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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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167話 秘めたる想い(別視点)

 ◆◆◆




 私は皆様から話を聞いた後、町を駆けまわりました。

 普段はゆったり歩いていたいこの町の風景ですが、今はそれを感じている暇はありません。

 通行人の方々に迷惑を掛けないよう、安全かつ素早く移動します。


 カミシロ様を探し始めてから…少し経った頃でしょうか?


 カミシロ様の訪れそうな場所をしらみつぶしに当たっては見ても、一向に見つかりません。

 少々息が乱れていた私は、自分でも分かりませんが空を見上げました。


 すると…青々とした空に黒い点がポツンとあります。

 それは…なんということかカミシロ様本人でした。

 宙に浮かんで座り込む姿勢をしており、肩にナナ様もいらっしゃるようです。


 偶然にも、私が空を見上げたことは功を成したようです。

 まさか地上ではなく空にいるとは思いもしませんでした。確かにカミシロ様なら、どんな場所にでもいけるはずですし、盲点でした。

 空の…あのような高い場所までは、あまり人目に付くはずもありません。私は視力は高い方ですので、目が悪かったら気づけなかったことでしょう。




 …さて、どうやってあそこまで行くとしましょうか?




 ◆◆◆




 遥か上空まで飛ぶ手段は…私にはありません。

 空に留まれるような魔法も持ってはいないですし、そんな魔道具も持っていません。


 …ですが、空高くまで跳び上がることは可能です。

 カミシロ様達程ではありませんが、私もそれなりに身体能力には自信があります。流石に地上からでは届くか不安があったので、この町で一番高いお屋敷を足場にしようと考えました。

 お屋敷を管理している人には申し訳ありませんでしたが、どうか私の愚行をお許しください。


 私は罪悪感を感じつつも、一直線にカミシロ様達の見える部分へと跳び上がります。


 そして、久しくその身一つだけで感じた空高くの風景。

 横を見やれば、広大な草原が。下を見れば、小さくなった普段の町の風景がそこにはありました。

 ポポ様とナナ様の背に乗せて貰っていた時のような安心感は今はありません。


 空に身を投げ出すような真似は…本来人には許されない行為ですからね。

 生物には、その生物のみに許された能力というものがあります。

 人が高い知能を保有しているように、鳥を始めとした翼を持つ生物は…空を飛ぶことを許されました。

 その許された境界線を侵害しているような気持ちになってしまいます。




「カミシロ様! …あっ!?」

「え!? ヒナギさん!? わっと!?」


 カミシロ様はどうやら『エアブロック』を使い、その上に座り込んでいるようです。

 私もそこにお邪魔しようとしたのですが、力及ばずあと一歩届きませんでした。

 ですが、カミシロ様が伸ばした手を掴んでくれたことで事なきを得ました。


 急にカミシロ様に触れられたことで、少々体が熱いです。カミシロ様に気づかれてはいないでしょうか?


「何でここに…。い、今あげますから」


 そんなことを思っていると、カミシロ様に引き上げられます。

 私が見えない足場に足をつけると手を離され、違う意味で安心しました。

 あのまま触れていたら…もう隠せない程に熱くなっていたことでしょうし。


「カミシロ様…ありがとうございました。こ、こちらにいらっしゃったんですね」

「危なかったね~。てかどったのヒナギ? よくここまで来れたね…」


 ナナ様が私がここまで来たことに驚いた様子を見せていたので、私がここまで来た理由を簡単に説明します。


「あと少しの所で届きませんでしたが…。少々ギルドの方に異変を感じまして…それで出て来たのです。カミシロ様を探していたのですが、まさか空にいるとは思いもしませんでした」

