22話 人間卒業?
「こんちは~」
「おう? なんだ、ツカサじゃないか」
俺が武器屋に入るとベルクさんはカウンターに立っており、俺を視界に入れると声を掛けてきた。
「…また武器ぶっ壊したのか?」
「違います違います。今回は別のことで来たんですよ」
安モノとは言え流石に壊しすぎたのか、ベルクさんは少々疑いの眼差しでこちらを見ている。
今回はホントに違いますって…。
遠出をしてた時はお世話にならなかったけど、それまでは2日に一度のペースくらいでベルクさんにはお世話になったからなぁ。
ある意味常連客になりつつある。悪い意味で…。
力の手加減が難しいですよ…。
「ほぅ、じゃあ今日は一体どんな用件で?」
「それなんですけど……」
「? どうしたよ?」
ベルクさんが不思議そうにこちらを見ているが、俺はしばし沈黙する。
いきなり、「ドラゴンの素材を使って武器を作ってくれよ!」なんて言ってもなぁ…。俺だったら「何言ってんだ? コイツ」っていう風に思うし、どうしたもんか…。
まぁ正直に話してみる…か?
「えっとですね…。ベルクさん。絶対に今から俺が話すことを誰にも言わないと誓ってもらえますか?」
「は? いきなりだなオイ…。どうしたんだよ?」
当然の反応をベルクさんは返す。
ですよねー。
でもちょっと真面目な話なんで俺も相応の対応をさせてもらいます(キリッ)
「そう思うのも無理はないと思います。ただ今回の用件というのは他言して欲しくないんですよ」
「…訳ありか。よからぬことじゃねぇだろうな?」
「ああ、それはもちろん。あと恐らくですが、ベルクさんにとっても悪くない話だとはおもいますけどね」
「ほう? …よからぬことじゃねぇならその要求を呑んでもいいがな…。偶にいるしな、お前さんみたいなやつが」
俺はベルクさんを信用しているので、約束は守ってもらえると信じている。
ベルクさんの方は…自信ないな。大事にしろって言ってたもの全部壊したしな…。信用はされてないかもしれん。
あれ、マズくね?
「どうでしょうか?」
恐る恐る俺は聞いてみる。
「…いいぜ。他言はしないと誓ってやる。そのかわり、それなりのことなんだろうな? ガッカリさせんじゃねぇぞ?」
ふぅ、良かったぁ。
「…チョロイね(ボソッ)」
俺が安堵しているとかすかな声でナナの声が聞こえた。
うおおおおおおおおおいっ!! 何言ってんのお前ぇぇっ! 聞こえたらどうすんじゃい! 確かに思わないこともなかったけどっ!
ベルクさんは……。
ふぅ、どうやら聞こえてなかったみたいだな。特に変化は見られない。
危ね~、後でナナはお仕置きだ。
「…ええ、それは保障しますよ」
俺は冷や汗を流しながら返答を返す。
この一瞬で背中がビッショリですよ、まったく…。
「ほれ、言ってみろよ?」
「はい。ある素材で武器を作ってもらいたいんです。ただただ頑丈な武器を」
「ほぉ、頑丈な武器か…。あいわかった。んで、ある素材っていうのは何だ?」
言っていいんスか? 言っちゃいますよ?
「ドラゴンです」
「………あん? スマン、もう一回言ってくれ」
「ドラゴンです」
「ふむ、耳が悪くなったのか? ドラゴンって聞こえた気がするんだが…」
「だからドラゴンですって」
「…マジか?」
「おおマジです」
…まぁ気持ちは分かりますよ。
俺は常識がおかしいんです、許してベルクさん。
「ちょっと待て! ドラゴンって言ったって何処で!? 討伐されたなんて情報は聞いてねぇぞ?」
大声でベルクさんが騒ぐので俺はそれを止める。
…ちなみに声の大きさにはちょっとビビりますた。
「ベルクさん声がでかいです」
「むっ!? ………ああ、すまねぇ取り乱した」
「お気持ちはお察しします」
「それがフツ~」
俺が止めると、ベルクさんは少しの間沈黙し、そして若干の驚きを残しつつも落ち着いてきた。
それについてはポポとナナも同情している。
もちろん俺もですよ?
