16話 断罪
異世界に来てから3日目の朝。
現在俺たちは、朝食を食べている。
相変わらずウマい。やみつきになってしまいそうだ。
セシルさんを探してみたが、見当たらなかった。
ミーシャさんに聞くと、どうやら既に出かけたらしい。
俺も今日やることが色々あるので早起きしたし、セシルさんも依頼とかあるのかもしれない。
「ごちそうさま」
「お粗末様ですー。今日はどうされる予定なんですか?」
「午前中に図書館に行って、午後は住民のお手伝いをしようと思ってる」
「そうなんですか、あ、そういえば聞きました? 昨日の冒険者ギルドのこと」
「…昨日?」
一瞬何のことか分からなかったが、アレのことか?
「なんかベテランの冒険者と新米の冒険者が騒ぎを起こしたとか…。それでベテランの人が新米の人にやられたって話です」
ハイ、それ俺ですわ。一番当時の状況知ってますよ、俺。
というよりあいつベテランだったのね。
「なんか冒険者さんの間で噂になってて、腕で剣を防御したって聞きましたけどそれはさすがに嘘ですよねー」
ミーシャさんが可笑しそうに笑いながら言う。
スンマセン、それ実話です。
人は剣を腕で防御できるんです。いや、マジで…。
まぁ言わないけど。
「(噂になってるね~)」
「(しょうがないことでしょう)」
2匹は囁いている。
「へぇ、そうなんだ…」
ミーシャさんにはそう返しておく。
こんなことで印象が悪くなるのはできるだけ避けたい。
「ですからツカサさんも気をつけてくださいね?」
「…ああ、覚えておくよ」
「じゃあ今日も頑張ってくださいね~」
そう言ってミーシャさんは厨房の方に消えてしまった。
それにしても、どうやら既に広まっているようだ。
気づかれるのも時間の問題だな、ありゃ。悩んでても仕方ないが。
と、そんなことを思いながら、俺たちは『安心の園』から出たのだった。
◆◆◆
外に出ると朝日が眩しい。
快晴だ。日差しが心地いい。
空は雲ひとつなく青々としているし、実に気分がいい。
そんな風に感じながら図書館へと歩き出す。
図書館の場所は昨日セシルさんに教えてもらった。どうやらグランドルの中心近くにあるらしい。
利用には身分の証明が必要らしいが、それはギルドカードで十分とのこと。
ただ貸し出しについては会員制となっているため、ギルドカードでは借りられないと言っていた。
う~ん、残念だ。
気になるような本とかがあったら宿で読もうと思ったんだが…。
30分くらい歩いて町の中心部に近づく。
ここまで街並みをじっと見てきたけど、とても賑わっていて楽しそうだ。
お金に余裕ができたら、ショッピングとかしてもいいかもしれない。
町の中心に近づくにつれて中心には大きな城もどき? みたいなものも見え始めた。
異世界だと貴族とかが定番だし、もしかしたらいるんだろうか…。まぁ、いたとしても俺には関係ないが。
「これだな」
図書館はそこから少し離れたところにあったので、ギルドカードを見せて中に入る。
広さは地球の図書館と同じくらいで、古風な作りをしている。
なんというか…落ち着く感じだ。図書館らしく、やはり中は静かだった。
内装は個人的には結構好きかも。
「ご主人。あちらに歴史と常識関係の本があるようですよ」
ポポが場所を教えてくれたので、そちらの方向にある本棚に向かう。
「ここら辺のやつがそうか」
「だね~」
「色々あるけど…適当に読んでいくか。それぞれ別々のを読んであとで教え合おう」
「了解です」
「は~い」
俺たちはそれぞれ適当に本を選び、しばらくの間読むことに集中していた。
◆◆◆
本を読み始めてから3時間くらいは経っただろうか?
