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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
248/531

246話 『宴』:ジーク①

今回は多分3話構成の話になります。

来年持ち越し確定です。

 ◆◆◆




「つ、疲れた……」

「ゆっくりできない……」


 膝に手をつき、後ろを振り返ってもう安全域まで離脱したことを悟る。


 シュトルム達の元を離れてからまだそう間もない俺とアンリさんであったが、その身体に覚える疲労は中々のものだ。額から落ちる汗を拭っても次の汗がすぐさま滲んでくることから、割と本気でそう思う。


 あの後、純粋に『宴』を楽しもうと出店や屋台巡りでもしようかと思ったのだが、何故かまだゾロゾロと付いてくる子供達によって逆に目立つ形と俺達はなってしまった。後をついてくる様がなんとも小鴨みたいであり、右に行けば一緒に右へ、その場に止まれば一緒に止まるというシンクロした動きを見せる始末である。

 目立つのは立場的に仕方がないとはいえ、まるで自ら目立とうとしてると思われそうなことはNGであり望んでいない。何故俺達についてくるのか? その理由をキャッキャッとついてくる非常に可愛いらしいガキンチョ達に尋ねたところ――。


『ねーねーカップルなの? うわぁやらしぃー』

『ヒナギ様はどうしたのー? ふりん?』

『まだ他にいるのー?』


 って言われました、ニヤニヤした顔で。どういう見方してんねん。


 このマセガキ共め。親の教育はどうなってるというのだ……いや、国の教育か。

 いやさ、純粋に今回の功労者である俺と遊びたいのかなぁとかそんな風に思ってたのは事実だよ? しかも俺って異世界人だし、興味津々な子どものことを考えるとそれが妥当なのかなと思ってたんだ。


 それがこれだよ。ぶっちゃけこの場で一番純粋な考えしてたのって俺だったみたいですわ。


 この国の将来に不安が募って頭が痛くなる思いだったが、返答は反応が後々面倒になりそうだったので取りあえずしないことにし、とっちめてやりたい気持ちを抑えて俺とアンリさんは子供達を振り切ろうと人混みを掻き分けて逃げだしたのだった。


 だけど子供って怖いね、体力底無しなんですもん。どこまでもついてくる姿勢は嫌いじゃないけど流石にしつこいわ。

 しかも『逃がすなー、追えー!』とか、『性犯罪者逃走中~!』などと叫ばれてしまって尚お仕置きをしなかった俺はよく堪えたと思ってます。しかもそれを見るこの国の大人達は既に俺がアンリさんとヒナギさんと付き合っていることを知っている上で微笑ましくそれをみてやがるのだから異常な事この上ない。注意しろや。

 逆に俺達の思考がおかしいのかと疑ってしまう程である。


 なので後でこの国の最高責任者に異議申し立てと名誉棄損で訴えましょうかね……賠償は勿論物理で。それ以外は認めん。




 まぁそれはともかくとして。

 そのため、街外れで比較的静かと呼べる場所まで全力で退避してきたのだ。あのまま子供達に取り囲まれていたら誤解を招く事態に発展し兼ねないのでこれは英断である。


「普通に楽しみたかったんだけどなぁ……難しそうか」

「先生は英雄扱いだから仕方ないですよ。多分無理じゃないかな……アハハ……」


 俺の望む展開は無理そうだと悟ると、アンリさんが苦笑しながら俺に言ってくる。

 その顔はどこかこれを分かってたと言っているようであり、現状には理解を示してくれているらしかった。


 ハァ……ぶっちゃけ俺ってこういう祭りごとを体験したこと自体が少ないから楽しみだったんだけどなぁ。でも俺が想像するような普通の楽しみ方はできそうもないや。残念……。

 なんだろう……主役なのに脇役に徹さなければならないっていうこの矛盾。脇役は個人的に大歓迎なのだけど、せっかく主役の覚悟したというのに……俺の苦労を返せ。




「あ、先生? あそこ……」


 そこで、アンリさんが俺の肩を叩いてある方向を指さした。息を整えながらチラリとそちらを見やると――。


「ん? あれ……ジーク?」

「エスペランサ―も一緒にいますよ」


 どこにいるのかの見当すらつかなかったジーク君、彼がそこにいらっしゃいました。


 大きな天然の木を屋根にし、その庇護下に備え付けられたテーブルに座って黙々と手を動かしては口へと運ぶジークの姿がそこにはあった。相方には不思議なことにエスペランサーも共にいて、ジークが手を動かすためのものを必死に供給している姿も確認できる。


