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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
174/531

172話 歴然たる力の差

お待たせしました。

正確には七割増し位でした(笑)

 まずは姫様が動く。


 さぁ、開戦といきやしょうぜ?


「衛兵! その者をひっ捕らえなさい! 先程からの言動は見るに耐えません。一度拘束し、事態の収拾を図ります!」

「御意! 皆! 私に続け!」


 姫様の号令に、いち早く反応する人が1人。


 …ランバルトさんである。


 姫様が動いたことで、ランバルトさんもまた行動を起こし始めたようだ。勿論、この人も俺達の協力者である。

 姫様から話を聞いたところ、ランバルトさんは姫様の直轄でどこの部隊にも所属をしていない立ち位置らしい。それでも周りからは人目置かれているようで、こうして先陣を切るだけで後に続く者達が出るほどだし、カリスマ性を持っているのは本当のことだったようだ。


 本来であれば部隊は統率が取れてなければおらず、こうして今のようなことにならないよう訓練されてきていると思う。

 しかし、それを覆してしまうことのできるランバルトさんは……その、アレだ。凄いっスね。

 そんな人が味方とは、心強いわ。


 よしゃ! お兄さんも本気出したる!




 まぁそれは今置いておいて、何も知らない人達には極力怪我を負わせるような真似はできない。

 大臣や貴族連中、そして王は別にどうでもいいが、兵はあくまで従っているだけの立場で個人の意見なぞ尊重されていないだろうから、巻き込むのはどうかと思う。

 だから…


「…ポポ、吹き飛ばせ」

「はい。…『烈風』」


 ポポにそう指示すると、ポポは俺から離れて巨大化する。そしてすぐさま翼を振るい、突風を迫りくる部隊へとぶつけた。


「っ!」

「「「ぬっ!? っ…わあああっ!」」」

「従魔かっ!?」


 ランバルトさんは事前に伝えていたこともあり、その突風を耐えきる姿勢を見せた。…できるのが既にすごいが。

 だが、それ以外の後続に続いていた兵士達は『烈風』の圧力には耐えられず、体勢を崩しては次々に吹き飛ばされた。


 怪我は多分無いはずだ。

 仮にあったとしても、それは掠り傷程度のものだろう。そこら辺はご容赦頂きたい。


 ちなみに、『烈風』はその名の通り強風を起こす技である。

 本気を出せばかまいたちを伴い、強風なんて生易しい言葉では済まされない程の威力になるが、それ以外には特別なものなんてない、至ってシンプルな技だ。


「そ、そんな!? ワタクシ達の兵が…。なんたる蛮族! お父様! ワタクシはこの方と婚姻を結ぶなど嫌ですわ!」


 兵…つまり騎士達が吹き飛ばされたのを見て、姫様が大声で悲鳴にも似た叫びを放つ。

 その表情から滲み出る嫌悪の演技は、誰もよからぬこと? を考えているとは思えないだろう。それほどに完成度の高い演技力を披露してくれた。


 …というか蛮族て、姫様…アンタぶっ飛んでんなオイ…。

 まぁ手筈通りなんだけどさ…。


 姫様自身が俺を拒絶する反応を見せる必要があるということになったので、今までのは全て計画していたことである。言動までは特に正確な準備はしていないが、流れや要点を抑えておければ後でどうにでもなるという姫様の言葉を信じ、展開をここまで持ってきた。


 姫様自身が兵を俺へとけしかけ、そしてそれを軽くあしらわれる。単純ではあるがそれを見て頭に血を上らせ、俺に暴言と、父親に婚姻の否定を伝えるために。




 まずは…姫様自身の要求を叶えるのが先だ。

 姫様が俺を嫌悪するような反応をし、王が頭で描いているであろう…俺と姫様を結びつけるという考えを、頭から切り離さなければならない。そしてそれをこの場の全員に周知させる必要があると俺達は考えた。


 しかし…


「むぅ…小癪なっ! とにかくまずはひっ捕らえよ! 洗脳してしまえば関係ない!」


 どうやら陛下は姫様の言葉通り俺を蛮族とみなしたようだ。


 今度は陛下の側近の者に命令し俺へと仕向けて来たが…あと一押し足らなかったらしく、洗脳でどうとでもなると考えた様だ。実にゲスい。


 どうするかと姫様を見ると…


「お父様!? 洗脳なんてものを使ったとしてもワタクシは嫌ですわ! ワタクシの相手はもっと背が高くて大人で大事に守ってくれそうな人と決めてますもの! ……(あ、適当にあしらってくださいまし)」


 もう一度、俺に対して拒絶の反応を姫様は見せてくる。

 最後にチラッと俺達を見て…こちらに真意を伝えているような気がしたのは…多分間違いではないだろう。


 でも…そこまで言わなくてもいいじゃんか。事実だけど…。

 しかもそれってまんまランバルトさんのこと言ってますやん。あの人と俺を比べるとかおこがましいにも程がある事案ですよ?