俺たちは散らかした本を戻し、図書館の机の一角でそれぞれの報告をしていた。
読んでいる途中、図書員の人の視線が痛かったな。
ごめんちゃい…てへっ。
「じゃあそれぞれ読んだ本の話を聞かせてくれ、ナナから頼む」
「うん。えっとね~、私が読んだ本だとね~この世界のこととかが書いてあったよ~。まず私たちがいる…」
長いので割愛。
とりあえずわかったことは…
大陸は神様から聞いた通り6つあり、『魔大陸・ボルカヌ大陸・イーリス大陸・マムス大陸・アニム大陸・ヒュマス大陸』がある。
魔大陸は魔族。
ボルカヌ大陸はドワーフ。
イーリス大陸はエルフ。
マムス大陸は小人。
アニム大陸は獣人。
ヒュマス大陸は人間が住んでいる。
現在俺たちがいるのはヒュマス大陸だそうだ。
どの大陸も大きさは少なくとも日本よりはあるっぽい。
アメリカサイズだったらちょっと勘弁してほしいが…。
名前に種族名が含まれている大陸が多いので覚えやすいな。
大陸にはそれぞれ特徴があり
魔大陸は土地が荒れているため作物が育ちにくい環境で、魔力濃度が高いのが特徴。そのため生息しているモンスターが一番魔物化しやすい。
また過酷な環境に適応し、独自の進化を遂げたモンスターが多々見られる。
ボルカヌ大陸は火山地帯の場所が多く危険だが、良質な鉱石が多く採れる。
魔道具作りの先進国であり、町にはいたる所に魔道具があるとか…。
イーリス大陸は幻想的な景色と聖獣が住むことで有名。ユニコーンが唯一生息しているらしい。
また、世界で最も大きい図書館が存在し、蔵書されているものには貴重なものが非常に多いらしい。
マムス大陸は全てのものが小さいことが特徴。特産品が多いので貿易が最も盛んな大陸でもある。
過去の伝承が他の大陸に比べて根強く残っているのも特徴。
アニム大陸は大陸のほとんどを密林が占めているのが特徴。そのため動植物も多く、食物連鎖が激しい弱肉強食の環境になっているらしい。
天を貫くほどの大樹があるのが有名。
ヒュマス大陸は最も安全な大陸として知られる。
気候・生活水準・治安が他の大陸よりも安定しているため、他の大陸から移住してくる割合も一番高いのが特徴。
それ以外にこれといって特徴はあまりないそうだ。
ふむふむ。非常に興味深い。
落ち着いたら色々な大陸にも行ってみたいな。
もちろん地球に帰るための手段を模索するためだぞ? 観光とか旅行とかしたいわけではない、うん。
…次いこうか。
「では次は私ですね。私が見た本の中には常識のようなもの…1年の日数や曜日等しか有益なものは書かれていませんでした」
ポポの話だと…
1年は365日らしく地球とは変わらない。
曜日は属性になぞって『火・水・風・土・光・闇・無』だそうだ。
ちなみに今日は風の曜日らしい。
闇はちょっと不吉な気がするんだが、これがこの世界では普通なんだろうな。
時間については、驚くことに何時かを示すものがないようだ。
どうやら感覚で生活しているらしい。
ほぅ、地球と似ているのは好都合。ただこの世界の時間についてはなぁ。これは時間にうるさい日本人には少々キツイ。俺は時間はきっちり守る性分なので…。
時計が欲しいよ。
「そうだったのか…わかった、ありがとう。じゃあ次は俺だな。俺の本にはこの世界の歴史が書いてあったよ」
俺が見た本はというと…
昔は種族が7つ存在しており、互いに協力し合って暮らしていたらしい。
その7つ目の種族はなんと天使だったそうだ。
約1200年前に世界全体を巻き込む大きな戦争があり、現在は6種族だが、かつての7つ目の種族である天使はそれが原因で絶滅したらしい。
なんでも天使は数こそ非常に少なかったものの、7つの種族で最も強大な力を持っていた。
それを他の種族は恐れており、人間族が他の種族に声を掛け天使を滅ぼそうとしたとか…。
それが戦争の始まりだそうだ。
迷惑きわまりないなぁ…、他人事だけどさ。
天使以外の種族は結託して連合軍を作り、天使と連合軍の戦争が始まった。
そして100年の長い戦争の末に、連合軍の勝利という形で戦争は終結したみたい。
結構ざっくりした説明だとは思うが、俺がたった今覚えたのはこれくらいだ。
この戦争を『断罪』と呼ぶらしい。
今ではおとぎ話とかではよく聞く話で有名なんだそうだ。
以上。
それにしても『断罪』ねぇ…。
憶測だけで殺しておいて何が『断罪』なんだか俺には分からんな。まぁ当時の人間じゃないから詳しいことはよく分からないけど、非は連合軍にしか見当たらないだろこれ。
しかし天使…もしいたら見てみたかったなぁ。
俺はそんな風に思ってた。
ポポとナナも何やら考えているようだったが、恐らく俺と同じことを考えているのだと思う。
「…とりあえず少しはこの世界についてわかったな」
「そうですね。それにしても天使がいたとは驚きです」
「ああ、俺もだよ。………」
「どうしたの~?」
俺が黙りこくっているのを見てナナが声を掛ける。
俺はと言うと、神様と話していた時の会話を思い出していた。
少し思い当たることがある。
「いやちょっとな…。神様と話をしてた時なんだが、俺たち地球人は300年くらいの周期でこちらの世界に呼ばれると言っていただろ? だからもしかしたらだけど、呼ばれた地球人の初代はこれに関わっていた可能性があるんじゃないかと思ってな…」
「…確かに。時期的には一致してはいますね」
そう、神様は俺にそう説明していた。
先代の人たちは願望とか欲望が強かったみたいだし、もしかしたら支配欲に駆られて戦争に関わっていたのかもしれない。
あくまで憶測だからそれが真実かどうかは分からないけどな…。
可能性はある。
「(もしそうだとしたら、同じ地球人として申し訳ないな)」
そんなことを思ってしまう。
「でも、あくまで憶測だよね~? あんまり気にしなくてもいいんじゃないの? 少なくともご主人が気にすることじゃないよー」
「…まぁそうだな。…よし! 調べ物はこれくらいにして、何処かで飯食って依頼をしに行こうぜ! 調べ物はこれで一旦終わりだ。時間があればまた来よう」
少し憂鬱な気持ちを声で振り払い、俺は頭を切り替える。
考えすぎか…。
しかしそれでも、不安は拭いきれなかった。




