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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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182話 頼りないリーダー

 ◆◆◆




 イチャイチャも程々に、いつものように皆で朝食を取るため下の階に行く。


 ふ~…。朝のインパクトが凄すぎて頭から抜け落ちてたけど…セシルさんの問題はまだ解決なんてしていない。にも関わらずあんなイチャイチャするとか…俺最低だな。

 アンリさんはまぁ不安もあったからいいとして、俺は駄目だったよな…。

 イチャイチャするのはやることやってからじゃないとダメだろ…俺の馬鹿。

 勿論、ヤる娘とヤッてからなんてNGだ。それはもう頭おかしいレベル。当然してない。

 でもそんな考えがすぐ出てくる自分がいるんですがね。




 そして俺の目の前には、セシルさんが座っている。勿論他のメンバーもおり、いつものようにテーブルに座っている状態だ。

 最早『安心の園』での日常光景と化している。


 昨日はあんなにも似合わない表情をしていたセシルさんだが…


「昨日は心配掛けてゴメン。でももう平気だから」


 いつもと変わらぬ表情を極力作って、そんなことを口にした。


 あ…あれ? 


「オイ、セシル。……無理してるのバレバレだぜ?」


 その違和感に真っ先に反応したのは、ジークであった。

 俺達もジークの言葉をその通りだとしか思えない。伊達に数ヶ月の間共にいたわけではないのだ。昨日あれほど急変した様子から今見ているいつもの顔に戻れるわけがないし、何よりそれくらいの変化を見抜けるくらいには仲が深まっているつもりだ。


 無理をしているのは明白だった。


「……はは、やっぱり分かっちゃうか……ジークにさえ。嬉しいけど困っちゃうな…」

「「「「「…」」」」」

「でもさ、ずっとあのままって訳にもいかないし、過ぎたことを後悔しても仕方ないから。多少辛くても、頑張って前に進もうと思うんだ。ある意味良い機会だったしね…」


 ある人物との約束がどうのと言っていたことから、恐らくそれを乗り越えようということなのだろう。機会というのは昨日の一件のことだと思われる。


 だが口ではそうは言っても、まだ気持ちは前向きになれてないようだ。

 強がっているだけにしか…俺には見えなかった。




 でも、その強がりをしないと前に進めないと考えた結果がこれだと言うなら、俺達はそれを受け入れてあげるしかない。


「そっか…。…色々聞きたいことはあるけど、詳しい話はまだ…聞かない方がいいよね?」

「…うん。でも……いずれ話すから。それまで待っててくれないかな? ちょっと整理したいから…」

「了解。なら待ってるよ」

「おうよ」

「待ってます」

「いつでも言ってくださいね」

「ありがと。…取りあえずもう、いつも通りでいいから」




 無理に聞く必要はない。

 欲を言えば聞きたいことなんてたくさんある。フリードなる人物とセシルさんの関係、セシルさんがこれまで過ごした期間のこと、そして…『断罪』のこととか…。

 だが、その欲よりも前に優先すべきことは仲間としての思いやりだ。セシルさんのことを第一に考えてあげれなくては、仲間などとは言えないだろう。

 当然、これは俺の本心である。そして皆も同様のはずだ。


「セシル……悪かった」

「もういいって。ジークは黙っててくれたから…それだけでも十分だよ。今回はジークが不覚を取るくらいだったんだから…仕方ないよ」

「…それでもだ。次はぜってぇにそんなことにはさせねーから」

「……うん。ありがとう」


 ジークとセシルさんのやり取りに、俺は心がほっこりしたような感覚を覚えた。昨日ジークと二人で話した意味があったのだと感じたのだ。

 その一方、ジークの態度に目を丸くする他のメンバー達。まぁ今までのことを考えたらこの態度は驚いても仕方ない。


 そして…


「ツカサ」

「ん?」


 セシルさんが俺に何やら言いたいことがあるようで、俺の方を向いて話し掛けてくる。


「ツカサはさ、まだこれからも…『ノヴァ』を探るつもりだよね?」

「そりゃまぁ…。俺の目的だしね」

「…私も連中を探る目的ができた。だから改めてこれからもよろしく」

「え、でも…」


 セシルさんの申し出に、俺は少々躊躇してしまった。

 というのも…


「大丈夫、これからもう天使の力は必要な時は隠したりしない。ツカサ達程じゃないけど私も皆を守るよ。……でも、『夜叉』だけは私がこの手で潰したいから。……駄目かな?」

