23話 ポポとナナの本心
「この素材ならこの問題は解決するな。ちょいと時間がかかりそうだが…って、ツカサ? どうかしたのか?」
俺が(´・ω・`)な顔をしている最中にベルクさんが話しかけてくる。
「…イエ、ナンデモナイデスヨ?」
ロボットみたいな喋り方で返すので精一杯でした。
「なんだその喋り方…、変な奴だな」
「…お気になさらずに。それで…大丈夫そうですかね?」
「あん? ああ、そのことなんだがよ…」
「? どうしました?」
ベルクさんは困惑したような顔をしている。
どうしたんだ?
「今更なんだが、さっきは武器を作るとか言ったんだがよ、本当に俺でいいのかと思ってな…」
「え? いきなりどうしたんですか?」
「俺はさ、知識としてはドラゴンの素材を扱う方法は知ってるが、こんな風に素材になる前のドラゴンを実際に見たのは今回が初めてだし、もちろん素材を扱ったこともねぇんだ。そんな俺がこんな貴重なドラゴンの素材を使うって言うのはな…。俺よりも優れた職人ならもっといるし、師匠を紹介したいくらいなんだよ」
まぁ、扱ったことがないとは思ってましたよ。
反応を見ればそれくらいは予想できる。しかも貴重らしいし。
でもそれでも構わないけどな。
「ベルクさんの師匠さんに頼むのもいいかもしれません…。ですが俺はベルクさんに作っていただきたいと思っています」
うん、これは本当。
「この1ヶ月でベルクさんには本当にお世話になりましたよ。まぁ悪い意味でかもしれませんが…。だからそのお詫びも兼ねてのお願いなんです。ドラゴンの素材なんて扱う機会はほとんどないでしょう? ぜひ使ってくださいよ。それに俺はベルクさんの腕は信用していますから…」
「ツカサ…。そうか……なら、ぜひやらせてくれ。ここまで言われて断ったら師匠に殺されるしな。あと…金はいらねぇ。俺の全身全霊をもって今できる最高の武器を作ってやるぜ!」
「ええ! お願いしますよ!」
俺とベルクさんは握手を交わす。
金は出そうと思ってたんだが、まぁお言葉に甘えておこう。
なんか展開が早い気がするが悪くはない。
それにこんなやり取りは始めてだが、なんというか信頼が深まった気がしないでもないし。
「どれくらい使います? なんなら3匹とも使ってもらってもいいですよ?」
「いや、流石にそれは多すぎだろ…。ドラゴン3匹を一度に使う職人なんて聞いたことねぇよ。さっきの奴で十分足りるぜ」
「そうですか…。じゃあ素材になる部分だけ置いていきますね。このまま放置してもでかすぎて邪魔になるでしょうし…」
部屋の半分くらいのスペースが埋まってるしな。
「ああ、そうしてくれると助かる。だがこれだけデカいと解体すんのは大変じゃねぇか? 今からやるとなると早くても1日以上はかかるぞ? それも多人数でだ…」
「あ、普通はそんなに掛かるんですね」
普通の解体はあんまりしたことないからよく分からん。
「知らなかったのかよ…。まぁドラゴンの素材は強力だが繊細でもあるっていうこともあるんだがな…」
「へぇ~」
「でもお前のことだ。普通はとか言ってるあたり何か方法でもあるんだろ? もう驚きゃしねぇよ」
「ありゃ、分かってましたか。じゃあちゃちゃっと解体しちゃいますね」
俺は解体する手間が掛からないある魔法を習得している。
だから解体や剥ぎ取りは最初の時くらいしかやったことがない。
その魔法を覚えてからはずっと使ってるしな。マジ便利。
ふふふ、無駄にスキルレベルを上げておいてよかったぜ!
見よ!
