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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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240話 親子の再会

◆◆◆




「っ……まぶし……」


 突然眼光に突き刺すような光が眩しく、思わず下を向いた。

 粘っこいような、それでいて心地よくもある感覚を抜けた先で、俺達はリビングとはまるで違う光景を目にした。


「っ! セルベルティアですわ……」

「えぇ、戻ってこれたようですクリス様」


 クリス様とランバルトさんが俺の後に続いて『精霊の抜け道』からするりと身体を出し、目に入った光景を前にそう吐露した。 今自分が本当にセルベルティアに戻ってこれたことが信じられない様相の姫様は、目の前に雄々しくそびえ立つ城に安心感を覚えているようだ。隣に並んで立つランバルトさんの腕を、キュッと握る力を強めた。


「おぉ~、こんだけ近いと迫力あるなぁ」

「そうか、シュトルムはここまで来るの初めてか」


 俺とポポとナナがこの前訪れたセルベルティア王城。その敷地内の一角である人気のない場所から見上げてみても、やはり圧倒的存在感を放つ城はシュトルムに感心を抱かせたようである。顎に手を当てて、舐めまわすように作り全体を見ている。一度セルベルティアの図書館で調べ物をしたり自由観光する時間はあったはずだが、あの時はこの城に訪れていなかったようである。


「う~ん、俺の家が質素に見える」

「……むしろあの土地にこんな城があってもドン引きなんだが?」

「それもそうだな」


 シュトルムの突拍子もない比較する必要の意味が分からないことに俺が返答すると、冗談に過ぎないかのように軽く即答された。


 その国には国ごとの特徴があって風土がある。この城だってセルベルティアは大国であったことの証明であり、過去の栄光が作り上げた産物だ。それを象徴するこの厳格で壮大な雰囲気を纏う城は、セルベルティアの風土や景観によく似合っていると言える。

 ただ、これがオルヴェイラスやイーリスの自然溢れる地にそびえ立っていると想像すると……すぐにでも取り壊してしまいたくなるくらいに似合わないとしか思えない。シュトルムのあのナチュラルな家は、あの緑溢れる風土だからこそ輝くに決まっている。そこに質素も何も関係はない。


「貴様ら! 一体何奴!? ……ぇ……?」

「ひ、姫様!?」


 そんな時、敷地内の巡回中であったのかセルベルティアの兵士が2名程俺達に気が付いたらしい。第一声は俺達を不審者と思って声を上げた様だが、その声をすぐに小さくしていき……クリス様の姿に目を奪われてしまったようだ。

 行方不明扱いでもあった姫が、すぐそこにいる。これだけで一気に態度は激変してもおかしくないのだから。


 あ、ちなみに学院長と連絡を取り合った際、姫様達が無事であることを陛下に告げる必要はないと頼み込んでいたりする。

 理由としては……いや、俺が姫様達を攫った容疑者みたいに思われたくないし、何故そんなことを学院長が知っているのかと問われてしまう事態に発展し、糾弾されるという面倒な考えが脳裏をよぎったためだ。クリス様を溺愛している陛下なら、頭が混乱していてまともな判断ができるとも限らない。懸念を避けるために念には念を入れたわけだ。

 でも一番の理由は、クリス様が無事であったという驚きの事実に便乗して陛下との謁見を賜う企みがあるからなのだが。


「ランバルト殿も、それから『神鳥使い』様まで一緒にいるぞ!? は、早く陛下にお伝えしろ!」

「わ、分かった!?」


 何はともあれ、慌ただしく陛下への報告のために走り去っていく兵士さんの姿に、やはり相当な驚きがあったことは間違いない。その背中を見つめ、苦笑が俺達に生まれた。


「ツカサ様……ありがとうございます」

「いえ……それよりも早く、陛下を安心させに行きましょう。本題はその次でいいですから」

「はい」


 ここまで送ることのできたことに対し、姫様から礼を再び言われる。だが、そんな礼よりもまずは陛下を安心させることの方が先だ。きっと張り詰める想いで姫様をずっと心配していたに違いないのだから……。




