198話 調査開始
今回と次話ではあまり話は進みません。
本格的に進み始めるのは……次話以降になるかと…。
さっさと話を進めたいとは思うんですけど、テンポの良い話作りが苦手なんです。ご了承ください。
翌日……。
イーリスの朝は素晴らしいくらいに空気が澄んでいて清々しい。二度寝などもってのほかで、一気に頭が覚醒して体が動き出す。
ものの数秒で、俺は恰好以外はもう万全の状態になることができた。
起きたばかりでもそれくらい感じるほどなのだ。空気が悪くなっているといっても、グランドルやセルベルティアとは比較にならない程十分空気は綺麗だと俺は感じた。
それでも、窓の外から見える虹が現実を突きつける。
窓の淵に手を掛け、その光景をジッと見る。
一色だけ欠けた虹。
昨日は青色が無かったはずなのに、今は赤色がなくなって青色は普通に見ることができる。
見えたり見えなかったり……これは時間帯で変わるのか、それとも状況が悪化していることを示しているのか、それは不明だ。
どちらにせよ、今の状態はユニコーンにとっては致命的で、死に至る驚異を持っているということである。
待ってろよ……アル。
俺は自分に割り当てられていた寝室を出て、今日のことについて思考を走らせた。
◆◆◆
いつもよりも早い時間帯だが、全員寝坊などということはなく同じ時間に目が覚めたようだ。現在は朝食を取り終えて今日の行動にそれぞれ出ようと準備している最中である。
……まぁこの国の王の住居で寝泊まりしてるし、そんな不躾なことができるわけもない。
それに旅行じゃないけど、こういう外泊してる時って意外と早起きができたりするものである。少なからず皆にもこういう気持ちが僅かにあって、俺もそれに倣ってるだけなのかもしれない。
「じゃあ、俺とクローディアは一旦話を聞いてくる。そっちそっちで頼んだぜ」
「はいよー。お勤め頑張ってなシュトルム陛下」
「その言い方やめろや」
そして何食わぬ顔でそう伝えてくるシュトルムだが……その目の周りには隈がハッキリと出ている。誰がどう見ても寝不足なのは明らかだった。
それは何故かというと、昨日の夜クローディア様にシュトルムが冒険者をやっていたことがバレ、みっちり説教を食らっていたそうな。
先程、朝食時に死んだ目をしたシュトルムから何があったのか事情を聞いた所、そのようなことを言っていた。
シュトルムがオルヴェイラスを出て各地を巡っていたのは、各国の情勢と人々の生きる様と国との関わり合い……在り方を見ることが目的であり、またシュトルム個人の知識の探求が主なようだったらしい。これは王としてまだ未熟な自分を鍛えるため、そして国を支えていくに相応しい者となるという理由から旅に出たそうだ。
ただ、一応一国の王ということもあり、冒険者という危険がほぼ常に付きまとう業種にわざわざつく必要性なんてない。各地を巡る最中にやむを得ず関わった人々には自らの素性は明かさずに、あくまで旅をしている者として接することが義務付けられていたようなのだが、シュトルムは昔から外にはあまり出ずに引きこもっていた過去があるようでそういうラフなものに憧れがあったらしい。それを理解していたクローディア様はシュトルムがもしかしたら密かに冒険者になるんじゃないかと懸念し、念を押して冒険者にはならないようにキツく言い聞かせていたそうだ。
……でもシュトルム君は案の定俺達と普通に冒険者をやっているわけですけどね。約束を守らず破ったわけですコイツ。
言いつけを破っているのだから流石に弁明の余地はないし、王としての意識が低すぎる感が否めない。
昨日の深夜馬小屋から部屋にこそこそ戻る時、シュトルムの情けないような声が聞こえた気がしなくもない…。
あれは説教されてる時の悲鳴だったんだろうか? 尻に敷かれてやんの、一国の王が。
ま、それならそれでいいと思うけどね。
だってシュトルムが冒険者をわざわざやった理由がしょーもなさすぎるし。
『だって冒険者って面白そうじゃん』
うん、お前はもっと説教を食らえ。俺でもそんなちゃちな理由を聞いたら怒るに決まってる。
クローディア様の怒りに満場一致で賛同しますよ我々は。
…とまぁ、そんなシュトルム君ですので本日は虚言、奇行。ところにより人知れずに卒倒することでしょう。確率はどれも20%程ですので、目覚まし用のハリセンと搬送用の担架を持って皆さんお出かけしましょう(ニッコリ)。