 姫様の吐いた台詞に、演技とはいえ若干の凹みを覚えた俺。

 事実をこうも真正面から偽りなく言われると、内容がコンプレックスを感じているものなだけあって、威力もそれなりに大きかった。


 でも最後…そこはアバウトだな。まぁそれに了承しちゃう俺の頭もアバウトだが…。

 なら…ここで力を見せつけてやるとしよう。


「(ぷぷっ! でもそんなナナちゃんはご主人が好きだからね~?)」

「(…せめて慰めてくれよ馬鹿。)まぁいい…今度はお前の出番だぞナナ」

「あいさー。まっかせなさ~い」


 姫様の言葉を肯定したナナにイラッとしつつも、小声でそう伝える。すると、ナナも分かっていたように了承してくれた。

 俺はここで、2匹に対して『才能暴走(アビリティバースト)』を発動する。

 まだ巨大化していなかったナナも俺から離れて巨大化し、俺を守る様に…ポポとナナが俺を前後に挟んで前を見据える。


 その姿を見た者達の反応はというと…


「なっ!? 白と黄色の神鳥…これが話に聞いていた…!」

「なんと美しい…」

「ええい! 何を見とれておる! 魔法師団ウィザード・ラ! さっさと魔法を放つのだ! 多少手荒でも構わん!」

「か、かしこまりました。…では、皆の者、合わせなさい!」

「「「「「~~~~」」」」」


 王に催促された魔法師団の長らしき人が詠唱を口ずさむと、それに合わせて他の奴らも同様に詠唱を口ずさみ始める。


 でもこうしてみると…詠唱は長すぎるよなぁ。隙だらけだ。

 モンスター相手なら、この間に何回倒せてんだろ?

 なんでもいいから取りあえず早く撃ちなよ。合唱聞かせられてる気分なんで。


 合唱コンクールを聞いている気分になっていると…


「「「「「『ブラックアウト』」」」」」


 まるで事前に打ち合わせをしたかのように同じタイミングで、同じ魔法が放たれる。…やっと。

 黒い衝撃波は俺達に大きく振り掛かろうと、まるで津波のように勢いよく近づいてくる。


 …でも『ブラックアウト』は手荒どころじゃないと思うんですけどね。いや、ある意味ではいいのかな?

 上級ですよ? 状態異常系の。しかもそんな大人数でとか…この部屋どうなってもしらんぞ?


「詠唱時間長すぎるよ~」


 だが、俺達に時間を与えすぎだ。

 ナナはその発動した『ブラックアウト』を、翼を軽く振っていとも簡単に防いだ。


「何!? これは…氷の壁か…? いつの間に」

「悪いな。俺達は無詠唱で魔法が使えるんでな」

「馬鹿な! それはかの『賢者』が得意としていた技術のはずだ…! 噂は本当だったのか!?」


 へぇ……そうなんだぁ。初めて知った。

 もう身内は全員できますけどねー。


 もうここまでくれば礼儀なんて要らないだろう。

 いつもの口調に戻し、横暴に見える振る舞いをする。


「魔法が効かぬなら直接攻めればよい…聖騎士部隊(ブレイブナイツ)、やれ!」


 ……だからって物理が効かないなんて思ってんのか?


「…ぬあっ!?」

「ぁ…ぅ…っ!」

「…動いたらこの刃が貴方方を襲いますよ?」


 王は兵へと指示を繰り出すが、それよりも早く、ポポの兵達が動いた。


 ポポの『皇帝』。

 ポポを中心に、いつの間にか羽兵達が展開される。

 光の粒子のようにさえ見える光の刃。元は羽だったそれは、一定の間隔で強く光を放ち、存在感を強調していた。


 こうして見ると、ポポ1匹で1部隊相当の戦力を持っているように見えなくもない。

 事実、それ以上の戦力を今持っている状態ではあるが。


 東の地で紫の狼型のデカブツを相手にしたときは、覚醒状態ではなく通常の発動をしたみたいだが、今はそれとは比較にならない強さを誇るこの『皇帝』。

 100を超える羽兵1羽ずつが羽としてあり得ない強度を持ち、俺の持つドラゴンの武器とタメを張る程の堅牢さを見せる。加えてポポの持つ属性を付与されており、触れれば炎熱と風の刃が同時に対象を襲うという、個人戦、集団戦においても有用すぎる能力である。

 さらにポポ自らはそれを統率し、覚醒前よりもほぼ自在に操れる他、自らに纏わせることで更にステータスを上昇させることすらできる最強防具でもある。

 ナナも似たようなことができるが、俺がコイツらに防具とかを用意していないのはこれが理由だ。


 この状態になってしまえばナナのオリジナル魔法ですら手が付けられないほどになるため、最近は活躍の場が少ないポポではあるが、実はナナよりも戦闘能力は遥かに高かったりする。

