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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
序章 旅立ち
20/531

18話 判断ミス?

 ◆◆◆




 う~む、困った…。非常に困っております、私。

 コレ、どうしましょうかねぇ…。


「ツカサさんみてみて! こんなに綺麗に光ってる! 私初めてみたよ!」

「うん…凄い綺麗だね。これならクラスの人たちよりも上手にできたかな?」


 テリスちゃんが俺の目の前ではしゃいでいる。

 最初に会ったときは控えめな声をしていたが、それがまるで嘘のようだ。自分で発現させた『ライトボール』に随分興奮している。




 俺がテリスちゃんに指導を始めて…既に1時間以上が経過していた。

 テリスちゃんは指導をする前は確かに魔法がうまくできていなかったが、俺が指導をしてから少しして、ほぼ完璧に魔法が使えるようになったようだ。




 …少々時間を戻そう。







 ◆◆◆◆







 テリスちゃんに最初、なんでもいいから魔法を使ってみてと言うと、『ライトボール』を使って見せてくれた。


 どうやら『水・風・光』に適性があるらしい。

 複数扱える人は珍しいと聞いていたので3つも使えることには驚いた。


 まぁ、お前が言うなっ! って話なんですけども…。


 テリスちゃんの『ライトボール』は発動こそしたものの、俺が無詠唱を初めて実践したときのような不安定で弱々しいものだった。


 なんかちょっとテリスちゃんがグラついてる気がするけど、もしかしたら魔力量が少ないのかもしれない。そうだったらゴメン。


 そして俺は本で読んだ魔法の発現で重要な要素を、テリスちゃんに確認してみた。


 …だってそれしか知らないんだもん。




 俺が魔法の発現において重要なのは…


 1に魔力循環の安定。2に魔法のイメージが鮮明かどうか…と言うと、テリスちゃんは何やら首を傾げ質問してきた。


「魔力循環って何?」


 ファッ!?


 これには驚いた。

 だって俺が読んだ本には重要だと書いてあったし。


 テリスちゃんは学校の先生から魔法はイメージが重要としか聞いていないらしく、今まで気にしたこともなかったのだとか。

 そんなバカな…と思って再度確認してみたが、テリスちゃんはそれ以外聞いていないと言い、教科書も同様でその記述しか見当たらなかった。


 あれ~? 魔力循環って全ての基本じゃなかったのか?

 やらなくても使えるのか、魔法…?


 俺は不思議に思って、『アイテムボックス』に入れておいた、ギルドから借りた魔法の本を開き確認してみる。




 …。

 うん、書いてあるね。間違ってはいないはず…。


 しばし熟考。そして仮説を立てる。




 ①俺が読んだ本が古いもので、今普及しているやり方とは違っている。

 ②俺がマッチさんからパチモンを借りていた可能性

 ③適性と才能は別物で、あんまり言いたくないけどテリスちゃんに才能がないだけ

 ④フ~ッフゥ~♪




 こんなところか?


 ①が一番可能性としてはあると思う。

 ②は…ないだろうな、一応ギルドで保管してあるようなやつだし…。

 ③については俺の勘違いの可能性がある。


 ④は…意味不明。何を考えてんだ俺は…。


 とりあえず俺は確認のため、魔力循環を行わずに、頭の中で魔法のイメージだけをして手を正面に思い切りかざす。


 勿論無詠唱だ。マスターしたからな。

 コッチの方が楽だし早いしで良いことだらけだ。


 すると普段よりも体から力が凄く抜けていく感じがする。


 うおっ…!? なんじゃこりゃ!? 体がすごく怠い…。


 そんな状態の俺だったが、目の前に『ライトボール』が出現する。


 あ、できたみたい…。

 しかし魔法は発動はしたみたいだが、いつもよりは安定していない。それに加えてこの怠さ、ダメダメだなこれは。


 どうやら発動こそするものの、魔力循環をしたときと比べると魔力の消費も激しく効果も薄いみたいだ。


 この怠いのはきっと魔力を消費したことによるものなんだろうな…。でも俺魔力量は結構あると思うんだが…。そんなに削れたのか? 分からん…。


 魔力循環を展開するのは省けても、デメリットが目立つんじゃ意味がない。

 やっぱり魔力循環が重要なのは間違いないとみていいだろう。


「(だとするとやっぱり①っぽいな。あの本がどれくらい前のものかはわからないけど相当古そうだったし、時が経つにつれて魔力循環のことが失われていったってところか?)」


