171話 計画開始
◆◆◆
遂にこの時が来たか…。
「よくぞ来た『神鳥使い』よ。長旅で疲れたであろう?」
「いえ、ここまで滞りなかったので労いは結構です。私のような下賎の者が陛下とお会いできて大変光栄です」
セルベルティア王城にある信託の間とやらで、俺達は今王と直接相対している。
王の周りには側近と思しき人物が2人おり、それから部屋全体に散りばめられた100を超える人間が取り囲んでいる。
それぞれが持つ個人の質が高いため、身なりも大変良い人が多い。
グランドルにいる兵士さんと比べると、最早雲泥の差だ。ここからしてまず、国力としての差が歴然としていると感じる。
騎士団、魔法師団、大臣っぽい人、それから…よく分からない特殊部隊みたいなのもいる。
騎士団に至っては甲冑を装備し、魔法師団はセシルさんのような顔以外を隠すローブを着用している。様式なのか義務なのか不明だが、伝統とかあるんだろうきっと…。
特殊部隊みたいな奴らに関しては恰好がバラバラすぎて表現のしようがない。冒険者みたいな感じだ。
本来ならこんな場所に来たら緊張でどうかしてしまいそうだが、今回はある計画の元ここにいるわけで、それを意識していたらそんなものは大したことはなかった。
「ほう? 随分と教養を心得ていると見える…流石は異世界人といったところか?」
「…私は至って平凡です。私の世界では普通にございますので…」
「なんと…」
「本当に…」
王の姿は、俺の想像していたものと大差のない姿だった。
王冠、髭、派手な服と装飾、歳食ってる、ふんぞり返って椅子に座ってるという…なんともまぁテンプレというかありきたりというか、姫様には悪いが教科書通りみたいな人物だった。
セルベルティアの王は模範的なお人なんですねぇ。どうか服屋のマネキンのように異世界人モデルになってみては?
きっと皆…
『あ! コイツ進研ゼ〇で見た奴だ!』
『テレビと同じ人だ!』
『髭!』
…って、良い評価貰えると私は思いますけどねー。
それを馬鹿にしてるのか褒めているのかは…お好みでどうぞ。
そうこうしていると…
「む? おお…!」
急に、部屋の中心が明るくなった。
この部屋、ちょっと俺の予想していた部屋とは違って、何故か部屋の中心に、まるで何かを祀る様に台座があるのだ。
テンプレ通りというのであれば、部屋は大広間みたいになっていて、入って一番奥に階段があって、その上で椅子に座った王がいるって言う風に思ってたんだが、どうやら違ったようだ。
今、俺と王は台座を挟んでいる状態になっていたりする。
その台座にあるのは…突き刺さった無骨な見た目の剣。あまりその姿からは想像できない光を放っている。
恐らくこれは…もう一つの宝剣と見て間違いないだろう。
俺は姫様から聞くまで忘れていたのだが、宝剣はセルベルティアに2つある。
一つは神殿に、そしてもう一つは今俺の目の前にあるのがそうだ。
どうやら宝剣は今は2つあるらしく、俺が神殿の方に触れた際、今目の前にある方も発光し反応を見せたとかなんとか。
「眩しいっ!?」
「これほどとは…!」
誰かの声の通り、確かに直視すると眩しい。
神殿の時は淡い光程度だったはずだが、こちらは普通に眩しいと思ってしまうほどである。
そして、その剣は何故か分からないが誰の力を借りることもなく、台座から抜けて宙に浮き始める。次第にその姿の全容を見せ始め、最終的に剣の全容が露わとなったところで動きを止め、浮遊し始めた。
「ほ、宝剣が反応したぞ…」
「歴史的瞬間に立ち会えたのか我々は…!」
「「「………」」」
周りが興奮した様子を見せている中、俺達はただその姿をまじまじと見つめていた。
ただ…
う~ん…神殿のと似てる雰囲気だけど、随分と形は異なるな…。
神殿のはチョコの紗〇だけど、こっちは…アレだ。何て言えばいいか分からんね。
先端部分だけ刃がない…ただの無骨でつまらん見た目だし。切れ味は確かに良さそうだけど。
精霊王はなんでこんな人目も惹かないデザインをしたんだ? センスないって言う他ないぞ…。
あ、なるほど…金玉だけあって棒がない男のアレって言えばいいんですかね?
