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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
207/531

205話 稀有な巡り合わせ

すいません……今回長いです。

いつもの2倍はあって読みづらい……分割すれば良かったですね。

 ◆◆◆




「そんで? ツカサはともかく俺にも何か用か? 親父さん」

「ハハ……聞いていた通り誰にも物怖じしないんだねジーク殿は。お若いのに大した方だ」


 フェルディナント様に連れられて、俺とジークは部屋の大半が本棚である書斎のような所へと通された。

 そこは本特有の匂いが充満しており、目を閉じればまるで図書館や図書室にいる錯覚を覚えそうな程だ。リラックスできる環境と言ってもいいかもしれない。


 ただまぁ、早速この馬鹿(ジーク)が早々に無礼な発言をしやがりました。

 言ってもどうせ聞かないとは思ってたけど、やられると俺の胃がキリキリとさせられるんで勘弁してください。


 ……まぁ、姫様の時と一緒で怒られることはなさそうだけども。


 知ってたように笑うフェルディナント様に対し、俺は内心で謝った。


「アンタは俺の王ってわけでもねーからな。そこらにいる奴と何ら変わりねぇさ。態度を変える理由にゃならねぇ」

「フッ……流石フェリミアの一族といったところかな? 揺るぎない精神と伝統だ……素晴らしいね」

「……んな大層な言われをするモンでもねーけどな」


 ジークがフェルディナント様にぶっきらぼうに答えていく。


 ……あのー、何を言ってるかサッパリなのですが?

 フェリミアの一族? なにそれ食えんの? 




 ……いや流石に今のは冗談だけどさ、ジークは何かの一族ってことなのか? 


 思えば俺はジークのことって全然知らないな。元『ノヴァ』の一員ってだけしか知らないんじゃ……。


「ジーク、フェリミアの一族って何? お前はその一族ってことなのか?」

「……さぁな、どうだっていいだろ。お前が気にすることじゃねーよ」


 俺が気になったので聞いてみるも、ジークは面倒そうな顔で言おうとしない。

 ジークにとって聞かれるのが嫌なことなのかもしれないが……どうもそれとは違うような気がする。

 だから少し粘ってみることにした。


「いや、気になるんだけど。教えてくれたっていいじゃん」

「……面倒だ」

「そこをなんとか」

「嫌だね」

「言えや!」

「言わねーっつってんだろ!」


 俺の必死のお願いに屈するような奴ではないことは分かっていたが……コイツめ! いい加減にしろよ。

 かくなる上は第三者に聞くという逃げの精神も辞さん覚悟だぞ俺は!


「フェルディナント様、なんです? フェリミアの一族って?」

「知らないのかい? それh「言ったら朝まで寝て貰うぜ?」……言わない。いや、言えないね…」


 あと少しの所で聞きだせそうだったのだが、ジークが肩をコキコキと鳴らすことで脅し、フェルディナント様の口を無理矢理噤ませた。


 くっ! 邪魔しおって……。というか前陛下に向かって何してんだお前は!


「ふむ? 聞いていたのと少々違うが……ちょっと事情があるみたいだね? ……ツカサ殿、勘弁してやってあげてくれ」

「っ!? ……分かりました」


 正直フェリミアの一族とやらが何なのかは超が付く程気にはなる。

 俺が知らないジークの秘密の一面とも言えるようなことだし、本人が頑なに言おうとしないことからも興味を注がれて仕方がないのが本音である。


 ただ……


「それで俺達を呼んだ理由はなんだ?」


 ジークはやれやれと安堵した様子で、フェルディナント様が掛けてくれたお情けを味わっている。

 それを見て、この場で俺がそれを知ることは難しいと思ってしまったため、今は引いてやることにするしかなくなってしまった。


 でもいつか必ず聞いてやる。フェルディナント様に感謝しやがれ。




 内心で舌打ちを打ちまくっていた俺は一旦そのフェリミアの一族というワードを忘れて、フェルディナント様が俺達をここへと呼んだ理由……それをジークと共に聞くことにした。