◆◆◆




 信託の間、先日のセルベルティア王謁見以来の部屋にて。


「クリス!!!」

「お父様!」


 部屋に入るなり、クリス様に飛びつくようにして駆け寄ってくる男性は、そのまま同じく飛びつくように駆け寄った姫様と抱きしめ合った。

 どちらも目尻に涙を溜めていて、感涙していることは誰の目から見て明らかだ。そこに横槍を入れることなど誰も出来そうもない。


「よくぞ無事でいてくれた……! お前まで失ったら私は……!」

「心配をお掛けしてごめんなさい、お父様。でも、ワタクシはこの通り元気です。お父様もお怪我のないようで安心いたしました……!」


 姫様も陛下のことをぞんざいに扱うような発言を見せてはいたが、やはり親子ということなのだろう。奥底では互いに思いやり、確かな親子という絆でこの人達は結ばれていたのだ。

 王族であっても、庶民と変わらぬ親子がここにいた。


「(感動の親子対面だな)」

「(久々に微笑ましいですね)」

「(うん、姫様も結構ぞんざいにしてるイメージはあったけど、やっぱり親子なんだなとは思う)」


 それを見守る様に俺とポポ、シュトルムは小声で声を交わす。あまりこの感傷に浸っている空気を壊す程の精神はしていないうえに、それ以上に今この状態を心から喜ばしいことと感じているからに他ならないからだ。


 少し、俺達はそのまま黙って見つめていた。


「ランバルト、よくぞクリスを守り抜いた。……感謝する」

「陛下、私は……当然のことをしたまでであります故……。ですが……私は守り通せたとはとても……」


 ランバルトさんは、陛下の謝礼には自信を持って頷かなかった。もしかしたら『影』と交戦して防戦一方となった危機的状況を思い返しているのかもしれない。陛下はその事実を知らないわけだが、そもそも『影』相手に防戦一方になっている時点で十分凄いのだ。そこは自信を持って良いと俺は思えるが、ランバルトさんからしてみれば使命を果たせたか果たせなかったの二択になることも分かる。そうなれば後者と捉えるのも致し方ないことと思えるから俺にはなんとも言えない。


「いえ、ラトがあの時いなければワタクシh「クリス様、お気遣いをさせる有様のこの私に、そんなお優しい言葉を掛けることはいけません。むしろ、そちらの方が辛い……」


 そんなランバルトさんだが、姫様からの言葉さえも受け付けることは許さなかった。自分に厳しく、ただ淡々と結果だけと向き合っていた。


 ランバルトさんはクリス様の側近だ。だが、今ランバルトさんを俺は騎士道精神に溢れる誠実な人だとしか思えなかった。……最初からそうではあるが。

 少々居心地の悪い展開に発展するかと思いきや――。


「でしたらラト、次こそは必ずワタクシを守ってくださいまし。ラトならそれができると信じてますわ」


 一方姫様も、ランバルトさんのその要求を受け入れることはしなかった。ランバルトさんへと優しい声を掛けることは止めはしなかった。


 ある意味これは意地の張り合いにも似ている。ランバルトさんはここで、自嘲するように譲らない姿勢を見せ続けた。


「……正直、私よりも適任な者がいるではないですか。私よりも、クリス様を守るに相応しい人物がいるのに……何故そこまで私に固執するのですか?」

「誰ですか? ラトよりも相応しいなどという人とは?」


 即答だった。一呼吸置くかと思っていたのに、姫様はランバルトさんの言葉にすぐ対応した。その表情は真剣そのもの。それだけは譲れないのだと、心の叫びが直接届いてきそうな気迫を見せていた。