突きさすことができない剣(棒)とか、相当溜まってるに違いない。
行き場のない力(性欲)はどこへと逃げると言うのかね? さぞお辛かろうに…。
封印と言う名の束縛プレイですか…そうですか。数百年の間我慢できるたぁ恐れ入りやす。
老師…アンタはもう仙人の域にいるよ。
多分もう平気だと思うけど、暴走して暴発しないでね? 欲望の捌け口(適合者)を見つけたからって、神殿の紗〇みたいに欲情しちゃやーよ?
…でももう手遅れですよね、だってあんだけ光ってんだもん。ちったぁ自重しろ。
…ふむ、エロ同人とはこうして生まれるのか。俺は今新たな分野を開拓することができたようだ。
ん~…この妄想は未来永劫俺の内に留めておくこととしよう。
剣を擬人化させてのプレイを想像するとか…バレたら終わるわ。
しかし、2つで1つ…。確かに姫様の言っていたことは本当っぽいな。あの形だと…二つを合わせたら能力としても完成。見た目も完成した姿になることだろう。
華やかな見た目だが、相手を直接傷つける術を持たない紗〇。その無骨さが力の原点と思わせる見た目の、直接傷つけることしか出来ない…アレ。
強大過ぎる力と言える(色んな意味で)。
宝剣は元々は1つであったと伝えられているらしく、『勇者』が死ぬと同時に2つに分かれてしまったらしい。
分かれてしまった理由は未だに不明だそうで、その解明はもう不可能なのではとも囁かれているそうだ。
「お主が異世界人であることは証明されたようだな」
「助かります。私だけでは証明する方法がありませんので…」
俺が異世界人と証明されたことに、喜びを見せる王。
それに対して俺も、目の前で光っている宝剣を放置して思ったことを口にする。
「それと、遅れましたがSランク冒険者のツカサ・カミシロと申します。此度はこのような場に招いていただき大変恐縮です」
まだ挨拶をしていなかったので、礼儀うるさい連中に何か言われる前に動く。
「うむ。お主の名声はかの災厄でも轟いておるぞ。だが…まさか異世界人だとは思いもしなかったが…。して…クリス。其方も名乗れ」
「はい。お父様…」
始めこの部屋に入ってから王の隣に立っている女性…姫様に、そう指示をする王。
姫様も一歩前に出て俺をジッと見つめてくるので、俺もそれに合わせて姫様を見る。
確かに、その姿は誰の目から見ても美しいと言わざるを得ないだろう。腐った目をした俺でさえそう思うのだから…。
でもアンリさんの方が上ですがね。愛は事実を捻じ曲げるんですよ。
というか…見た目とかを大事にする気持ちは確かに分かる。でも、そんなのはどーでもいいんだよ。
ナンバーワンよりオンリーワン。俺が一番と思う人が一番美しいんだから。
客観的な順位は下でも、主観的な順位が上なアンリさんは俺にとって一番の人だ。それは揺るぎない。
どっちみちアンリさん超可愛いしな、お世辞抜きで。
「お初にお目に掛かります。ワタクシはセルベルティア王家第一王女、クリスティーナ・L・セルベルティアと申します。『神鳥使い』様にお会いできて光栄ですわ」
ドレスの裾を掴み、綺麗にお辞儀をしてくる。
「おお…大変見目麗しい…」
…勿論本気で言っているけど本気で言っているわけではない。社交辞令としてはこれが妥当と判断したから言ったまでだ。
「せっかく知り合えたのだ。親しくしてやってくれ」
「はい、私などでよければですが…」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
俺には、姫様の言葉が強調されて聞こえた気がした。
だって既に知り合ってて協力関係にある仲ですからねー。
姫様今日はよろしくおなしゃす。
まぁ…ここまでは順調だな。
さて、こっから勝負に出ましょうかね。
俺は一昨日と昨日姫様と話し決めたことを実行に移すことに決めた。
今回の作戦…これは今ここにいない人も実行して動いてくれているし、ここからは失敗は許されない。思考を真面目に切り替えていくとしよう。
俺は膝をついて敬意を表す姿勢を取り、質問を王へとぶつける。
「して陛下。失礼ですが質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「…良い。申してみよ」
「ありがとうございます。…私は何故、このような場所に招かれたのでしょうか? その理由が知りたいのです」
「ふむ。…それは遣いの者が伝えている通りだ。かの偉大な異世界人であるお主と直接会ってみたいという願望があってな…」
俺の質問に対しスラスラと言葉を連ねていく王だが、それは予想済みだ。
酷く真っ当で適当であることを言うことで、俺に疑問を抱かせないためだろう。
だがそれは…違う願望を隠す建前なんだろ?
ネタは上がってんだよ。アンタの娘から直接聞いてんだから。
「本当に…そうなのですか?」
「なに?」
さて、どう出るよ?