「あぁ、そのことなんだが……」


 ジークの言葉と俺が興味を背けたような態度になったことで、ようやく話を進められると思ったのかフェルディナント様は俺達を連れて来た理由を話し始めてくれるようだった。

 ただ、その前にジッと俺とジークを見つめてしまうことになってしまったが……。


「……う~む? これはなんと……」


 じっくりと俺らを凝視するフェルディナント様が何をしているのかを考えるも、その答えは見つからない。

 眉を潜めて唸る。ただそれだけだった。

 そして数秒後、今度は腕を組んで考え込む仕草を見せ始めるが……その表情は依然変わらず難しいままだ。

 あまり良い内容ではないことを考えているように見えた。


 そして……


「やはり其方達、途方もない力を内に秘めているのだな。これほどの力……人の身には有り余るとしか思えないが……」


 なんということか、フェルディナント様が告げたことは俺とジークの持つ強大な力についてだった。


 でもまぁ、この辺はシュトルムから重大内容を秘匿して聞いているだろうし、知っていても不思議でもない。

 どんな方法で俺達のそれを見抜いたかは全く持って不明だが……。


 万能すぎる精霊でも使ったのかね? 大抵のことは可能にしてしまうと思えるくらいチート性能してるし……。


「あぁ、シュトルムからその辺りのことは聞いてますよn「違う、それだけではない」


 俺が先手を打って確認をしたところ、それだけではないと首を横に振ってしまうフェルディナント様。

 キッパリと否定されてしまっては、一体何事かとこちらが考えさせられてしまった。


 はて? 一体何が違うのだろうか?


「其方らの中からは……まるで異質な、この世界の者ではない何かを感じるのだ。相対してみて、ようやくそれに気付けた」

「へぇ?」

「……(あ、あれぇ? 不吉な予感がプンプンしてね?)」


 真面目な顔つきで一見訳の分からないことをのたまうフェルディナント様を見て、すぐに察した。

 そして警戒し、驚愕し、冷や汗をかき、それらを隠し……。俺はせめて顔には出さないように取り繕ってジッとした。

 何故こうも父親は鋭いんだと。


 ……これって丸っきりデジャブじゃね? 第一次トウカさんショックと似た状況なんじゃ……。

 第二次フェルディナント様ショックの誕生ですか? そりゃないでしょうに。


 ジークが関与するという前回とは違う状況とはいえ、今の局面から想像できる未来は俺が過去に経験したそれを連想させる。


 もうグランドルじゃ完全に肯定したくらいだし、当時とは違って余裕はある。

 だが、今日会ったばかりの人に察せられるのは予想外だったため、そのことに驚きを感じたのだ。


「ジーク殿の方はよく分からないが、ツカサ殿。其方に関しては……もしや異世界人じゃないか?」

「えっと……」


 ガチでバレてました。

 父親ってすげぇっスね(白目)。


「風の噂でも聞いてはいたからもしやとは思っていた。……昔其方に似た雰囲気を持つ若者と出会ったこともあったし、よく似ている。周りの精霊の反応も同じだ」

「あ……えっと……?」


 フェルディナント様はシュトルムの持つ精霊のスキルを同様に持っているため、それを使って俺の周りの精霊をやはり見てそう判断したようだ。

 シュトルムが俺の周りの精霊について以前どのような反応をしているかを聞いていたので、大体は察することができるが……昔俺と似た雰囲気の人と出会っているとはどういうことか? 流石にそれは分からない。


 フェルディナント様は、困惑した俺に理由を説明するように話を続ける。


「400年は前になるかな……其方と同じで黒い髪をした人だったよ。気さくで人懐こいのをよく覚えている。今では『勇者』と謳われている存在だが……」

「『勇者』、ですか……」


 フェルディナント様はそれくらいの年月を生きている方のようである。

 正直予想していた年齢よりも遥かに長く生きていることに驚きはある。なぜなら、エルフは平均寿命が400年程度と聞いているからである。

 あくまで平均なので、過去には600年は生きたエルフの人もいたこともあるようだが……フェルディナント様の見た目が若いのはまだまだ現役であることを象徴しているかのようだ。