 実を言うと……俺に傷をつけられる程なのである。当然、覚醒時だったなら、あのデカブツは相手にすらならないことだろう。


 まぁ! 可愛らしいくらい素敵な俺のポポ。ご主人は鼻が高いよまったく。


「すみませんね。コイツらは俺を守る優秀な従魔なので…」


 既にポポとナナだけで事足りてしまう程の戦力差。これはもう…力で負ける要素はないも同然だろう。

 力でも上、魔法でも上なのだ。戦闘というだけなら文句なしである。


「おのれぇ…ならば致し方あるまい! 三星将(トライデント)、任せたぞ! 其方らの強大な力を見せつけてやれ!」


 ここで、王は切り札のように特殊部隊みたいな連中を指さし、動かし始めた。


 あ…結構腕の立つ連中だったのね。

 見た目が不規則だから…なるほど、冒険者だったのか。それなら納得できる。

 一応そんな奴らがいるってのは姫様から聞いてたけど、冒険者だとは聞いていなかったな…こりゃビックリですわ。


「若造よ…お前に恨みはない。だが、こちらも仕事なのでな…悪く思うなよ?」


 …そっちこそ悪く思うなよ? 仕事が失敗に終わる事実に。


「君がSランクと言えど、我らもそれと同等の力を有している。それが3人だ。君でも流石に相手になるまい」


 それはこっちの台詞だ。Sランクの枠組みに私を当てはめないでいただきたい。


「そういうこった。大人しくお縄についてくれや坊主。確かに相当お前さんも強いみたいだが…従魔頼りじゃなぁ。他の連中に見劣りすんぜ?」


 あーはいはい。そーですねー。皆さんお家に帰ってくれません?


 ポポとナナの姿を見ても動じないこの3人。

 王の命令を受け、俺へと歩を進めて近づいてくる3人は、ある程度俺へと近づくとその歩みを止め、俺達の前に立ち塞がった。


 1人はアレク君よりも体格の大きい、右目に傷のあるヤクザみたいな怖い人。声も野太いから怖さに拍車が掛かっていて、武人のような口調だ。

 こちらは武器が珍しく、手に手甲を装備している。

 …勿論男だ。


 ふむふむ…物理タイプっぽいですな。

 やい、ハードパンチャー強面。その拳は私のハートを震わせてくれるんですかい? 


 もう1人はキザったらしい見た目が印象の細い男性。こちらはどうやらシュトルムと一緒でエルフのようだ。長髪が目立つ。


 遠路はるばるご苦労様です。今ならイーリスまで物理的な無料送迎サービスしますけど…どうします? 下手すりゃあの世への送迎になる可能性がありますが…。勿論保険なんてありませんけど。


 比較的腕力に劣る種族の特徴を示すように、しなやかで強靭そうな印象を覚える弓が得物のようだ。


 ふむふむ…参謀のような立ち位置なのかな?

 やい、意識高い系ナルシスト。その弓が射る矢は私のハートを貫けるんですかい? 


 そして最後の1人。俺を坊主と言った軽そうな口調のファンキーお兄さん。

 この人は特に武器は見当たらず、非常に無防備そうに見える恰好をしている。

 ただ、纏っているローブの内側に色々と隠し持てそうな気がするので、恐らく暗技系や魔法主体の遠距離タイプっぽいと推測できる。


 ふむふむ…実に陰険そうなお方ですな。

 ファンキーお兄さん。私は貴方の小細工に惑わされるような心は持ち合わせちゃいないぞ? 


 足りねーよ…そんなんじゃ全然足りねー。

 腕が立つらしいから期待したのに…見た目の先入観に囚われない考えの持ち主だと思ったのに…結局は皆一緒か。


「リヤードとゼルクドは先に従魔をやれ。俺は…坊主をやっからよ」

「任されよ」

「了解した」


 どうやら、俺達に対し1人1人で対抗してくるようだ。

 確かに、ポポとナナは今騎士団と魔法師団の牽制に意識が少し向いてしまっているし、そこに強者が介入して来れば最大のパフォーマンスを出すことなんて出来ないだろう。


 しかし、少々こっちを舐めすぎだ。

 どれほど自分達に自信があるのか知らないが、ポポとナナならアンタら3人を相手にしても余裕すぎる。それくらい、こちらに漂ってくる気配には微塵も思う部分が無い。

 ジークがいるから俺の感覚が麻痺してるだけの可能性は否定できないのが否めないけど、それでもぶっちゃけポポかナナの1匹で事態の収拾をつかせることだってできるのは容易に想像がつく。

 ただまぁポポとナナの見せ場はできたし、世間一般で言う【従魔師】自身は弱いという風潮をぶち壊すとしましょうか?


