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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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173話 宝剣の真の姿

区切りが悪くなったのでちょっと短めです。

 静寂。

 先程までは罵声が飛び交うのが普通であったにも関わらず、姫様の放った言葉によってそれは確かなものとなった。

 セルベルティアに仕える兵は目を丸くし、さらにそれは、貴族や国の重鎮らにまで影響を及ぼしたようだ。

 この場にいる者達は、俺達と当事者2人を除き、全員が皆目を丸くしていた。それくらいに予想外の発言だったのだろう。


 そしてその当事者達はというと、そんな周りを気にすることもなく話を続けていく。


「愛…か…。久しく忘れていたな…それは」

「知っています。だからこそ、今ハッキリと言ったのですもの。…でも、お分かりいただけましたか?」


 あのー…。


「…そうだな。ルセリアがいなくなってから、私はおかしくなっていたのだな…。お前に求めていた私のそれは…愛などではなかったのか。フッ…愛も忘れてしまうとは…私は愚か者だ。今回の事はただ私の身勝手な妄想が引き起こした…下らない我がままか。それがセルベルティアを混乱させていたのにも気づかないとは…情けない」


 ちょっとー…。


「いいのです、今日こうして気付けたのですから…。また一からやり直しましょう。世界が平和になったことで、民の心も以前に比べ寛容になっているはずです。今はその広い心に甘え、次は私達が民に甘えてもらえるように尽力すれば良いのです」


 あのマジでそっちの世界から帰ってきてくんない?


「愛…それを胸に、今後を生きていくことにしよう。…皆、私についてきてくれるか?」

「…勿論ですとも陛下! 我らは始めから陛下と共にあります。陛下がそうお考えになられているのであれば、我らはそれに従いましょう。この国と陛下達を支えることが、我らの役目ですから」

「ラト…」


 俺が口を挟もうと思ったところで、ランバルトさんが代わりにその役目を果たしてくれたようだ。ここまでほぼ無言を貫いてきたランバルトさんだが、一際大きな声で王の問いかけに応じ、その場に片膝を着いて服従の体勢を取り始めた。

 その姿を迷いなく行うことが既に敬意の深さを表しており、王は勿論、姫様もその姿をマジマジと見つめていた。


 …多分、ランバルトさんは事態の収拾がついたと察し、先陣を切る役目を自分が担おうと考えたのだと思われる。




 実を言うと、ランバルトさんには最初のポポの攻撃を食らうこと以外は特に何も伝えていなかったりする。

 失敗は許されないこの状況だというのに、何故か姫様がランバルトさんに作戦を伝えることに否定的だったのである。

 理由を尋ねると、その場の流れを利用してランバルトさんに求愛してしまうかもしれないとか言い出したのだこの姫様。…はて?


 ランバルトさんと恋仲になりたいというのも姫様個人の願いではあるし、俺はそれでもいいんじゃないかと言ったのだが、姫様曰く…恋は自分だけの力で成就させたいとのことらしい。

 環境に左右されず、自分の持てる全てをランバルトさんにぶつけ、血筋なんてものは度外視したありのままの個人。一人の女として見てもらいたいのだそうだ。


 俗に言う恋に恋する乙女と言えば良いのだろうか? でもまぁ、分からなくはない。


「皆も同じだろう?」

「は、ハイ!」

「異論などあるわけがない!」


 いやいや、ハイじゃねーよ。いや、姫様の要求には応えられそうだから別にいいんだけどさ。

 でも客観的に見てこれどう思うよ? ……え? って感じに真顔になるレベルの事案なんだが。

 誰か俺の顔を注視してどうか察していただきたい。でもチュウしようとするのは駄目ですよ? そしたら俺が()っしちゃいますんで…。




 さっきまで怒りの形相はどこにいったんだ? 

 オイ、お前等に言ってんだぞ貴族連中。なんでそんな期待に満ちた眩しい笑顔をしてやがる。

 終わりよければ全てよしってか? アハハ…んなわけねーでしょ。

 俺からしたら、終わり良くても全て無視だわ。

 それは俺が言っていい立場なのであって、決してチミ達がそう思っていいことじゃないからね? そこんところ分かってるのかな?








 …ちっ、もうどうでもいいや。


 愛…ね。俺は今愛がどんなものなのかよく分からないんですけど…。

 だって今回の騒動って、結局は姫様が自分の愛を貫きたいがために起こしたことでもあるわけで、愛は必ずしも素晴らしいとは言えないんじゃないの?