 その間考え事をしていたので俺はしばらく無言だったが、驚いた顔をしながらテリスちゃんが話しかけてくる。


「ツカサさん。今のって…無詠唱ですよね…?」

「ん? ああ、そうだよ?」


 テリスちゃんは無詠唱に驚いていたようだが、俺は当然のようにかえす。


「無詠唱ができるなんて…凄いです! 先生でもみたことないです!」

「ああ、なんかできちゃってね」


 とりあえず適当に誤魔化す。


 異世界に来てからこんなんばっかりだ。やっぱり無詠唱は珍しいらしい。


 やり方さえ分かれば凄い簡単だけど…、でもこれは教えなくてもいいか。

 秘密にしとこう。なんかこう…同じ展開が容易に想像できる。


 テリスちゃんはというと、無詠唱を見て少し興奮しているようだ。

 緊張は既にないように見える。


 そして俺はテリスちゃんに魔力循環から教えていく。

 テリスちゃんは真面目に話を聞いてくれて、指導はテンポよく進んでいった。


 ええ子や…。







 ◆◆◆







 …と、こんなことがあったわけだ。


 今ではテリスちゃんは初級の最高魔法である『サンダーボルト』や、中級の『ウォーターランス』も威力はまだ弱いが使えるようになった。

 この2つはスキルレベルが3になると使えるようになる。

 一応俺もスキルレベルは全部5以上あるので使えはするが、使用したことは一度もなかったのでさっき見た時は驚いた。

 魔法は化学とは別物なんだな…と。


 まぁ魔力循環を覚えたおかげもあるが、きっと努力していたのだろう。

 俺が指導するまで発現こそできなかったものの、スキルレベルは順調に上がっていたようだし、今まで頑張っていたことがよく分かる。


 さっき聞いたが、テリスちゃんの魔法のスキルレベルは3らしく、ポポとナナよりも高いことがわかった。


 それと、どうやら魔力循環はめっちゃ魔力の消費が少ないっぽい。テリスちゃんも魔力循環を実践してからは怠そうにはあまりしていなかったし。

 それでも元々魔力量は少ないみたいで、何度か休憩を挟んだものの今はちょっとキツそうにしているけどね。

 あと、なんかテリスちゃん曰く、魔力循環しないのはもう考えられない…とのこと。それには同意…。あの怠さを体験したら確かに考えられんな。




 ま、何はともあれ無事教えることはできたようだ。


 …。


 できはした…が…。


 ハッキリ言おう、やりすぎた。


 正直なところ、どんどん魔法が上達していくテリスちゃんを見て、何かマズイ気はしていたのだ。

 さっきテリスちゃんが何気なく言っていたのだが、『ウォーターランス』を使っているときに「中等部レベルの魔法を私が…」という言葉を聞いて確信した。




 Oh…やっちまったぜ…と。




 中等部というのは恐らく地球でいう中学校のようなものと同じだろう。

 魔力循環を教えるだけで、テリスちゃんの魔法がまさかあんなに上達するとは思わなかった。


 1時間と少しの練習で何段階も先のレベルに達したぞ…。これは魔力循環の重要さを再確認せざるを得ない。

 あと魔力循環はあんまり公にしない方がいいな。…多分魔法のインフレが起こるんじゃないか? その原因の発端になるのは勘弁だ。


 まぁ魔法ができれば友達をつくるきっかけにでもなるんじゃないかという考えもあったのだが、これじゃかえって逆効果かもしれん。

 テリスちゃん、ごめん。お兄さんを許して…。


 俺は内心頭を抱えていた。


「今日だけでこんなに上達するとは思わなかったです! ツカサさん、どうもありがとうございます!」

「そ、そう…。ならよかったよ、ははは…」


 テリスちゃんは笑顔で言ってくる。


 やめてー! その笑顔が逆に辛いんですぅー!