「そして俺は…コイツらが傷つくことを許しはしない…!」


 ポポとナナを押し分けて前に出て、一瞬で3人の目の前まで移動。

 それから眼前に拳を迫らせる程度の正拳を順々に繰り出し、またすぐに元いた場所まで『転移』で戻った。


「「「っ!?」」」


 ポポとナナは別として、この3人は視認できたのだろう。目を見開き、その場に硬直しているのがその証拠だ。

 周りにいる者達は見えておらず、何があったのかを知ることも出来なかった様子だった。


 それから立て続けに俺は…


「っ!? なん…だと…!?」

「クッ!? 馬鹿な…」

「う、動…けん…!」


 魔力を解放し、次は相手の動きを鈍らせ、硬直させる行動に俺は出る。

【隠密】があるとはいえ、少しでも意識を逸らせば姫様にも危害が及んでしまうため、万が一に備えてナナが魔力を遮断する手筈になっている。

 覚醒状態ならば造作もないはずだから、心配はいらないだろう。


 何故最初から魔力を解放しなかったかと言うと、魔力をぶつけて硬直させるということは、魔力強度が高ければ誰でもできるからである。

 それだと手練れの連中には対処法も知れ渡っているし、あまり効果がないんじゃないかと思い、先に魔力以外の部分も脅威だということを知らしめるために動いたわけだ。

 結果、どちらにも効果を発揮してくれたようで助かったが。


「あぁっ!? …く、苦しい…!」


 ここで、姫様が急にへたり込んで苦しそうに胸を抑えた。


 あーはいはい。演技上手ですねー。

 ハリウッドスターばりの演技力に感服いたします。今からサインもらったらヤ〇オクで売れそうですね。


 しかし…


「ヤバッ!? 忘れてたっ…!」

「…オイオイ」


 ナナのその言葉に、俺は一瞬呆けてしまった。

 姫様への配慮を、ナナは忘れていたのである。


 忘れてたんかーい。

 あれは演技ではなく正常な反応でしたか…なら納得だ。

 あぁすみません姫様…だからそんな怖い顔しないで。化粧が崩れて大変なことになりますよ?

 美しいご尊顔を保ってくだせぇ。


 姫様を見ると許してはくれていそうなものの、薄っすらと怒りマークを張り付けているような錯覚を覚えた。


「だ、だが…何もせずには終われない! これだけは使いたくなかったが…そうも言ってられないか」

「!?」


 姫様に申し訳なく思う俺だったが、展開しぶつけていた俺の魔力に抗い、立ち上がる者が1人いた。


 ファンキーお兄さんである。


 流石にSランク相当ともなれば、一般のそれとは一線を画すようだ。

 俺のは威圧ではなく魔力を当てているだけであり、魔力に耐性の高い者であれば、ある程度は軽減が可能だ。人が持つ魔力波を一瞬乱すような働きをかけているだけなので、効果もそこまで持続しない。

 その点、威圧は人の本能…つまり心や内側のものに直接圧力を掛けるため、魔力波のような表面上のものとはわけが違う。ダイレクトに恐怖感を植え付けることが可能なのだ。

 例えるなら、埋まった柱を根元ごと折ろうとするか、目に見える部分だけ壊すかみたいな具合だ。


 この2種類は似ているようで非なるものである。

 だから、ジークと俺を比べた場合、ジークの方が他者に与える恐怖感は凄まじく高い。

 あの時ギルドにいた面子は、過去最高の恐怖を味わった人が多いことだろう。




 まぁそれはさておき…少なくとも残りの2人と比べれば、ファンキーお兄さんの方が魔力耐性が上なのは確実だ。

 ファンキーお兄さんは懐に手を忍ばせると、銀色に鈍く光る、長いゴテゴテしたものを取り出す。

 それは…一応銃のような形状をしているように俺には見えた。


「じゃじゃーん! 俺特製、『マルチブレスガン』!」


 高らかに名称を呼び俺へとその銃を向けてくるが、それが一体何なのかが不明だった。

 今の場面から想像もつかない声に、皆言葉を失う。

 すると…


「制作期間時間にして約2年間、驚く程軽く持ち運びに大変便利、俺にフィットする抜群の快適さ、どんな体勢でも使用可能、多種多様な場面に活用・応用でき、さ・ら・に、暴発する危険性も無く安心安全を第一に考えた設計、扱ったことのない初心者でも熟練ばりに扱えるようアナウンスによるサポート付き、魔力感知でも感知不能、5つのパーツからなる構造で分割運用も可能……一応スペック紹介しとこうか?」


 辛そうな顔をしながら、饒舌にその銃の紹介を始めるファンキーお兄さん。

 ペラペラとセールスマンばりに語る内容に、頭が追い付いていかない。


 いや、しなくていいんで黙っててくれる? 

 空気読めよ…。


「初級魔法なら全属性100発まで連続運用可能、最大発動回数は500を記録、中級50発上級10発という圧倒的コストパフォーマンスを実現、魔力切れには自動増幅機能によるオートリチャージ式、し・か・も、オートロックと自動追尾システムを搭載逃げる相手でも問題なく撃沈、そして切り札は魔法耐性を考慮した3つの対脳筋用…1つ目はスキル技『龍の脚撃(レグナ~ト)』!」


 この場の空気も読まないことに戸惑いを覚えたが、話した性能には度肝を抜かれた。


 ゲッ!? マジかよ…。

 高性能にも程があるだろ!?


 俺へと引き金を引くような素振りをしたため一瞬焦ったが…どうやら使ってはこなかったので安堵した。

 どうやら今はただの説明中らしい。紛らわしいことこの上ない。


「2つ目に『ゼロインパ~クト』。内部と外部を同時に破壊する特殊改良タイプ。木っ端微塵にしたい相手にと~っても確実。でもトドメはやっぱり……一つ一つの威力を極限まで上げたぁ~『千薙』でしょーう」

「うわぁ…凄すぎるね」

「兵器ですね最早。人が持つには度が過ぎますよ…」


 ポポとナナもその圧倒的スペックを誇る銃に対し、驚きを感じているようである。

 俺の最大物理攻撃でもある『龍の脚撃(レグナート)』と、ジークの最強スキル技である『ゼロインパクト』が使えるというのだから、それも無理はない。


 だが、まだ説明は続く。


「そして俺のお気に入り。最近導入した近年流行りの『ガードブレイクシステ~ム』を常時発揮している。防御貫通も兼ね備えたこの魔道具で、さぁ君も今日から最強への仲間入りだ! ……謳い文句はこんなもんかな?」

「説明なげぇよ!?」


 最後の1つは防御を無視するというふざけた鬼畜性能のスキルだったようだが、よくもまぁこんな長い台詞を噛みもせずに言えたもんだ。

 っていうか、なんつー恐ろしい魔道具を開発してんだコイツ。スラスラ言ってるから現実味ないけど、ちゃんと聞いてると貧弱な人でも絶対強者に成りかねないスペックだぞ!