「誰にもバレないよう結構高い所にいたつもりなんですけどねぇ。というか、ヒナギさん…意外と思い切った行動に出るんですね? 驚きましたよ」

「ええ、私も…」


 確かに私自身、ここまで行動力があるとは思っても見ませんでした。

 これもきっと……私の中に渦巻くモノが原因なのでしょうね…。もう気づいています。




 少し体を落ち着かせた後…


「…その様子だと、もう知ってそうですね。ここまで来たのってそういうことでしょうし。…皆何か言ってました?」


 本題にどうやって入ろうか悩んでいると、カミシロ様から先に言葉を掛けて下さいました。


 顔に…出ていたのでしょうか? それなら要らぬ気遣いをさせてしまいましたね。

 ありがとうございます。


「皆さん…心配されてましたよ。それと、一緒にいた子を守ってくれたことにお礼を言っていました」

「お礼? なんでまた…」

「危なかった子供を助けたのですから…当然かと思います」

「…子供を助けたこと事体はいいんです。ですけど…その後の対応がマズかったんです」


 カミシロ様は、別の部分にお困りの様子でした。


 それは一体なんでしょうか?


「対応…ですか?」

「はい。きっとまた…皆に迷惑を掛けると思います」

「…それはどんな?」

「助けた後にセルベルティアの遣いと揉めちゃって…すごい色々言っちゃったんですよ…」


 溜息を吐いて沈んだ表情をしているカミシロ様を見ていると…私もいたたまれない気持ちになりました。

 後悔の念を感じます。


「具体的には何を言ったんですか? 先程少し話を聞いただけですので、事の全容がまだ不明瞭なんです。カミシロ様の口からお聞かせくださいませんか?」

「…そらもう、暴言吐きまくりでしたよ。しかも死んだ方がいいとか言っちゃって…」

「そ、それは…」


 流石にそこまでとは思っても見ませんでした。

 集まっていた皆様の話を聞く限りだと、子供を守ったというのが強調されていたので。


 ですが…カミシロ様にそこまで言わせるほどの方々だったということにも驚きを隠せません。

 貴族たる者への理解はカミシロ様も重々承知しているはず。にも関わらずですか…。


「今にしてみればあれは喧嘩を吹っ掛けただけですよ…ホント。しかもこの町の名前まで出しちゃって、過去に戻れるなら戻りたいです」

「…それが…迷惑ということですか?」


 カミシロ様の言う迷惑が何なのか…私にはイマイチ分かりませんでした。


「そうですよ。俺のせいで、また皆に迷惑が掛かります。俺が異世界人だって噂が流れてから皆も興味の対象みたいに見られて嫌な思いをしたでしょうし、ジークの時なんて俺の独断で勝手に仲間にしました。東の時だってそうだ。俺が東に行きたいだなんて言わなければ、アネモネも被害は受けなかったはずですもん。トウカさんにだって迷惑を掛けた」


 あの時のことをまだ…。

 それは納得していたはずです。


 ナナ様に一瞬視線をやると…やれやれと首を振っています。

 ナナ様も、カミシロ様のこういう所はどうしようもないと言いたげな様子でした。


「アネモネの件はもう仕方のないことでした。それは…シュトルム様とも話されていたでしょう?」

「…それは分かってるんですけどね。でも気負うなとは言われはしても、完全には無理です。ぶっちゃけ事実ですし…。ヒナギさんも本音言ってくれていいんですよ? そしたら少しは俺だって「カミシロ様!」……」


 カミシロ様の自分を責め続ける姿に、私は黙ってはいられませんでした。

 そして…私が今までカミシロ様に嘘をついて騙しているように思われていたことが…堪らなく悲しかった。


「行き場のない罪を全て自分の罪にしないでください! 貴方は…背負いすぎなんです!」


 私の思いの丈を、カミシロ様に思いきりぶつけました。

 カミシロ様に対してここまでの声量を発したことは、初めてでした。


「私達は…仲間です。それはカミシロ様が私におっしゃってくださったことですよ? それなのに、カミシロ様はいつも自分で背負って……。もっと頼ってください! 確かに私は、カミシロ様からしたら頼りないです! ですが、それでも貴方の仲間なのです! カミシロ様の言う仲間とは…ただ一緒にいるだけの存在なのですか!?」

