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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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21話 異変の予兆

「よー、ツカサ! 帰って来たのか」

「はい、ただいまです」

「ポポちゃん、ナナちゃん、それとツカサちゃんお帰りなさい。今日じゃなくていいんだけどまた依頼をお願いしていいかしら?」

「ああ伐採の件ですか? もちろん構いませんよー」

「ポポちゃ~ん、ナナちゃ~ん! あ~そ~ぼ~♪」

「ごめんね~明日でもいいかな?」

「すみません」


 道を歩いていると色んな人から声を掛けられる。

 挨拶をする人、依頼の話をする人、ポポとナナと遊びにくる人と…様々だ。

 この1ヶ月の間、修行をする傍らで住民のお手伝いの依頼を受けていたのだが、どうやら随分と好評だったのか気に入られてしまったらしい。


 まぁ、ポポとナナの影響が大きいのだろうが悪い気はしない。

 素直にうれしいです、ハイ。


 声を掛けてくる人に返事を返しながら、ギルドを目指す。


「ご主人。随分と人気になりましたね」

「いやいや、お前らの方が人気だろう? 老若男女問わず落としてるくせに」

「人聞きの悪いこと言わないで下さいよ」

「落としてるわけじゃないんだけどね~」

「自覚がねぇから怖いんだよなぁ」


 そんなやり取りをしているとギルドに着いた。

 カランと言う音と共にドアを開けると、そこにはいつもと変わらない光景が広がっている。


 1ヶ月もして慣れたのか、俺が現れても特に静かになったりはしない。一部の人は静かにしてたりするが、これは大進歩だ。


 うんうん。この調子だといいんだけど…。


「ツカサー! 帰って来たのかー!」


 そんなことを考えている俺に、大きな声で話しかけてくるやつがいる。


 相変わらずうるさいやつだ。


「聞いてくれよー! 実はさあ…」


 そう言ってそいつは近づいてくる。

 この声のやつとは2週間ほど前に出会った。




 ◇◇◇




 俺たちが修行を始めて2週間ほど経ったころ、修行の傍らでいつものように住民のお手伝いをしていた時のことだ。


 その時の依頼は家の屋根の修理。

 修理とは言っても非常に簡単なもので、穴を板で塞ぐだけという素人の俺でも特に問題はないレベルのものだった。


 でも…


 俺が屋根の穴を塞ぎ、依頼者に報告をしようと屋根を降り始めた時、そいつは突然降ってきたんだ。


 空から。


「ぁ・・ぁぁぁ・あああああっーーーーーーー! (ズドン!)」


 最初は小さい悲鳴だったのだがそれがどんどん大きくなり、異変を感じた時には既に遅く、それは俺が修理した屋根をぶち抜き家の中に落ちていった。

 最初俺は状況が呑み込めず唖然としていたが、依頼者の悲鳴で我に返り、落ちていったそれのもとへと向かった。


 俺が家の中に入り、落ちてきたそれを確認すると、それは目を回して気絶しており、頭にヒヨコがピヨピヨと浮かんでるのが確認できそうな状態だった。


 見た所20代前半の容姿をしている。…容姿はな。髪の毛は濃い青色をしており、髪型は重力をものともしないかのようにツンツンとはねている。

 〇ラウドみたいな感じだ…。


 服装は銀色の鎧で身を包んでおり、冒険者だとすぐに分かった。

 そして一番特徴なのは耳。人間とは違く長く尖っており、地球の知識だがエルフなのだと気づいた。

 容姿は若く見えるというのはそれが理由だ。恐らく長寿な種族なんだろうし、見た目通りの年齢をしていないかもしれない。




 まぁ、その時の俺にはそんなことはどうでもよかった。

 俺がコイツに感じていたことは屋根をぶち壊されたという怒りのみ。何してくれてんだコノヤローである。

 とりあえず依頼者は混乱していたので、俺は勝手に判断し兵士さんの詰所にコイツを突き出すことに決めた。


 どちらにしろ不法侵入には変わりないしな。


 そいつを詰所に突き出した後、屋根は仕方ないのでまた俺が直した。


 余計な仕事増やしやがって…。




 ◇◇◇




 それが俺とコイツの出会いだ。

 ハッキリ言おう、最悪である。


 ポポとナナも同様の意見だ。


 んで詰所に突き出して数日後になぜかコイツが冒険者ギルドにいたので、文句の一つでも言おうかと近づいた所、「んー? どったの坊や」と言われてカチンときた。

 俺は問答無用で腹パンをかましてコイツを沈めた。


 マッチさんや他の職員の人に色々と聞いたところ、名前はシュトルムというらしい。

 詰所からは冒険者と言う身分が判明したことで釈放されたみたいで、Cランクの冒険者で他国からやってきたそうだ。

 なんでも武者修行と見聞を広めるためだとかなんとか…。武者修行はいいとしてあんなやつが見聞も糞もあるかって話だがな…。

 それにしてもCランクには縁がないなホントに。呪われてんのか俺は?


