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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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204話 ジーク予備軍

次回ちょっと長めなので今回ほんの少し短めです。


「親父…? フェルディナントさんが…?」

「帰って来てたのk……うおっ!?」

「え!?」


 フェルディナントさんの急な登場で、一時的に場は乱れる。俺とヒナギさんはさっき会った人物がシュトルムの父親だという混乱に対し、そして他の皆は純粋に父親が現れたと言うことに対してである。

 だが、一番驚いているのはシュトルムだったようだ。

 そのままシュトルムが驚き交じりに声を掛けたところ、その言葉を言い切る間もなくフェルディナントさんがシュトルムに肉薄、一瞬で距離を詰めた後……正拳を繰り出したのだった。

 流石にこれには面食らってしまい、ただその動きを見ている事しか出来なかった。


 だって一緒に歩いて話してる時とは段違いの雰囲気と動きなんですもの。

 実は俺ってすげー強いんだぜ? 的なキャラだったんですね……うそん。


 シュトルムは咄嗟に右手でその突き出された拳を握ると、自らに直撃する一歩手前で辛うじて受け止めることに成功したようだった。

 中々の反射神経と言えよう。

 近くにいたセシルさんやアンリさんはその光景に圧倒され、咄嗟に身を仰け反らせる反応をしていた。


「くっ……この脳筋ジジィがっ!」

「ハッハッハ! 修業は順調そうだな。旅立つ前なら今の一撃でお陀仏だっただろうに……少しは成長したな?」

「抜かせ。もう親父には負けねーよ」


 自分が攻撃されたことに悪態をつくシュトルムであったが、フェルディナントさんの方は気にした様子もない。

 張り合っている……という印象だろうか。


 シュトルムは掴んだ拳を投げ捨てるように放すと、フェルディナントさんも一旦落ち着きを見せて無防備な姿勢を見せた。

 そして周りにいる俺達を見て、シュトルムへとまた話し掛けるのだった。


「して、こちらの方達がお前の連れてくると言っていた客人なのか?」

「あぁ。……つってももう知り合いみたいじゃねーか? ツカサとヒナギちゃんとはどっかで会ったのか?」


 どうやらシュトルムはフェルディナントさんに俺達がこの街に来ることを伝えていたようである。

 ただ顔までは流石に伝えようがないため、今偶然再会してあちらも驚いているとみた。


「ふむ……客人とは其方達のことだったのか。いやさっきな? 道に迷って困っていたところに丁度通りかかってな……街まで案内してもらったんだ」


 フェルディナントさんは心底助かったような気持ちを俺達に露わにする反面、シュトルムはその態度に呆れた声を漏らす。


「またかよ!? いい加減道覚えろよ、自分の故郷だろうが。つーか地図くれぇ持ってんだろ!?」

「見ても分からんのだ」

「身体の鍛錬も良いが頭の鍛錬もしろよ!」

「う~む……それは気が進まんし」

「このアホ!」

「そんな怒られるようなことした覚えはないんだがなぁ……怖い怖い」


 憤慨するシュトルムと、困った様子なフェルディナントさん。その様子に置いてけぼりをくらいながらも現状を再確認する。


 この人……シュトルムの父親だったのかよ。てことは元陛下ってこと?


「シュトルム……この人ってシュトルムの父親で、いいのか?」


 俺がシュトルムへと気になる事実の確認をすると、シュトルムではなくフェルディナントさんが代わりに答えてくれたようだ。


「そうだ。私はコイツの父親だよ。まぁ先代の王ってやつだね」


 ハハハと笑いながら軽く言ってくる姿から、元王という認識は今までの俺だったら感じなかったことだろう。

 だが、シュトルムが現に王として崇められ、そして民に認められているのを見てきている以上、むしろこれくらいラフな方がしっくりくるというものだ。セルベルティアの様に堅苦しい紹介をされたら、イーリスに限っては王だと理解することは難しかったかもしれない。