「よぉ、どうしたよ? こんな所で」

『……』


 仲間がどこにいるのか探していたこともあったので俺達が近づくと、ジークとエスペランサーはこちらに気が付いたらしく、手を動かす動作は止めずに俺達へと口を動かしながら話しかけてくる。


 相変わらず行儀が悪いな……まったく。


「それはこっちの台詞なんだが……コイツも一緒になにやってんの?」

「あ? スイーツ食ってるだけだが?」

『……』


 俺の質問に真顔で返答するジークの口元は忙しなく動く。今も頬張ったスイーツを咀嚼することに夢中のようで、その邪魔をすることに躊躇してしまいそうだ。

 普段つりあがっている目つきは垂れ込み、口元もガツガツ食べているはずなのに何処かもむもむと動いている。そんな風に見えてしまう程に錯覚させられそうである。


 ジークは甘いものを食べている時めちゃくちゃ幸せそうな顔をするのだが……普段そんな表情を見せないだけに珍しい状態と言える。所謂ギャップが凄いというやつである。


「うん、見りゃ分かるわ。なんでエスペランサ―が配給係みたいなことしてんのかってこと」


 エスペランサーは普段は切先を真下に向けて浮遊していることが多いのだが、今に限っては地面と水平になって浮遊している。そしてそれが何故なのかと言うと……剣の側面の平らな部分に、隙間なく敷き詰められているスイーツを乗せているからである。

 この時点で色々とおかしい。お菓子だけに。


「だってコイツがやってくれるっつーからさぁ」

『……!』

「……お前なぁ、宝剣としての誇りはないのかよ」

『……?』


 この間にも、ジークはエスペランサーに乗っているスイーツを手に取り頬張っていく。完全に王様気分を満喫しているといったところだろうか。

 エスペランサーも何故か満更でもないように従順に従っており、明滅してそうだそうだと言っているようであった。


 宝剣(笑)に逆戻りだな、これは。セルベルティアの人達が不憫だ。


「でも、よく持ってこれたな? こんな器用に……。というか、よく言葉通じたな?」


 まぁエスペランサーがジークのパシリを引き受けていることについては別にどうでもいい。ただ、いかにしてこれを乗せて来たのか、ということである。


 手も足もない剣がスイーツを自らに乗せるなんてことはまず無理なわけで、誰かが補助、そしてこのことを理解しているはずである。


「そりゃキラキラはお前の所有物だからここの奴らは誰だって知ってるだろ? お前が(・・・)スイーツ食いたいって分かれば喜んでくれるに決まってんだろうが」

「確かにそうだけど……って、ちょっと待てや。お前、一体どれくらい食った?」


 ちなみにキラキラとはエスペランサーのことだ。ジークのネーミングセンスは相変わらずである。


 まぁそれはともかく……。

 あれ~? なんか嫌~な予感。せめて0が一個少なめでお願いします。


「かれこれ百皿くらいは食ったか? 『宴』が始まった時から食ってるしな!」

「「……」」


 元気ハツラツに答えるこのジーク君(くそがき)。食ってる量が現実的にあり得ねーくらいで絶句ものでした。

 ハイ、つまりは駄目でした。まさかの三桁でしたよチクショー! 提供してくれてる方、多大なるご迷惑ホント申し訳ありません。


 しかもアレだろ? これ、ジークが食ったんじゃなくて俺が食ってると思われてるってことだろ? 勘違いも甚だしいことこの上ないんスけど。

 今の私は、クレジットカードを第三者に使われた気分ですよ……ハァ……。お金は発生しないだろうけど、俺と言う人物の株価が代わりに支払われたことになりやす。神代バブル崩壊で泣きたい。


 さっきから振りかかる身の不幸のせいで、俺はこの『宴』に祝われているのではなく呪われているのではと思いたくなった。なんでこうも不幸に見舞われなければならないのか今一度神に問いたい。


「いいなぁ、ジークさん……そんなに食べれて」


 俺がため息を吐く横で、アンリさんは俺とは別のことでため息を吐いているようだった。心底羨ましそうに、ジークがスイーツを貪る姿を見つめている。

 これはズバリ、年頃の女の子の悩みの種とも言えるアレである。


 でも俺の要らぬ誤解が発生しそうなことよりも先にそっちの問題ですかいアンリさんや? 確かに女の子だから切実な悩みだとは思うけどさ、もうちっと俺の誤解が発生しそうなことを心配してくれてもいいじゃないんですか? 私彼氏ですし……。

 あ、もしかしてベタベタとするだけでなく突き放すような行動に出ることで、俺のジェラシーを煽るという高度な恋愛スタイルを発揮しようとでもしてたりする? 

