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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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249話 『宴』:セシル①

 ◆◆◆




 アンリさんの苛めに耐えきったところで、さぁ次のお仲間の所へ行きましょうか。

 現在苛めを受け終えた後ではあるが、アンリさんが未だプンスカピーと少々お怒りになってしまわれているようなので単独行動中であります。


 ただ――。


『アタシだけなのはズルいですし、ヒナギさんとも一緒にいてあげてください』


 そう気遣われたというのもある。

 俺に対して遠慮はしないとは言っていたが、だからと言って手段を選ばない遠慮の無さを見せるというわけではないのだ。ヒナギさんと対等の関係、フェアであることをアンリさんは望んでいる

 本来であればこの気遣いは存在しないわけで、俺達の関係がややこしいことが原因となっているため、一番の原因である俺はこのアンリさんの気遣いを重く受け止める必要があるだろう。

 2人には、できるだけ不満が残らない形で甲斐性を見せなければならない。




 でもまぁ、なら苛めも気遣って無しに……或いは優しくしてくれと思ったのは、まぁ無粋ってもんですがね。有り難く謙虚にご厚意に甘えることにします。

 苛めの内容は何だったのかについては……まぁ秘密ってことで。取り合えずアンリさんはドSだったってのは間違いないです。




 しかも――。


『でも、あとでまた迎えにきてくださいね。じゃないとまた怒っちゃいますから』


 少しだけ俺が暗い顔をしたのを感じ取ったのか、舌をチロっと出しながら、嬉しそうにそう投げかけてくれたのだ。


 なぁ、この娘をどう思う? 私は凄く、可愛いと思います。

 だからこそ甲斐甲斐しく接したいし、触れ合いたいと思える。こんな娘が好いてくれたことは幸せ以外のなにものでもない。怒らすと怖いけど……。




 そのやり取りを思い出しながら、今こっそりと行動している。




 さ~て、ヒナギさんはどこじゃろな? 我が愛しのお嬢様でありお姉様は何処にいらっしゃるというのだね?


 辺りをキョロキョロとしながら、俺は何か手掛かりとなるようなものがないか探ってみる。

 しかし、人の影はそこまで多くはなく、綺麗な装飾が施される街並みが展開されているだけだ。『宴』の中心でもないのだから仕方のないことであるが……。

 ……とは言っても、まだ行動を始めてからそう間もないし、気楽に動ける身ではないことも承知している。

 言うまでもないが、今現在私は指名手配中の身である。俗世の方々へと姿を惜しげもなく晒してしまえば、瞬く間に包囲されることは間違いない。


 所謂スターみたいなものです、多分。

 だからそう、これはスニーキングミッションなのである。目標はヒナギさんとの合流。現在はその目標のために、情報収集という小目標を達成するために動いていることになる。


 本部、これより行動を開始します。定時連絡がなかった場合私は死んだものと思ってください。


 ……取りあえず、そんな設定で行きましょうか。何事も設定作りは肝心だよね、モチベーション上がるし。

 いきなり『宴』の中心に出向くのは自殺に等しいから、まずは周辺から確認していきましょー、いやぁ気分が乗ってきて参りました。行くぜわっほい!




 俺はテケテケと適当に任務を開始する。




 ◆◆◆




 ピ……ピ……目標達成率……40%――。


「コラ、喧嘩は駄目……ちゃんと話し合いで解決」


 任務遂行中に予想外の事態に遭遇することは珍しくない。ヒナギさんよりも先に、天使の翼を隠すこともなく広げたセシルさんと俺は遭遇した。


 ……とは言っても、今『シャドウダイブ』で影に入りこんでるからこっちは気付かれてないんだけどね。ちょっと離れたところから確認できている。

 いやぁ、魔法があるとリアルでゲームみたいなことができるから楽しいッスねぇ……。


「お姉ちゃんこっち~」

「違うよこっちだよ~」

「ハイハイ、順番にね」


 両手を2人の女の子に引っ張られ、あっちこっちへと振り回されそうな所をセシルさんは苦笑いで困ったように耐えている。その傍らには今さっき注意を呼び掛けた男の子2人組がやや険しい雰囲気で睨み合っているようで、何やら子供達に囲まれているという状況らしい。

 これまでにあまり見たことはなかったが、あっちへこっちへと子供の相手をしてあげているセシルさんは非常に珍しいと言える。


 ただ、何やら喧嘩を始めてしまったので嗜めていらっしゃるご様子だ。困ってはいるが放置しない辺り面倒見の良さが伺えそうである。

 もしかしたら子ども好きなのかもしれない……なんだ、やればできるやん。グランドルでそういったことを全て俺に押し付けていたのが嘘のようだ。




 ……まぁそれはおいといて。

 でも『コラ』の言い方に全然迫力がないからちょっと効果は薄そう……? いや、むしろそっちの方が相手を刺激しないし、子ども相手には有効なのかもしれない。無意識にそれをやってのけるとは流石です。

