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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第五章 忍び寄る分岐点 ~イーリス動乱~
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191話 船旅①

 ザザァァァ……ン。


「風が気持ち良いなぁ」

「そうですねぇ…」

「まったり~」

「グァ~」


 潮の香りが鼻をくすぐる。

 どこに鼻を向けても潮の香りは変わらない。潮の香りが辺り一帯に充満し、まるで身を包まれているかのよう……。

 前髪が風にさらされるのを見て、髪の毛が少し伸びたなとふと思うが……そんなことはどうでもいい。


 潮の香りを感じた理由だが、それは俺達が今いる場所は海のド真ん中であり、正確に言えば船の上だからである。

 船の先頭から地平線をジッと眺めながら、船と共に並行して飛ぶ海鳥と一緒に目的地へとゆっくり進んでいく。




 イーリスへと向かうことに決めた俺達は、まずイーリスに出港する船に乗船するために、ヒュマス大陸最南端の港町にやって来た。

 始めてくる町だったこともあり少し見て回りたい気持ちはあったが、シュトルムが時間を気にしていることを言っていたことを考えそれはしなかった。

 ここまでポポとナナに乗って一気にここまで飛んできたわけだが、流石に飛行距離がありすぎたため変身時間の限界を超えてしまい、少し休憩を挟んだ後すぐに乗船……今に至る。……と言っても既に乗船してから2日目だったりするが。

 まぁ、海の横断はどう考えてもポポ達では無理があるため、結局は船での移動しか考えられないんだけどね。

 船に乗るのは初めての経験だけど、中々に快適ですよ? 乗り物酔いとかしないタイプだったのか、全く酔う気配も無く昨日からはしゃぎまわってます。子供みたいに。


 船旅は約3日程掛かるらしく、でもその間何もしないのもアレなので……昨日から釣りやら海鳥と戯れたりやらで時間を潰していたりする。……というか、それ以外にやることがないからというのもある。


 一応、船は魔道具を搭載しているため速度は地球のものとは段違いの速さを誇る。ゆっくりに感じるのは景色が大海原で変わりないことと、速度に慣れてしまったからだろう。

 それにも関わらず3日というのは……海は広いなと実感せざるを得ないと言える。

 仮に全大陸を周ることとなったら相当時間が掛かりそうである。




「先生~! 何してるんですか?」

「ん~? 風に当たってただけ~」


 俺達がまったりとしていると、アンリさんが声を掛けながら近づいてくる。


 あぁ…海の上だから遮ることのない日の光がアンリさんを照らしておられる。なんて神々しいんだ……反射してくる光で俺溶けちゃいそうだわ。




 しかし俺は、アンリさんのその姿を見て実に残念だと思ってしまう。

 別にアンリさんがこの場に現れたことが残念というわけではなく、アンリさんの恰好が昨日と変わらないということだが。


 察しの良い方ならお気づきのことだろう。

 ……何故水着イベントがないのかと……。



 海と言えば…真っ先に浮かぶのはそれですよね? 


 そう! 水着! 海と言えばこれっきゃねーだろ。 

 瑞々しい肢体! 水滴に身を染めたエロティックな女性! 大事な部分を隠しつつも、それが逆にエロスを感じさせる魅惑的シチュエーションってやつが!

 アンリさんとヒナギさんの綺麗で魅力溢れるお姿を見れると思ったのにっ!


 なのに……




「はぁ……海で泳ぐと言う慣習がないのはいかがなもんかね…。俺の興奮は何処へ? きっと読者はこういうのを待ってただろうに…(ブツブツ)」

「へ? どうしたんですか先生?」


 アンリさんが俺の言っていることが理解できない具合に、首を傾げてこちらを下から覗きこむ仕草を取る。

 俺も何言ってるか分からないから気にしないでくれると助かる。


 ……まぁこのアングルのアンリさんが見れたからもういいですけども。


「だって海って危ないモンスター多いんだぜ? 毎年被害が増えるくらいに。んな所で泳ぐとか自殺行為じゃねぇかよ?」


 そこに、新たな来客がやってくる。

 知識量が豊富なことで有名なシュトルムさんである。


「シャラップ! 俺の世界にそんな非常識な常識はない! 海は水着を着て泳ぐ! それが王道で正義なんだよ」

「グァ!」

「俺らの世界が邪道みたいな言い方すんなよ、仕方ねーだろ。お前の方はどうだったか知らねーけど、そもそもこっちは海で泳ぐとかいう考えが浸透してないんだよ」


 地球とこっちの違いがハッキリした瞬間であった。

 俺の味方なのか、一緒に飛んでいた海鳥もタイミングよく鳴き声を発してくれる。


 ただそれでも……そんな正論聞きたかない。

 俺の夢を返せ。キャッキャウフフ~なシチュエーションってやつを!