 もしそうだったらやり手すぎるんですけど。超プレイガールなんですけど。可愛い顔してなんつー策士なのだ君は。キャー怖い。




「いやぁ~コイツマジ便利だな! それに美味ぇもんがタダで食えるとか『宴』最高だな!」

『……!』


 いつもの現実逃避もほどほどに。

 極楽気分でケラケラと笑うジークとそれに同調して光るエスペランサー。こいつらの『宴』の楽しみ方には呆れるしかなかった。


 それに、『勇者』はエスペランサーをこういう扱いをして欲しいために託したわけではないと思うぞ。第一ジークに託されたわけではないし、そもそも何故に適合者である俺の不利益になりそうなことに率先して力を注いでんのさ。

 今見えぬ危機が迫ってるってのに、俺を危機に陥れてどうする……へし折るよ? 割と真面目に。人望ってのは望んで得られるものじゃないんだからさぁ……。


「ツカサ、お前が不幸になって幸せが買えるってんなら、俺は間違いなくその選択をするぜ。今だけはお前の不幸が気にならん」

「へー、そうかい……」


 慰めるでもなく謝るでもなく、今自分は最高に幸せだと喜ぶジーク。


 俺が不幸になると相対的に君たちは幸せになるって言うのか。ほぅ、それならその幸せぶち壊したいわ~(ニッコリ)。だってそうすれば俺幸せになれるかもだし、だしだし。


「ったく、勘弁してくれよ……」

「ま、使えるもんは最大限に使わないとな。……だがよ、俺はお前に一つ言いたいことがある」

「……なんだ?」


 もう大した気力も湧かない。ジークに物申すこと事体が無意味に思えるからだ。だと言うのにまだ俺へと何か言いたいことがあるらしい。


 なんでしょうか? 俺は君に言いたいことがありすぎて困るくらいだけどね。


 別のスイーツを頬張りながら、ジークは俺を軽く睨みつけて文句を伝えてくる。


「お前が近づいてきたせいでコイツらさっきまで分離してたのに一つになっちまったんだぞ? そのせいで何個のスイーツが犠牲になったか……お前知ってっか? あ?」

「は?」

「しかも運ぶ手間が2倍に増えたんだぞ? コイツの苦労がお前に分かるか?」


 し・る・かっ! しかも逆ギレかいっ!


 え、なに? もしかして運搬中に合体しちゃってスイーツ落っことしたってこと言いたいの? アホか!

 だったらテメェがスイーツ取りに行けやって話じゃねーか! それにコイツらは分離してない方が正しい在り方なんだから文句言われる筋合いがねーよ!


「いや分からねーよ! 何故俺はキレられてんのか意味が分からん!」

「俺のスイーツ達を犠牲にしたくせにどの口がほざいてんだ!」

「どんだけスイーツに対して嘆いてんだよ!? つーかそのスイーツはお前のじゃねー、少なくとも名義は俺のなんだから俺のだろ!」

「そんなふざけた大人の理論が俺に通じると思うな!」

「正当な理論を振りかざしてんのになんだその言いぐさは! いい加減にしろ!」


『宴』の喧騒に敗けぬ騒ぎがここでも巻き起こる。


 この後、暫く無駄に長く意味のない口論が続きました。

 ま、いつものやつです。




 ◆◆◆




 5分後――。


「ふぅ……」


 何はともあれ、お互いに和解? という収束を迎えることには成功したようだ。俺とジークの怒号は止み、今はスイーツの香り漂う空間がこの場に存在していた。

 気が付けばさっきは無造作に空いた皿が置かれていたテーブルの上にはスイーツが綺麗に並べられており、空いた皿は一定の高さを基準に綺麗にまとめられている。エスペランサーも配給係の仕事を中断して休憩に入ったらしく、どうやらアンリさんが俺とジークが口論をしている間に色々と女子力を発揮してくれたようである。そのため、今はエスペランサーと仲良く会話をしているようだ、楽しそうなキャピ声が聞こえてくる。