「っ!」


 セシルさんがそう言った理由が、内心では分かっていたからだ。

『夜叉』に対する憎しみは捨てきれるものではなかったらしい。あの温厚なセシルさんがここまで言うということは、それほどに意思は固いと見ていいだろう。

 なら、俺からは何も言えない。


「……それはセシルさんがそう思うくらいに、今まで守ってきた大事な約束だったって思っていいんだよね?」

「うん。どうしても許せないから…」

「俺にはそれを駄目だって言う理由も資格もないから……セシルさんの決意には首を縦にしか振れないよ。……分かった。それもいつか話してくれるのかな?」

「……絶対に話すから……待ってて」

「了解」


 セシルさんの要求に応え、何故そうまでするかの理由をいつか聞くことを対価のようにした。


「だから……一緒にいてもいい? 1人だと少し不安だし……極力1人にはなりたくないんだ……迷惑掛けるだろうけど」

「いやいや、迷惑なの俺とジークだし」

「…だな」


 ここまで来て、急にシュンと塩らしくなったセシルさんを見て、それまでの緊迫した場が少しだけ和んだ。見た目相応の少女の様な姿に、いつものセシルさんだと思えたからだ。

 セシルさんは仲間だから離れたくないなら離れる必要なんてないし、ましてや迷惑にだなんてなるわけがない。それは、それ以上に迷惑を掛けている俺達だからこそ、頷けるわけなんてなかった。


 俺とジークは2人して頷き合う。これは文句なしの合致である。

 俺が全てにおいてのそもそもの原因で、ジークは元連中の仲間みたいなもんだったわけで、必要以上に危険に晒してしまっている原因は俺達だ。

 セシルさんは悪くない。


「ま、確かに2人が一番の原因なのは間違いないよね~」

「ナナ様、お二人だって意図的n「いや、冗談だからね? 真に受けないでよヒナギ……」

「あ、す、すみませんでした…てっきり……」

「お堅いねーまだまだ。ちょっとした空気の入れ替えみたいに思ったんだけどな…」


 会話が重たいものとなっているのを見かねたのか、ナナが場を茶化す。しかしその茶化し方をヒナギさんは真に受けてしまったようだ。

 相変わらずヒナギさんの真面目な人は健在なようで、気を使ってくれたらしい。


 俺達パーティの良心ですよホント…。




 少し会話が途切れてしまったが、セシルさんに俺は返答する。


「…まぁなんにせよ、一緒にいていい? って質問はむしろ俺達がするものでしょ。第一このパーティを発足したのってセシルさんだし、セシルさんがそうだって言うならそれで決まりだよ」

「ん。分かった……そうさせてもらうね。でも……私が確かにパーティを結成しようって持ち掛けたけど、私リーダーじゃないからね? ツカサ何か勘違いしてない?」

「え? あぁそっか……。でも今更だけど、このパーティのリーダーって誰なの? そう言えば決めてなかったよね」


 パーティにはリーダーが必須だ。というのも、ギルドが冒険者を把握、管理しやすくするためという理由もあるが、パーティ間での連携の要となる役割だからである。責任者はやはりいた方が良いだろう。


 まぁ俺達は他のパーティと違ってそんな感じじゃない気がするんだけどなぁ…。確かに統率? みたいなのは取れてるけど、そもそも冒険者でもないジークが混じってるし、イレギュラーが満載すぎてなにがどうなのやら…。

 リーダー不在でなんやかんや動けてるし、決める必要はないかもしれんがな…。


「……何言ってるの?」

「……へ? 違ったのか?」

「どうやらその様子ですね……見る限りだと」

「コイツはそういう奴だ。まぁ俺以上の馬鹿だ」

「先生らしいですね。けどちょっと冗談が過ぎると思います」

「……? なに?」


 ジークからは馬鹿呼ばわり、アンリさんには冗談が過ぎると言われ、他は目を丸くして俺の方を見つめてきている。ポポとナナに至っては何も言わない始末で、俺の頬をペチペチと叩いて呆れているようであった。