「無属性魔法『分解』」
俺は魔法を発動する。
ちょいとカッコつけるために魔法名ををわざわざ声に出してみたが、やっぱり少し恥ずかしいわ。後悔。
魔法が発動したことにより、目の前にあったドラゴン(小)は鱗・尻尾・頭・角・爪・肉などに分けられていく。
数秒で、目の前にはドラゴンの素材の山が出来上がった。
素材の価値が高いし、これはある意味金山みたいに見えなくもない。
「はいベルクさん。使えそうなやつ選んでください。残りは『アイテムボックス』に戻しますんで」
「…おう。それにしても…はぁ。お前には常識が効かないみたいだな…」
ベルクさんがため息を吐いている。
無属性魔法『分解』はその名の通り対象のものを分解するというものである。
これが使えるようになったときは、「うお! 強そう!!」とか思ったのだが、実際はそんなことはなかった。
分解というくらいだから分子や原子レベルとかに干渉が可能かと思ったのだが、そこまでのことはできず、例えるなら自動車を部品の状態に戻すくらいの効力しか発揮しなかったからだ。
だから、どっちかって言うと『分解』じゃなくて『解体』の方がしっくりくるんだけどな~。
しかもこの魔法、生きている状態のものには作用しない。なので戦闘ではほぼ使えない魔法といっていいだろう。
使えるとしたら対人戦で、相手の武器を戦闘中に分解するくらいか…? まぁ使える場面は限られる。
今回みたいなときは重宝するが…。
「まぁいい。じゃあ…」
そしてベルクさんは使えそうな素材を選んでいく。
少し時間がかかりそうだったので、俺は部屋の作業道具や設備を見たりしていた。
ほえ~、部屋の設備はこうなってるんですねぇ~。
この武器…中々いいセンスしてますね~。
お、この小道具、反り具合がナイスですね~。
…。
10分くらいの間吟味してようやく選び終わったのか、ベルクさんが俺に声をかけてくる。
「すまねぇ、待たせたな。初めてみるもんだから時間食っちまった。もう戻しても大丈夫だぜ」
「はいはい、了解です」
そして俺は『アイテムボックス』を発動して素材の山を収納する。
本当に便利だなコレ。
「それにしてもスゲェ魔法だな。『分解』なんて見たことも聞いたこともねぇぞ? お前ステータスどうなってんだ?」
「えっと…」
ベルクさんが俺のステータスを気になったのか聞いてくる。
う~む、どうしよう。教えるべきだろうか? ベルクさんにはどうせ勘付かれてはいるんだよな~。
大体こんな非常識なことばかりしてるし、もう怖がられたりはしないかな?
ベルクさんは絶対に喋らないって言ってくれたし、この人には全てを話してもいいかもしれない。
ポポとナナがいるとはいえ、俺の非常識なステータスを隠すのは精神的に非常に疲れる。
こちらの世界でも1人くらい理解者がいてもいいかもしれないし。
うん、全部教えるか。
異世界人であることは流石に伏せるが。
「…ベルクさんが誰にも話さないと言った言葉を信じます。…これが、俺のステータスです」
そして俺は、ステータスをベルクさんに見せた。
「ああ、言わねえよ。えっとどれどれ……!?!?」
ああ、やっぱ驚いてる。
いや、恐れてるのか? どっちにしても見せない方がよかったっぽい?
ベルクさんは真剣な顔でステータスと俺を交互に見ている。
チラ見するとか…なんか初恋の人が気になっている人みたいですよ、ベルクさんや。
「お前…何者だ? こんなレベル見たことねぇぞ。しかも【神の加護】って一体…」
何者と言われても人間なんですけどね。ステータスでは否定されかかってますけど。
とりあえず事実を淡々と述べてみようか。
「人間ですよ。少なくとも俺はそう思っています。レベルについては【成長速度 20倍】のおかげです。1カ月前初めてベルクさんに会ったときは、俺のレベルは1でした」
聞く側からしたらなんとも嘘くさい内容だ。…事実だが。
「………ハハハ、夢でも見てるみてぇだな……」
「やっぱり怖いですよn「お前は本当に面白れぇな!」……はい?」
俺の言葉を遮ってベルクさんが突然大声そう言い、笑い出した。
…どうしよう、ベルクさん狂ったかも。
「あの~、大丈夫ですかベルクさん? えっと、怖くないんですか? こんな化け物みたいなステータスなのに…」
「ハハ、ハ、…はぁ? 確かにステータスだけを見れば怖いが、お前だろ? なら怖くねぇさ」
「!!」
俺は目を丸くする。
ベルクさんはどうやら狂っていたわけではないようだ。
笑いを止めて返答を返してくる。
怖くねぇ。
その言葉だけで十分だった。
安堵が俺の体を包む。
そういえば、セシルさんの時もこんな気持ちになったっけ?