「ちっ……釣りでもしてよ」


 水着姿を拝むという楽しみが出来ないのであれば、他のことで楽しみを覚えるしかない。

 昨日に引き続き、未知の生物を釣り上げようと行動に出る。


「またそれか……。お前だけだぞ? この船の速度で釣りとかしてるの…」

「だってできるんだもん」

「あ、じゃあ隣にいてもいいですか?」

「聞くまでもなくどうぞ」

「どぞ~」

「じゃ、失礼しますね」


 船内の端に位置取り、竿を持って糸を海へと垂らす俺。そしてその隣に、俺の身体にほぼ密着して陣取るアンリさん。あら嬉しい。

 触れ合う部分から幸せの成分が体に染み渡っていく感覚を覚える。




 俺の今持っている竿には浮きなんてものはないし、糸を巻き取るためのリールもない……ハッキリ言えば竿と呼べない代物だ。ぶっちゃけ棒と糸をくっつけただけの簡素な。

 ただ、それでも魚は種類問わずにほとんど釣れるこの竿。棒は適当な素材を代用して、糸に関しては魔法で作ってる特別仕様だったりする。


 勿論糸は『バインド』です。触れた奴を問答無用で掴み取る目的で採用……最早釣ってないけど。

 さて……次は何が釣れるだろうか?


 アンリさんの体温を感じながら、ジッと釣り糸に意識を集中させる。シュトルムも後ろで俺の竿をジッと見ているのか、微動だにしない。

 ここにいる全員が、竿に意識を集中させている。


 ちなみに海鳥は生意気にも俺の頭の上に陣取って毛繕い中で、俺の意識を集中させる邪魔をしているが。

 頭が重いが……可愛いので良しとする。鳥はやっぱしキュートです。


 すると…


「あ! 先生竿が」

「お? 掛かった。ナナ~、どんな奴掛かってる~?」

「んっとね~……小さいやつ! ちょっと細長いかな?」

「ふ~ん? ……ほいっと」


 釣り上げた……というよりかは掴み上げたの方が正しいが、甲板へと釣り上げられて現れたそれは……イカだった。

 海から突然離れたことで、ジタバタと暴れている。


「お? こいつはフマナイカか! 珍しいの釣ったな」


 シュトルムが釣り上げたイカのことを知っていたのか、少し驚いたような反応を見せる。

 ただその名前は非常に不穏なものを感じさせるが…


「何ですかその名前。嫌な名前してますね…」

「その考えは間違ってないぞ。ツカサ……踏んでみな?」

「え? 踏むのか?」

「おう。それが一番の対処方だしな」


 どんな対処法だとツッコミたいところではあったが、百聞は一見にしかずが通例のこの異世界。シュトルムの言っていることはつまり常識的なことなのだと思い、俺は言われた通り行動に移ることにする。


 アンリさんに一旦離れてもらい、俺が恐る恐るそのフマナイカと呼ばれるイカを踏むと…




 ドパァ~!