 しかしそれ以上に、存命中の『勇者』に会っているという事実に俺は興味を持った。


「……仮にツカサが異世界人だとして、だったら何だってんだ? なんかあんのかよ?」


 一方ジークはというと、警戒を持ったのかそんなことを言ってフェルディナント様を見る。

 俺の代わりに話してくれているのは明白だった。


「別に何もないさ。ただ、過去に出会った偉大なお方と似た存在にまた会えたことを嬉しく思うだけだよ。それ以外他意はない」

「……嘘は言ってねぇみたいだな。……だってよ?」


 ジークは勘が鋭いらしく、嘘を見抜くという謎の技術を持っていたりする。

 これは最近知ったのだが、今フェルディナント様の言ったことに対してもその技術を利用したようだ。

 その結果、嘘偽りがないとの判断に至ったようで、俺へとそれを伝えてくる。


 ……助かったぜジーク。


 それが判明したのであれば、この際どうとでもなれだ。

 異世界人であることをそこまで隠す必要がない現状、さっさと打ち明けてしまっても構わない。それで話がスムーズに進むようになるのであれば尚更だ。


「……父親は偉大ってことなんですかねぇ? フェルディナント様の仰る通りですよ。俺は……異世界人です。他の皆もそれを知ってます」

「ハハハ、そうかそうか。父親が偉大ということに関してはよく分からないが、会えて嬉しいよ」


 俺の独り言で言った部分を気にしつつも、異世界人である俺に出会えたことを嬉しく思ってくれている様子だ。

 胸のつっかえが取れたような……そんな具合である。


「ただ、あんまり驚かないのですね?」

「年を取ると驚くのが億劫になるんだよ。内心じゃ驚いているさ」

「へぇー、そういうもんなのか。見た目わけーのにな」

「見た目だけはね。これでも結構気を遣ってるんだよ。特に最近はシワが目立ってね……」

「女かよ」




 フェルディナント様のお茶目な発言にジークがツッコミを入れる。


 それからちょっとだけ談笑した後、本題へと入るのだった。




 ◆◆◆




 俺達がフェルディナント様に案内されたこの部屋は、この住居の一番上層に位置する場所だ。

 ここには天窓が備え付けられ、窓を通して虹が掛かっているのが確認できる。望遠鏡でもあれば星を観察するのに適しているような部屋でもある。

 聞くところによるとここはフェルディナント様の私室らしく、普段誰かが入ることも無い部屋なんだそうだ。シュトルムがまだ幼い頃はここで本を読みふけっていた時期もあったようだが、今では使う人もあまりいなんだとか……。


 だからこそ、ここの場所で内緒話のようなことをしようと思ったのだろう。

 ここに案内されたということは、それ相応の話があるということに他ならないように感じるし。


 ……案の定、既に相当な話である雰囲気は蔓延しているのだが。




「あの、俺はともかくジークは何で一緒に? コイツは異世界人でもないですけど……」

「あぁ、それなんだが……。ツカサ殿と似たものを内に感じると先程言ったな? あれが理由だよ。何故……ジーク殿は異世界人でもないのにツカサ殿と似たものを内に持つのか、それが気がかりでな」


 ジークを共に連れて来た理由はこういうことらしい。

 確かに、ジークの力はハッキリ言ってこの世界の者からしたら相当おかしなレベルでかけ離れている。異世界人である俺と同等の力を持ち、魂すら感じ取る程だ。異質と感じ取られるのも無理はないことである。


「この世界の者でありながら、ツカサ殿と性質は違えど似ている力を持つ。それだけで既におかしなものだ。本来ならあり得ない力が宿っているとでも言えば良いのか……少なくとも私はそう感じたんだよ」

「……って言われてもな。俺は昔からこんなんだし、そういうもんだと思ってたが……」

「ただの素質、其方が生まれ持ったものなだけ……その可能性は確かに否定しきれないだろう。だが、本当にそれだけなのかと思ったのだ。偶然なんて言葉は簡単に使っていいものではない。世の中の大半の不可思議な事というのは、解明されていないだけで必然がほぼ全てと私は考えているのでな」

「おぉ……」


 フェルディナント様は、ジークの抱える力についてを真面目に考察しているようだ。

 自らの持論からくる衝動もあるのだろうが、ジークの力を偶々や偶然とは思っていないらしい。


 ……なんだろう、脳筋だと思って頭の弱い人だと懸念してたけど、歳相応の聡明さを持っているお人じゃないですかやだー。

 元王ってのが納得できちゃうってもんですね。


 真面目な話には、俺も真面目に向き合うのが筋というもの。ならば、可能性の話を持ち込んで議論を展開させたらどうだろうか?