 未知の技術を使いやがって…それ欲しいじゃねーか! 俺に売れ!


「これを使った後には…何も残らなかった。無慈悲に、圧倒的な力は全てを粉砕してきた。それは俺自身にまで及び、これを作った俺の財産も…なくなったんだ」


 ここまで言うと、急に項垂れた様子を見せてきた。

 心なしか涙を流しているように見えなくもない。


 でもそれは自業自得だろ。こんだけすげーもん作ってんだ、そりゃ金掛かるわ。

 だから金はくれてやる。これをよこせ。


「……で?」

「以上だ。それが言いたかっただけだよ。どっちみち坊主には通じ無さそうだし、ここでは使えないからな…宣伝みたいなもんだ」


 フッ…と、全てを出し切ったように言うそいつだが…


 時間の無駄にも程があるわっ!

 俺相手に力説してもそれじゃあ印象悪いからあんまし意味ねぇし。つーかここに一般人いないからホント無駄だな。

 この状況でそんなこと言えるのは凄いと思うけどさぁ、時と場所を考えた方がいいんじゃないの?


「……はぁ、まぁいいや」


 ちょっと変な空気になってしまったが、俺は王へと顔を向けた。

 俺を注視していたのか、それだけですぐさま反応している王が俺の目に入った。


「くっ! …我らをどうするつもりだ?」


 万事休すとなった王が憎しげな顔で俺へと質問を投げかけてくるのを見て、俺はまたありきたりな台詞だと感じてしまった。


 こうもテンプレなことしか言えないのでは、テンプレ製造機と言われても文句言えんぞ。


「別にアンタらをどうこうしようとは思いませんので安心してくださいよ」

「く、クソッ! 見下しおって!」


 どちらかというとそちらが見下している気がするんだがそれは…。

 王族だし、見下されるような立場じゃないから、今この現状で俺が優位に立っているのをそう捉えたんだろうけど。

 世界の広さを知らない奴らめ…今日一つ勉強になって良かったじゃないか。これは別の世界から来た俺だからこそ、意味ある言葉だと思うぞ。


 しかし、あれこれ考察をしていると先程から感じていたものが不快に思ったので、そろそろ行動に出ることにした。

 俺は、その原因となっている人物がいる方向へと顔を向ける。


「っ!?」

「さっきから魔眼を使ってるんだろうけど…俺には効かないぞ? こんだけ力量に差があるんだ…そんなものを跳ね除けることなんてわけない。……アンタか?」

「ヒッ!?」


 抜け目ないな…。そりゃ職務怠慢の神様と比べるとちゃんと仕事してるし、王を危険から守る役目を果たしていると思う。

 でもそれが洗脳とかの類となるとなぁ…質が悪いよチミ。


 俺が魔眼を使用していたであろう人物を特定すると嫌な気配はピタッとナリを潜めたので、もう大丈夫そうだった。

 流石に個人まで特定されては向こうも不安があるだろう。しかも先程からことごとく攻撃をあしらっているのだ。それが自分だけを対象とされてはさぞ恐怖を覚えているに違いない。


「魔眼すら効かぬだとっ!? 馬鹿な…最高クラスのレベルの魔眼保持者だぞ!?」

「化物め…!」

「化物で結構だ! んなこと俺が一番分かってんだよ! …つーかお前らにだけは言われたくねーわっ!」

「なにっ!?」


 化物と言われたことで、俺は自分をそう言われることに対してはもう何も思わないが、こいつらがその言葉を使ったことに違和感を感じて仕方がなかった。


「だってそうだろ、俺は確かに化物だ。それは今お前らが言った通りだよ。こんな馬鹿げた力を個人で持ってるわけだからな…。でも! そんな化物すら利用することしか考えていないお前らは何なんだよ! 俺はそれが不思議でならない……お前等の方がよっぽど化物にしか見えねーわっ!」

「何だと貴様っ! 我らを侮辱するかっ!」


 俺の言葉は空を切ったようで、全く伝わらなかったようだ。


 駄目だ本当に…。もう次元が違う存在だと言う認識でもいいのではないかと思ってしまった。

 庶民と貴族との壁。

 それは…手の付けられない高さを築いてしまっているようだった。


 …ちっ、仕方ねぇ。


「へーへー、別に侮辱とかじゃなくて純粋に思っただけだよ。侮辱と捉えたんなら悪かった悪かった。…そんで、この会話は最初から最後まで…全部俺の仲間に筒抜けで録音してるからな? アンタらの愚行は丸わかりだけど…それはいいのか?」