「うわっ!? 気持ち悪っ!?」


 俺の靴がイカを軽く押しつぶそうとしたくらいのところで、それまではジタジタと動いていたイカがいきなり動きを止めて号泣し始めたのである。…うそん。

 まるで蛇口を捻ったように溢れる涙は…気色悪いことこの上なかった。


 しかも…


「って嘘だろオイッ!? 干からびたぞ!?」

「そうだ。コイツは踏んづけると嬉しすぎて号泣してな? 泣きすぎて脱水状態になって……そのままスルメになることで有名なんだ」


 どんな生物だよ!? 踏まれてしかも保存食になれるとか…。


「だ、だからフマナイカって名前なんですね……初めてみました」

「確かに、海じゃ踏んづけられることはないですからね…それ故の反応なのでしょうか?」


 アンリさんも始めて見たらしく、大変面白そうな顔でその光景を見ていた。そしてポポはフマナイカについて考察を始めてしまう。


 知らんわ。何冷静に分析してんのさポポ君や。

 そんな生態を分析する必要性が俺には分からん。




 呆然とそのスルメになったフマナイカを眺めていると…


「皆様、集まってどうされたのですか?」

「あ、ヒナギさん…」


 そこに俺達のパーティメンバーがまた加わる。

 世界が生んでしまった女神の生まれ変わり、聖母のような存在たるヒナギさんである。

 ヒナギさんは俺の足元をチラリと見ると、すぐに察したように驚きを露わにする。


「……あ、フマナイカじゃないですか。この辺りの海で捕れるなんて珍しいですね」

「知ってるんですか?」

「それは勿論……一応高級食材ですからね。すごく美味しいんですよ?」

「…へぇ」


 スルメの高級食材ねぇ。……なんかあんまし高級なイメージが湧かない。しかも踏んづけてるし…高級食材の扱いとしては如何なものか……。

 でもヒナギさんが嘘を言うとかあり得ないので、それが真実なのだろう。食べる意欲が湧くかどうかはそれとはまた別か。


「ヒナギさんは食べたことあるんですか?」

「えぇ。1年くらい前に一度ですが……」

「へぇ~」

「今こうして手に入ったわけですし……スルメになってしまった以上勿体ないです。今夜食べてみましょうか」

「あ、そうですね。楽しみです」

「カミシロ様、こちら頂いてもよろしいでしょうか?」

「あ、ハイ。どうぞどうぞ」


 なんか知らんが……俺は別にいらないし差し上げます。

 第一ヒナギさんの頼みを断れるわけもないし。




 そしていつの間にか、何故そうなったのかは不明だがアンリさんがヒナギさんとじゃれ合いを始めていた。

 ニャンニャンと効果音でそう表現されそうな雰囲気が漂っている。


 ……眼福眼福。


「もう…アンリ様やめてくださいよ~」

「うわぁ~ヒナギお姉ちゃんだぁ~」


 ヒナギお姉ちゃん……なんて素晴らしい響きなんだ…!


 恋人同士な関係上、どこか2人は気まずいのではと思ったのだが……思いのほか仲が良くて非常に見てて微笑ましい。

 まるで姉妹同然である。いや…それを超えとる。


「ちっ…神は俺を試しているとでも言うのか…!」

「何言ってんですかご主人…」


 ただ、その姿を見て羨ましいとしか思えない自分がいる。


 あの輪の中に入って俺も甘えたいんですけどっ! ヒナギさんのこと姉ちゃんみたいって思ってた時期が俺にもありましたし。

 アンリさんそのポジション変えてくれませんか?


「何バカなこと言ってんだよお前…。お前の彼女達だろ…なら混じって来いよ」


 俺が何を考えているのか、大体察したのだろう。シュトルムが後を押すようなことを言ってくれるが…


「馬鹿野郎! んなことしたらただの女好きみたいに思われるだろーが!」

「いや、事実だろ。つーか自分の彼女なら別に変でもないだろ。ポポとナナも何か言ってやれよ。コイツ……感性おかしいぞ」

「「いつものこと(です)」」

「オイオイ……最近雑な扱いにし始めてるぞお前ら…。こんな従魔見たことねーわ」

「そもそも私達みたいな従魔っているんですか?」

「……いねーな確かに」

「そういうことです」


 どういうことだよ。

 私達は他の従魔とは違うので主を邪険にしてもいいのですってか? んなわけないだろ。




 …と、ポポとナナの最近の俺への扱いはともかくだ。

 確かにシュトルムの言っている事にも一理ある。

 俺はあの2人の彼氏であることは間違いない。そこに遠慮する姿勢は要らないし、2人も同様に思ってくれているはずだ。

 ならば…




 神は言っている…ここで退く定めではないと。




 なら俺が取るべき行動は1つ。アンリさんと並んでヒナギさんの胸にダイブするだけさ。


『へいへ~いお嬢さんたち。お兄さんも混ぜてよ~!』

『キャ~! 先生(カミシロ様)のエッチ~!』

『ハッハッハッハ!』


 …っていやいやいやいやっ!? それは流石に違う気がするわ…。

 何納得しかけてるんだ俺は…。んなことしたらまたヒナギさん顔真っ赤にして大変なことになっちゃう。

 アンリさんは……なんだろう、顔赤くはしそうだけど普通に受け入れてくれそうな気がしてならないな…ジュルリ。

 おっと煩悩退散退散っと……。




 込み上げる煩悩を抑えながら、残りの船旅を楽しむ俺達だった。

次回更新は日曜です。

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