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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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208話 天の裁き

 ◆◆◆




「フッ!」

「ちっ! 駄目か…!」


 現在は日も上りきった昼真っただ中。


「っ!? しまっ…!」

「……俺の勝ち、だな」


 ジークの横薙ぎした剣を眼前スレスレで躱し、そのまま持った剣を自由に操ることのできない懐へと潜り込んだ俺は、ジークの腹へと拳を押し当てて勝ちを宣言した。


 俺は今、ジークといつもの手合わせ中なのである。

 ジーク協定に則るなら、こんな昼間に今手合わせしているのはおかしい。それにもかかわらず手合わせしているのは何故なのか?

 それには深い事情があるから仕方ないのです。




 あの、昨日ほぼ一緒にいたせいかアンリさんがちょっとヒートアップしちゃいましてね? 夜皆が寝静まった頃に俺の部屋に来て、そのまま布団に潜り込んできたらしいんですよ。

『らしい』ってのは俺がアンリさんが潜り込んできたというのに全く気付かなかったからなだけで、俺がその事実に気づいたのが朝起きた時だ。

 その日は丁度ジークとの朝ファイティングがある日だったもんでタイミングが悪かったと言うか……


『……今日は遠慮しとく』

『いや!? 違うから!?』

『zzz』


 朝俺を叩き起こしにこようとしたジークにその姿をガッツリ見られるってことがありまして……いやん。


 ジークは一瞬固まった後、そのまま俺を白い目で見ながら、かつ若干気まずいような反応で部屋を出て行ってしまったわけで、俺の弁明はその時届くことはなかった。

 そのため、ジークになぜそうなったのかを一から説明して理解を得てもらった後、こうしていつも通りの手合わせを特例で昼間に行っているわけである。


 ……間違っても深い情事があったとかじゃないんだからね! 勘違いしないで欲しいんだからね!

 アンリさんの寝顔はそら実に幸せそうな顔でしたけども、断じてそういうふしだら行為はしておりませぬ。

 第一ここシュトルムの家ですからね? しかも王様という……。そこにお世話になっている立場でそんなふしだらなことなんかしたら目も当てられないって話ですよ。

 来賓は上品な礼節と振る舞いと常識が必要ですから。ふしだらなんて超NGですから。


 ま、朝チュンに似た状況は胸がときめくものではなく、戦慄が走るものだって初めて知ったわ。

 ぶっちゃけホラーに近いものを感じたのは内緒。アンリさんがそんな行動に出るとは予想してなかっt……いや、一度一緒に寝てるから可能性はあったかもしれないけども。




「オイオイどうしたんだ? なんかパターンが単調化してね?」

「……そうか?」


 朝の回想も程々に、俺はジークと手合わせをしていて思ったことを何気なく尋ねる。

 一度お互いに構えを解き、息を吹き返しながら距離を取って。


「お前らしいっちゃらしいんだが……流石にくどくね?」


 俺が感じたことは、ジークの動きが最近やけに単調になっていて、仕掛けてくる攻撃が本来のジークのスタイルからブレていることについてである。

 これまでに散々ジークと手合わせをしてきて、コイツの動きについて行くのは相当骨が折れると思っていたのだが、ここ最近はそれがない。

 あの本当に死ぬんじゃないか? という恐れが、今じゃ「あ、なんとかなるわ」くらいになっていることから、それは確かだろう。

 勿論、ジークの動きにこちらが慣れてきて、そしてジークの思考や行動傾向が少しずつ分かってきているのは否定しない。更にどんなクセがあるのかも分かってきているから、それなりにジークとの手合わせの数をこなしてきているから対処できているとも言える。


 だが、やはりジークだからこそ不思議に思う。

 コイツの戦闘センスは化物じみている。ヒナギさんが努力型の天才なら、ジークは戦闘においての天才である。

 確かに技量も相当なものではあるものの、魔法を使えずとも身体能力だけでここまで戦えるような奴はジークを除いて他にいないと思わざるを得ないから。


 第一この世界においてはスキルが何かと発動し、そしてその恩恵を受けるというシステムになっているはずであるのに、ジークは少々おかしな点がいくつもあるのも事実。

 それは、俺が勝手に基本的なスキルと分類しているもの……【剣術】や【体術】といった武術系のスキルを一切持っていないということである。

 ジークが持つスキルは、【刃器一体(ソウルアーム)】、【自動強襲(オートアサルト)】、そして最近知ったのだが【グロウアビリティ】の3つのスキルだけらしい。

 であるというのに、ジークは【刃器一体(ソウルアーム)】から出したありとあらゆる武器を自らも自由自在に、それこそ達人並みに扱えるのは……少々不思議というものである。