「っ……イーベリアです」


 その姫様の気迫に気圧されたのか、ランバルトさんは姫様から視線を逸らして答える。


 ほぅ? セルベルティア最強と名高い例のイーベリ子さんか。確かにそれ以上に適任な人はいないわな。


「アイツは……天賦の才の持ち主です。現にこのセルベルティアの最高峰に立つ奴と言われる程に腕が立ちます。教養と頭脳も他よりも抜きん出て優秀ではありませんか」


 どうやらイーベリ子さんは戦闘力以外も化物級の人物であるようだ。これを人は恐らく天才と言うに違いない。文句なしに非の打ち所がないとこの時点で分かる。


「確かにそうですわね。ラトよりも腕が立つことは承知しています。相当な切れ者であることも耳にしていますわ」


 姫様もランバルトさんが今言ったことには頷いた。つまりはその全てが事実だということだ。ランバルトさんからすれば痛恨の一撃を食らったも同然の頷きだったと思われる。


「ですが、それがなんだと言うのです」

「っ!?」


 だけどさぁ……仮にその全てで敵わないとしても、姫様はそれよりも重んじてる部分で勝っている貴方から離れたりすることはあり得ないだろうに。

 こればっかりはイーベリ子さんがどれだけハイスペックであろうと覆らないに決まっている。貴方もまた、姫様と陛下の間にある別の絆を築きつつあるんですよ。


「イーベリアさんがラトよりも優れているのだとしても、私はラト以外の方に守って欲しくありませんわ。最も親しい貴方より安心のできる方なんて……他にいないんですから」

「(うんうん)」


 これには滅茶苦茶激しく同意。頷かずにはいられなくなった俺は無言でただ首を縦に振っていた。


「(何頷いてんだお前、大体分かるが)」

「(放っておいてくれ)」


 分かってるなら声掛けないでくれシュトルム君や。空気を重んじたまえ。

 かつての自分を重ねるように、ランバルトさんを見ていたくなる。いや、応援したくなるの間違いだな、コレは。


 ドキドキしますね、この流れに。


「……相変わらずお優しいですね、クリス様は。言ったではないですか、お優しい言葉は辛いと」


 その姫様の気持ちは嬉しいがどこか納得しきれなかったのか、ランバルトさんは目を瞑って考え込んでしまう。

 きっと頭の中では様々な思いが巡っているのだろう。自分の信念、願い、後悔、クリス様の想いや思いやり、それら全てが。複雑に絡み合ったそれをまとめ上げ、一つの答えに辿り着くべく必死に手探りしているように見えた。


「もう、それはラトが相手だからですわ。ラトじゃなかったらワタクシであってもそんなこと言いません……って!? こんなこと言わせないでください!」

「クリス様……」


 プクっと頬を膨らませて不満げな表情を作る姫様だったが、自分の意味部下な台詞が無意識に出てしまったのか。一気に顔を赤らめて取り乱す様子は非常に子供っぽく見えた。

 そんなことを言わせないでと言わんばかりの姫様の顔は、ランバルトさんにとある想いを伝えている節が見られるのが丸わかりであった。


「クリス、もしやお前……」

「……!」


 あらぁ……いい雰囲気じゃないッスかお二人さん。ベリースウィートな空間が熱い暑い……こっちは胸焼けしそうですって。

 姫様の願望まであと少しってところですかね、これで恋のリーチ掛けられたようなものとお見受けします。王様もようやっと気づいたって感じだろうか?


 ランバルトさんに好意をさり気なく伝えてしまった姫様は、ジッとランバルトさんを見つめていた。でも今回ばっかしは特に狙ってやったとかではないようだ。

 小細工を仕掛けることもなく真っ向からの勝負のため、姫様にも緊張が走っているようだった。


 さてランバルトさん、貴方はどう出る? 返答の行方は……!? ビンゴなるか!?


「クリス様がそのように思われているとは……大変光栄です。勿体なきお言葉を頂きなんと申し上げてよいか……」

「……」

「――でも、それは想い人の方に言って差し上げるべきです。」

「……へ?」


 が、姫様の想いにこの人が気づくわけがなかったことを失念していた。ランバルトさんも相当な鈍感であったとこの時思い出した。

 姫様の拍子抜けした声が小さく、だが非常に大きく錯覚してしまうくらいに聞こえた気がした。


「っ~~! やっぱり、こうなるんですのね……」

「……?」


 明らかにガッカリした様子の姫様から、暗いオーラが滲み出る。一世一代のチャンスを逃した、もしくはそのお預けを食らったように感じているんだと思われる。

 一方、ランバルトさんは自分の発言がおかしかったのかと首を傾げる様子を見せていた。


 ……こりゃ駄目だ。筋金入りどころじゃなくて溶接されてるレベルだろ最早。解くのはほぼ無理だし、ぶっ壊すくらいのインパクトを与えて想いを告げなければ成し遂げることは厳しすぎる。


「く、クリス……そう気を落とすでない、また次の機会が訪れる時を待って慎重にな?」

「……はい、お父様」


 陛下はクリス様がランバルトさんに好意を抱いていることを咎めることはなかった。むしろクリス様のその姿にフォローを入れる始末である。それだけランバルトさんの返答がこの場にいた全員をガッカリさせるものだったということを表しているようでならなかった。