 俺個人としては素晴らしいとは思う。でも素晴らしいと思う内容が違うのではねぇ…。


 わ・か・り・ま・せ・ぬ。




「……ん? な、なんだ?」

「なんかさっきよりも自己主張がすごく激しくなってない? 眩しっ…」

「ふむ…」


 急に目に入る光が強くなったことで、ナナが眩しさに目を眩ませている。対するポポは気にもしていないが…。

 その原因は、当然宝剣から放出されている光である。


 俺達は宝剣から最も近い位置に立っているから仕方ないし、若干太陽を直視しているのではないかと錯覚するくらいだから気持ちは分かる。俺も眩しい。

 でも俺からしたら、ポポとナナからも発せられている光も十分なくらい眩しいんですがねぇ…。


 目の色が関係しているのか知らないが、俺は目の色が茶色だし、眩しさは黒目の人よりも強く感じている可能性がある。


 この世界の人は…どうなんだろ? 黒の人の方が少ないし、どれくらいの眩しさを感じてるんだろう?

 アンリさんは赤い目をしててセシルさんは水色。ヒナギさんは…黒紫って言えば良いのか? どちらにせよ綺麗な色してるけど…。

 シュトルムは藍色でジークはオレンジ……とまぁ、同じ色がこれくらい被らないこの世界。もしかしたら、異世界特殊仕様の目をしていて、特に違いはないのかもしれない。地球から来た俺だけは別なのかね?




 すぐに目を背けて楽になりたい気持ちではあったが、それを許されない状況に立たされてしまった俺は、その行動に出ることができなかった。


「ご主人…私には手に取れって言ってるような気がするんですけど…」

「そりゃ…っ! この状況見れば…っ! そうなんだろうよ…っ!」


 ポポが言うことは、俺も思っていることである。


 では、それは何故なのか?

 答えは簡単。この宝剣、さっきから俺の手に向かって当たろうとして来るのだ。さながら、ポポの言う通り手に取ってくれと言わんばかりに…。


 おやおや…これは先程からずっと無視して王と話し合ってたのがマズかったのかな? 

 もしかしたら寂しがり屋さんなのかもしれない。寂しがり屋の剣ってなんだよとは思うけど。

 でも剣を躱すたびに当たろうとする速度がどんどん上がってるし、間違ってないのは確かだ。ハッキリ言ってめんどい。


 とにかく、俺は近づいてくるそれをただひたすらに躱す。眩しさは確かにあるが、それくらいは造作もない速度だから問題ない。


 今の俺の様子に台詞を付けるとですねぇ…




『会いたかったよダーリ~ン!! 君の瞳にフォ~リンラァブ!』

『人違いです』

『そんなことないって~、君の名前はTSUKASAだろ~? お見通しサ、HAHAHA☆』

『あ、そうですか。でも俺は会いたくないです…帰ってください』

『そんなこと言わないでよ~ん。体の芯まで抱きしめて~ん』

『もう間に合ってますんで…』

『さっさと受け入れろやぁっ!』

『うるせぇっ、帰れ!』




 …って感じ。剣と人のラビリンスってやつです、ハイ。…ま、一生彷徨ってろって話だ。

 しつこい男は嫌われますよ? 性別知らんけど。


「宝剣が更なる反応を見せていますね。…お父様。『神鳥使い』様は確かに宝剣の適合者として選ばれているようです。ですから…」

「…うむ。この宝剣も解き放たれる時が来たと言うことだろう。今までこの宝剣に頼っていた我々だが…これが一から始めるきっかけとなるのかもしれんな」


 俺達の様子を見ながら何やらブツブツと話を進めているお二人ですけど、なんも分かんないんですけど俺…。


「……きs…いや、カミシロ殿。その宝剣を…手に取ってはくれまいか?」

「…いいんですか?」


 宝剣と戯れている俺に、王がそう伝えてくる。


 …てか王よ、アンタ今貴様って言おうとしたろ? 条件反射で俺のことを貴様って言おうとするのやめろ。


 しかし、手に取るとまた嫌~な予感がしてならなかった俺は、あまり乗り気ではなかった。

 これがまた別の問題に発展するんじゃないかという気がしてならなかったのだ。


 俺は…何故か知らんが運が悪い。トラブルメーカーだとシュトルムに言われて、始めは不快だったけど、もうそれがしっくりするくらいに俺は運が悪いと思い始めていたりする。【神の加護】とかもう意味ないし。