 …。

 それにしてもどうしよう。

 ダグさんがこのことを知ったら…。言い方は悪いが変貌を遂げたテリスちゃんを見てしまったら…。

 怒られるよなぁ、いや…、最悪死ぬか。

 怒られるだけならまだいい。でもあの親ばかの態度を見たらなぁ。

 どうすりゃいいんだ…。もうあまり時間もないのに。


 俺は焦りながら、ダグさんたちが着実に家に近づいているのを感じとる。


 これは昨日気づいたことでもあるんだが、どうやら俺はポポとナナと、お互いの場所が大体分かるらしい。

 何か…体が引かれあっている感覚がするのだ。

 確認したらポポとナナの方も同じだったらしく、恐らくだが【従魔師】の効果なのではと推測している。



 …んなことは今はどうでもいい。それよりもこれからどうするかだ。


 ガチャッ!!


「おーう! 今帰ったぜっ!」


 悩んでるうちに帰って来てしまったようだ。


 くそぉぉっ!! 状況説明してる場合じゃなかったぁぁっ!!


 階段を駆け上がる音が聞こえる。


 あぁ…オワタ…。


「テリス~? いい子にしてたか? コイツに何もされたりしなかったか?」


 ダグさんが部屋に入ってくる。


 第一声がそれかい! 信用ねぇな俺。

 …あ、今日初めて会ったんだっけ。そりゃそうか…。


「お父さんお帰り! うん、大人しくしてたよ。ツカサさんには魔法を教えてもらってたんだ~!」

「おう? 随分機嫌がいいな…。そうかそうか、魔法は使えるようになったのか?」


 あ、なんかフラグが見える。

 逃げてもいいですか?


「うん見て見てっ!」


 テリスちゃんが目を閉じて魔力循環をおこない、詠唱。『ウォーターランス』を展開させる。

 展開した『ウォータランス』が部屋の中央に浮遊し、その場に留まる。


「は…?」


 ダグさんは口を開けて固まっている。


 ですよねー。


「こんなこともできるようになったんだよ! 凄いでしょ?」

「…嘘じゃ…ねぇんだよな。お前が本当にやったのか…?」

「そうだよ?」


 テリスちゃんの言葉にかろうじて返すダグさんだが、まだ目の前で見たことを信じきれていないようだった。

 テリスちゃんはというとキョトンとしている。


 子どもは純粋ですね~。

 あんまりよく分かっていない様子だけど、それが普通だよなぁ。


 ダグさんがワナワナと震えはじめたのを見て俺は身構える。


 やべ…来るか?


「テリスぅぅ~! すごいじゃねぇか! よくやったぞぅ~!」

「へ?」


 そんな俺の心配をよそに突然ダグさんが大声でそう言って、テリスちゃんを抱きしめる。

 俺は予想とは外れた展開に少し放心していた。


 テリスちゃんはというと少し苦しそうにしていたが、嫌ではなさそうな顔をして抱きしめられている。

 仲いいね、あなたたち…。


「昨日までは『ライトボール』を展開するのも難しかったのにこんなことまでできるようになって…、さすが俺の娘だな~!」

「お、お父さん…ちょっと苦しいよ」

「あ、悪ぃ悪ぃ。嬉しくてついな…」


 やっぱりダグさんは親ばかだった。

 テリスちゃんがダグさんから解放されてため息をついている。どうやら呆れているようだ。


「あのね! ツカサさんに教えてもらったとおりにやったら、すごい上手にできたの! 学校の先生よりすごいの!」


 テリスちゃんが俺のことを褒める。


 やだなぁテリスちゃん、お兄さん照れちゃうよ~(クネクネ)

 ダグさんの肩に乗ったポポとナナが白い目をしているような気がするが…まぁ気のせいだろう。


「そうか…。おい、アンタ…」

「なっ、なんでございましゅですでしょうか!?」


 身体をクネクネとしていた俺だが、突然声を掛けられたので変な言葉になってしまった。


 やっべ、やっぱり怒られるか?


