20話 一ヵ月の成果
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異世界に来てから…1ヶ月が経過した。
日本ならば卒業のシーズンになっている頃だろうか?
地球とこちらで時間の流れがどれくらい違うのかは分からないが、同じならば3月の半ばに差し掛かっているはずだ。
先輩の方々、お祝いできそうもありません。ごめんなさいね。
それにしてもあっという間だったなぁ。
まるで夏休みが終わってしまったかのような感覚。それが俺のこの1ヶ月の感想だ。
この1ヶ月で、俺たちは自分の力をある程度制御できるようにもなったし、非常に有意義だったと思う。
現在俺はと言うと、空を飛んで移動中だ。
もちろん俺自身に空を飛ぶ力があるわけではなく、変化したポポとナナに乗せてもらっている状態だ。
高さは少なくとも100mくらいはあるかな? 地球で登ったどこかの展望台と同じくらいの高さくらい。
バンジージャンプなどの絶叫系は大好きだったのであまり恐怖はない。遮るものは何もなく、空は非常に快適である。
ただ速度がそれなりにあるので髪の毛がめちゃくちゃにはなってしまうが…。
カツラの人はあまり推奨できない…、取れる、絶対。
ポポとナナはこの1ヶ月の間で長時間の間でも変化できるようになった。
修行を始めてから毎日のように練習していたので、その努力が報われてよかったと思う。何度かモンスターと間違えられてはいたけど…。
その時は誤解を解くのが大変だった。変化できることを誰も知らなかったからなぁ。
説明にめちゃくちゃ時間かかったよ…、今ではいい思い出だけどね。
それはともかく。どうやら変化しても魔力は減らないみたいで、何が変化に必要なのかはわからなかった。
となるとレベルだろうか? あいつらも結構高くなったし…。
ちなみにポポとナナのステータスはというと…
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【ポポ(インコ)】
レベル・・・86
HP・・・・・390(+20)
攻撃力・・・380(+20)
防御力・・・370(+20)
素早さ・・・525(+20)
魔力量・・・491(+20)
魔力強度・・・218(+20)
運・・・・・・50(+20)
※変化時ステータス2倍
【スキル・加護】
魔法・火 レベル5
魔法・風 レベル3
鳥拳 レベル6
鳥の魂
神の加護
◆
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【ナナ(インコ)】
レベル・・・82
HP・・・・・194(+20)
攻撃力・・・184(+20)
防御力・・・184(+20)
素早さ・・・505(+20)
魔力量・・・1174(+20)
魔力強度・・・986(+20)
運・・・・・・50(+20)
※変化時ステータス2倍
【スキル・加護】
魔法・水 レベル14
魔法・土 レベル11
鳥の魂
魔力の理解
神の加護
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コイツらに知性があってよかったとつくづく思う。
見た目が可愛いから勘違いするが、もし野生でこんなのがいたら即座に逃げるだろ。しかも変化したらドラゴンも倒せるレベルの強さだし…。
お前ら自立してもいいんじゃない? とすら思い始めている。
いや、出て行っちゃ嫌だけどさ。そしたら俺が追いかけるぞ。地の果てまでも…。
2匹ともここまでのレベルになると、ステータスの差が歴然としている。
やはりポポは前衛向きであり、ナナは後衛向きだ。
ポポは魔力量や魔力強度の伸びが良くないので途中から魔法の練習をあまりしなくなったが、それでも中級の魔法を少し使える程度にはスキルレベルもあるし、人間でいう魔法剣士みたいな感じだ。ステータスもバランスが良い。
基本は接近しての肉弾戦が主になる。
そしてそんな戦闘スタイルのせいか『鳥拳』とかいう変なスキルが付いた。
説明欄には【鳥が身につける事の出来る武術】と書かれていたので、人間には無理なのだろう。
変なの…。
ナナはというと非常に極端なステータスになってきている。レベルの割にHPや攻撃力、そして防御力は低い。いわゆる紙装甲である。
…まぁそれでも十分高い部類に入るが。
んで魔力量と魔力強度がアホみたいに高い。魔法特化型だなこれは。
ここまで極端だと戦闘では少々心配に見えるのだが、そんなことはなかった。
ポポもなのだが、コイツらめちゃくちゃ素早い。早すぎて大抵のモンスターは攻撃を当てることさえできないくらいなのだ。
しかもそのスピードで魔法を連発できるんだから相手はたまったもんじゃない。
魔法使いの打たれ弱さを十分すぎるくらいにカバーできているのである。
恐ろしいよホント。
それと魔力の理解は『魔力の扱いが上達し、魔法の威力が増加、魔力消費量が減少する』だそうだ。
魔法使いには涎もののスキルである。
ちなみに俺はこのスキルを持っていない。
【成長速度 20倍】を持っている俺が取得できていないことを考えると、もしかしたら固有スキル的なものかもしれない。
もしくは俺は魔力について絶望的に理解がないから習得できないという可能性もある。
まぁそんなことはないと思うんだが、可能性はゼロじゃない。
そして2匹とも持っている『鳥の魂』というスキル? なんだが、これはその種族がある一定の強さまで到達すると取得できるものらしい。恩恵は今のところ特にない。
称号的なものに近いかもしれないが、それ以外にも何か意味があったりするのか…?