嬉しいな…。
俺がジ~ンと感動していると。
「人を見る目くらいは職人だしあるつもりだ。お前、何か良からぬこととか考えたりするやつじゃないだろう? まだ会ってから1ヶ月くらいだがよ、あんまり見くびんなよ?」
「ベルクさん…」
マジでいい人だこの人。もう涙腺崩壊ものである。
…いや、泣かないけど。
まぁ欲を言えばこれでベルクさんがもし女性なら、恋愛に発展するというテンプレ的展開も夢見たかもしれないが…。生憎とこの人は男だ、その可能性は万が一にもない。
あるとすれば、パラレルワールド的な世界に、ホモの俺が存在すればそれもあり得るかな。
…想像したくないが。
まぁなんにせよ、女性でないのが残念である。
仮にそうだったとしても、俺はヘタレだから成就する可能性はないだろうけどね。
…なんか言ってて悲しい。
既に良からぬことを考えていた気がしなくもないけど、そんな俺のことは知らずにベルクさんは言葉を続ける。
「だからお前は化け物じゃねぇよ、俺にとってはお客様だ。…常連のな」
「…すいません。ありがとうございます」
常連と思われていたようだ。
厄介なやつと思われていなくてよかった。
「なんか柄にもねぇことを言っちまったな。まぁ誰にも言わねぇから安心しろ。追求もしねぇから言いたくないことは言わなくていい…。んで、話を戻すが武器をこれから作るわけなんだがよ、ドラゴンの素材なんて使ったこともねぇから色々と研究が必要かもしれねぇ。だから1週間ぐらいは時間が欲しいな」
「良いものができるのであればどれだけ時間がかかっても大丈夫ですよ、急いでいるわけではありませんし」
てか1週間でできるものなのか?
もっと、1ヶ月とか掛かるものかと思っていたんだけどな…。
ベルクさん仕事早いんだ~。
「いやいや、それじゃあ職人としての俺のプライドが許さねぇ。1週間でなんとかキッチリ作ってやるよ。他の仕事は今入ってないしタイミングいいからな」
かっくいいいいいいっ!! THE 職人 って感じですな~。
じゃあお願いします。
「作った後微調整やらあるだろうから、その時は遠慮なく言ってくれ」
「分かりました。ならお願いします。素材は足りなくなったら言ってください。ギルドにでも連絡すればすぐに連絡着くと思うので。じゃあ1週間後にまた来ますね」
「おう! 楽しみに待ってな」
「期待してます」
じゃあ帰るか。
踵を返し歩こうとした俺だが…
ドクン…!
「っ!?」
まただ。
俺は足を止める。
また…変な感じがする。口ではなんとも形容しがたいような感覚…。これは勘違いや気のせいなんかじゃない。
何なんだ一体?
「どうした?」
「ご主人?」
「どしたの~?」
突然足を止めた俺に皆が声を掛ける。俺意外には分からないのかキョトンとしている。
咄嗟にそれを理解した俺は表情には出さず平静を装う。
「いや、ちょっと名案が思い付いてな」
咄嗟に嘘をつく。
「またですか…。まぁ後で聞かせてくださいね」
大丈夫、バレてはいなさそうだ。
そして俺は部屋から出て行こうとしたのだが、ポポとナナが俺の肩から降り、声を掛ける。
「ご主人、ちょっと先に宿に帰っていてくれませんか? すぐに追いかけますので」
「お願い~」
どうしたのだろうか? コイツらがこんなことを言うのも珍しい。
ベルクさんと何か話すことでもあるのかな?