「ここじゃ誰かに聞かれるかもしれねぇ…。奥の部屋で詳しく聞かせてくれ」
「あ、ハイ」
そしてベルクさんは後ろの部屋を指さす。
ベルクさんがカウンターの奥の部屋に案内してくれる。
以前砥石のやり方を教えてもらった部屋だな。懐かしい気がする。
「砥石の時以来ですね」
「ああそうだな」
「ここなら誰も入ってこねぇし大丈夫だ。ちょいと散らかってるがそれは勘弁してくれ」
部屋の中は作業道具で散らかっており、机の上には武器を作っていたのか槍のようなものが置いてある。
刃先はまだ手入れをしていないのか少々歪な形をしている。
「武器を作ってたんですか?」
「うん? ああそうだぜ。依頼で作ってるわけじゃないがな…。個人的なもんだそりゃ」
「ならどうして作ってるんですか?」
「武器なんて、安モノのやつ以外は完全オーダー制だからな…。オーダーが入るようなしっかりした武器を作るには腕が鈍ってちゃダメなんだよ。そのために手が空いた時とかはなるべく練習がてら作るようにしてんだ。出来が良ければ店に置くしな」
「さすが職人ですね、感服いたしました」
ほぉ~、素晴らしい心意気だねぇ。俺もそういうところは見習わんとな。
素直に賞賛する。
「よせやい、俺なんてまだまだだ。師匠はもっとスゲェ人だからな…」
「ベルクさん師匠がいたんですか?」
ベルクさんは照れながらそう言った。
師匠ね…。初めて聞いたな。
「職人には大体師匠はいるもんだと思うがな…。俺の場合はドワーフ族の人だった」
「へぇ~、名前はなんて言うの~?」
「ジルバっていう人だ。最先端の技術を誇るドワーフの国でも、上位に食い込むほどの職人さ。あの人が俺の師匠なのが今でもあんまり実感が湧かねぇくらいだぜ」
ベルクさんは誇らしげだ。
ベルクさんがそこまで言う程の人か…。ちょっと気になるな、名前は覚えておこう。
「まぁその話はまた今度でいいか…。早くさっきの話をしようぜ。質問したいことがあるからいいか?」
「えっ!? ハイ、どうぞ?」
ベルクさんが強引に話を終わらせ、さっきの話に戻る。
「まず、お前はドラゴンの素材を持ってるんだな?」
ここは素直に全部答えるに限る。
「ええ、持っています」
「それはどれくらいだ?」
「…3体分です。今は『アイテムボックス』に入れてありますが…」
「………。鱗とか尻尾とか羽のみではないと…。しかも1匹じゃねぇのかよ…」
ベルクさんは驚きを通り越して呆れているようだった。
ごもっともごもっとも。
「…大きさは?」
「5メートルくらいの個体が2体、10メートルくらいの個体が1体ですね」
「…5メートルを今ここで出すことは可能か? 1匹でいい」
「可能ですけど…。どこに出します?」
「今スペース空けるからちょっと待っててくれ」
ベルクさんはそう言って中央部分の道具を片付け始める。
さすがに手馴れており、5分もしないうちに部屋は部屋の中心は綺麗になった。
「ふぅ、これなら大丈夫だろ。ツカサ、出してくれや」
「はいはい」
準備が整ったので俺は『アイテムボックス』からドラゴン(小)を出す。
ドスンっ!
小さい? とはいえ流石に5メートルあるので重量もそれなりだ。大きな音を立ててドラゴンは地面に横たわる。
死んでからすぐに収納したので、品質はまだ当時のままだ。
「これが、ドラゴンか…。解体される前のを見るのは初めて見たぜ。鱗も以前みたやつとは種類こそ違うがそっくりだし、間違いねぇな」
ベルクさんは驚いてはいるが、そんなことの連続に慣れてきたようだ。
ふふふ、貴方も我々の仲間入りですぜ?