 そして…


「……リーダーはお前だろ? 何言ってんだよ」

「……? 誰?」


 シュトルムが俺の方を指さしてそう言うのでそちらに目を見やるが、誰もいない。

 それもそのはずだ、俺が座ってるのはテーブルの端だからな。いるはずがない。


 誰を指してんだシュトルムは? お前には何が見えているんだ。


「お前に言ってんだよ馬鹿! 何天然ギャグかましてんだお前は!」

「はぁっ!? え…俺なの!?」

「……頭おかしいんじゃないのか? お前以外に誰がいるんだよ」


 皆の言うリーダーとは俺のこと…らしい。何故だ…。


 うそん……だって誰もそんなこと一切言わなかったじゃん! ていうかギャグじゃなくて素だよこれは! 

 俺みたいなんがリーダーとかあり得ないだろ。


「ちょっと待て! 俺リーダーらしいことしたことないぞ? というか迷惑ばっか掛けてるだけじゃん!」

「お前がリーダーなんだから迷惑はもう割り切ってるわ! アホか!」


 意味分かんねーし。


「つーか、ここにいる奴はお前との縁を中心に集まった奴しかいないだろうが。ならお前がリーダーなのは当然に決まってんだろ。まとめられんのはお前だけだ」

「俺との縁…?」

「そうだね。ツカサが基点になってるのは事実」

「だと思いますよ。ご主人」

「………」


 …………あ、そう言えばそうか。


 セシルさんとは冒険者になって初めて声を掛けられて、シュトルムとは依頼の最中に予期せぬ出会いをして、その後アンリさんと学院で出会った。

 ヒナギさんはSランク昇格関係で知り合って、東に行った後にパーティが結成。アンリさんも加わってジークも……。


 思えば俺が最初に皆と出会ってるのか。気づかなかったな……。


「ぷっ! 相変わらずツカサは変わってるよね。だからこのパーティはいつも楽しい」

「セシルさん……」

「……ハイ。じゃあそういうことで、ちゃんと今度からは意識しろよ? リーダー」

「いやいやリーダーじゃねーし! 何勝手に決めてんの!?」


 何流れでそう決めようとしてんの? 了承してないんだが。


「初めからお前だって今まで俺達は思ってたんだよ。どっちみち満場一致でお前に決まりだ。ハイこの話おしまい」

「そうですね……カミシロ様が長で決まりですね」

「ヒナギさんまで!? ……あ、アンリさん……」

「ファイトです、先生♪」


 チーン……。


 唯一の逃げ道と思っていたアンリさんがそう言ってしまっては、もう逃げられん。というか最初から決まってたっぽい。

 でも納得いかんぞ……。


「あのよぉ…俺気になってたんだが、セシル嬢ちゃんって実際は何歳なんだ? ぶっちゃけ俺よりm「乙女にそんな質問は駄目、絶対に…」…は、ハイ」


 俺が諦め気分になっていると、今の流れを断ち切るためにシュトルムがなんともデリカシーのない質問をセシルさんへと投げかけた。

 まぁシュトルムなりの機転なのだろうが、もっと良いチョイスなかったのか? いくらなんでもそれは失礼だろ。でも…気にはなるが。

 だって天使は『断罪』で絶滅してしまったわけで~……遡ると1000年前の人物ということになるわけだからなぁ…。


 セシルさんって相t…


「ツカサも変な事考えないの」

「あ、ハイ…すんません」

「先生……流石にそれはどうかと思います」

「ご、ごめん……」


 いち早く俺の思考に勘付いたセシルさんが釘を刺し、アンリさんにも怒られてしまった。


 同じ女性同士、気持ちは分かるということですね。ごめんちゃい。


 しかし、その疑問に応えてくれたのか…


「はぁ…。気になるなら言っておくけど、私の身体は当時のままの状態で成長が止まってる。精神年齢で言えば確かに1000年は越えてるけど、肉体はアンリ達の年齢と変わらないからね?」