以上、この役目を移譲したいくらい異常なシュトルム予報でした。国民の皆様、そんな彼に注意してファックしてください。
さてさて、チャンネルはそのままで。予報が終わったら次の番組の始まりじゃい。
「あ……そんでさ、話変わるけどアルのことなんだが……」
俺がアルのこといきなりだが聞くと、シュトルムは目を丸くして驚いた様子を見せる。
それもそのはずだ。アルの名前はシュトルムから聞いてなんていないのだから。
「は? もうアルに会ったのか? いつ……というかなんで名前知って……」
「昨日の夜宝剣を探してたら馬小屋で会ってさ……その時アルとの思い出を少しだけ見たんだ」
「っ!」
「それは……ジークさんの時と一緒の?」
「うん。あやふやだけどね」
「ほぅ?」
皆も遅れて俺の言っていることを理解し始め、目を丸くする。
自分のことであるはずなのに、それを他人事のようにしか知ることができないから……面倒だ。
しかも突拍子もなくやってくるからなぁ。司きゅんは司君に困り果ててますよ。
「……気になるがその話は帰って来てからでいいか? 今聞くと話に集中できなさそうだ」
「了解だ。後で皆も一緒に教えるよ」
今聞いて余計な情報が入ることは避けたかったのか、シュトルムは今は聞く姿勢を見せなかった。
それに伴い、同じように気になってくれている皆もシュトルムのその言葉に賛成らしく、余計な反論は一切なかった。
……じゃ、そういうことで。
むしろ今言わない方が良かったかもしれんな。
「ではシュバルトゥム様、参りましょう」
「……だな。じゃ、俺達は先行くぜ」
シュトルムとクローディア様の2人が、俺達よりも早く会議へと出かけて行ってしまい、俺達は取り残された。
俺達も準備ができたらすぐに動こう。
◆◆◆
フィリップさんに見送られ、シュトルム宅から外へと出る。
昨日は夕刻間近に到着したため、それとはまた違った雰囲気を今はこの街から感じる。
活気があるかで言えば、それはない。しかし、それに匹敵するのは……落ち着いた和やかな雰囲気と緑の香り。
目を閉じれば大自然の中に放り出されたような錯覚を覚えてしまいそうだ。終いには生き物の息吹が感じられるかもしれない。
グランドルが活気に溢れているのも、慣れ親しんだもので確かに良い。でもこの街もこれはこれで良いなと思ってしまう。
……うん、やはり雰囲気の良い街だな。
感傷に浸っていたいところではあるが、そうはしていられない。俺達がシュトルム達と別行動を取っていることにはちゃんと理由があるのだから。
シュトルム曰く、まずは今分かっている情報を先に聞くのは自分だけだとのこと。俺達も一緒に会議に参加させる考えもあったようだが、途中でその考えが変わったらしい。
これは先入観をなくすためらしく、何も知らない状態で俺達は俺達で調べて欲しいそうだ。
先入観があることで本来なら自然に気が付くことができる要因に気づけなかったり、思い込んだりしてしまって問題を見過ごしてしまうのを防ぐ効果があるのだとか……。
言われて、あぁなるほど……と納得できる理由に俺は感心したものだ。
今回のイーリスの問題はこの大陸全体の問題だ。今は中心部にしか影響は強く影響していないものの、その影響は日に日に増しているのは確かだ。
これ以上事態を悪化させないためにも、できることをやるしかない。
「……とは言ったものの、どうすっかねぇ?」
俺達は俺達で一旦動いてもらうと言われても、今日の朝に急に言われても正直困るんですよねー。
可愛いお兄さんはこういうことは事前に聞かされないと準備もできないポンコツなもんで……何すりゃええねん。
例え大きな問題に直面したところで、昨日アルと出会って真剣に事態の解決に取り組もうと思ったところで、お兄さんの頭はこれ以上スペックが上がらんからどうしようも無いのが現状です。考えが浮かばない……。
気持ちだけなら負けない! 試合に負けて勝負に勝て! そういう根性論と感情論は大いに結構だ。時として大きく体に影響を及ぼし、多大な力をもたらしてくれることだろう。
でも現実は厳しいっスわ。
優しいと思った世界とはなんだったのか……。あれは偶々だったに違いない。