考えても分かんないや。
「もう少しで着きますね」
「そうだな、少しグランドルの城壁が見えてきた。あと5~6分くらいか…。いやぁ長かったねぇ」
「今回はちょっと大変だったね~、まさかドラゴンが3体も出るとは思わなかったよ~」
「そんな情報は特に聞いてなかったんだけどなー。ま、随分と山奥の場所だったし、たまたまじゃないか? 情報だってリアルタイムで把握できるわけじゃないだろうし」
「そうですね。ですがご主人が私とナナだけでなんとかしろと言った時は驚きましたよ。死ぬかと思いました」
「それについては確かにスマン。だけどいい経験になったろ? 結果的には倒したんだし」
「ご主人なら一瞬でしょうに…」
「それじゃあお前らの修行にならんからな。今回で自分たちの実力がどんなもんか分かったんだしそれでいいじゃん」
「それはそうですが…、はぁ。次はないことを祈ってますよ」
「お腹減ったな~」
今回俺たちは、とある依頼でグランドルから離れた山奥に行っていた。
グランドルからはるか北に向かった所にその山はあり、名前は特にないそうだが冒険者の間では『魔滅の山』と呼ばれている。
なんでも、理由は分からないが魔法の発動が上手くいかないことからそう呼ばれるようになったらしく、実際に俺たちも発動したところポポだけはうまくいかなかった。
俺は魔法の発動を邪魔されている感覚はしたが、無理矢理発動してた。まぁゴリ押しってやつだ。ナナは魔法が得意だから問題なくできていたが…。
これが俺とナナの差なのだろうか?
くやしい。
んで、そんな場所に何をしに行ったかというと、秘薬に使われるという『竜の種』を採取するためだ。
なんでも標高の高い一部の山にしか生息していないため、あまり市場に出回らないことから、たまにこうして冒険者に採取の依頼がくるようだ。
『竜の種』という名前だが竜は特に関係なく、竜の鱗のような質感をしていることからそう呼ばれるようになったらしい。
確認したいと思ったそのとき、たまたまはぐれ竜3体と遭遇したので、ちょうどいいやということでドラゴンを討伐。んで実際の鱗と確認をしてみたが本当にソックリだった。
どれくらいかと言うと、目隠しされて手だけでどちらが何かを判別しろと言われたら、間違いなく分からないというくらいには似ていた。
…あと、向こうから先に仕掛けてきたから正当防衛な? 俺たちは敵意を持たれたとき以外は殺さないぞ?
一応モラルはあるつもりだ。
倒した竜は、そのまま『アイテムボックス』に入れてある。3体分は結構な容量だが、『アイテムボックス』には制限がないのか特に問題はない。
あら不思議。
『竜の種』は無事に採取できたし、おまけにドラゴンの素材も大量に手に入った。
3日間に渡る依頼だったが、非常にラッキーだと思う。帰ったらベルクさんに頼んで武器でも作ってもらおうかな? ドラゴンの素材をふんだんに使った頑丈なやつをさ…。
俺が本気で武器を扱うとすぐに壊れちゃうので、特殊な効果とかとびきりの性能はいらないから絶対に壊れないような武器が欲しい。マジで。
今回の依頼でもだが、俺はこの1ヶ月で何度も武器を壊している。
レベルの高いモンスター相手に質の低い武器で戦っていたのも原因ではあるが、俺の扱う力では大抵の武器は耐久性が足りていないようだ。
俺が気を付ければいい話なんですがね…。でもこれがまた難しかったんですよ。
そのため、ほぼ素手で戦うことすらあった。
まぁそれでも別にいいんだが地味に痛いし、直接触れられないような相手が出てきたときは困るし、やっぱり武器は欲しい所だ。
それに壊して買いなおすたびににベルクさんからの視線が痛くなっていくし…。
あれは怖い。
そんな武器すら壊してしまう俺のステータスがこちらだ。
…。
◆
【神代 司(人間)】
レベル・・・1149
HP・・・・・5840
攻撃力・・・・5795
防御力・・・・6968(+1000)
素早さ・・・・5820(+1000)
魔力量・・・・12713(+1000)
魔力強度・・・9454
運・・・・・・40
【スキル・加護】
体術 レベル5
剣術 レベル3
槍術 レベル3
斧術 レベル2
魔法・火 レベル18
魔法・水 レベル19
魔法・風 レベル14
魔法・土 レベル14
魔法・光 レベル24
魔法・闇 レベル21
魔法・無 レベル27
成長速度 20倍
無限成長
従魔師
人間の魂
神の加護
【付与スキル】
HP自動回復(特大)
衝撃耐性(特大)
忍耐力 レベルMax
◆
えと、なんかスンマセン。
人間辞めたかもしれないです…ハイ。
なんていうか、『異世界のジャンパー』がなくても困らないくらいに私強くなりました。
各ステータスに関しては4桁はまだ分かります、4桁は…。でも魔力量の5桁ってなんでしょう? 桁が一つ多い気がするんですけど気のせいでしょうか?