 俺はそう思って、内心で考えていたある可能性を持ち出す。


「ジークってさ、もしかして……お三方の魂のどれかが入ってたりすんのかな?」

「お三方? ……あぁ、異世界人のってことか。その可能性があったな」

「……どういうことだい?」


 ジークは当たり前のように知っているが、フェルディナント様はもとより、この世界の大半の人は魂と言うものが存在していることを知らない。

 一旦、俺は魂というものがどう影響を及ぼしているのかを、フェルディナント様へと説明する。


 この大陸の問題に『ノヴァ』が関与しているかもしれない以上、それを裏付ける意味でも魂というものを伝えておいても良いだろう。

 正直な話、全大陸に公布しても良いと今では思える。




 ◆◆◆




「なんと……そのような事実があったとは!」

「まぁ、そういうわけなんです。仮にも神が言うことなんで……最も信用がおけることと言いますか。……あ、俺が信用置けるかどうかがそもそもの前提になりますね、アハハ…」

「信用しているさ、今更なことを言わんでくれよ、おかしな人だな。……ふむふむ、なるほど。そうかそうか。これは面白い。世の常識が覆りそうだ」


 俺が魂についてをササッと説明すると、フェルディナント様が心底感心したような顔になる。しかしそれがなんともシュトルムが新しいものを見る時と同じで、若干引いた。


 ……うん。貴方シュトルムの父親だわ。めっさ似てるし。

 血って怖いなぁと思います、はい。


 ただ、世の常識が覆ると言うことに関しては同意見である。

 魂で全てが決まってしまうという事実は、世の混乱を招きかねない。努力はほぼ報われず、生まれ持った魂がその人の全てを決めることになるのだから…。


 う~む。その辺りのことを考えるとあんまし言ってはいけないような気もする。でも言わないと信憑性が無いということになるわけで、判断が難しい。

 こればっかりはどうしたものか……。


「ま、そういうわけだから俺が持つ魂はその可能性があるってことだ。それならツカサと似た力ってのも頷けるわな」

「ってオイ。真に受けんなよ? 結構テキトーに言っただけだからさ」

「でもな、案外的を得てるかもしんねーのも事実ではあるんだよな。親父さんが嘘を言ってないのは分かってるし、何より異質だったってことは……昔っから知ってたからな」


 フェルディナント様が魂について理解を得ると同時に、ジークは急に顔に陰りを見せたような気がした。

 フェルディナント様の表情とは対極に近く、気持ちの性質が違うように見えたのだ。


 一体どうしたんだ? ジークがこんな顔するなんて……。

 セシルさんが天使だとバレてしまった時以上に見えるんだが?


「まぁ、ジーク殿については現状可能性の話しかできまい。一旦それはここまでとしよう。次は……ツカサ殿、其方のことを聞きたい」

「なんです?」


 俺のジークに対する疑問を他所に、フェルディナント様は話を続けていく。

 ジークについては一旦終わって、今度は俺のことについてとのこと。


 俺が異世界人であるということが知りたかっただけはなかったのか? 


 フェルディナント様はまだ俺に聞きたいことがある様子。俺はその続きを聞くことにした。


「正直、異世界人であることが分かった以上、これを聞かずにはいられない。かの者……『勇者』は当時、自分は役目を果たすだけと言っておった。だから其方も何か役目を持ち、そしてそれを果たすのだろうか? ……私はそれが知りたいのだ」

「それは……」


 役目と呼ばれる、俺が果たすべきもの。

 フェルディナント様の今言ったことは、俺も早く神様に会って問いただしたいことであった。


 しかし、今それを答えることはできないのが現状だ。


「分からないんです。俺はこの世界に来るとき、何も伝えられずに好きに過ごして良いとだけ言われただけでしたから。役目と呼ばれるものがあることを知ったのはついこの前で、他には何も……」