俺が質問に疑問を立てると、王が眉をピクリと反応させた。
「実は私、独自に情報を収集しておりましてね…。不穏なことを知ってしまったものですからつい…」
「不穏だと?」
「はい。私という大きな力を手中に収め、姫様と婚約させるおつもりだというね…。どうやら陛下は過去の栄光を取り戻したいお考えの様子。ならば…異世界人たる私と姫を結ばせることで、自国の強化を図っているのは想像に難くありませんからね。聞くところによるとセルベルティア王家は…今衰退の道を歩んでいるそうですね?」
「貴様っ! 口を慎め! そのようなことは決っしt「良い。最後まで聞こうではないか」…っ! …失礼いたしました」
俺がまだ話している中、癪に障った奴が俺へと食ってかかるが…それを手を挙げて制止してくる王。随分と余裕のありそうな顔だ。
喚いた奴は口では納得しているものの、その表情は決して納得しているものではなかった。だが、大人しくはなったようである。
ちなみにだが、俺も横やりを入れられて癪に感じていたりする。
すると…
「…済まないな。これも私に対する忠義の表れ…気を悪くしないでもらいたい」
「私も失礼を言っていますので、当然かと…」
…まぁ、これは特に気にするような意味はないな。
事実だし。
「…続きを言うがよい」
「はい。…セルベルティア王家は衰退の道を歩み、それに私を利用しようとのお考えだと私は考えております。ですが、それでしたら申し訳ありません。私はそういうことには一切関わりたくありませんので、ここで帰らせていただきたいのですが?」
ここで、俺は畏まった姿勢をやめて立ち上がる。
そうすることで、自分の言ったことが本気だということを伝える効果があると考えたからだ。
それを感じ取ってくれたのかは分からない。
王は目を閉じて一瞬口を閉ざしたかと思うと、静かに…独り言のように口を開いてこう口にした。
「…なるほど、全てお見通しと言うわけか…」
この言葉の意味は大きい。
俺を自国の為に使おうとしているということを肯定しているに等しいのだから。
ここで、王は肘掛けに腕を乗せて、拳を顔に当ててこちらを舐めまわすように見始める。
すげぇ偉そうな態度である。
……あ、王ならそりゃそうか。この国のトップだもんな…。
「だがそんなことをしていいのか? お主。お主がそうすることで、被害を被る者達がいるのだぞ?」
「!? ど、どういうことですか?」
そんなことを考えていた俺だが、王はそれを知りもせずに、脅しめいたことを口走ってくる。
…あ、勿論今のは演技です。
察するに、王は形成逆転のように思っていることだろう。俺が嫌でもセルベルティアに加入しなくてはならない状況を作り、それにまんまと嵌ってさぞご満悦の様子でしょうよ。
たださぁ…こっちには内通者がいるってことを知らないのは大きいよ? しかもそれがアンタの隣にいる人物なのだから笑える。
情報の価値についてヴァルダに俺も豪語してみたいと思うくらいにすごい効果を生んでくれたよ。
「フッ、お主への遣いを果たした者の報告を聞くところによると、お主はどうやら我が国を滅ぼせると思しき発言をしたようだな?」
そうですが何か?
「その発言を聞いて我々が対策を練らないとでも思うか? 悪いが、お主が滞在しているグランドル。お主は大層その町を気に入っているようなのでな、そこに我が軍の精鋭を密かに送り込ませてもらったぞ」
ナンダッテー!? って言った方がいいの?
んなこたとうに知っとるわ。
「今頃…我が軍の精鋭により、グランドルは包囲されているだろうな。確か『鉄壁』があそこに在中しているそうだが、Sランクと言えどそれはギルドの基準で定められたものだ。こちらはそれ以上の者を送らせてもらったのだよ。これだけで…もう分かるだろう? 例えグランドルをこのように扱おうと、どうとでもできるからな…」
ここまでクズすぎることを言って、王は不敵な笑みを俺へと向け始めた。
クズだと思う反面俺はと言うと…
なるほどなるほど…弱みを握る的なパティーンにしようとしてるんだな?
でもさ、その…笑いを堪えるのが大変なのでやめてもらえます?
