19話 ランクアップ
「ちょっとやりすぎたかもしれないが…、まぁ無事に終わってよかった。お前らの方はどうだったんだ?」
歩きながら、俺はポポとナナの方はどうだったのか聞く。
「こちらは特に問題ありませんでした。途中何度かスライムが出てきましたが、瞬殺してやりましたよ」
「ね~」
どうやらこちらも無事に終えたようだ。
もう、というより最初からだが、スライムじゃやはり相手にならないのでそろそろ別のモンスターと戦うべきだろう。
これじゃ戦闘の練習ができん。
「そうか…。それとダグさんは何しに草原に出たんだ?」
これは気になっていたことだ。
昨日結構な時間あそこにいたが、あの草原は特に何もないはずだし、どんな目的でダグさんが草原に出たのか俺には分からなかった。
「ああそれなんですけど、どうやらモンスターの生体調査だったらしいですよ? 昨日から今日にかけてスライムが激減したことに異変を感じたらしいです。 …十中八九私たちが原因でしょう。誤魔化すのが大変でしたよ…」
「マジか…。それは、なんか悪いことしたな。ってかあの人そんなことしてるんだな…。意外だ」
「ええ、私も最初は驚きましたよ。ですが調査の仕方が素人目に見ても本格的でしたし、嘘ではないと思います。…人は見かけによらないですね」
「だよな~」
俺たちはそんなやり取りを交わす。
ダグさんは意外にもモンスターの生態調査をしているらしい。
仕事だろうか? ハンマーを振り回してそうな体格してるのに…。
テリスちゃんとの約束もあるし、今度機会があれば聞いてみようかな。
「ご主人の方はどうだったの~? 話を聞く限りだとあの子に魔法を教えていたみたいだけど~?」
「ん? ああ、そうだぞ。魔法が苦手だったみたいでな、基礎から色々教えてたんだよ。そしたらちゃんと使えるようになった。…ちょいとやりすぎたけどな」
「へ~?」
「お前らにも言っておいた方がいいな。実は…」
俺はさっき経験した魔力循環の重要さをポポとナナに話す。
そしたら2匹とも驚いてた。
まぁそりゃそうだ。普通だと思ってやったことが実は凄いことだったのかもしれないのだから…。
「なんとそんなことが…。魔力循環…これは黙ってた方がいいでしょうね。ご主人の判断は間違っていないでしょう」
「ん~? そうだったんだ~」
ナナは分からんが、ポポも俺と同じで黙っておくことに賛成のようだ。
「ああ、これは秘密だ。くれぐれも他言はしないようにな」
「はい」
「りょーかい」
「…じゃあこの話は終わりな。次の依頼にいって、ちゃっちゃと仕事しようぜ! まだまだ依頼はたくさんあるんだ」
そうして俺たちは次の依頼場所に向かったのだった。
◆◆◆
「また頼むよ~」
「ええ、何かあったらギルドの方に言ってくださいね~」
依頼人に手を振る。
今のでダグさんを含め6人目の依頼者だ。
「くあぁ~! 疲れたなー。そろそろギルドに戻るか」
俺は背伸びをしながら口にする。
辺りはもう薄暗くなっており、建物の窓からは光が零れはじめていた。
随分頑張ったと思う。
「今日は結構頑張りましたね」
「疲れたよ~。お腹減った~」
2匹も流石にお疲れのようだ。声に少し元気がない。
「ああ、戻ろう」
俺はそう言ってギルドの方向へと歩き出した。
しばらく歩いてギルドに着く。
中に入るとどうやら酒を飲んでいるものが多くおり、大きな声で騒いでいる。
ちょっとうるさいな。
こっちの世界に来てからは酒はまだ飲んだことはないが、地球では大学の飲みやら親父に付き合ったりで結構飲んでいた。
ちなみに日本酒が好きだ。あの匂いや味はたまらん。こっちの酒はどんな感じなんだろうか?
そんなことを思いながらマッチさんの受付に向かう。
ん? 皆の反応はどうかって?
もちろん俺を視界に入れたら黙ってたよ。ただ手を出さなければ害はないと気づいたのか、昨日ほどの静けさではなかったけどな。
「ツカサさん、お疲れ様です。随分遅くまで依頼をやっていたんですね?」
「はは、ええ少しはりきっちゃって…依頼の報告をしてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。あと、こちらから報告することがありますので…」
「報告すること?」
「依頼達成の受理が終わったらお話ししますね」
「はぁ…?」
なんだろう? 問題でも起こしたか?