「ありがとな。アンタのおかげでテリスがこんなに魔法が使えるようになった、礼を言う」

「えっ、あ、ハイ。どういたし…まして?」


 なんか感謝された。やりすぎじゃなかった? まぁ怒られないならそれはそれでいいんだが…。

 というよりさっきの変な返しをツッコまれなかったのは意外。


「しかし、一体どんな指導をしたんだ? テリスが魔法を苦手にしているのはよく知ってる。それがこんなに急に上達するものなのか?」

「俺は基礎的なことしか教えてませんよ。これは…テリスちゃんの努力の賜物です」


 嘘は言っていない。


「…言いたくねぇか。やっぱり何か秘密がありそうだな」

「いえ、そんなことはないというか…」


 いや、ホントなんですけども…。


「まぁ別にいいか、テリスが魔法をうまく使えるようになったのは事実だしな。…変な詮索して悪かった」

「えっと、ありがとうございます?」


 なんかお礼言っちゃたけど、助かったっぽい。


 ダグさんは怪しんではいたものの、詮索をするのは諦めたようだ。


 危なかった…。


「これで依頼は終わり~?」


 そんなときナナが口を開く。

 テリスちゃんは「鳥さんが喋ってる…」と驚いているようだ。


 そういえばさっきはテリスちゃんには聞こえないくらいの声でしか喋ってなかったな…。だからか。


「ん? ああ、これで終わりだ。助かったぜ」


 どうやら依頼達成らしい。


「じゃあ俺たちはこの後も依頼がありますので、これで失礼させていただきますね」

「おう。報酬はギルドの方に振り込んでおくからよ」

「分かりました」


 実際、このあとも依頼があるのは本当なので俺は話をどんどん進める。

 が…


「ツカサさん…行っちゃうの?」


 テリスちゃんが俺を引き留める。


 そんな残念そうな顔しないでよ。


「うん、依頼がまだ残ってるからね」

「…もっと色々と教えてもらいたいです」

「う~ん。今日はもう無理だけど…また機会があれば教えてあげるよ。それまで今日教えたことを練習するんだよ?」

「わかりました、約束です。毎日練習します」

「よし、テリスちゃんはいい子だね」


 俺はそうしてテリスちゃんの頭を撫でる。

 髪がさらさらで気持ちいい。

 テリスちゃんも撫でられて嬉しそうにしている。


「…テリスに随分なつかれてるようだが浮かれるんじゃねぇぞ? テリスが大好きなのは私だからな! 断じてお前ではない!」


 その光景をすぐ横で見ていたダグさんが何か言っている。


 そんな敵意剥き出しで張り合わなくてもいいじゃないですかぁ(ドヤッ)。

 本当に親ばかですね~(ニヤニヤ)。


 脳内で若干挑発しつつも、そんな言葉を無視し俺は…


「それじゃ、またね。ダグさんこれで失礼します。ポポ、ナナ、行くぞ」

「了解です」

「は~い」


 そうして俺はダグさんの家を後にした。




 家から出てすぐの道を歩いていると後ろでテリスちゃんが大声で、「約束! 忘れないでくださいね~!」と言っているのが聞こえる。

 それに対し俺は言葉の代わりに手を振ってかえす。

 テリスちゃんの隣にいるダグさんは、テリスちゃんの声の大きさに驚いていたが、すぐに俺に憎々しげな表情を向けてきた。


 顔は「私のテリスを誑かしおって~っ!!」と、言っているかのようだった。


 …非常に分かりやすいな、親ばかめ。


 道を曲がったところでテリスちゃんたちの姿は見えなくなってしまったので、俺は手を振るのをやめて次の依頼のことに頭を切り替える。




 さて、まだまだ時間はある。

 この調子で依頼をこなしていくとしましょうか!!

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