「状態も良好だな。…これは一番聞きたかったことでもあるんだが、コイツはツカサがやったのか?」
「違います。やったのはコイツらです」
俺は肩のポポとナナを指さす。
「コイツらがやったのか? お前じゃなくて?」
ベルクさんが目を丸くしている。
無理もない。
「ええそうですよ。コイツら2匹でこのドラゴン3体は倒しました」
「死ぬかと思いましたけどね」
「魔法の練習にちょうどよかった~」
「…今更嘘はつかんだろうし信じるが、想像もつかねぇぞ? こんなに小さいやつらが仕留めたなんてな…」
「ははは、まぁそう思いますよね。ですがコイツらはもう多分Aランク並の強さは持ってますよ? 少なくとも俺が今までに出会った冒険者でコイツらより強いやつはいません」
それは本当のことだ。
ぶっちゃけコイツら1匹で、俺が見たギルドの人全員を相手にさえできるのではないかと思っている。
中には本気を出したことがない人もいるかもしれないが、大体の強さは分かる。それでもそう判断せざるを得ないくらいに強いしなぁ。
「そんなにかよ…。お前まだ冒険者になってから1ヶ月くらいだろ? コイツらのおかげで大躍進だな。ある意味羨ましいぜ」
ベルクさんがぼやく。
「何か勘違いしているみたいですけど、私たちはご主人にとってお荷物みたいなものですよ? ご主人は私たちなんかでは歯が立たないほどに強いですから」
ポポが口を開く。
まぁ俺の場合ズルみたいなもんですけどね。
「ドラゴンを仕留めるようなやつが歯が立たないくらいに強い? ツカサがか?」
「ええそうです。見た目は全然そんな風に見えませんが事実です」
オイポポよ、一言余計ではないかね? もう少し別の言い方があるだろうに…。
ちょいと傷つくわ。
「ああ、全然見えないな」
ハイハイ、貴方は強そうな見た目してるからそんなことが言えるんですよ。
どうせ俺は貧弱ですよーだ。
…グスン。
少々悔しかったがグッとこらえる。
「まぁその気持ちは分かりますが事実ですよ。自分で言うのも変ですが、コイツらが何をしようが俺には傷一つつけられないでしょうね、例え生身であっても…」
「オイオイ、それは言い過ぎじゃねぇのか?」
「これでも一応控えめに言ってるつもりなんですけどねー」
これは本当である。
以前ドミニクの大剣を受け止めた時、俺のステータスはジャンパーの効力で1000くらいだった。
あの時はジャンパーで受け止めたのだが、受け止めた部分を確認してみると傷一つついていなかった。だが今ではジャンパーなしでも防御力は7000近い。
正直ジャンパーが無くても問題がない…というより鬼に金棒状態だろこれ。
ここまでになると一体どんな攻撃力と攻撃方法なら俺は傷つくのだろうか?
ちょいと気になる。
…いや、傷つきたいわけじゃないぞ? 勘違いしないでくれ。
決してドMとかではないからな?
自身の防御力がどんなもんか興味があるだけだ。
俺がそんなことを思っていると、ベルクさんは苦笑いしながら口を開いた。
「お前本当に人間かよ…。まぁ別になんでもいい。ところでどうするよ? どんな武器にするんだ?」
「さっきも言いましたけど、ただひたすらに頑丈な武器がいいです。見た目はなるべくドラゴンの素材を使ってるような感じがしない、かつ他者に舐められないような外見の武器がいいですね。あとはおまかせします」
「さっきよりも注文が多い気がするが、頑丈か…。それならドラゴンの一番堅い部位を使うか? いや、でもそれだけじゃ結合部分の溶接が難しいな。相性の良い素材は…(ブツブツ)」
俺が要求を伝えると、ベルクさんはどのようなものを作るか思案中なのかブツブツと独り言を言い始めた。
もうすでに色々考え始めているようだ。
それにしても…さらっと人間を否定されたな。
もちろん俺は人間だ。それはステータスが証明している。
ほら…
◆
【神代 司(人間?)】
レベル・・・1149
HP・・・・・5840
攻撃力・・・・5795
防御力・・・・6968(+1000)
素早さ・・・・5820(+1000)
魔力量・・・・12713(+1000)
魔力強度・・・9454
運・・・・・・40
【スキル・加護】
体術 レベル5
剣術 レベル3
槍術 レベル3
斧術 レベル2
魔法・火 レベル18
魔法・水 レベル19
魔法・風 レベル14
魔法・土 レベル14
魔法・光 レベル24
魔法・闇 レベル21
魔法・無 レベル27
成長速度 20倍
無限成長
従魔師
人間の魂
神の加護
【付与スキル】
HP自動回復(特大)
衝撃耐性(特大)
忍耐力 レベルMax
◆
……………え?
【神代 司(人間?)】
人間の隣に? がついてる…。
(´・ω・`) はて?
どゆこと? 説明ぷりーず。
ポポとナナもステータスを覗いていたのか、俺と同じ(´・ω・`)みたいな顔をしている。
お揃いですネ!
…。
冗談はおいといて、それにしてもマジで意味わからんぞ…。だってさっきはこんな表記なかったし。
俺は自分は化け物みたいな力を持った人間と認識してはいるが、人間ではないと思ったことはない。
ステータスは神様が作ったシステムだろうから、そのシステムが俺を人間と認識しないと思ったということだろうか?
…でもじゃあさっき表記されていなかったのはなぜ? ステータスはさっき開いた時と全く変わっていないはずなんだけど…。
これは俺の意識の問題なのか? でも俺は自分のことは人間だと思っているしそれはないハズ。
…謎すぎる。