まぁ構わんが…むしろ自由に行動してもらっても構わないしな。
それに今は好都合だ。
「別にいいけどどうしたんだ一体? 珍しいな、そんなことを言うなんて」
「少々ベルクさんと個人的に話すことがありましてね…。すみません」
「そうか。まぁ別にいいぞ? ゆっくりしていきなよ。俺は先に宿に帰ってるから」
「はい」
「行ってら~」
とりあえず先に出るか。プライベートな時間くらいあるのが普通だろう。それは鳥も同じはずだ。
にしても…最近ナナの喋り方が女の子らしくない気がする…。
一応親? としてなんとかできないもんかね。
と、今はそれどころじゃない。この感覚が何なのか確かめないと…。
さっきギルドを出る時のとは違って、ずっと変な感覚が俺を襲っている。
すごく気持ち悪い。
俺は武器屋を出て宿屋へと向かったのだった。
◇◇◇
「ご主人? ……気のせいかな」
ナナが司の違和感に気付いたようだが、気のせいだと判断し思考を止める。
ポポとベルクは、気づいていないようだった。
「どうやら行ったみたいですね」
司が出ていった後、ポポが呟く。
「どうしたんだお前ら。俺に何か用なのか?」
ベルクは二匹に尋ねている。
なぜ残ったのか理由が分からないという顔をしている。
「ええ、まあそうですね。お礼を言いたくて」
「うん? 何かお礼を言われるようなことしたか俺?」
ベルクは首を傾げて心当たりを探っているようだが、見当たらないのか首を傾げ続ける。
「ご主人を怖がらないでいてくれたことに、だよ~」
「ええ、そうです。ありがとうございました」
「なんだ、そんなことだったのかよ」
ナナがそう告げる。
ベルクは目を丸くして驚いているようだ。意外な返答だったらしい。
「皆が皆、貴方みたいに怖がらないでいるわけではありませんからね。大半の人は怖がって近寄ってきませんし…」
「ご主人は普段平気なフリをしてるけど、実際は結構精神的にやられてたからね~。ベルクさんみたいな人がいてすごい助かるんだよ~」
ポポとナナは司が内心辛そうにしているのをしっかりわかっていたようだ。
本人はというと隠し通せていると思っているが、そんなことはなかったらしい。
「そうなのか? そうは見えなかったがなぁ。まぁガキにしては随分落ち着いているやつだとは思ったが…」
「一応ご主人は20歳ですから、ガキではないと思いますよ。ベルクさんから見たらガキみたいなものかもしれませんが…」
「あいつ20なのか!? 小さいから全然分からなかったぜ。15くらいかと思ってた」
「よく言われてますね。まぁ今度お酒でも一緒に飲んであげてくださいよ。結構飲める口なんで」
「ほぉ~。時間が空いたらいいかもしれねぇな」
本人がいないところで司のトークが繰り広げられる。
内容はどんどんエスカレートしていき、あまりよろしくない内容もチラホラと出た。
…内容は想像にお任せする。
◆◆◆
しばらくの間雑談みたいに会話をした後…
「とまぁ、そういうわけで感謝しているわけです。重ね重ねありがとうございました」
「ありがとね~」
「いや、大したことしてねぇが、まぁ素直に受け取っておくぜ」
会話を始めてから既に1時間ほどが経過している。
随分と話し込んだようだ。
「それじゃあそろそろ失礼しますね」
「さいなら~」
「おう、またこいよ」
二匹は武器屋から出て行く。
司は知らない。司が2匹を気にかけているように、2匹も司を気に掛けているということに。
司の場合は二匹の飼い主+鳥さんLoveということも関係しているのだろうが、元々地球でも面倒見がいいことで不幸を被ったり、苦労をしていたようなお人よしである。
それを二匹は不憫に思っており、だからこそ異世界での慣れない生活や強大な力への葛藤を抱え悩んでいる司が、人々から恐れられ、人間関係で苦労しているのは見るに耐えられなかった。
知能を授かっただけあり、その考えや感性は人間のものと比べても遜色はない。まるで人間そのものである。
司は知能は授かっただけで考えや感性などは鳥とはあまり変わらないと認識しているみたいだが、それは間違いだ。
確かに二匹は鳥の本能も持っているが、神から授かった知能でそれを制御している。いわば人間と鳥の融合のようなものだ。人間として接しても何ら問題はない。
司が気づくのはいつになるかはわからないが、早く気づいていればこんな心配もいらなかったのかもしれない。
2匹は…司にもっと頼って欲しいと思っているのだ。
「少し長居をしすぎたみたいですから、早く帰りますよ、ナナ」
「りょーかい」
外に出た2匹は空へと飛び立つ。
大切な主の元へと…。




