは分からない。でも、俺の心に残ったこの暖かさは、ハイリとリーシャとの確かな絆を主張しているかのようにしか思えない。

 リーシャに面倒くさいと思ってしまうこの気持ちも、心底嫌に思っているわけではない。ただ、ちょっとだけ腹が立つなぁくらいのもので怒りが湧き立つことはないし、本音を言わせてもらえば今の状態は居心地が良いし俺達ならではの関係に思える。


 気がつけばいつの間にか俺は2人を呼び捨てにして呼んでいるくらいなのだ。2人にお世話になったという気持ちは真実なはず……だから、俺がそう思うなら俺は自分が感じた記憶と心を信じてみようと思う。ジークの時もそうだったし、現にジークを信じて後悔なんてものはないのだから。同じ類のものに決まっている。


 自分自身が感じていた想いの記憶に嘘はないだろう。未来の悲劇の一部は回避することができたので嘘をつかれたとも言えなくもないが、心は嘘をつかないしつけない。




 リーシャとハイリは……俺の守りたい人達なんだ。




 旧知の仲という発言で内心深く考え込んでしまった俺は、無意識に目を閉じて下を向いていたようだ。

 ――そんな俺に、いつもの声が聞こえてくる。


「ふぇ~ん、ご主人助けてぇ~!」

「あ、いたいた」

「相変わらず騒がしい奴だな、チビ子の主なだけある」

「ナナ! それに皆……も……」

「(ニッコリ)」


 一際目立つ救援を求める声はナナだった。セシルさんにジークも一緒にいるようで、ポポとヒナギさんを除くメンバーがこの場に集まり、少しずつ人混みを掻き分けて俺達へと近づいてきていた。ジークは何故かナナの両足を指でつまんで生け捕りにして逆さにしており、ナナは逆さまになったまま俺へと声を掛けたらしい。

 何故ナナがそんな状態にされているのか気にはなるが、新しくて古くもある仲間であるリーシャ達に加え、今の俺の仲間達もここに集まったことで俺の気持ちは何か満たされた思いだった。

 今この瞬間、この面子が集まってこの時間が存在したこと……それに感動できる自分がいたのだ。打ち震えていると言ってもいいかもしれない。


「あ、アンリ……」

「なぁに? ツカサ(・・・)


 ……でもその震えが恐怖によるものじゃなかったらもっといいんですけどねー。感動的な場面かもしれないのに、今は雰囲気ブレイカーの化身がいらっしゃる。

 俺はニッコリと笑って近づいてくるアンリさんが非情に怖くて仕方がなかった。言わずもがな先程のやり取りが原因であるのは間違いない。

 あららぁ? 全然怒りが収まってないじゃないですかやだなー。俺は天地がひっくり返るくらいに反省したのにそれでもまだ駄目なの? 激おこなの? ……お、お手柔らかにお願いします。


 俺が皆へ声を掛けようとして少し戸惑ったのはこれが原因である。

 くだらないことを考えていなければこの引き攣った笑みすらできなかっただろう。俺は身を捩られる思いで、手を少し上げて挨拶をするしか出来なかった。


 会話なんて俺から投げかけるのは到底無理。だがそこに、空気の読めるシュトルムによる手助けが入ったことで、俺はこの機を逃すまいとすぐに対応を試みる。


「そうだ、お前らいつの間に名前呼びになったんだ?」

「え? あ~、さっきちょっと色々あってな……そん時からだぞ?」


 いいぞシュトルム、よくやった! 効果はまずまずといったところ……掴みはオッケーだ。


 興味深い、そう言いたげにシュトルムが痩せこけた顔に手をやる姿を見ながら、俺の内心ではファンファーレと紙吹雪が舞う。

 アンリさんは今俺にお怒りであるが、こういう時に怒られている側から相手に会話を持ち出すのは非常に難しく気まずいものなのだ。少しでも相手の癇に障る発言をしてしまえば、普段気にならないこともたちまち怒りへのエネルギーに変換されてしまって手が付けられなくなってしまう。そのため、こういうのは出だしの決まり具合が後に尋常ではないくらいに響いてしまうのだ。

 その点、今シュトルムが持ち出した話題はアンリさんの機嫌がよくなりそう度が非常に高い、グッジョブと褒めたたえてあげたいくらいの判断なのである。


 シュトルム様、先程のワタクシめの非礼をどうかお許しやがってください。

 ……あ、今気づいたけどシュトルム君クローディア様にこってり絞られてるみたいだね。クローディア様の肌は超ツヤツヤ、対するシュトルムは頬がゲッソリしてしまったように見えるし。