 和みの微笑みはまさしく天使みたいですな……いや、本当に天使なんですけども。


 セシルさんは翼を露出させてるからなのか、いつも深々と被っている頭部を隠す程のローブも同時に下ろされており、長い金髪がサラサラと腰辺りまで伸びては揺れ動く。そよ風の優しい力にさえ抗えず、だが決して乱れることなく櫛で梳かした状態へとすぐ戻る髪の毛は、生まれながらにして授かった女性としての最上の賜りものと見受けられる。

 これが俗に言う美少女というやつなのだと、俺は思う。


 見た目だけでさえ今までにあまり見ることのない姿なだけに、セシルさんへの印象はこれまでと随分と違う。酷い言い方になるが、内気で陰気に見えなくもない今までの恰好から、快活に溢れる陽気な人物へと変貌したと言っても過言ではないのではないだろうか? 所謂イメチェン的な。




 そんな美少女を見つけてしまったのだ、俺がこれからやることなんてのは決まっている。しかもセシルさんは大切な仲間であり、俺が冒険者になってから初めて声を掛けてきてくれた……ある意味で恩人。俺へと初めて話し掛けてくれた時の恩は今でも忘れていないし、あれが俺が他者へと大きく関わりを持とうとするきっかけとなったのは間違いないのだから。


 ですから当然――見なかったことにして立ち去らせて頂きます。

 俺は今スニーキングミッション中なのだ。メインイベントでもないサブイベントはちょっと今スルーさせていただきまs――。


「あ、ツカサなんでそんなとこにいるの……? でも丁度いいや。ねぇ、助けて?」


 できませんでしたぁー……。サブイベントじゃなくて強制イベントなんですね……というか何故見つかったし。


 切羽詰まってるわけでもない、淡々とした助けを求める声が俺の元へとハッキリ届く。

 影の中に溶け込んで姿の見えないはずの俺に向かって、セシルさんは曇りなき眼で俺のいる場所を見下ろすように見つめてきている。これはもう逃れようがないくらいに俺の存在を知られているも同然だ。対して子供たちは俺の姿どころか人の気もない場所を不思議そうに見ており、状況をよく吞み込めていない様子だ。……うん、それが正しい。


 でもセシルさんや、アンリさん同様に何者ですか貴女様まで……。「天使様ですが何か?」と言われたら「あ、ハイ……」としか俺は言えないわけなのですが、その辺のご説明して欲しいってもんです。天使の力ってやつが謎すぎて俺はここ最近ビックリして文句も言えないくらいにぐっすり眠れる状況なんですけど……一体どうしてくれんですかい? 


「そこにいるの分かってるよー。それと意味わかんないし別にどうもしないよ……今何考えてるか丸わかりなんだけど?」

「……あい」


 セシルさんは心が見えちゃうので俺が何を考えてらっしゃるのかも見抜いちゃうのでした……がっくし。


 心を読んでの返答までされて見つかってしまったのでは仕方がない。俺は影から滲み出すようにして這い出て姿を晒し、セシルさんの元へ渋々向かうのだった。


 その姿に子供たちが超ビックリしてたのは……正常な反応です。俺は9割方不審者じゃないし平気だけど、こういう不審者を見たら逃げるようにしてくだちゃい。影の中から人が現れるとか一体どんなホラーだよって話ですからね。




「ゴメン、ちょっとお姉ちゃんこの人とお話あるから少し待っててくれる?」


 セシルさんは俺が現れたのを好機と見たのだろう。少し休憩をくれと言わんばかりに引っ付いている子供達へとそう伝える。


「えー……」

「お願い」


 ただ、子供たちはセシルさんの心情をまだ汲み取るに至ってはいないらしい。幼気な年頃ならば無理もない。離れることへの拒絶反応として、セシルさんを掴む手の力を強めるのだった。


 そして――。


「……うん、分かった。そっちの人ってあれでしょ、神鳥様達のご主人サマだよね?」

「うん、そうだよ?」


 俺へと話す標的を変え、急に大人びた顔つきで、まるで悟ったようにセシルさんから手を離す女の子。


 おぉ、聞きわけの良いいい子だねぇ。


「そっか……逢引きなら仕方ないもんね」


 カチン。


 たった一言で俺のほっこりした空気は一変させられる。


 いい加減にしてくれやガキンチョ共、何だ? 不埒な言語が標準装備で義務教育に含まれてんのかオイ。君達を合い挽きにしてやろうか? 俺一応化物って言われたことあるから多分食おうと思えば食えますよ? 

 誰一人として純粋な子どもがいないんかい……。

 ……あ、1人だけいるか。あのアンリさんと一緒にお話しした女の子。あの子はすっごいまともな子どもだったなぁ……まともな子どもなんて言い方したの初めてですわ。


「それじゃごゆっくり~!」

「……」


 どうやら逢引きということで子供たちは勝手に自己解釈し、そしてそれを変に思うでもなく当たり前のことの様に捉えて俺達から離れていく。

 それで俺も悟った。この子供たちの将来は決まったなと。


 もう……これからは白い目で成長を見守ることに致します。君たちの将来が少しでも明るく淫らにならぬよう、俺は祈るだけです。


次回更新は土曜です。

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