 それくらい異質で居心地の良い体制なのがこのイーリスである。


 皆もそれに影響を受け始めているのか、王だと分かっても特に必要以上に驚く素振りもない。

 最早完全に感性が狂い始めていると言えなくもない状態である。


 ……これはシュトルムが悪い、ということにしておこう。

 コイツが王だという事実が俺達を変えたに違いない、うん。


「そこらにいる糞親父の間違いだろ」

「ふむ? ……じゃあそれでいいさ。現王の糞親父の、フェルディナント・S・オルヴェイラスだ。よろしくお願いするよ、愚息には勿体なき客人達よ」

「くっ…!」


 シュトルムが貶したにも関わらず余裕しゃくしゃくの対応だったので、シュトルムがちょっと悔し気な顔をしている。


 でもそれは受け入れるなよ。自分で自分の事糞っていう奴あんま聞いた事ねーよ。

 年長者ならではの余裕なのか? 怒りもしないんかい……。


「其方らのことは既に聞いて知っている。随分と凄まじい者達の集まりだと。特に……其方には愚息が大変世話になっているようだな? すまないね」

「え? あー……いえいえ、手の掛かる奴ほど可愛いんで楽しいもんですよ。お気になさらずに」


 最後俺を注視して言ってくる言葉からは親が子を任せるような言い方に感じたので、俺はそれ相応の反応をして返したつもりだ。


 出会った時から手の掛かる子でホント大変でした。そこに関しての事実については遠慮するのをこちらから遠慮したいくらいです。

 でもこの父親にしてこの子ありって気がするし貴方にも責任があるように思えるんで、そこんところ理解しておいて欲しいもんです。躾ちゃんとしてください。

 子は親の背を見て育つ。それはどの世界でも一緒……お兄さんは十分それを知ってます。


「……そうかそうか! 其方結構茶目っ気あるんだね? 気に入ったよ」

「ありがとうございます」


 俺の言い方がウケたのかは不明。でも、それなりに好印象を与えられたようである。


 もしかしたら、イーリスでは案外本音をぶちまけていた方が良い見方をされるのだろうか?  


「……さて、このまま親睦を深めたいところではあるが……シュバルトゥムよ。お前……事態は聞いているな?」


 こちらとしてもフェルディナントさん……いや、気づいたら『様』じゃないと駄目か。まぁ、フェルディナント様が言うことには俺も賛成。

 でも、それを一旦後回しにする必要があるようだ。


 さっきまでのやり取りとはまた違った雰囲気で、シュトルムとフェルディナント様がお互いに真剣な顔つきで会話を始めたのだ。


「……あぁ、一通りのことは聞いたぜ。これは随分と厄介そうだな。俺は明日から色々動き回ることになりそうだ。ハイリとリーシャがそれを望んでるとさ」

「うむ、らしいな。まぁ、その間こっちは任せておいていいぞ。心置きなく話してくると良い」


 ハイリとリーシャと言うのは、オルヴェイラス近隣にあるハルケニアスとリオールの王達のことである。これについてはさっき報告をし合った時に教えて貰っているので既に知っている。

 どちらともオルヴェイラス同様に今この問題に直面しており、事態の解決を早々に図りたいそうだ。シュトルムとは親しい友人の間柄でもあるらしく、久々に帰って来たシュトルムと会いたいという気持ちもあるとか。


 いやぁ、俺には長馴染みとかっていないからめちゃんこ羨すぃーですね。もし相手が女性なら完全恋愛対象になるんじゃねーかってくらいの要素ですし。

 俺もそんな状況に生まれたかったなぁと思った時期がありました。

 今はもうどーでもいいですけどね。


「悪いな。……それはそうと、親父今まで何してたんだ? 帰ってきてもいねーから不思議だったんだが?」

「いつも通り山に籠って修業してたさ。いやぁ、実に充実した時間だったぞ? 今日は随分と珍しい大物とも遭遇したしな」

「珍しい?」


 どうやらフェルディナント様は、ヒナギさんとジークを足して2で割ったようなお人らしい。

 心底楽しそうに言う姿からは嘘が微塵も感じ取れない。


 ただ、気になることを言っているが。


「奇妙なことに、見たこともないような再生能力に非常に長けたモンスターと出くわしてな? 後れを取ることは辛うじてなかったものの、苦戦したよ。あのようなモンスターがこの大陸にいるとは……いやぁ、まだまだ不思議な出会いはあるものだなと思ったよ」

「え!? それってさっき先生達が言ってたのと一緒じゃないですか?」


 まさにその話をしていたばかりだ。


「うん? どういうことかな?」

「……そのモンスターですが、黒いオーラとかありませんでしたか?」

「おぉ、あったあった。しかも魔法がほとんど通用しなくてね、少々手を焼いたもんだよ」

「親父、その話詳しく聞かせろ」


 シュトルムも事態の黒幕との関連性の高い話に、深く興味を示した。

 それから、フェルディナント様から俺達は当時の状況を詳しく聞くのだった。




 ◆◆◆




 フェルディナント様から聞くところによると、そのモンスターは植物型で不定形な姿をしていたらしい。丸い球体のような形状の時もあれば、細長くなったり膨らんだりと……。地に根を生やしていなければ植物型のモンスターだと判断が付かない様相だったそうだ。