まぁ【無限成長】と【成長速度20倍】の影響でこんなことになってるのは分かるんですけどね…。
あと【忍耐力】のスキルの影響も大きいです。いくら面倒くさい修行してても全然辛くなかったです。
同じ作業を延々とやっていても1回1回がすごく新鮮に感じられて…、気づいたらこんなことに…。
ただこれだけ修行しても、魔法のスキルレベルはカンストしませんでした。一体いくつまで上昇するんでしょうね…(遠い目)。
あのギルドで借りた本の魔法は全て使えるようになりましたよ、ハハハ。…はぁ。
とまぁ、そんな感じ。
自惚れではないが、もう負ける可能性はないのではないだろうか?
そしてこの力を使ってこの世界を支配する! とか、ハーレムを形成する! とかは考えちゃいない。
…ハーレムは少し魅力的かもしれんが、俺は元々日本で平和に暮らしていた一般人だ。強要して人が嫌がるようなことをするのは嫌だし、されているのを見るのも嫌いだ。普通の人と同じ感性くらいは持っているし、そこだけは絶対に変わらないだろう。
だからそんなことはしないと誓える…と思う。
…。
とっとりあえず、この力に溺れないようにはしよう。それだけ守れればなんとか大丈夫な気がするし、うん。
と、そんな俺を見てナナが声を掛けてくる。
「ご主人~? さっきから何ブツブツ言ってるの~? ハゲちゃうよー?」
ありゃま、どうやら声に出ていたらしい。
意外と気づかないもんなんだなぁ。
…つーかハゲねーよ!
親父は確かにハゲてたけど、俺まだ20歳だぞ? まだ平気じゃい!
「いや、なんでもない。あとハゲないから」
「ふ~ん、気にしてるくせに~」
「…まぁ否定はしませんけどね!(プイ)」
俺はそっぽを向く。
この手の話は嫌いだ。だからおしまい!
「ナナ。その辺にしておきなさい。それと、もうすぐ地表に降りますよ。ご主人つかまってくださいね」
「おう? はいはいっと」
俺はポポの言葉を聞きポポの背中にしがみつく。
くだらない話をしているうちにどうやら門のすぐ近くまで来ていたようである。
まだ日は暮れていない。
グランドルに入ったらできることはやっておこう。
そうして以前薬草を狩りつくした草原に降り立つ。
狩りつくしてしまった薬草だが、それは数日でどうやら元にもどったらしい。俺の足元には薬草が生えている。
よかったよかった。
あと、俺の薬草での稼ぎを聞いて実際に真似をしたやつがいたのだが、そいつはどうやらあまり稼げなかったらしい。
俺が狩りつくしてから日が浅かったのも原因ではあるだろうが、それでもそんなに状態の良い薬草は生えていなかったとか…。
やっぱりあれは【神の加護】の影響だったようだ。
…悪いね。
変化を解いたポポとナナを肩に乗せて俺は門へと歩く。
門に近づくと、声を掛けられた。
「やっぱり君だったか。依頼は終わったのかい?」
異世界に来てから初めて会話をした兵士さんである。今日はどうやら北門にいたようだ。
「ええ、色々と予定外のこともありましたが滞りなく」
「そうかそうか。疲れてるとは思うけど一応身分証を見せてくれ。義務だからね」
「はい…どうぞ」
職務を全うしつつこちらの状態を把握。そして気遣いの言葉を掛けてくれる兵士さん。…アンタは最高だぜ。
ホモじゃないが惚れちゃうよ? そういう気遣いマジ大事。
「はい大丈夫だね。長旅お疲れ様。そしてお帰り(ニコ)」
キャーーーーーーーーッ!! その笑顔!! 女の子だったらイチコロですよ!
そのイケメンスマイルは反則でしょうに…。
これだから無自覚は困る。
「(ぐはっ)…ただいまです」
内心で吐血のモーションをとりつつ返事を返す。
そうして俺はグランドルに3日ぶりに帰って来たのだった。