「それは、気の毒であったな……」

「ただ、『勇者』曰く俺の役目とやらは相当大変なものであるとは言っていました。これも可能性の話ではあるみたいですが……」


 俺は何も知らされていないことを打ち明ける。

 言えることが何もないとも言えるが、現状はこれで精一杯である。


「ん? 『勇者』曰くとは?」

「実は……」


 俺がまさに本人から聞いたような言い方をしたのを疑問に思ったのか、フェルディナント様は首を傾げた。

 これは確かに傍目からはあり得ない話であるため、このことについても俺はありのままを話すことにした。

 勿論、役目が絡んでいる以上は神のことについてもである。




 ◆◆◆




「……そうであったか。なんだか其方と会えたのは運命のように思えるな」

「確かにそうですね」


 俺が一通りセルベルティアの一件を伝えると、フェルディナント様はそれをすんなり信じてくれてようだった。

 大変納得した様子で、俺に笑みを向けてくれる。


 んー、実にナイスガイですな。これで400歳越えとは……信じられん。


 さっきシワがどうこう言ってたが、そんなシワは少なくとも俺では見当たらない。

 年齢の偽りが文句なしにバレないだろうなと、フェルディナント様に対して思った。




 と、それはともかくだ。




 まぁ実際そうだろう。

 過去に歴史的人物に出会っているフェルディナント様。そして、年月を経て思念体ではあるが、同一人物と出会った俺。

 これはある意味運命と称してもよいことであり、巡り合わせと言えよう。


「だがそうなると……神がわざわざ言わなかった理由が気になるというものだね。何故君にはそれを伝えなかったのか? そこには理由があることになるわけだが……」


 神様が俺に役目を一切伝えることも無く、そしてそれを特に匂わせることもなかったことについて、フェルディナント様は不思議に思っているようだ。

 これは俺もそう思ってはいたことで、でも知る術がない現状では例の会合で聞けばいいかという気持ちでいたためあまり気にはしていなかったりする。


 でもその会合は約束の日時を過ぎても全くくる兆しもないんですけどね。

 神様は一体なにやってんだろうね? またお風呂とかだったら覗いてやろうか。

 ……神のお風呂を覗くことがどんな罪に問われるかは知りませんけども。


「……忘れてたとかなんじゃね?」


 流石にそれはねーだろ。

 職務怠慢な神様だけど、肝心な部分を言い忘れるほど神様はやめてないと思う。……思いたい。


 ジークの何気なく言った冗談だったが、まるで本当なのではと心に留まってしまった。


 あの神様ならやりかねん。


「う~ん……」

「あぁ済まない。混乱させるつもりで言った訳ではないんだ。深く気にしないでくれ」


 悩みの種は増えるばかりだ。俺は頭を抱えてグルグルと思考を繰り返した。

 でも、結果はいつも通りで収穫無しである。


「ただ、これだけは頭の片隅にでも入れておいてくれても良いと断言できる」


 そこに、フェルディナント様のある忠告に似たものが耳に届く。


「謳われし方々は『賢者』を除き、志半ばで亡くなっておられる。それはつまり、『役目』がそれほど過酷であるということに他ならない。重く厳しいことを言うが、其方もそうなる可能性が高い。其方のその力を持ってして困難となる『役目』とは何か? 私は想像もつかないよ」

「………」

「方々はまるで、『役目』を果たすという運命に操られているように見えるのが私の印象だ。それがもし該当するのであれば、今ジーク殿がツカサ殿と共にいることもまた運命なのかもしれない。……強大な2つの力が共に立ち向かう役目とは、一体なんだろうな?」


 フェルディナント様の言葉が、俺の胸深くへと響き、そして突き刺さっていく。


 俺の役目とは……一体なんだ? 

 神様が何気なく俺に持ち掛けた……例の『ノヴァ』を探ると言うことだったりするのか?

 いや、それだと相当大変なものとは言い切れない。それは今の俺のステータスが奴らにとって脅威だという事実が語っている。

 命を落とすとは思えないし、実感も湧かない。

 それに……まだ上があるし。


 だが、未来の俺が会いに来た事実があるのも確かだ。


 未来の俺が変えたいと願う程のことが起こる……のだろうか?