 呆れた様子で、セシルさんが自らについてを少し語ってくれた。


 どうやら皆が想像していたであろう、ロリバb…ウォッホン! ……大人の女性というわけではなさそうである。

 ただ精神は成長してるため、身体だけはという不思議な状態ではあるが。


「ちょっと待てセシル……ってことはお前…それ以上成長が見込めないってことか…?」

「うん、そういうことになるかな……って、ジーク。今どこ見て言ったの? ……呪い殺すよ?」


 ここでジークが余計なことを口走りやがった。セシルさんの身体を見て、酷く可哀想な…という顔をしたのである。


「っ…わ、わりぃ…口が滑った」

「まったく…しょうがないでしょ。私身体も小さいんだから…(ブツブツ)」


 ぶっ殺すではなく呪い殺すというのが、妙に現実的で怖い。


 セシルさんは身体がこの中で最も華奢で、言い方は酷くなるが子供のような印象を覚えるのが素直な感想である。

 であるからして、女性のメンバーの中でも特に、主に胸が一回り小さいことにコンプレックスを感じているようだ。


 ま、まぁ…これは個人差があるから仕方ないけど。女性からしたら結構大きな悩みの種と言えるのだろう。

 一応Bくらいはあるんじゃないかなぁ…アハハ…。


「まぁ…そういうことだから。改めてよろしくね」

「これからもよろしくお願いしますね。セシル様。いつでも打ち明けて頂いて構いませんから」

「アタシも。よろしくです」

「うん、ありがと」


 それから、そのままの流れで談義へと発展しそうになったところで…


「……私、お茶を淹れてきますね。会話が弾んでますから…」


 ヒナギさんが席を立って、ミーシャさん達のいる厨房の方へと行こうとする。

 厨房はよく料理をする時に邪魔にならない程度に使わせてもらっているらしく、立ち入りの許可が何故か出ている我がパーティ面子の女性方。

 いつもの流れでヒナギさんがそう言うと…


「あ、それならアタシm「頼める? ありがとねヒナギ…」…セシルさん?」


「ええ、少々お待ちください」


 アンリさんも名乗り出るが、それをセシルさんが声を重ねることで妨害する。ヒナギさんはさして気にする素振りもなく、そのまま厨房へと行ってしまった。


 セシルさんのこの行動にはよく意味が分からなかったのだが、それはアンリさんも同様だったらしい。


「セシルさん? どうしたんですか一体…」

「今ならいけるか……」

「へ?」

「皆、ヒナギがいなくなった今がチャンス。先延ばしになってたあの問題を真っ先にどうにかしようと思う」


 アンリさんの質問には答えず、急にセシルさんがそんなことを言いだした。


「お、遂にやんのか。いきなりだな……」

「あ~…アレね~」

「来ましたか…」

「…あの問題?」

「……あぁ、なるほど」


 そしてそのセシルさんの言葉を合図になんとなく察した様子の他の面子。対する俺の顔はちんぷんかんぷん。


 皆して分かった風な顔してますけど…俺分かんないんですが?

 教えてプリーズ。


「このパーティの幸先を良くするためにも、これは早めに消化しておきたいからね」

「確かにそうだな、このままじゃこっちが見てられねーもんな」

「そゆこと。アンリ……いいんだよね?」

「…ハイ。もう決意は固まってます。アタシもそれがいい結果になると思いますから」

「え…マジで何の話してるの?」


 セシルさんとシュトルムとアンリさんのやり取りを見ると、真剣そのものであった。

 どうやらこの話題は相当な案件であることが伺えるが、俺だけはそれを理解できていないのが不満だ。


「ツカサには内緒。まぁ…でも覚悟しといてね。そして受け入れてくれると嬉しいな」

「「「「………」」」」

「はぁ…?」


 意味が分からん……説明になってないんですがそれは……。

 それに、受け入れて欲しい? どういうことだろうか?


「じゃ、今日の夜皆私の部屋集合ね。私は下準備をしておくから。勿論…ヒナギにはバレないようにね…。ポポとナナはその時間にヒナギとおしゃべりして万が一に備えて。追って詳細は伝えるから」

「「了解」」




 一人意味も分からずにいた俺だが、どうやらそういうことに決定してしまったらしい。

 ヒナギさんには話せないことなのだろうか?

次回更新は木曜です。

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