 それが【刃器一体(ソウルアーム)】の効力なのか、それとも【グロウアビリティ】による追加効果なのかは不明だが、そもそもこの場においては常時発動型を除いたスキルの使用は禁止のため考えるだけ無駄である。


 反射神経も尋常ではないが、それ以前に気配察知が最早予言に近いのだから……勘などというもので済ませるのがおこがましい程だ。

 天性のものを持ちつつ、それに伴った実力も持っている。スキルも無しに。


 ホンマ何者やねん……。

 もしかしてフェルディナント様が言っていたフェリミアの一族が関係しているんですかね?




 まぁ、フェリミアの一族はともかく、俺がジークに対して余裕を持って対処可能になってきていることが不思議で仕方なかったのだ。

 俺はジークと戦って以降、特にステータスの変化がないのだから。




 俺が今一度思考を試みていると……


「……なぁ、お前気づいてるか?」

「? 何が?」


 ジークが若干息を乱した状態で俺へと確認するように聞いてくる。

 俺はそれを、今自分が考えていた事かと思ったのだが、多分違うだろうと思って知らぬフリで対応する。


「……やっぱ気づいてねーのか。この短期間の間、しかも無自覚にそれとはな……。親父さんの言わんとすることが今一度分かるってもんだぜ」


 俺の返答にジークは何を思ったのか、フェルディナント様の名を持ち出してそう口にした。


「言っとくが、俺ぁこれでも割と本気でやってんだぜ? それこそお前と初めて戦った時並みにな……。お前が強くなってんだよ」


 ジーク曰く、ジークはこれで本気で戦っているという。そしてジークに何か変化があったわけではなく、俺に変化があったのだと……。


「え? 俺はてっきりジークが手加減とかしてると思ってんだが……」

「アホか。俺が戦いで手を抜くわけねーだろ。お前との数少ない本気の戦いでそんな無駄なことするわけあるか」


 俺の疑問はジークに一蹴されてしまう。


 ……というか、言われてみれば確かにそうだ。この戦闘凶のジークが手加減なんてことをするわけがない。

 ただ、俺にとっては数多い戦いに入るくらいなんですけどねぇ。百戦錬磨の君にはやはり物足りないか。


「……? でも最近の俺は特にステータスに変化があるようなことしてないんだが……」

「そうなのか? でも妙に動きが洗練化されてね? お前……」


 俺がジークに対し感じていた疑問とは別に、ジークもまた俺に対して疑問を持っていたようである。

 目を丸くさせ、珍しく驚いた顔をしている。


「洗練化ねぇ……あんまし実感ないんだけど。第一【体術】に関しては上限越えてるからこれ以上上がりようがないはずだし、お前と戦った時とあんまし変わってないだろ」

「そんなわけあるかよ。子弟関係ばりの差が出てんだぞ?」


 それは知らねーよ。


「はぁ? 流石にそれは盛りすぎだろ」

「……剣すら使わなくなってる癖にそれを言うか」

「あ、そういやそうだな。言われてみれば……」


 ジークに言われ、ハッとなる。

 思えば相対する際に今までは剣を取り出していたことを失念していた。いや、すっかり忘れていたと言うべきか……。

 武器を持っている奴に対して当たり前のように素手で戦っていることがそもそもおかしかった。


「でも、ただ単純にジークに慣れたとかじゃね?」

「それは俺には分かねーけど、お前の【無限成長】ってそれを覆すモンじゃねぇの? 無限に成長できるんだろ?」


 ジークは真面目な顔で、俺の持つ【無限成長】のスキルを指摘するが……


「え? それってレベルが無限に上がるってことだと思ってたんだが…」


 俺はてっきりレベルの上限がなくなることを意味していると思っていたものだから、盲点を突かれたような気持ちになってしまった。


 確かに……その可能性は否定できんけど……。


「お前でもその辺分かってないのか……。まぁ、それでこそって感じだから別にいいんだけどよ」

「?」


 ジークは一人で満足したように、そしてもう既に気にしていないかのように納得してしまう。しかし俺は何も満足するに至っていないんだが……。


 だがまぁ、それは一旦置いておこう。


 それよりもジーク君や…


「ジークの言われたことも確かにごもっともだけどさ、分からないことがあるなんて普通だろ。そんなこと言ったらお前の存在が分からないってモンだろ?」


 フェルディナント様と話した時もそうだったけど、君のその強さの秘密も不明なままなことを完全に失念しているな? お馬鹿さんめ。

 俺のそんな些細なスキル事情なぞ君に比べたら遥かに解明優先度が低いってもんですわ。

 それに俺は異世界人なので、そこら辺の常識が通常と異なっている可能性があるんですよ? 