実際問題、今回の問題はレベルたけーと思う今日この頃です。
「確か、空気が悪くなったのは草花の機能が失われたからって言ってましたよね?」
「えぇ。それに伴い、虹も異常を示したと……」
俺が今日のことで内心嘆いていると、助け舟を出してくれる頼れる仲間たちの声が続々と出てくる。
やっぱり仲間ってのは大切だ。こうやってディスカッションみたいに話すだけで、解決策を導き出すことができそうに思えるから……。
「そもそも、あの虹ってどんな原理でできてるんですかね?」
空一面に掛かる虹、昼夜問わず浮かび上がるそれは不可思議でしかない。本来虹は地上のどこからでも見えるわけではないし……。
それにも関わらず見えているのは、思えば化学ではあり得ないと言える。
……それを言ったら今の俺がそもそもあり得ねーって話だけども。
「う~ん、それなんだけどさぁ。あの虹がどれくらいの高さなのか調べたんだけど……少なくとも5㎞以上はあるんだよね~。私の範囲じゃ届かないみたいだし……」
「そんな高さに虹ができるとか聞いた事ないんだが…」
「久々のファンタジー要因ってことで割り切るしかなさそうですね」
ナナの言うことが本当なら、常識は当てはまりそうもない。なら科学の知識は今は通用しないのだろう。一部通用してたりしてなかったりで面倒臭いことこの上ないが……。
でも確かに、昨日は快晴で気づくことが出来なかったが、雲の上に虹が確かにある。
高さがそもそもおかしいか……。
「? どういうことなんですか?」
アンリさん達は虹のそんな知識を知らなかったようなので、俺は自分の知っている範囲でそれっぽいことを一応伝えておいた。
「へぇ~! 先生って物知りなんですね!」
「学者が知るような知識を庶民の方でも当然のように知れる環境ですか……素晴らしいですね」
「いや……俺は全然ですよ…アハハ…」
たったそれだけでこれだ。アンリさんとヒナギさんが羨ましそうな顔で俺を見てくるが……
お二人が仰るように恵まれた環境だったはずなのに、全然勉強していなかったんですよ私……。
その羨ましそうな目が今は痛い、痛すぎる……。他の地球人いたら俺のボロが浮き彫りになって白い目で見られそうだ。
俺は超底辺層の人間なんです。だからそんな目で見るのはやめてくだせぇ。
元々真面目で向上心の強い2人だ。勉強を苦と捉える考えはそこまで持ち合わせていないらしい。
勉学とは……やはりしておいた方が良いということだろう。良い子の皆はちゃんと勉強しましょーね。
お兄さんは……ひ、暇を見つけて東大でもめざしましょーかね、アハハ……。
俺は素直にそう思った。
「……まぁ、草花に影響が出ているなら地上に問題があるんじゃないかな。土壌とか地脈による異常の可能性もある。草花の機能が失われた原因は取りあえずその辺を中心に探ってみようよ」
「だな。俺は対して役に立てねーから匂いにでも意識を集中させてみるわ。あの気に障る感じの原因の元があるならそれを辿れるかもしれねーし」
セシルさんができることの方向性を示してくれると、ジークは自分にできることをすぐに見つけたようだ。
考えつくまでが早いことに驚きはある。でもジークは知識がないだけで頭は決して悪いわけではないというのが俺の認識なので、それが確かと思えた瞬間でもある。
よく勉強ができないから頭が悪いと言われる人がいるが、頭の悪いにも色々と種類があると思うし。
「じゃあ私は魔力の流れ見るね~。変な魔力が混じってるかもしんないし」
「じゃあアタシは学院で学んだ野草の知識を使って、分かる範囲で機能が失われた草花の種類を調べてみます。種類によって違いがあるなら、そこに何かヒントがあるかもしれませんから」
「それでは私はこの大陸の鳥に聞き込みしてきますね。動物だからこそ分かるものがあるかもしれません」
「ん、私はじゃあ……呪いとかの線を調べてみようかな。考えにくいけどもしこれが人為的なものなら解けるかもしれないし。魔道具みたいな人工物の場合なら……ナナ、地形把握で協力してくれる?」
「りょ~かい」
皆やること分かっててしゅごい、というかそれぞれがほぼ専門みたいなことを平然と言ってのけるとは……。
俺は思いつかないや。
残るは俺とヒナギさんの2人だけ。
何か……できることはないだろうか?