 ……あ、別にエスペランサーと会話をするというのは見ていて痛い子とかって意味じゃないですよ? 俺は勿論だけど、少しずつ皆もエスペランサーと会話ができるようになってるだけですから。

 これはやっぱり……俺がエスペランサーと少しだけ親和性が高まったからだと思われる。それ以外に特に理由らしい理由はないし、『勇者』もエスペランサーは皆を気に入る的なことを言っていたはずだ。


 俺とジークは息を乱しながら、少し痛んだ喉を労わるためにさする。


「はぁ、はぁ、なんつーか……セシルがいねぇと長引くな……」

「同意。セシルさんがいる時だけ口論しねぇ?」

「癪だが……それには賛成、だ。喉いてぇ……」


 俺がジークへと持ち掛けた新たな協定は、すんなりと同意を得ることに成功する。お互いにそうしないと自分に不都合が生じると感じざるを得なくなったためだ。


 口論自体を止めれば良くね? と意見が飛んできそうだが、それは無理だし受け入れられない。

 だってしなきゃストレスが溜まって仕方なさそうだし。そもそも口論の原因が毎回俺ではなくジークが発端となっているのだから、俺からしてみれば一方的にストレスが溜まることになってしまう。


 そう、毎回俺は可愛いすぎる(くない)ジークに譲歩してやってる偉いお兄さんなのです。人の器は見た目に比例しないのだ。

 可愛い(ウッゼェ)仲間を持つとお兄さんは苦労するんですよねぇ、まったく……。




 さて、セシルさんがこの場にいないのに勝手に取り決めてしまったが……悪いがそういうことで決まりだ。

 ジーク協定を決めた時も、思えばセシルさんは俺達を止めてくれていた。俺はまぁセシルさんに逆らおうとも思わないから別だが、当時何故ジークがすんなりと身を引いたかの理由はこれが影響しているんではなかろうか?

 天使の秘密の件に加え、年上という事実を知っていたからなのではと……俺は今だからこそわかる。


 そしてジークは年上好きという分析結果が出ましたよ皆さん。こりゃ新たな発見ですわ。


 まぁジークが仮に年上好きじゃなかったのだとしても、やはり年上の人と言うのは見えない圧力を身に秘めていると思う。

 それが年長者ならば更に効果は高まるというもの。セシルさんはパーティで最も争いに関しての抑止力を持った最強の人であることは間違いない。そしてそれは年上に弱い俺達には非常に効果を発揮するのだと思われる(希望的観測)。


「あ、終わりました?」

「うん、終わった終わった」

「机、サンキューな」

「これくらいしかすることなかっただけですから」


 俺達の怒号が止んだことで察したのだろう、アンリさんはこちらへとエスペランサーと共に歩み寄る。


 それにしてもまぁこの謙虚な姿勢……流石としか言いようがありませんわ。流石俺の彼女さん、嗜みを十分に身に着けてらっしゃる。俺達が勝手に始めた面倒事に対するお咎めもないなんて優しすぎることこの上ありませんね。それにずっと甘えていたいです、エヘヘ。

 ジークにもこういうのを是非とも真似して頂きたいものである。……ま、無理だろうけど。


「……まぁせっかく来たんだ。その様子じゃどうせまだまともに何も食ってないんだろ? 一緒にゆっくりしてけや」

「おう、そうさせてもらうわ」


 騒ぎから腰を落ち着かせ、テーブルに備え付けられている椅子に座る俺とアンリさんに向かって、多少なりとも気遣いの姿勢をジークは見せてくれているのだろう。


 俺達に自分のスイーツを分け与えようとしてくれるようです、やったね。


「――だから、俺が食ってるのを黙って見てていいぞ」

「ひっでぇなお前!?」


 食わせてくれるわけじゃないんかい!? 質悪っ!

 こちとら寝起きでさっき走り回ってるからアイムハングリーですよちょっと!? 少しくらい分けてくれたっていいじゃない! ケチ!