 俺は特別ではないけど、異質ですしおすし。


「……それもそうか。言われて見りゃ確かにそうだな」

「だろ?」


 ジークが俺の言うことに納得したのか、一瞬考えるそぶりをした後、神妙な顔つきに変わる。

 しかし…


「久しぶりにお前に関心したわ」

「オイ」


 その最後の一言いらねー。


 それから続けて…


「でもその一言でまとめた気になってんじゃねーよ。親父さんも言ってただろ? 大抵のことには理由があるってな……。人の事言えねーがお前も自分の事だろう……もう少し疑問に持てや。馬鹿か」

「……」


 だからその最後の一言が余計なんですがそれは……。


「……馬鹿ってお前に言われたくないんだが?」

「うるせぇ馬鹿。そんなら馬鹿は馬鹿なりに馬鹿な頭で馬鹿な回答でも考えてろ。この馬鹿」

「無駄に馬鹿って言いすぎじゃね!? よく言えるなそんなに!?」


 何度も馬鹿と言われてカチンとくるものはあったが、ここまで一気に馬鹿と言えることの方に俺は関心が向いたため、そちらに驚いた。

 自然な会話の流れでこちらを理不尽に非難するとは……ジークは知恵のある奴だと認める他ないではないか。




 ……フン! まぁいい。


「……なぁジーク。ちっと話変わるんだけど……『ノヴァ』の連中にこのパーティで対抗できそうな人ってさ、俺とお前以外だと……誰がいる?」


『ノヴァ』が現れたことで幸先が不安になっていたこともあり、確認がてらジークに聞いてみたのだが…


「チビ助とチビ子もあの状態なら問題ねぇけど、後はセシルくらいじゃねぇか? 次いで姉御、旦那って感じだろ。……まぁ、姉御は時間稼ぎが良いとこだろうがな……」


 ……とのことらしい。

 ジークはヒナギさんの名を持ち出した辺りから顔を曇らせて、悩んでいるような表情を見せた。

 自分達の仲間を悪くは言いたくない。しかし、実際の戦力差を知っている手前嘘をつくわけにもいかない。相手が『ノヴァ』だからこそ、事実を仕方なく伝えているように見て取れる。


 だが、これは俺も分かっていた事である。あくまで確認のつもりで聞いただけだったので、ジークにいらぬ気持ちを抱かせたことは悪かったと思う。




 ちなみに、チビ助はポポのことであるが、チビ子とはナナのことである。

 どうやらジークにとって2匹はチビという印象らしく、それ故のネーミングらしい。


 ……大きくなったら一番大きくなる2匹なんですけどね。でも食事の量は掌サイズで十分という驚きと不思議。実に低燃費な従魔ですこと……。

 コストパフォーマンス最強と言っても過言じゃない。


「……やっぱそうなのか。セシルさん……いや、天使ってさ、皆それくらい強いのか?」


 最強という言葉が出て来たので、もう一人最強と言われしお方の方も気になるところ……。

 俺自身の不安を一時拭いさる目的も兼て、そちらに話をシフトチェンジすることにしよう。


 今は既に当てはまらないとはいえ、セシルさんの種族である天使もまた、過去には全種族最強と名高い種族である。

 数が少ない代わりに個人で強大な力を保有していたと聞いていたが、それはどのくらいの強さなのだろうか? 一応セシルさんが『夜叉』と対抗できたと聞いているので、セシルさんが『ノヴァ』に対抗できる程の力を持っている=天使は皆同じ? っていう図式が頭に出てきてしまったわけだ。

 その辺の事実確認をジークには聞いておきたいところである。


「さてな。セシルが長い歳月で培ったのかもしれねーし、はたまた俺らと同じで生まれ持った魂が強いのか……その辺は分かんねーよ。……つーか、まだ聞いてねぇんだろ? その辺の事も含めてよ」