ドミニクとの騒ぎしか思い当たらないが…。
考えても分からないので、とりあえずマッチさんが受理を終えるまで待つことにする。
それから少し経ち、どうやら受理は終わったようだ。
「はい。6件の報告を確認しました。依頼の報酬は依頼者に確認が取れ次第後日いたします。報酬の支払い形式はどうしますか?」
「? どんな形式があるんですか?」
あれ、昨日は直接受け取ったんだが…?
「あ、すいません。昨日は説明はしてませんでしたが、依頼の報酬の支払い形式は2つあるんですよ。ひとつは昨日のように直接渡す方法。もうひとつはギルドの口座に振り込む方法です。口座はギルドカードを発行した時点で作ってありますのですぐにでも利用可能です」
そういうことらしい。
「ただ、今回の住民のお手伝いなどの依頼は、住民が直接ギルドに報酬を払って、それをギルドがその依頼を担当した冒険者に渡す形式ですから、すぐには報酬を渡すことができないんですよ。だから大半の冒険者の方は面倒だから口座に入れておいてくれってよく言いますね」
「へぇ~」
「少し面倒なやり方ですが、ちゃんと依頼をこなしたかを裏付けるためでもあるんです。たまにいるんですよ、依頼をやってもいないのに報酬を寄越せとかいう人が…」
詐欺を働く輩はどの世界にもいるようだ。
嫌になるね…本当に。
「そうなんですか…。でしたら口座に入れておいてもらえますか?」
「分かりました。では支払いの準備ができましたらすぐにでも入れておきますね」
「お願いします」
大変なんだなぁ~受付の人って。でもそのやり方だと報酬の横領とかの可能性が出てくるんじゃないか?
まぁそこはギルドが信頼されているっていうことかもしれんが…。
まぁ別にいいか、気にしなくても。
信じてますぜ。
「それでさっき言っていた報告のことですが」
おおそれそれ、それが気になるんですよ。
教えてくださいな。
「おめでとうございます!! 本日の会議でツカサさんの点数が基準を越えましたので、ツカサさんはFランクからDランクにランクアップしました!」
「…え?」
突然そんなことを言われた。
まだ常時あるような依頼しかやってないんですけど…。
周りで聞いていた冒険者も「ハァッ!?」やら「ウソだろ!?」とか言ってるし…。
俺もお前らと同じ考えだよ。
「凄いですよ? ギルドに登録して3日目というのもそうですが、二階級昇格なんて滅多なことではありえませんから」
「そうですか…。色々と言いたいことはありますが、…とりあえず分かりました」
ということらしいので、とりあえず頷いておく。
でも早すぎるだろうがよ。
「Dランクとなりましたので、これからはCランクまでの依頼を受けることが可能になります。もちろん難易度も上がりますので受ける際には十分に気を付けるようにしてください。…まぁツカサさんなら特に心配はいらないでしょうが…」
「そんなことないと思いますけど…わかりました。これで話は以上でしょうか?」
「ええ、頑張ってくださいね」
「それでは失礼します」
ふむぅ…明日からDランク冒険者としての活動か…。
どうせ敵なしだろうし特に心配もしてないが、色んな依頼を受けて経験を積んでおきたい。
討伐系の依頼だけじゃなくなってくるだろうからなぁ。
冒険者としての知識はまだまだ足りてないし、学ぶことは多そうだ。
…だが、敵なしとはいえ、一番の懸念は戦闘経験の少なさだ。大半が装備の力とはいえ、ステータスは高くてもそれを扱う技術が今の俺にはない。
昨日ドミニクを沈めた時も、このジャンパーを着てれば誰だってできるくらいに俺の動きは素人同然だった。
早く自由に使いこなせるように技量を磨かないと…。
今の所まだ危機的状況に陥ったことはないが、神様が言うには俺みたいなステータスのやつもいるらしいし、もし対峙した時に対処できるだけの技量は身に着けておくべきだ。
…今戦ったら確実に負ける。
俺なんかと違って与えられた力なんてないだろうから、そいつは個人の力でその領域まで上り詰めた正真正銘の化け物だ。
俺とは違う。
まぁ戦わないのが一番だが、ドミニクみたいなやつだったらそれは無理だろう。
もしあんなんばっかだったら発狂する自信あるぞ?
異世界に来てからまだ3日目だが金もそれなりにあるし、少し修行するべきかもしれん。
化け物のレッテルは既に貼られてるのでもういい、気にしない。一度化け物になったら、もうそれ以下にはなれないしな。
とりあえず現状維持を考えておこう。
頭の中でゴチャゴチャと考え続ける。
俺はそうして『安心の園』へと帰ったのだった。