 そう、これまでの会話は実は皆も聞いていたりする。

 ヴァルダにも協力してもらって、この会話は最初から全て記録してもらっているのだ。

 俺も結構色々言っているがそれ以上に連中は口走っているし、第一企てていたことが悪質だからそれだけでも価値は高い。

 ヴァルダからしたら涎物の情報を今俺は提供しているわけだ。勿論、これがヴァルダに頼んだ際の依頼料になっている。


 そのせいでさっきから魔力を吸われてまして、一般の人だったらとっくに卒倒するくらいの魔力を消費してたりする。

 遠くの人との通信は魔力食うのよコレが。


「っ!? そ、そんなもの…どうとでもなるわ!」


 今一瞬だけ焦りを見せたな…ちょっとは効果アリか。


「また権力使ってか? でも…その権力は使わせねーよ? 物理的に。今この城全体をコイツの魔力が覆って支配してるから。アンタらがそのつもりである以上逃がしはしない。アンタらはもう…鳥籠の中だ。救援を求めることもできない」


 俺はナナを指さし、今の状態を簡素に説明した。

 ナナの超広範囲の魔力範囲を使えば、そんなことは造作もない。


 その鳥籠の管理者が鳥ってのが皮肉ですな。人籠と訂正した方がいいかもしれん。

 アハハ、ちゃんとお世話してあげまちゅからねー……なんちゃって。


「馬鹿な!? そんな大規模な範囲を1匹でなど…」

「できますよー簡単に…。まぁ俺はコイツほど魔力範囲が広くはないけど、この国程度ならすぐに更地にできますけどねー」

「有り得ん!」


 脅す目的で、舐めた口調で、ナナの事を言った後に俺も自身のことを伝える。


 いやいや、事実ですから。

 中級魔法? 上級魔法? …いや超級魔法で余裕です。

 魔力範囲が狭かろうと関係ない。発動地点から広がる影響は計り知れんぞ? 

 上級魔法がショボく見えるのが超級だからな……今の俺でも1日2発くらいが限界なくらいだ。

 超最低出力の超級魔法でさえアレ(・・)ほどの威力だったからなぁ…思い出したくもない。




 …まぁもう絶対にやらんけど。

 罪もない人を巻き込んだらそれはもう化物確定だしな。


 それはさておき…


「信じられないならそれで結構だ。どっちみち逃げられないのは事実だからな。…つーかどれだけの力量差があるかもわからないのかよ。オイ…アンタは馬鹿か?」

「馬鹿とはなんだ!」

「うるせー馬鹿がっ! いいから話を聞けっ!」


 ったく、馬鹿に馬鹿と言って何が悪い! ゴミって言われないだけマシと思え!


 俺の言葉に怒りを見せる王だったが、俺が話があると言うと自らの抱えた怒りをギリギリ押し留め、口を開くことはなかった。


 …よし。


「一旦熱くなった頭を冷やせよ。さっきから冷静な対応ができなくなってんじゃねーか。俺はさっき言ったぞ? アンタらをどうこうしようとは思っていないって…」


 …まぁ俺も人の事は言えんがな。この前激怒したし…。

 というか、今も若干暴走気味かもしれん。

 まだ修正は利く範囲だから大丈夫だろう。その証拠に、姫様がまだNGサインを出していない。というか…まだ笑っとる。


 姫様を見れば、まだ若干笑いを堪えている最中だった。…オイオイ。

 その姿に、案外姫様もまともじゃないなと思ってしまったのは…内緒にしておこう。


 姫様とは、今回の作戦において俺が度が過ぎることを言った場合は、その度合いに応じて仕草で合図を出す手筈となっている。

 だがそれがないということは、まだ平気ですよということだろう。


 判定が甘めで助かります。ゆとり世代日本代表として礼を言わせていただこう。


「ここまでのことをされておいて信じられるか!」

「そうさせたのはアンタらだろうがっ! 全部俺のせいにするな!」


 自分のこと棚にあげといてウゼー。


「だから、俺と今日会ったことを内緒にすればいいだけの話ですってことですよ。内々の中に、今日の出来事は留めておけばいい。俺とは今日、貴方方は誰一人として会わなかった…ってね」

「で、できるわけがなかろう!」

「権力を使えば大抵のことはできるんでしょう? それとも…名実共に地の底に成り果てたことを世に知らしめますか? それはそれは…ある意味潔くて俺は好きですけどね」

「ぐぬぬっ!」

「たった1人の人間に手も足も出ず、しかも自らの欲が生んだ結果と分かれば…ハハッ! 情けないことこの上ないですねぇ」


 王族はここ以外にも存在する。別大陸を含めれば、数は相当な数に上るだろう。

 そんな連中を毎回相手になんぞしてはいられないし、今回俺がこうして強気に出ているのは、今回の件を各王族関係者に伝わらせればと思っての行動である。


 迂闊に手は出せない存在として認知してもらう…それを目標に。

 もし俺を全世界が恐怖の対象と認定して狙ってくると言うなら、それは俺としては勘弁して欲しいが、そうならないために姫様がいる。

 対する俺は、王が姫を、俺と婚姻させたくないと思わせる人格と振る舞いをしなければならないのだが。

 姫様曰く、迷惑を被った俺に明確な報酬やお詫びができないのでは、一方的な関係で申し訳ないそうだ。だから、俺は今後(比較的)平穏に過ごせることを要求し、姫様は婚姻の絶対破棄を第一目標に決めて、改めて協力関係となった。