「い、いや…」

「カミシロ様も本音を言ってください! それが私の本音です!」


 言えた。

 ようやく私の本音を、直接カミシロ様に言うことが出来た。


 ですが、カミシロ様は面食らったような顔をした後、少し考え込んでしまいましたが。


 でも…これでいいんです。

 これは、カミシロ様が私の言葉をしっかりと受け止めてくれていることだと私は思いますから。

 カミシロ様がまだ考え込んでいる最中ではありますが、一旦気持ちを落ち着けて、今度は静かに話し掛けます。


「辛いことがあったら一緒に背負いますし、お話も悩みも苦しみも聞きます。全てを話してくれとは言いません。ですが…多少なりと貴方のお力になりたいですし、共に歩みたいのです。多くの方に見放されたとしても私達は離れません。それはきっと…この場にいない皆様が思っていることです」

「………」


 この方は…一人で背負い込んで責任を感じすぎです。

 本当に責任を感じなければいけない人は数多くいますが、責任を負うべきではないことに責任を感じてしまうのはいかがなものでしょうか。

 それが魅力と言えば映えるものはあります。しかし、身内の方がそうだと…周りにいる仲間の私たちは本人のことが心配になってしまいます。


「カミシロ様は意識しすぎなのですよ。もう少しお心をお休ませになった方がよろしいかと…。カミシロ様が全てを背負う必要はないのです。カミシロ様がお辛ければ私達が代わりに背負います」


 カミシロ様に本音を伝えるためにも、私はなるべく笑顔でカミシロ様に伝えました。

 先程までは少々怒りに似た感情を抱きましたが、それも一瞬で収まりました。

 この方に怒りを向け続けるなんてことは…私にはできません。


 すると…


「………ホントに言ってる(ボソッ)」

「はい?」

「あ、いえ…なんでもないです。…でも…そっか…」


 カミシロ様が目を丸くして何か言った気がしましたが…よく聞き取れませんでした。

 今も小さく何か言ってますが、所々しか分かりません。


 ですが…わ、私…もしかして変な顔をしてたんでしょうか? それなら…は、恥ずかしいことを…!