「だな」


 俺はジークの言葉に頷く。


 ジークが言わんとしていることは一見中身のない発言に思えることだろう。

 だが、俺達が『安心の園』で話した時の会話を考えれば、何を言っているのかは当たり前のことのように理解できるというものだ。

 セシルさんがまだ自分のことについてを話してきていないだろ? そう言っているに違いない。


 そういうわけで、どうやらジークでもその辺はよく分からないらしい。

 一応ジーク自身の推測を答えの代わりとして言ってくれているので、今はそれを採用しておくことにしましょうかね。

 考えて分からないことはしゃーない。一旦頭の隅に追いやって、気づいた時にまた考察すればよし。後はセシルさんが話してくれるのを待つだけだ。


「じゃあ待ってろよ。アイツは結構平常心装ってるが内面はそうでもないからな。色々と整理したいことがあるんだろ」

「セシルさんが?」


 ジークがやれやれと苦労を掛けられているような態度になったので、それも拍車を掛けて俺に驚きをもたらせることに繋がった。


「アイツも人だぜ? 種族が違くとも考えることは一緒だろ。今まで1人で過ごしてたんなら、長生きしてるからってそこらへんが成長してるかは分からねーしな。結構動揺もあるんだよ」

「そ、そうなのか」


 ジークは人の魂の揺れ動きを確認できる。もしかしたら、セシルさんの魂が俺達の表面上見ているセシルさんとは違っていることを既に知っていたのかもしれない。


 でもそうなると俺も含めて他の人達も見られてるってことになるんですが……ジークのエッチ。

 ……あ、でもそうなると心の見えるセシルさんの方がエッチってことになるのか? 覗き放題ってわけだしな。

 いや待てよ? 大雑把に見えるだけとか言ってたからそこまでの違法性はない可能性もある。それに覗き放題っていう点はジークも一緒だ。

 そうなると魂……いわばその人の全てを見ることのできるジークの方がスケベということになるんじゃないのか!? コイツ…重度のムッツリ野郎だったのか…!


 例えるなら、セシルさんは透視で下着まで見ることができて、ジークは全裸を見ることができるみたいなものだろう、いやそうだろう。

 ジーク、不潔ですよ。君にもそういうイヤらしい側面があったことを始めて知ったよ。

 やっぱ君も男の子なんですねぇ……実に思春期(せいしゅん)してるじゃないの。


「……なるほど、ジークも変態というわけか」

「あ? いきなり何抜かしてんだてめぇは。突拍子もねぇこと言ってんじゃねーよ。喧嘩売ってんのか?」


 怒るなっての。でも……その怒りたい気持ちは分かるから別にいいけどね。


「うんうん。そうやって人の言うことを否定しようとするところ、俺も昔あったから分かるぞ。なんか……隠してた事実を真に受けて反発したいだけなんだよな? 懐かしいわ~」

「いや、別にそんなんじゃねーんだが?」

「否定するだけ事実に聞こえてくるぞ。認めろよ……別に俺はそれでいいって思えるし」

「お前が脈絡も意味もなく吹っ掛けて来たことに突っ込んで何が悪いんだよっ!」


 ジークの怒号が俺の耳に入っていき、そしてそのまま反対の耳から出ていく。


 今は怒号すら微笑ましい。実に思春期の弊害である反抗期に似た状況を体現するジークが子どもにしか見えないっスねぇ。

 そしてそれを悟らせる俺……マジ大人。大人が子どもを導くという素晴らしい光景が今ここに在るってもんです。

 世界のジャスティスが今ココに集結してますよ皆さん。俺の有志を見届けてくれる人がいないのが嘆かわしいよ。




 ……けど流石にこの辺で冗談はやめておきましょうかね。これ以上はジークに半殺しにされそうだし。


 ジークの目を見れば今まさに獲物を狩るような目をしている。これは当然俺がアホなことを連発したが故の反応なので当然であるが。


 あの……僕は美味しくないし栄養ないし黒くて色合い悪いし身も少ない糞チビ助ですからやめてくださいお願いしますなんでもしますから。




 ……と早口で命乞いをしておく。

 これにてジークと和解できました。


「とまぁ、今のは流石に冗談だけど……お前の口からそんな理解に溢れた言葉が聞けるとはねぇ。お兄さん感慨深いよ」


 そして即座に話を変えるに尽きる。

 話題を変えれば今の突発的な怒りは収まることだろう。一瞬でもいい……相手の怒りを鎮めさせられればこちらの勝ちだ。


 流れを変えるってのはこういうことを言うのさ!