 後で活力剤的なやつを進呈して差し上げましょうかね? もしくは栄養ドリンクでもいいけど。


「ほぉ……遂に一歩前進か」

「は、はい……」


 シュトルムの感心したような反応に、アンリさんも俺の望み通り少しだけ柔和な笑みを浮かべ始めた。額にあった見えない怒りマークは消え去り、名前呼びが周囲に知られた事実に恥ずかしさを覚えたようだった。


 ふふん、案外ちょろそうか? 運が俺に味方してきたようだぜ。


「え、なになに? この娘がこの前言ってたツー君の彼女さん? キャー可愛い~!」

「あ、えっと……わわっ!?」

「この前はいなかったよね? 初めまして、ワタシはリオールの女王をやってるリーシャって言いま~す! 彼女さんお名前は? は?」

「あ、アンリ・ハーベンス、って言います……は、初めまして、リーシャ様」

「ツー君の彼女さんなんでしょ~? だったらそんな堅苦しくしなくていいのに~」

「そ、そういうわけには!?」


 リーシャが獲物を見つけた時のような顔になったかと思えば、即座にアンリさんに襲来した。

 ぐいぐいと迫るリーシャに気圧されながら、アンリさんは必死に対応していく。必死の理由が新たな王族を前にしたからなのかは、もうこちらは察しがつかない状態だ。両手を取られ、リーシャと真正面からたどたどしく会話をしている。


 そっか、アンリさんは俺がリーシャと初めて会った時、鍛錬中でいなかったんだった。だから挨拶を済ませてないんだよな……。


「リーシャ、アンリが戸惑ってる」


 セシルさんがアンリさんを助けようと介入し、リーシャの興奮を一旦落ち着かせようと試みる。

 しかし――。


「セシリィ、ワタシのことはリーシャン……でしょ?」


 リーシャは頬をぷくっと膨らませると、ジト目をセシルさんに向けたのだった。


「……リーシャン。これでいい?」

「うん!」


 唸りたくなるところを堪えたようにセシルさんは言われた通りリーシャをそう呼ぶと、満足した笑みでリーシャは頷く。俺は内心で頑張れとセシルさんを応援したい気持ちだったが、俺自身もツー君などと呼ばれているために人のことは言えない。


 あ、ちなみにリーシャンって言い方はセシルさんがリーシャに付けた呼び名だそうだ。あの日リオールに救援に向かったのがセシルさんだったこともあり、リーシャはセシルさんをいたく気に入っているのである。


 これはよく分からないのだが、お近づきの印に何か愛称で呼んでと要求されたことで、セシルさんはリーシャにそう渋々付けたとかなんとか……。リーシャ様、リーシャさん、リーシャン、概ねそんなとこだろう。

 まぁ、そういう経緯だということは記憶している。セシルさんも案外満更でもなさそうだし、いいんじゃないかね?


「う~ん……へぇ~……」

「……?」


 セシルさんに興味が移ったかと思ったのも束の間、またリーシャがアンリさんへと興味を戻し、突然アンリさんの周囲を回り始めた。その瞳はジーッとアンリさんの身体をくまなく観察しており、まるで変質者が被害者を舐めまわすように見つめているもののようだった。


「これは……ふむふむ…………あは♪」


 その間、独り言をブツブツと口走っては独りでに頷き、感嘆し、悩むを繰り返したリーシャであったが、それが終わったのか……リーシャは最後とびっきりの笑顔で目をキラキラさせて笑い、言うのだった。


「なるほど、これはヤバい! アンリちゃんすっごく可愛いなぁもう! ツー君、ちょっとアンリちゃん借りてもいい?」

「へっ!?」


 どうやらリーシャはアンリさんも大層気に入ったらしい。今の観察は見定めのようなものだったようだ。リーシャの右手がアンリさんの腰をしっかりホールドし、身動きを取れなく拘束した。

 突然のことにアンリさんは対応が間に合わず、リーシャの身体に引き寄せられて何事かと目だけでそれを訴えかけているが、本人は気づいていない。愛でるものを見つけたように、嬉しそうな顔でアンリさんとの距離を詰めるだけだった。


 なんでしょうね? 彼女さんが構われているというのに、女性相手だと全くと言っていいくらいになんとも思わないや。やっぱりさっきの俺の嫉妬心は男にのみ向けられていたということですかねぇ? ヒナギさん限定ってわけじゃないし。


 まぁしかし、これはまさか……ビッグチャンス到来ってやつか? 激運じゃないですかぁ。


 この時、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。我が身に迫る脅威を退けると同時に、我が身に巣食っている邪悪なる願いを叶える方法が。




 てなわけで……は~い、オーダー入りま~す。

 2人共……死ぬが良い☆


『宴』は後2話くらいかな? って感じです。

期末試験が終了したんで、また更新頻度がいつも通りになります。

次回更新は水曜です。

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