「……ヒナギさ…って、急にどうしたんです?」

「あ、いっ、いえっ!? なな、なんでもないですからっ!」

「? …まぁ、ジークだけは違うと思いますけどね。アイツは俺と戦えればそれでいい奴ですし…」

「(ぷっ! くふふふっ!)」


 どうやらカミシロ様は気にした様子ではないので、要らぬ心配だったようです。


 一人で慌てて恥ずかしいです。

 いつもと変わらない表情をしているカミシロ様の肩で、ナナ様が今の私の態度に笑いを堪えていました。


 うぅ~、ちょっと恥ずかしいです。

 ナナ様…どうか笑うのはやめてください。


「…そうでしょうか? ジーク様…意外と普段から楽しそうにされてますよ?」

「えぇ…戦闘しか興味ないだけじゃないですか…。それにトラブルメーカーですしね。昨日もシロップ食われましたし…」


 どうやらジーク様が昨日カミシロ様の買ったシロップを全て食べてしまったことを、根に持っているようです。


 ちょっとこういうところには可愛らしさを感じてしまいますね。普段のほんわかした表情も好きですが…。


「いいえ、きっとそれだけではないですよ。…言うなればその、同じ仲間に会えて嬉しいような感じ…とでも言えばいいでしょうか?」

「却下で!」


 私の言葉に、カミシロ様が両手で×を作って否定を表現しました。


「クスッ…即答ですね」

「そりゃもう。アイツと同じになったら俺はおしまいですよ。俺は平和にゴロゴロ暮らしたいんです」

「それもどうかと思いますよ。それでは怠けてしまいます」

「だね~。駄目人間発言が勇ましく感じるとは…これは参った。流石ご主人、パネェっス」


 ナナ様が自分の頭を翼で叩きながら、そんなことを口にします。

 すると…


「お前には言われたくないな…この駄目な鳥と書いて駄鳥(ダチョウ)なくせに」

「むーっ! ぷりちーって言えやぁこの野郎!」

「その口の聞き方も直せ! はしたない! ヒナギさんを見習え!」

「うっさい! やったらキモイとか言うくせにっ!」

「よく分かってんじゃねーか、駄鳥のくせに!」

「駄鳥って言うなーっ!」


 …2人と言えばいいのでしょうか? 言い争いが始まってしまったようです。


 ただ、さっきまでの空気はもう何処にもなさそうです。

 いつもの私達の日常風景がそこにはありました。


 馴染みのある、居心地の良い場所。

 元気があって、微笑ましくて、でも時々騒がしくて。自然とその輪にずっといたくなる…そんな場所。

 それがカミシロ様の持つ魅力の一つなのだと、改めて思いました。




 しばらくして、カミシロ様とナナ様の言い合いが収まりを見せたので…


「…でも、分かっていただけますか?」


 話を…先程の所まで戻します。

 まだカミシロ様の返答をお聞きしていませんでしたから。


 カミシロ様の返答はというと…


「…はい。そりゃもう、こんな面と向かって言われれば。しかもヒナギさんに初めて怒鳴られたくらいです。これは絶対ですね」

「あ…す、すみませんでした!? あれはその…!?」

「なんで謝るんですか? 俺はヒナギさんに本音を言ってもらえて嬉しかったんですけど…」

「まぁまぁご主人。ご主人には思うところがあるんだよ…程々にしてやってあげてよー」

「な、ナナ様っ!?」


 シュトルム様に忠告を受けたように、ナナ様もきっと気づいておられるのかもしれません…。

 で、でも!? ここではやめてくださいぃ!


 皆様が本当にお優しい方達で良かった。

 私も…近い内に終わらせなければいけなさそうです。


 でもその前に、話を変えましょう。そうしましょう。

 一旦ここは体勢を整える必要がありますもんね。きっとそうに違いないです。


「…か、カミシロ様?」

「はい?」

「あ……いえ、なんでもありません」

「…はい?」

「あ!? そうではなく!? えっと…」


 じ、自分で話題を振っておいてなんでもないなんて言ってしまうとは…私は何を言ってるんでしょう?

 も~私のバカバカ! カミシロ様に変な風に見られてますきっと…。


 一度深呼吸して…再度体勢を整えた私は…


「コホンッ…アンリ様とは恋仲なのですから、もう少し弱音を吐いてもいいのではないですか? カミシロ様だって人なんですから、色々と溜め込むのはよくありませんよ? アンリ様もカミシロ様に頼って欲しいと思っているはずです」


 アンリ様のことを持ち出し、話題を変えました。

 恋人であるアンリ様の名前を出せば、カミシロ様も今私が言ったことをより意識してくれるかもしれないという狙いがあるにはありますが、そんなのは後付けです。

 正直そんなことを考えている余裕はありませんでした。偶々です。


 ですが、話題が出ればもう後はそれに基づいて言葉を連ねていくだけですから大丈夫でしょう。


「誰かに頼るのは情けないことではありません。頼った後に…成長し、前にまた歩き出せるならそれでいいのです。その時に頼った人を越えて、その人が困った時に頼られる…それを繰り返していくのが人の在り方ではないでしょうか?」

「おお~! …いや~、ヒナギさんの言うことは…違いますね。流石です」

「え?」


 記憶を頼りにカミシロ様にそう話した私でしたが、カミシロ様のこの反応は予想していませんでした。

 なぜなら…


「あの…これはカミシロ様が教えて下さったことですよ?」

「え? …嘘」


 そうです。このお言葉はカミシロ様本人から直接頂いていたからです。

 そうであるのに私の言葉として思われていることには驚きを隠せませんでした。


 ですがこの人のことですから、分からなくもないです。


「カミシロ様らしいですね…」


 この方はあの時無意識にそう話したのでしょうね。

 きっと覚えていないくらい当たり前という認識をしているんだと思います。


 ただ……フフフ…。あの頃が今は懐かしく感じてしまいますね。


「カミシロ様は覚えていますか? あの時のことを……」




 カミシロ様に、私は問いかけました。

 私の全てが変わった…あの日のことを。




 そう、あれはカミシロ様と初めてギルドで会った時…

次回更新は日曜です。

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