確かに、今の話を聞いて驚きはしたよ? この国にSランクを越える力を持った人がいることに対してだけど。
でもさぁ…それでもSランクより強い人を送った程度でしょ? なら無理に決まってんじゃん。
だってそれ以上の化物が待ち構えてますもん。
「いや、分からないですね」
「なに?」
「ハッキリ言ってその程度では絶対に無理ですよ。陛下が何をしてるのかは知りませんが、グランドルは今もきっといつもと変わらない現状を維持しているハズですよ? それ以前に問題が起こっていることすら認知していないでしょう。…向かわせた人達は今頃俺の仲間に打ちのめされてると思いますけど?」
「ハッ! 愚かだな…そこまで事実を認めたくないか」
「威勢を張っていることが滑稽だな」
俺の言葉に、外野が吐き捨てるように言葉をぶつけてくるが、俺は気にしない。
揺るぎない事実を言っているのは俺の方だからだ。
というか、ジークがいなくてもヒナギさんだけで安心な気がするけどな。
ヒナギさん以上の人を送りこんだとか勝手に言ってるけど、ヒナギさんはそんな簡単に基準にされるような人じゃねーよ。
普段あれだけ自己を高める努力を続けてて、つい最近魔力循環も会得してるくらいだ。もうSランクの中でも特異な強さを持っているだろうし、過去の情報なぞ役に立たないに決まってる。
「…強がりを言えるだけの余裕はあるようだが、それもこの結果を聞いて絶望に変わることだろう。オイ!」
「ハッ!」
すると、まるで打ち合わせ済みだったかのように王の元へと青いローブに身を包んだ者が1人、駆け寄っていく。
その手には通信石が握られていることから、恐らく派遣した人と連絡を取り、今まさに起こっていることを報告させるつもりなのだろう。
さてさて、絶望するのはどちらでしょーかね?
「どうぞ連絡してみては? 多分…誰一人として通信は繋がらないと思いますよ? むしろ…俺の仲間が通信に出ることでしょう」
「何を戯言を…」
俺がそう言うと、王は通信石を使って通信を始める。
辺りにキィン…という音が響き渡り、広い部屋だというのにこの部屋の全員が聞こえているようだ。騒ぎかけていたはずなのにも関わらず、皆急にピタッとその喧噪を止めて意識を通信石へと向け始めた。
その静寂になった場をぶち壊す発言に、俺は笑いが吹き出そうで仕方がなかった。
『…あ? おーい誰だ? ツカサァッ! 聞こえてるかぁ?』
「「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」」
ホレ見ろ。
いらっしゃい…ジーク。
相変わらず元気そうだね。
ジークの大声が通信石から響き渡ると、俺達と姫様を除いた連中は皆驚愕する。
口を開いて閉じることも忘れ、ただただ唖然としていると言ってもいいかもしれない。少なくとも俺にはそう見えた。
「たかがこの国の抱える戦力如きに負けるような仲間じゃないんですよコレが。俺の手にも余るような奴ですからね。殺されない分だけマシに思って欲しいもんですけどね」
「馬鹿なっ!?」
「イーベリア様の部隊がやられただとっ!? そんなことが…!」
「そ、そんなはずは…! 別の者に連絡を取れ!」
「は、はいっ!」
各々言いたいことを喚きたてている中、通信した者とは別の人物に連絡を取れと言う指示が飛び交った。
それを聞いた青ローブの人が別の通信石で連絡を試みるも…
『オイ! なんか言えよ!』
「っ!? べ、別のを…」
『何なんだよ一体? 確認のつもりかぁ?』
「嘘だ…!」
『…喧嘩売ってんのかゴラッ!』
次々とジークの声が別の通信石から聞こえてくる。
そして…
『『『『ちったぁ何か言えよ! コイツらがどうなってもいいのか?』』』』
同じ声が、4つの通信石から同時に聞こえてきた。
これでもう、信じざるを得ないだろう。
通信石4つから同じ声が響いていくるということは、その4つの通信石は同じ場所にあることを指していることに他ならない。
セルベルティアの信じた者は、今聞いている声の主に敗れたのだと言う事実を受け入れるしかないのだ。
…つーか流石ジークだ。ちゃんと仕事をしてくれている。
無意識なんだろうけど、人質を逆に取るような発言するとか…お前すげぇな。
この辺りは特に指示しなくてもいいと思って何も言わなかったんだが、タイミング良すぎだろ。
こと戦闘に関しては、頼れる奴だホント。
そこで、通信石達の音声は急に途絶えた。
もう通信石から聞こえてくる見知らぬ人物の声を聞きたくなかったであろう王が、その通信石での通信を切断したのだ。
まぁ失態を見せてしまったわけで、恥ずかしい思いがあったんだろう。
すると、王が口を開いて話してくるが、その言葉に目が点になってしまった。
というのも…
「ふ、フンッ! 通信の調子が悪かったようだな…」
こんなことを抜かしやがったからである。
「まったく! もっとまともなものを持たせんか! 連絡のできん通信石に何の価値があるのだ!」
「も、申し訳ありませんっ!?」
しかも通信石を渡したローブの人に八つ当たりをする始末だ。これには流石にローブの人に同情した。
アンタは何も悪くないぞ。悪いのはそこの髭だから安心しな。
ちなみに、王のすぐ近くにいる姫様はほんの微かにプルプルとしており、父親が現状に余裕をなくす姿に笑いを必死にこらえている最中のようだ。
オイオイ…仮にも貴女の父親だぞ。肉親でも割り切ってしまえるその精神は凄いな…。
性格悪いとも取れるからやめた方がよろしいんでは?