 姫様の肩を叩きながら、陛下は続ける。


「お前の好きにするといい。私もルセリアの時そうであったから……これは言わば我がセルベルティア王族が誰しも乗り越える試練とも言えるべきもの。お前にもその時が来たということと私は見る」

「お父様……よろしいのですか? その……」

「お前とカミシロ殿に、私はあの時愛について教えられたことを忘れたのか? もう何も言わん……見守ることにすると決めたのでな」


 溜息とも呆れともつかぬ反応を見せる陛下は、クリス様にそう告げた。そこには俺と対立した時の暴君な姿は感じられず、父親の優しさが滲み出ているような気がした。




 ……でも俺にしてきたことは忘れてないからね? 意外と執念深いですから俺。貴方のしたことを俺は忘れない。

 それと、俺が愛を教えたんじゃありません、あの時俺が叫んだ言葉ってのは強制めいれいされてただけの上っ面なものです。まんま姫様の手の内で踊らされてますよ陛下。

 この国の参謀役はもうこの人で良いんじゃないですかね? 搦め手だったら相当いい手腕発揮しそうですよ貴方の娘さん。


「うぅ……ありがとうございます、お父様。取りあえず、今は一旦これで終わりにしますわ。それよりも……今回の一番の恩人への感謝をしなくてはいけませんもの」

「っ、カミシロ殿……」


 ん? ようやく終わりですか? もうちょっと見ていたい気もするけど……。

 はいはい、やっと本題に入れそうですね。


 恋の談義を終えたのか、それとも感動の対面を終えたのかは分からない。だが俺達を陛下達は見てきて、それで次の話に進めることだけは分かった。


「……無事、姫様達は送り届けましたよ。陛下」

「っ……カミシロ殿! 急なことで何が起こっているか全くわからないが、それでも其方のおかげであるのでしょう? 此度はなんとお礼を申し上げてy「あ~……労いとかもう十分貰ったんで平気です」

「し、しかし!?」

「労うのは……本当に全てが終わった時でいいですから」


 問題が起こって解決して……その都度礼を言われるのはもう面倒だ。今の気持ちはまとめて後で返してくれればそれでいい。

 今はそれよりもとにかく伝えるべきことを伝える必要がある。


「相変わらずお前らしいな。ならとっとと本題に移らせてもらうか」

「あいよ、頼むわ――」


 俺の待ち望む流れを汲み取ったシュトルムが、俺よりも一歩前に乗り出す。俺も相槌を打って後はシュトルムに任せることにし、一歩退いた。


「カミシロ殿、こちらの方は一体……?」


 陛下はシュトルムが俺よりも前に出たことにやや首を傾げた。当然だが、シュトルムの自己紹介を含め未だに何も情報がないのだから仕方がない。見知らぬ人物を目にして今まで何も口にしなかったのは、俺と一緒にいるという点と姫様との感動の再会で後回しにしていただけなのだろう。加えて陛下がイーリスの奥地であるオルヴェイラスなど早々に足を運ぶわけもないし、その逆も然りだ。

 シュトルムと陛下、互いに顔を見合わせたのは今回が初めてである。


「親子の絆に水を指すと思い、申し遅れたことをお詫びします。私の名はイーリス大陸オルヴェイラスが王、シュバルトゥム・S・オルヴェイラスと申します。急な参上は不服の申すところではございます。だがどうか無礼を承知でセルベルティア王との謁見、並びにイーリス三カ国にて引き起こされた災厄の急報を今お許しいただきたく存じます」

「「……」」


 俺と陛下が繰り広げたあの罵詈雑言を通信で聞いていたはずのシュトルムであったが、今はそれを抜きにして王族としての立ち振る舞いをしている。謙虚な姿勢で、相手に敬意と非礼を示していた。

 陛下のシュトルムを見る目はそこで変わり、シュトルムが自分と同じ立場にある者と理解したようだった。


 でも、俺とポポはやはりシュトルムっぽくねぇなという考えが脳裏を占めていたりするが。シュトルムの真面目ちゃんな一面はまだどうにも慣れない。


「イーリス……? そんな遠路遥々から何故……」

「それは追々説明しますわ、お父様。私がここに戻ってこれたこともそれで説明がつきます」


 ま、そんなことはさておき……本題に入れそうである。 




驚きの連続で事態を把握するだけで精一杯の陛下に、俺達は伝えるべきことを伝えて今後の展開に期待するのだった。

次回更新は月曜です。

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