 来たるべき時に俺が人を殺すことで、本当に(・・・)それを回避しろということか…。


 俺はそれを回避できるとあの時は思っていた。未来の記憶を片鱗に持ち、新たな記憶が次々と追加されているから、きっと平気だと。

 心でいつもそう思って……いや、願っていた。

 でも、それすら無駄なことなのかもしれない。


 もっと言えば、俺が今まで出会った人も明らかに普通ではない人ばかりだ。

 シュトルムは一国の王。セシルさんは天使。ジークは強大過ぎる力……比類なき強さを持つ。

 アンリさんは……正体不明な力を持っていることが分かっている。


 今ではヒナギさんが一番普通だと思えてしまうくらいである。Sランクであるため普通ではないのだが、それでも。


 神様から貰ったスキルである、【神の加護】。これはもしかして俺のこの出会いに全て関与し、俺の運命を定めているんじゃないか? 

 全ては、仕組まれていたんじゃないかと……。


 それを跳ね除けろと未来の俺は言っていたという可能性が俺の脳裏をよぎる。


 分からない。神様……アンタは俺の味方か? それとも敵か? 

 早く出てきて教えてくれ……!


「オイ……大丈夫かよ?」

「あまり良くないことを言ってしまったな。済まない」

「い、いえ……知らなきゃいけないことでしたし、気にしないでください。……ご忠告感謝します」


 俺の今の顔は浮かない顔をしているんだろうな……ジークが心配してくれるほどだから。

 フェルディナント様は善意ある忠告をしてくれただけだから、むしろ感謝しかない。

 俺が都合の良いように解釈を重ねて逃げていたことが、ここにきてボロを出したに過ぎない。


 俺は……やっぱ弱いままだ。


「……あの、『勇者』の役目とはどんなものだったのか、それはご存知でしょうか? それを参考にさせてもらえたらなと思うんですけど……」

「『勇者』かい? 確か彼は、当時世界で巻き起こされていた戦争全てを集結させること。そう言っていたよ。……途方もない話だ」

「……そうですか」


 フェルディナント様から聞いたことに、俺は愕然とした。

 世界中の戦争を終結させる。おとぎ話の領域すら越えて、神にでもならねば不可能に思える内容だ。

 異世界人お三方の中でも最も弱かったと言われる『勇者』でさえ、そんな無理難題を突き付けられているのである。


『勇者』でそれだけ大変なんだ。その『勇者』が相当大変だって言うことって何だよ……!

 想像もつかない。


「ツカサ殿、ちょっと良いかな?」

「はい?」


 心が不安定になってしまいそうなところを、フェルディナント様の落ち着いた声が止めてくれた。

 フェルディナント様は俺の肩へと手を置いて、優しく語りかけてくる。


「そう全てを背負うことはない。第一、私は役目なんぞ無視していいのではと思っているよ? ……其方は元々はこちらの世界の事情に巻き込まれただけに過ぎないのだから……其方が命を賭してまで遂行せねばならぬことではあるまい」

「………」

「それに、この世界の今があるのは……其方らがこうしてこの世界に来てくれたからだと言うことも知っておる。世界の魔力を補うという……大変な偉業だ。既に十分な程助けてもらっているのだよ。これ以上何かを望むのは間違っている……」


 何故かフェルディナント様は異世界人によって魔力が補充されていることを知っているらしい。恐らくは『勇者』にでも聞いたんだろうけど……。

 神様の言葉を信じるなら、学者や一部の人間は知っているみたいなことを言っていた気がする。


 だが……今はそんなことはどうでもいい。


「でも、役目を果たさなければ戻れないみたいですし……。俺は……戻らないと…」


 俺には地球に戻る理由がある。それは絶対事項であり、唯一変わらない俺の決まり事だ。

 それを可能にするための切符を手放すことは出来ないし、他に帰る手段が今の所見つかっていない以上、役目を知って遂行しなければいけなくなるのは当然だ。


「だが、役目を知らないのであればどうしようもないだろう?」

「それは……そうですけど。いずれは役目とやらをすることにはなるはずです」


「ふむ? 異様に戻る決意が固いようだね? だが……役目を知って遂行しようとするならば、その道は遥かに険しいぞ? 先人たちが物語っているのだからな」

「……」

「それでも其方はその険しく非情な役目を果たす道を進むのかい? 途中であきらめることも無く、最後まで。途中に其方自身も死んでしまう可能性もある中でだ」

「……分かりません。でも帰れる可能性があるなら、俺はそれを諦めることはないと思います。こればっかりは生半可な覚悟で言ってるわけじゃないですから……。でも遂行できるかと言われれば自信はありませんし、不安しかないですけどね……アハハ……」