 気絶から目を覚ましたコイツに事情をしつこいくらいに説明すると、理解したのかちゃんと謝ってきた。

 あれは意外だったな。一応話せば理解はしっかりできるらしい。

 そこから現在は会話程度だが交流がある。



 話を戻そう。



「せめてお帰りくらい言えよコノヤロー」

「あ、お帰り。それでさー…」


 なんともポジティブなことで、俺に沈められたにも関わらずそれを特に気にした様子はなかった。

 この世界に来てからは初めてかもしれん…。ただのバカの可能性もあるが。


 シュトルムは話を続けている。


 俺はというと、それを聞き流す感じで対応している。


 話長いんだよなーコイツ。


 なにやらマッチさんがカウンターからこちらを見ては苦笑している。


 見てるんならなんとかしてくださいよ…。まぁ慣れたけど…。


 あとちなみにコイツが空から降ってきた理由だが、火魔法の上級魔法、『エクスプロージョン』の爆風で吹き飛ばされたかららしい。

 なぜそんなことになったのかは、本人曰く歩くのが疲れたから。

 歩くのが疲れてなんでそうなるんだとツッコんでみたんだが…、シュトルム曰く、爆風を利用して吹き飛ばされればすぐに着くと思ったから…だそうだ。

『エクスプロ―ジョン』が使える事には驚いたが、エルフということを考えると不思議ではないかもしれない。エルフは魔法の扱いが上手いらしいし…。


 ただ、本当にバカである。

 爆風の利用は上手くできたようだが、その爆風の威力や吹き飛ばされた後の着地のこととかをコイツは考えていなかったそうだ。

 思い立ったらすぐ行動に出るタイプらしい。


「ハイハイ、俺やることあるからまた今度な」

「チェッ、いっつもそうだよな~お前」


 付き合ってられるか。てかまだ出会ってからそんなに経ってないだろ。


 俺はカウンターへと移動する。


「マッチさ~ん。依頼報告いいですか?」

「ツカサさんお帰りなさい。もちろんいいですよ」


 俺はこの3日間掛かった依頼を報告する。


「えっと今回は…『竜の種の採取』ですか…」

「はい、こちらになります」


 そしてカウンターに竜の種を置いて証明をする。


「…なんていうかもう驚くのは諦めたんですけど、ツカサさんって確か3日前くらいに出掛けてませんでしたか?」

「そうですよ?」

「行くだけでも3日以上掛かるはずなんですけどね…。まぁいいです。とりあえず完了の手続きをしますからちょっと待ってて下さいね」

「あ、了解です」


 マッチさんはため息を吐きながら報告の処理をする。


 いろいろと言いたいことはあると思うが割り切ってください。俺ももう割り切ってますんで…。




 ガチャッ




 俺が完了手続きをしていると、誰かがギルドに入ってきたようだ。

 ドアの方に目を向ける。


 そこには…全身をローブに身を包んだ人がいた。

 いつもの恰好と変わらないセシルさんである。

 向こうもこちらに気付いたのか歩み寄ってくる。


「ツカサ…依頼はもう終わったの?」

「うん、今帰って来たところだよ。セシルさんも?」

「ん、さっき終わったところ。あとお帰り」

「ただいま。そっちもお疲れ様」


 お互いに言葉を交わす。


「じゃ、ポポとナナ撫でさせて」

「構いませんよ」

「どぞ~」


 突然セシルさんが手を出してそんな要求を言ってくる。最近だといつもこんな感じだ。

 ポポとナナも慣れたようで、俺に許可を求めることもなくセシルさんの手に飛び乗る。


「ん、これはいい。至高の時間」


 そしてセシルさんはポポとナナを撫でている。

 いつもの眠たそうな顔から一転、ほっこりした顔になっている。


 セシルさん…可愛いなぁ。


「お? セシル嬢ちゃんじゃん。依頼終わったのか?」


 セシルさんに気付いたシュトルムがこっちに近づいてくる。


「シュトルム…。そうだよ、さっき終わったの」


 ほっこりした顔のまま、セシルさんは言葉を返す。

 セシルさんもシュトルムとは面識があり、1週間くらい前には護衛の依頼を一緒に受けていたらしい。


「そうか~。何の依頼受けてたん?」

「森の調査の依頼」

「あ~あれね。定期的にやってるなんか面倒くさそうなやつ…」

「そう。偶にはいいかなと思って…」



 森の調査……


 グランドルから南西に向かったところに、とてつもなく広い森林がある。

 その森林はラグナ大森林と呼ばれ、多種多様な生物が生息しており、モンスターも群れで行動するような種類が多い。

 危険度がそれほど高いわけではないのだが、ときおりモンスターの大発生や地脈の乱れによる瘴気の発生などがあるため、その兆候を見逃さないためにこうして調査を定期的にギルドはおこなっている。