「…というわけだ」
「いやいや、嘘ついてるのバレバレなんで。その取り繕った顔やめてもらえませんか? 非常に滑稽ですよ?」
王はここで、今の会話が嘘のような対応を見せる。
何が「というわけだ」…だよ。
お前等の送った奴らはジークに負けた。それが全てだろう?
変な言い方すんなよ。
「ぐぬぬっ!? …な、ならば、お主の要求をなんでも1つ叶えようではないか!」
……は?
「なんでも良いぞ? 金、地位、武力、それから女でも構わん。これはお主が要求するならいくらでも用意しよう。どうだ? 喉から手が出るほど欲しいのではないか?」
王はそう言って、俺へと交渉を迫ってくる。先程の怒りで赤くなった顔がまだ残りつつあり、冷静になりきれていないと思えてしまう様子と取れる姿で。
それと、俺が目を丸くしているのを話に食いついたのかと勘違いしているようだが、俺はそんなありきたりなことを言ってくることに対して驚いているだけである。
もっとマシで現実的なことを言えんのだろうか?
つーか、追い詰められて出た苦渋の策感がすごいんだが…。負け犬根性丸出しかよ。
こんな奴が王か…。姫様の話だと、昔は聡明だとか聞いてたんだが…ガッカリだ。
金は災厄の報奨金で結構あるし、地位はSランクで十分…というか無い方が個人的には好都合。武力は国を越える戦力を持っているとお世辞抜きに言えるし、女性はアンリさんが既にいるから必要ない。したら浮気だし。
第一…俺を『英雄』さんと一緒に見てるんじゃねーよ。女性を道具の様に扱う発言に今腹が立ってんだが?
姫様に対しても同じことを考えてると思っていいのか?
それなら…お前は糞以下だ。
目の前にいる王に対し、俺はそんな結論を出した。
だがいくら腹が立っているとはいえ、これでは前回と同じように暴走しかねない。
だから俺は、冷静になるということを今一度思い出し、頭の中で冷静…冷静…と繰り返す。
そして少し落ち着いてきたところで…
「…願っても無い申し出ですが、それは無理でしょうね。私の望む願いは…元の世界に帰ることですので」
「元の世界にだと?」
「何故…?」
「何を考えているのだ…?」
俺の願いが元の世界に帰ることだという選択肢が今までなかったのか、ザワつき始める周り。
今までの異世界人がそんな考えを持たなかったのなら、異世界人=この世界で一生を終えるという認識が生まれても仕方ないのかもしれない。
でも俺は、お三方とは違う考えを持っているので。普通に帰りますわ。
「…ならお主の望む願いを我々は叶えることができるぞ? 我が国では別世界に対しての研究が進んでおる。お主の望むものはおのずと手に入ることであろう」
「いやいや…それも現実的じゃないですし無理なはずですよ。帰る方法をこの世界にいる人間が知り得ていない、開発されていないって言うのは神様から直接聞いていますので」
「むっ!?」
「神…だと!?」
「こんな奴がお会いしているなんて!?」
…オイコラ、こんな奴とはなんだまったく…。お前等よりかはマシだっつーの。
「…だから、そういういざこざには関わりたくないと言っているのですよ。貴方方の国がどうなろうと私の知ったことではありません。滅ぶなら滅べばいいですし、それを回避するために私を利用しようとするのはご遠慮していただきたい。何か別の方法をお考えくださいって言ってるんですよ。もう面倒なんで関わらないでくれます?」
この俺の言葉が…両者の引き金となった。
俺と姫様は目配せをして心で頷き合い、それ以外の者達は、俺へと本気で敵意を向け始めてくる。
さーて姫様…やりましょうか?
やっとこさポポとナナも活躍できそうだ。
次回更新は遅くなりますが日曜になる予定です。恒例の話の区切りがつかないってやつです。
一応今話よりも2倍増しの文章量になる予定なので…すみません。