 でもまぁ…俺がこの宝剣を手に取らないと完全に事態は収拾がつかなそうだったので、泣く泣く飛び回っている宝剣を掴むことにする。


「…なら………!?」


 俺へと再度近づいて来た宝剣を…俺は右手で掴み取った。

 すると宝剣は一瞬更に強く光輝いたかと思うと、その光を次第に弱くしていき…最後は元の状態へと戻っていった。


「………あれ?」

「……そんだけ? もう終わり?」

「う~ん、拍子抜けですねちょっと」


 もっと何かあると思っていた俺達は、肩透かしを食らった気分に陥った。


 適合者と言うくらいだ。それっぽい展開が待っていると思ったんだが…。

 まぁこれはこれで良いか。面倒事がないならそれはそれで…


「っ!? ご主人! 何か強い魔力が近づいてきてるよっ! 超早い!?」


 そんなわけがなかった。


 時間差で来るとはフラグの奴め…やりおるな? だが負けんぞ!


「っ!?」


 俺がナナの言ったことに驚いたのと同時だった。

 警戒しようとしたその時、この部屋の壁がいきなり爆発したかのように崩れ去ったのだ。別の剣が壁を破壊し、俺に向かって突き進んできたのである。

 壁を破壊したことでその破片が散らばり、壊した音でこの場の全員の意識はその壁と剣に釘付けとなった。


 俺へと迷わずに突き進む刃に戸惑う気持ちは確かにあった。だが、それよりも気になることが、俺の頭の片隅にあったものを刺激した。


「これって…!? 神殿にあったやつか!?」


 そう、壁を突き破ってこの場に現れた剣は、神殿に祀られているはずのもう片方の宝剣だったのである。

 急に表れた紗〇は、今俺が手に持っているアレと変わり、俺の目の前に浮遊し始める。


「共鳴して現れたというのか…!? まさか本当に…!」


 王が心底驚いた様子で、二つの宝剣を交互に見やる。

 俺も、自らの手に持っている宝剣がまた輝きだしたことで、一体どうなるのかが気になり始めていた。


 王が驚いているのを見るに、やはり過去の事実に確証はなかったということだろう。その証拠に、今までこの宝剣達は『勇者』の死後、一度たりとも反応を示すようなこともなかった他、こうして同じ場所に2つ同時に存在するということもなかったそうだから。

 というのも、宝剣は誰にも抜けず、扱えず、動かすことすら出来なかったためと言われている。

 まるでお互いが離れ合わなければならないかのように、分離した後それぞれ違う場所で静かに今まで在り続けたそうだ。




 そうこうしていると、俺の右手に持っている宝剣が手元をフワッと離れ、紗〇と寄り添うように近づいていく。

 その光景に、俺はお互いに再会を懐かしんでいるように見えてしまったが…実際のところは分からない。




 そして、変化は訪れた。





 紗〇とアレは剣としての形を失い、二つの光の粒子へと変化する。

 粒子になったかと思えばすぐにそれは融合を始め、互いに混ざり合いを始める。

 そして完全に混ざり合ったのか、そのまま突如として明滅が始まり、その速度が急速に早まっていく。

 明滅が限界に達すると今までにないほどの強烈な光を放ち、それは軽快な音と共に収束した。


 結果…




「うっ…!? 合体…した…?」


 新たに現れたのは…なんと美しい剣なことか…。

 俺の目の前には2つではなく、1つの剣が気品を感じさせるオーラと共に存在していた。


 それは俺が2つの宝剣を合わせたら完成と称した形状をしており、お互いに欠けていた部分を補う形で姿を現した。


 剣の切先には紗〇の槍のようなものが、刃自体は芯の部分がくり貫かれ、くり貫かれた部分に紗〇の網目のような刃だったものが更にきめ細かくなって剣そのものを支えている。

 そしてそれを守る様にアレの屈強そうな刃が外側に展開し、互い失くしてあり得ないという言葉がそのまま当てはまるような…そんな見事な融合を果たしていた。


 鍛冶師の人が見たらどんな感想を述べるかは俺は分からない。もしかしたら酷評するかもしれない。

 だが、これに勝る剣は存在しないと、俺は思ってしまっていた。

 その剣の存在に…俺は驚きも忘れて感動してしまった。


「これが…本当の宝剣の姿…」


 ポツリと…俺は言葉を漏らした。

 口に出さずにはいられない。この剣を前にして、思ったことを口走らないことが難しくて仕方がなかった。


 それほどの存在感を…この剣は持っている。


 そこに…




『そう。その名も…霊剣エスペランサーさ』

「「「「「!?」」」」」


 突如見知らぬ声が響き渡り、俺を含め周りは騒然となった。

次回更新は金曜です。

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