 重苦しいフェルディナント様の問いかけに空元気で答える以外できなかった。

 それは当然、言われたことがその通りだとしか思えなかったからである。

 ステータス的に見たら俺はこの世界でトップ10に入れるくらいには強いだろう。でもステータスでは見れない部分の強さが欠落している俺では、途中何があってその役目の遂行を挫折、断念、絶望するか分からない。

 そんな自分の弱さを多少なりとも理解はしている手前、不安を感じないわけがなかった。


「……それならば、誰かを頼りなさい。お主が頼りたいと思える人達には存分にな……」

「え?」


 重苦しさを一瞬感じなかった。

 突然、フェルディナント様から感じていた空気が感じられなくなったのである。優し気な声によって。


「少なくとも愚息が認めた其方を、異世界人である其方を我々は支えよう。大した力になれるかは分からないが、それでも遠慮なく使ってくれ。世界のために動こうとする其方を支えなくては、人として終わりというものだろう?」

「……」


 俺が遂行する役目の手伝いをしてくれる。フェルディナント様が今言ったことを簡素に言うとこういうことである。

 事が事であるのに手伝いを申し出てくれる発言には、呆けるしかなかった。


「そして辛くどうしようもなくなった時は、其方はいつでも逃げるんだぞ? 死んでしまっては遅いのだから……」

「あ……」


 ただ、呆けたのも一瞬だけだ。

 フェルディナント様はそこまで言うと、悲し気な表情を見せた。

『勇者』とフェルディナント様の関係性は知らない。だが、俺はこの時フェルディナント様が『勇者』が志半ばで死んでしまったことを悔いているように感じたのだ。

 そして、それを今目の前にいる俺に重ねているのではと……。


 確証はない。自分勝手すぎる解釈で気持ちの悪い奴に俺は見えているかもしれない。

 でも俺はそうだという確信が何故かあった。根拠もなく。

 だからフェルディナント様の言葉が嬉しかったし、励みになった。少なくとも今落ち着きと不安を取り除けるくらいには。


 そして……


「フンッ!」

「いった!? ジーク!?」


 感涙しそうになっていると、突如背中に痛い刺激が走り、意識がそちらに向いてしまう。

 何事かと思っていると……それは案の定ジークの仕業だったようだ。


 ムスッとした顔で俺を見て、手をヒラヒラと振っている

 気に入らないことがあったような顔で、まんまヤンキーのそれと変わらない姿にしか見えないが。


「取りあえず元気出せよ。お前が元気じゃねぇと周りまで飛び火すんだからよ……。アンリと姉御に心配掛けるような真似はすんなよ?」


 ヒリヒリする背中を堪えながら、その言葉に我を取り戻す。


 そうだ……大切な人達が俺にはいる。その人たちにはずっと笑っていてもらいたいと、俺は決めたばかりだったじゃないか。

 何弱気になってんだよ俺。


 ジークの言葉で、俺は秘めていた決意を思い出す。

 だから今背中を叩かれたのは、ジークなりの気遣いだったようだと気付くことができた。もしかしたら鼓舞に近かったのかもしれない。


「……ありがとな、ジーク」

「ケッ、しっかりしやがれ。それでもお前は……(ボソッ)」

「ん? 最後何か言った?」

「……なんでもねーよ」


 ジークが何か言っていた気がするも、それが聞き取れなかった。

 俺がそれを聞いてみても、ジークははぐらかしてしまうだけだった。


「ハッハッハ! それがジーク殿の在り方であるか」


 そしてフェルディナント様は笑い、俺は意味が分からず困惑する。ジークはその全てに無視を決め込み、三者三様の光景がそこにはあったのだった。




 フェルディナント様との話は、そこまでで終わりを迎えた。

 今日の話は酷く濃密で頭が痛く、そして重くなるような内容のものばかりだった。正直頭に入って来た気がしないし、今後の想像をすると目を背けたい事実しか出てこなかったなと思う。

 でも、その中で今一度大切だと思える何かを分かった日だったことは間違いない。

次回更新は火曜です。

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