「あ? お前がお兄さん? 笑わすなボケ。子分か舎弟がいいとこだろ、見た目も性格も」

「(ピキッ)」


 ムッ。


「い、いやいや、人を見た目で判断するその発言はあまりよろしくないぞ。俺は生まれ持った身体がコレなだけだし」

「は? 外見抜きにしたって昨日のお前はまさしくそれだろ? パシリと何が違う? 小遣い稼ぎのためにお使いに行くガキにしか見えねーが?」

「……」


 ジークに言われ、昨日の自分の姿を見つめ返す。


 昨日の俺といえば……日曜大工やって木々の手入れの手伝いやって~、その後に魔道具に魔力の補充をしてから馬の散歩を不慣れな手つきでやって~、街の外に薬草の採取をして終わった後……体格の良いムキムキエルフのガチムチさんと一緒に腕相撲してました。

 そんで結局最後に女の子とシュトルムについてのお話しして終わりだったはず……。




 うん、否定のしようもねーくらいにそのまんまじゃないですかヤダー。




 酷い言い方をすればまさしくその通りだという事実に打ちのめされました。

 的を得ているのはすごいし、事実に対ししっかりと理解を得ていると言える。


 でもさ、その辺を思いやりとか気遣いとか……心ってのが垣間見える要素でオブラートに包むってことをしてくれないのはいただけませんな。ぐすん。

 第一今回に限っては俺慈善事業みたいなもんで、金銭が全く発生しないんですよ? 一応街の人達への認知って対価があるわけですけども。


 それでもなんだろう……今日のジーク口悪い。※自分のこと棚上げ

 今朝の出来事で不機嫌になったのかな? 実際のところ分かんないけど。※今さっきの自分の発言をなかったことにしています

 でもジークは色恋とかそういうのに無関心らしいからなぁ。別にいいじゃんよー。※そもそも関係ありません











「「っ!?」」











 そんな時だからこそ、そんな何気ない会話をしている時だからこそ、唐突に異変は訪れるのかもしれない。

 森の中とはいえそれなりに開けた場所だから分かったが、空が一瞬光ったように閃光が走った。それと何かが爆ぜるような音も……。

 ほんの一瞬の閃光ではあったが、雷に近いそれに気づかないわけがない。

 俺とジークは即座に音の合った方向に首を向ける。


「何だ今の音は……」

「しかも光ってたみてーだが…」


 明らかに通常とかけ離れた何かが、今起こったのは確実だ。

 雷雲があれば雷の可能性があるのは分かる。だがイーリス上空にそんなものは確認できないし、その線はあり得ない。

 ならば今の雷に似た音と閃光は一体…?


 すぐさま俺達は見渡しの良い木の上へと跳び上がり、状況を確認する。

 ジークは木の上に乗っかるように陣取り、俺は『エアブロック』でジークよりも高い位置から……目の前に広がる光景に目を奪われる。


「なんだよ……あれ……」

「マジかよ……!」


 ここからやや離れた地点に向かって、バチバチと光を放ちながら空から電撃のような現象が飛来していたのだ。その電撃の厚みはここからでも相当大きいことが分かる程であり、空から巨大な槌が振り下ろされている錯覚さえ覚える。

 ただ、その電撃は地にあたる前に上空で止まっている。どうやら何かにぶつかってその動きを止めているらしく、そのぶつかっているものを貫く、或いは壊そうとしているかの如くその力が緩まることは無い印象だが……。

 電撃の発生地点にはなにやら赤みがかった魔法陣に似たものから放出されているようで、それが自然現象から来るものではないことは理解できた。




 異変は、突然やってきた。

 イーリス大陸に来てから4日目の昼のこと。




「っ……ジーク! 戻るぞ!」

「ああ! 嫌な予感しかねぇっ!」


 目の前に広がる、イーリスの景観からは想像できない光景。

 目に見えない事態が今は目に見える別の形となって表れていて、胸が締め付けられるような不安がせりあがってくる。




 皆……!




 俺とジークはそれ以上言葉を交わすこともなく、なりふりかまわずに全力でそこに向かったのだった。

次回更新は木曜です。

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