 まぁ…今のところ良い調子だと思う。


 今の現状は、この場の人間を籠の中に閉じ込めている状態。しかし、長い間この城にこの場の全員を監禁するなんて非道なことをするつもりはない。

 話が終わったら解放するし、そうなったら人の口に戸は立てられないだろう。

 噂はすぐに広まるからだ。


 でも、狙いはそこにある。


 今までは噂が広まるのを避けていた俺だが、今はもう逆だ。むしろ広める方が状況的には得策だと考える。


 俺が野蛮な存在であると思われたっていい。ただ、俺達に関わらないでいてくれればそれでいいのだ。

 俺と関わるとロクなことにならない…それが王族の耳に届いてくれればいい。

 姫様の協力である一定水準のラインまで俺の要求を叶えてもらい、噂の力で二重に予防線を張れたら御の字だ。




「…フッ。アッハッハッハッハ! 何て奴だよお前は。…陛下ぁ、悪いことは言いませんから素直に従った方がいいと思いますぜ? …力の差がありすぎる。この坊主の持つ力は本物ですって」

「貴様っ!? 先程の意気込みはどこに行ったのだ!?」

「あー…すんません、俺の目が曇ってたみたいッスわ。結構冒険者として目利きとかの自信はあったんですがね…まだまだ未熟だったみたいッスわ。二つ名貰って調子に乗ってました」


 ここで、向こうの組織が分裂を始めたようだ。

 逆らうのは得策ではないと、ファンキーお兄さん兼セールスマンさんが王に提言している。

 すると…


「世界は広いとはよく言ったものだな…。自分がいかに矮小な存在だったのかよく分かる。…己も降伏しよう」

「私も…同意見だ。ここではまだ終われぬ」


 他の2人も、順々に抵抗の意思を放り出していく。この流れでは全体が崩壊するまでも最早時間の問題だろう。

 体制は瓦解したと言っていい。


「き、貴様らっ!? それでも我がセルベルティアが誇る三星将(トライデント)たる証を持つ者なのかっ!」

「いやいや勘違いしてもらっちゃ困りますって。俺らはあくまで本業は冒険者だ。この国に従事したのは利害が一致しただけにすぎないでしょう? それを陛下達が勝手に持ち上げてトライデントとか言い出しただけでしょうに」


 …どうやらそういうことらしい。


 それなら一見情けなく見えるこの行動、でもこの行動は間違ってはいないだろう。

 どうしても抗えない存在を前にして抵抗するのは、余程の意思か決意を持った者くらいだ。だがこの3人は冒険者のため、深い事情はそれほど持ち合わせてはいなかったようである。


 ただまぁ…


「内輪揉めは後にしてくれ!」


 今は俺が話している最中なので横やりはNGだ。


 どこまで話したか忘れるから困るんだよな…コレ。

 取りあえず思ったこととしては、冒険者は基本的に自由。それは全大陸共通だ。

 コイツらの言うことは正しいだろう。話を聞いている限りだと、お互いのために今この場にいるだけのようだし。


 どうやら王はそれを履き違えていたようだが、冒険者ズにはもう敵対する意思は見られない。

 こちらは無力化にほぼほぼ成功したと言っても過言じゃない。


「つーかオイ! 王は本当に何も分かってねーな! アンタは今俺を洗脳してやると言った。洗脳した後…まさかとは思うが姫にあてがうつもりだったんじゃねーだろうな?」

「クリスの産む子が異世界人の子であれば、セルベルティアの権力は絶対のものとなる。お主自体は大したことはないが、クリスの今後を思えば仕方なかろう!」


 一々鼻につく言い方ウザッ!

 それと姫の幸せを全く理解してねーよ。面と向かって話してもいないくせに偉そうにするな。仕方なく何てねーよ。


「テメーは馬鹿かっ! そんなことして姫様が幸せになれるとでも思ってんのか! セルベルティアの繁栄が姫の幸せと勘違いするなよ!」

「っ!?」

「第一、それ以前に姫様は既に想い人がいるんだよ。気づかなかったのか?」

「なに!? そ、そうなのかクリス!?」

「え、えぇ…ですが何故それを…?」


 ちょっと早いがここらが引き際だろうと判断し、俺は姫様へとバトンタッチする。

 こっからは姫様の言葉がどれだけこのクズ王に届くかだ。


「お、俺に知らないことはないのですよ。…俺にも想い人が既にいます。今一度思い返していただきたい。陛下が望むのは…自分の幸せですか? それとも…愛する娘の幸せですか? こんな…素性も知れぬ俺と結ばせることが…娘の幸せに繋がると思っているのですか? もっと…気心の知れた信頼できる身近な者の方が良いとは思いませんか?」


 …くっ、はずかしいいいぃぃぃぃいいいいっ!!!

 演技とはいえこんなことを真顔でよく言えた俺! 後で自分で自分をいい子いい子したい!


 この甘い発言が、俺の甘い心にエグく突き刺さった。

 メルヘンチックでロマンチックな人でないと、とても耐えられるようなものではないだろう。


 しかもこれが皆に聞かれてるとか……く、黒歴史にも程があるっ!!