そう頭を捻って考えを凝らしていると…
「じゃ、そういうことで行こう」
俺達を待たず、さっさと行動に移そうとする他の面々。その向けられた背中を見て
所謂置いてけぼりである。
「ちょっとちょっと!? あの~、俺とヒナギさんどうしようか? やること思いつかないんだけど……」
流石に役割が無いのはどうかと思う。
俺はさっさと行動に出ようとする皆を引き留めるが…
「じゃあ仕方ないし、自由に行動してみたらどうかな? 2人で。方向性を持って動くのもいいけど、適当に目的もなく探ってるだけで見つかるものもあると思うんだ」
その行動が意味ありげなことを伝えるように、セシルさんが台詞を用意していたんじゃないかと思うくらいの早さで伝えてくる。
でも……すげー投げやりですね。自分探しの旅に出ろって言われてるみたいですん。
「ま、調べもんは私達がやっとくよ。私達が適任だろうし、ご主人はどうにもならないときのための最終手段なのが適任だもんね?」
なにそれ、ただの倉庫で眠ってるだけの兵器じゃないですかやだー。
無駄に場所だけ取ってしまって邪魔な奴ですね。限りなく使われる場面が限られてるという……。
そのまま在庫処分まっしぐらがオチじゃないですか。
「いや、流石にそれは駄目だろ。う~ん……。だったら……影響の境目の調査でもしてみるよ。どれくらいの侵食ペースなのか把握できるかもしれんし」
はいそうですねと首を縦に振れるはずもなかったため、俺は苦肉の策としてできそうなことをなんとか絞り出す。
「あ、それいいかもね」
「私は…「ヒナギはツカサについていきなよ」…え?」
ヒナギさんも何かできることを絞り出そうとして口を開くが、セシルさんの提案がそれを遮る。
「ツカサはどこか抜けてるから、見落としとかあると思う。どっちみち単独で行動させるのはマズいし……不幸体質だから何があるか分かんないでしょ?」
「……」
すごい言われようである。
でも否定できない事実なので反論はしない。するのは俺の首を絞めつけるのと同義だし、それはウンザリするくらい理解しているつもりだ。
この悔しさをバネにすることすらできないから、最早性分と割り切るべきである。
なんと情けない性分だろうか。
「……ですけど皆様のように役割がないのでは…」
「ツカサと一緒にいるのがそもそも役割みたいなもんでしょ。というかそっちの方がツカサもモチベーション上がりそうだし、悪いことにはならないと思うけど」
「え、えっと…」
セシルさんはどうやら何が何でも俺とヒナギさんを一緒にさせたいらしい。
ヒナギさんはセシルさんの言葉に反論を失い、俺の方をチラチラと見てくる。
それはまるで……ホントにいいの? と言っているかのように俺は感じた。
……あくまで感じただけですよ?
ヒナギさんならむしろ駄目ですよね? とかド正論なこと考えてるかもしれないし。
しかし…
「先生はヒナギさんと一緒で決まりですね。アタシ達はアタシ達で調査しますから」
「アンリさん?」
アンリさんがそのまま話を進めてしまい、面食らう。
口を出そうにも…
「でも、今度アタシにも時間作って下さいね。そうしないと拗ねちゃいますから」
矢継ぎ早に繰り出される言葉に俺はそのチャンスを失った。
落ち着いた物腰でそう言うアンリさんからは、セシルさんの提案を肯定しているようにしか見えなかった。
事前に知っていたみたいである。
そこまで後押しされてはここで退くのは駄目だろう。でも最近のアンリさんは自分を押し殺してる面があるように思えてしまうから…。
だから……絶対時間作ります。
今は……取りあえず分かったよ、アンリさん。
「……分かったよ。いっつもゴメン。皆も…」
いつも気を使ってくれる皆に謝り、俺はその提案を呑むことにした。
……尻に敷かれてるのは俺の方だったかもしれん。
でも抵抗できそうもないんだよな。
シュトルムに対して思ったことがそのままブーメランして帰ってくる。
とまぁ、そんな感じに俺とヒナギさんペア。そして残りのペアで行動を開始することになった。
次回更新は水曜です。