 俺達がギガンテスと対峙した時と同時刻くらいに出くわしたそうなので、これは貴重な情報である。

 基本的に大きな体躯という点ではギガンテスやブラッドウルフと一緒であるが、獣ではないのが大きな違いか。攻撃は主に身体から生やしたイカのような触椀を巧みに使い、フェルディナント様を絡めとろうとしてきたとのこと。その職椀の鞭に似た破壊力は凄まじく、一撃で木が木端微塵になったと言っていたことから、相当危険なモンスターだったことはすぐに理解した。


 そしてそれと単騎で渡り合えるフェルディナント様……マジパネェ。

 ブラッドウルフにしろギガンテスにしろ、アイツらは少なくともAランク以上の危険度を持つモンスターであることは間違いない。最悪それ以上か……。

 常人であれば抗う暇も無く餌食になるし、そもそも戦おうなどと言う気にもならない存在である。

 にも関わらず、元王であることも忘れて恐れずに立ち向かって善戦できるのだから……フェルディナント様の戦闘力は大したものだと思われる。ジーク予備軍に認定したいわ。


 ……ま、怪我しなくて良かったなぁと切に思った。

 魔法とフェルディナント様の持つ【体術】スキルで攻撃してはみたものの、あの黒いオーラで全てを回復されて埒が明かないと思った矢先、そのモンスターは地面に潜って逃げ去ったらしい。

 仕留め損ねたフェルディナント様は仕方なくそれから帰路につき、俺とヒナギさんとあの道で出会った……と言っていた。


 ……ちなみにフェルディナント様は武者修行が趣味らしく、よく勝手に街を出ては危険なモンスターを排除したり、戦ったりしているそうだ。

 これが兵士さん達の仕事を奪ったりもしているそうで、兵士さん達は給料泥棒みたいになっていると懸念し、少々あまり良い印象を持っていなかったりするらしい。

 当然、街の人達は前王であるこの人を始めは心配していたそうだが、いつも怪我も無く帰って来る様を見てそれをやめたらしい。というか、心配するだけ損という結論に至ったそうな。


 これはある意味信頼されているということになるが……流石に無関心すぎやしないかと疑問に思いはした。

 でも、それで納得できるのだから部外者の俺が口を挟むのは野暮というものであるし、この国の在り方を否定することになりかねない。


 ……本当に不思議な国である。

 元王だから好き勝手にやっているだけではあるが。




 と、フェルディナント様のことは置いておいて、以上のことから『虚』は幅広い種類のモンスターを従魔として従えていることは間違いないようだ。

 そして今回はそれを同時に別の場所に解き放ったということになる。それだけに留まらず、まだ確認できていないだけで他にももっと解き放っている可能性すらある。

 これは放っておけない事案だ。

 明日にでもシュトルムはここら周辺を中心に調査員を派遣すると言っていたし、早急に事実を判明させてほしいところである。




 そのまま夜も耽ってしまった頃になり……


「今日はこの辺りにしておこう。其方達も初日からこんなに詰め込んでしまっては解決まで持たないだろうしな」


 このまま話し合っていたら、時間がいくらあっても足りなさそうだった。それを察したフェルディナント様はそう切り出す。


「そうだな。まだ初日だし……この続きはまた明日でいいだろ」

「ふわぁ~っ! だと助かるかな……ねみゅい……」


 ナナも限界そうで、盛大に欠伸をして瞼を擦っている。


 ここらで一旦お開きが頃合いだろう。


「じゃあ、一旦解散にしよう。また明日な?」


 シュトルムのその声で、皆が自由の身となってリラックスし始める。

 俺も早々に身体を休めようと、席を立つが……


「あぁ、司殿。少々話があるので、付き合ってもらえないだろうか?」

「……? えぇ、構いませんよ?」


 ……どっかで聞いたような引き止め方である。

 無論、トウカさんと似たパティーンなわけだが。


「どした親父?」

「ま、ちょっとした世間話だ」


 なんですかね? 貴方様も俺に何か話すことがおありで?

 ……父親さんは何故私と話をしたがるんですかねぇ? 預けている子が心配とかなら分かるけど、俺はそんなタマじゃないんですけど。


「ツカサ殿、ついてきてくれ」

「あ、ハイ」

「……あぁそれと、ジーク殿も出来ればついてきてもらいたい」

「あん? 俺?」


 俺だけ、と思ったところでジークにもお誘いが……。

 俺だけでなくジークもご指名となるとは……なんなんだ一体……?




 皆が不思議な顔を向けている中、ジークと俺は共に首を傾げながらフェルディナント様に連れられ、その場を後にしたのだった。

次回更新は日曜です。

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