 皆に後でぜってー笑われるわこれ…。


 叫びたいほどの恥ずかしい衝動を身の内に留め、俺は姫様と王の2人を内心苦し気に交互に見る。


「カミシロ様…ワタクシのことを想って…!」


 口元を手で覆って、感涙している仕草を見せる姫様。

 この姿を見れば、姫様が感激しているようにしか周りには見えないだろう。

 だがしかし! 昨日から姫様の本音を聞いている俺からしてみれば、そんな恥ずかしい台詞をよく言えましたね? という風にしか見えなかった。


 なんて白々しい…。あんたの迫真の演技に俺はツッコミを入れたくて仕方がないぞ。

 なんでこっちだけ恥ずかしい目にあってんだろ…。解せぬ。


 愚痴が俺の心に漏れたことに、姫様は気づくこともないだろう。


「…な、なんということだ…そんな…ことが…」


 …姫様を溺愛しているというのはマジもんだったのか、姫様が涙を流す様子(演技)を見て、驚愕して声もロクに出なくなる王。

 俺に対して感じていた怒りは何処へ行ったのか、もう顔も赤くはなく、むしろ青ざめたようにすら見える。


 そんなに姫様の考えを理解できなかったのがショックだったのか? 分からんけど…。

 多分…




 姫様>>>>>国>>>自分




 っていう優先度なんだろうな…。

 俺はきっと圏外に違いない。地球と冥王星くらいの距離だな多分。


「陛下…アンタもそうだったはずだ。今は亡き王妃とも…純粋な気持ちでお互いに向き合い、結ばれたんだろ? 今この世界は昔に比べ平和になったと聞いてる。でも、俺が姫と結ばれることで…その平和はきっと瓦解する、確実に…! この国は強大な力を得て繁栄することだろう……だが、それと引き換えに別の国では新たな争いが生まれて、そこの民達は血と涙の怨嗟で埋め尽くされる…そんな悲しい悲劇に巻き込まれる可能性が出てくるんだよ。俺はそんなの見たくない!」

「う、うぅむ…」

「……だから俺はアンタらと会った事実を否定する提案をしてんだよ。俺を利用しようとしたことはもう別にいい、許す。でも、周りが迷惑被るってんなら黙っていられねーんだよ! アンタらも分かっただろ? 俺がどんだけ周りとの力に差があるのか…身を持って知ったなら、どっちが最終的に敗けるかも分かるだろう?」


 サッと顔を伏せる周りを、俺は無言の肯定と捉えて話を続ける。


「俺が要求することはたった1つだ! 俺の関係者に一切の危害を加えるな! 勿論これはグランドルの町や俺が今までに関わった村や人も含まれる。それくらいはできるだろ?」

「………」


 俺がそう伝えると、考え込む姿勢を見せる王。


 まだ悩んでるんかい…。さっさと頷かんかい!


「……この私が指図を受けるのは気に食わんが……フンッ、仕方あるまい。その要求を呑んでやろうではないか」


 挙句の果てにその態度! ウッゼエェェェエエエッッッ!!!

 なんで俺が無理難題を突き付けているみたいになっとるんじゃ! 上から目線超ウゼェ!


「それはそれは…承諾していただいてどーもありがとうござんしたぁっ! …あと、もう一つ。姫様はきっとこうお考えになっていると思うぞ? 身近な存在に幸せを与えられないようでは…民にも到底幸せを与えられることはできないだろう…とね」

「『神鳥使い』様…貴方はどこまで知って…!」


 俺に合わせるように。姫様がすぐに言葉を返してくれる。


 でも…も、もうやめてくれよ…白々しすぎて困る。

 演技とはいえなんでそんな顔ができるんだ…。


「そう…なのか? クリス…」

「…はい、お父様。お父様は…お母様を亡くされてから変わりました。ワタクシばかりに気を取られ、周りが…民のことが見えなくなっていると思っておりました。それは『神鳥使い』様の仰る通りです。ただ…それがワタクシを愛してくださっているからこそのことだと思うと言い出すことも出来ず…。ゴメンなさいお父様、もう少し早く言えれば良かったのですけど…お父様の必死(・・)なお姿を見ていたら中々切り出せなかったのです…」

「クリス……そうだったのか…」

「「「(ぷっ…!)」」」


 親子だけが展開する空間を、ただ見守る大勢の人達…と俺達。


 …感動の話のとこ悪いんだけど、全てを知っているからこそ言うぞ。姫様…アンタ良識人だけど相当悪知恵半端ないっスね。

 くくくっ……ぜってー今の姫様…『っしゃあー!』とか内心では思ってんだろうな。ワタクシ大勝利! とか叫んでそうだわ。

 必死の部分に別の意味が含まれてるぞオイ…ぷぷっ!


「だからお父様…今この場を借りて言わせていただきます。……お父様には愛が足りませんわっ! もっと人としての心をご理解するべきなのです! 幸せはその先にあるのですからっ! でなければ上に立つ者として失格ですわ!」


 しかもその台詞姫様が言うんかい! 結構内容変わってるけど。

 今ぜってーに心はルンルンだな、間違いなく。


 興奮した様子の姫様は…俺が言うはずだった台詞を奪ってしまったようだ。

 その姿を見た俺は、苦笑いしか出てこなかったのだった。

次回更新は火曜です。


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