 早くも第二次スイーツ戦争勃発させるつもりかよ……。


「アンリは別にいいぞ。ホレ」

「あ、いただきまーす」

「え!? なんで俺にはくれないの!? おかしくない!?」


 男女差別ここに極まれり。

 アンリさんはジークがスッと差し出したスイーツへと手を伸ばして受け取った。でも俺には寄越してくれないということになってしまっては異議を唱えないわけにはいかない。早速抗議に入るが――。


「別におかしくはねーだろ。そしてお前はお菓子食わねーだろ?」

「上手いこと言ったつもりかオイっ!? 美味いだけに!」

「お前も人の事言えねーな……アホか」


 ビシッと俺にフォークを向けるジークの表情は真面目そのもので、俺が反論することがおかしいと言っているようだった。高圧的な態度は勿論のこと、どこかしてやったりみたいに思っていることに若干腹が立つ。だから俺も言い返してやったわけだが……もうこれはヤケである。


 でもそのギャグ超どーでもいいわ!! 糖分取って頭の回転早くなってますアピールでもしたいのかこの野郎が! 

 そんなお前は当分糖分要りませんね、ハイつまらねー! 閉店!


「いいじゃんかよー、俺にも少し分けてくれたってええじゃんかよー、俺の乞食力を舐めるなよー! 食いたい食いたい食いたい食いたい~」


 人類皆平等精神の欠片もねぇ今の状態は如何とも度し難い。俺はジークに口を尖らせてぶーぶー文句を垂れて徹底乞食をしてみるも――。


「ハッ、馬鹿かお前は。俺が他人にスイーツをやるとでも思ってんのか?」

「あげてんじゃん! アンリさんに今あげただろ!? てか俺他人じゃなくね!?」

「お前は他人だろ。でもアンリは仲間じゃん……なぁ?」

「ちょっ!?」


 その輪に俺も混ぜてくだされ!? 

 仲間じゃないリーダーって何さ!? これだとパーティの存在がそもそも破綻してるじゃないか!


 ジークは手持無沙汰となったフォークを適当に遊ばせながら顎に手をつき、アンリさんに当たり前のように確認のつもりで目配せをした。そしてアンリさんは受け取ったスイーツを両手で持ちながら、そうですねと半笑いで頷くのだった。


 なん……だと。

 アンリさんまでもが俺を殺しにかかってきてしまっては太刀打ちできん……!

 なんなんだよぅ2人して……俺を苛めてそんなに楽しいのかよぅ……。


「分かったか? つまりお前は赤の他人だ。いや、垢以下の他人だ」

「そこまで言わなくてもいいだろ!? あの『安心の園』で交わした男の友情を忘れたとは言わせんぞ! ヘイジーク、お前の大きな背中を、この小さな俺の手が押してやった時のことを思い出せ!」

「……知らんな、そんなことは」


 あはん……手痛い一撃ですねー、グフゥッ!?


「で、でも俺は覚えてるぞ、お前の肩をこんな感じに、これくらいの力でしっかりと叩いてやったあの感触も覚えてるんですよ!? それにお前とのじゃれあい(ころしあい)にいつも付き合ってあげてるではありませんか!?」

「そういう誓約だろうが」


 いや~ん……その連撃はキツイ、ウボァ!?


「グスン……ジーク酷い……」

「キショいこと言ってんなよ……アホらし……」


 カハッ……!? ここまで、か……。


 リアルに吐血をしてしまいそうなくらいに精神的ダメージが凄まじい。ジークは俺を白い目で見つめ、目線が並行しているにも関わらずまるで見下されているようにさえ俺には見えてしまう。


 流石だジーク、お前の持つ多彩な武器達のような口撃(こうげき)に俺はもう瀕死だよ。『闘神』と呼ばれた神髄を垣間見たぜ……。


「先生、ホント相変わらずの変な言動ですねー……」

「もうやめて……」


 アンリさんの視線と言葉までもが容赦なく俺へと突き刺さる。おまけにジーク同様白い目と冷たい声である。皮膚を突き破り、俺の内を再起不能なまでに引き裂こうとする凶悪な一撃達には抗う術などない。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。


 遠慮がなくなったのは良いんですけど、今は遠慮して欲しいかなぁ……アハハ。




 ぐぬぬ……これはもしやシュトルムの呪いなのか!? さっき俺が遊び半分で似たようなシチュエーションにしたから俺にもその罰が振りかかったと言うのか!?

 シュトルム……後で覚えとけよ……! 給料没収にボーナスカットは覚悟しておけ。


 この俺をスイーツ一つでどん底に叩き落せるとは……中々やるではないか! 流石我が社員である。

 だが許さぬ。

次回更新は金曜です。

次回が年内最後の更新になります。

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