 モンスターの大発生が起これば森林近くの村や集落は壊滅してしまうかもしれないし、瘴気が発生すればモンスターの狂暴化や作物への影響が無視できない…。などと色々な事情があるため、難易度はそれほど高くなくても意外にも重要な依頼ではある。




 俺が聞いた限りの話だとこんな感じだ。


 俺はこのラグナ大森林に行ったことないから、今度ピクニックみたいな感じでもいいから行ってみたいんだよね。

 森林浴はマイナスイオンでリラックス効果があるとか聞いたことあるし。偶にはいいだろう。


 俺がそんなことを考えていると、セシルさんが少し真剣な表情をして口を開く。


「何度か受けたことのある依頼だけど、今回はいつもと違った気がする」

「え? どんな感じでしたか?」


 聞き返したのはマッチさんだ。


 反応はやいね。

 まぁ、一大事かもしれないから無理もないが。


「なんていうか、感覚だけど魔力の濃度が高かった気がする。あと結構森の奥の方まで行ったんだけど、動物の死体を多く発見したよ。結構真新しい死体だった」

「そうですか…。もう一度調査をする必要がありそうですね…。報告ありがとうございました。セシルさん」

「ん。今ので報告はいい?」

「ええ構いませんよ。あくまで異変の兆候が感じ取れればそれでいいですから。報酬も少ないですし…」


 雑な処理の仕方だが、この依頼は異変が起きていないかの兆候を感じ取れればそれでいいのだ。

 ギルドは冒険者の報告を聞いて、それから調査専門の職員を派遣する。そして専門の職員の確実な報告をもとに正式に危険かどうかを判断するのだ。

 専門の職員が少ないため二度手間にはなってしまうが、こちらの方が効率がいい。


 異変の可能性がないところに派遣されても困るからな。たまに適当なことを抜かすやつがいるらしいが、そういうやつはギルドの方でチェックしているらしく、点数を減らしたりしてるとかなんとか…。

 正直に生きましょうね。


「じゃよろしく。皆、私これで宿に戻るね」


 手続きを済ませると、セシルさんはどうやら宿に戻るらしく、声を掛けてきた。


 疲れたのかな?


「うん。お疲れ様ー」

「お疲れ様です」

「お疲れ~」

「おう! またな!」

「お疲れ様でした」


 その場にいた全員が口々に言う。


 なんか地球にいたころを思い出すな…。高校の部活の時とか大学のサークルの時とかさ…。

 あぁ懐かしい。


「あ、ツカサさんの方も終わりましたよ。報酬どうします?」


 どうやら俺の方の手続きも終わったらしい。

 報酬は口座に入れるとしよう。


「口座に入れておいてください」

「分かりました」


 さて、俺たちもそろそろ行きますか。ベルクさんのとこ行かなきゃ。


「じゃあ俺もこれで失礼します」

「はい。お疲れ様でした」

「なんだ、もう行っちまうのか?」


 シュトルムが何か言っている。


 行きますけど何か?


「新しい武器が欲しいんだよ」

「暇だし俺もついて行こうかな?」

「却下、仕事しろ」

「即答かよ!? ヒデェな!?」


 シュトルムと一緒に行くのももちろん嫌だが、他の理由としてドラゴンの素材を見られるのはマズイ。


 ドラゴンを倒せるのはAランク以上の冒険者くらいだ。

 それもAランクが数人でパーティーを組んでやっと倒せるかというくらいであり、個人・少数で倒すというのは自殺行為である。

 そのためドラゴンの素材は滅多に市場にも出回らない。


 周囲の人たちは俺たちの実力はある程度知っているが、さすがにそこまで非常識なものだとは幸いにもまだ認識していない。だから素材を俺が持っているとわかれば、流石におかしいと気づくだろう。

 バレたらバレたで割り切るが、気づいていないのであればそれに越したことはない。


 ちなみに俺たちはあれからまた1ランク上がって現在Cランクだ。

 最近なったばかりだが、まぁ、俺たちは論外だ。


「退散退散っと…」


 そう呟いてギルドから出ようとする。


 したが…











 ドクン…












「…?」









 何だ?

 今何か変な感じがした気がする…。


 ……気のせいか…?


 周りを見回しても特に何も変化はない。



 …。

 何だ、気のせいだったみたいだな。

 疲れてるんだろうか?




 後ろでシュトルムが喚いているが無視し、俺はギルドを後にした。

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