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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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166話 思わぬ事実

「じゃーねー兄ちゃん! さっきはありがとー!」


 元気になった声を聞き届け、軽く手を振って別れる。

 あの子の様子を見る限り、もう大丈夫そうだ。恐怖が完全に拭いさったのかは分からないし、もしかしたらトラウマのようなものが根付いているのかもしれないが、俺はそんな印象を覚えていた。


 …まぁ、あくまで今のところはだけどな。

 もし何か変調をきたしたら、その時にまた考えよう。




 やがて姿が見えなくなったところで、ナナが俺へと声を掛けてくる。


「……で、ご主人…さっきのは何だったの?」

「さっき……それなんだけどさ…一体何が起こってたんだ? 俺はよく分からなかったんだが…」


 ナナの問いには…上手く答えることができなかった。

 というのも、俺には心当たりが何もないからである。


「気づいてなかったの? じゃあ…無意識にアレは出たってことか…。……多分それかなぁ?」

「一人で納得してないで話して欲しいんだが?」


 勝手に自分で分析して理解していくナナを見て、置いてけぼりを食らってしまった。

 ナナが頭で分かっていることを俺にも伝えてほしいと要求すると…


「さっきさ、ご主人が怒り狂ってる時なんだけど、ご主人が竜に見えたんだよね」

「竜? …あの子もそういや言ってたな…。でも俺…特に何もしてねーけど?」


 ナナの言ったことに、あの子も同じようなことを言っていたことを再度思い出す。


 怒り狂ってるキャラクターの表現でよく角が入る描写とかはあるが…それが幻覚として見えちゃったのか? んなわけなかろうに…。

 …何だ? それなら俺はガオーとでも言えばいいのか? 


 現実味がないため下らない考えが頭をよぎるが…


「その様子だとそうだろうね。だから…きっと無意識に顕現したんだろうね。でも…私一応心当たりはあるよ」

「…それは?」


 俺が竜に見えた状態に、ナナはどうやら心当たりがあるとのこと。


 ほぅ? それは…なんだね一体…。


「その服の付与スキル…【ドラゴンソウル】。それしか思い当たるものはないでしょ」


 …そういやそんなのありましたね。

 詳細がちっとも分からんから、もう効力の無いものとして扱ってたわ。


「発動条件みたいなのがよく分からないけど、状況的にご主人が怒りを覚えると発動するんじゃない? その服着てから今日みたいにすごく怒ったことって…ないでしょ?」

「………うん、ないな」


 ジャンパーが壊されたのはジークと戦った時だから、それ以降のことになるわけだ。


 確かに…ちょっと怒ることはあっても、激しく怒るなんてことはなかったな…。

 怒りを覚えると言っていいのかは分からんが…ヴァルダはアレだ。怒りとかそんなんじゃなくて、ウザいだけだし。


「じゃ、決まりだと思う。ご主人が竜に見えなくなったのはアイツらがいなくなってからだし、きっと怒りが多少なりとも静まったから収まったんだと思うんだ。怒りが最高潮に達した時に顕現するんだろうね。ご主人は認知できないみたいだけど…」

「【ドラゴンソウル】…。今までよく分からないスキルだとは思ってたけど、まさかこんな形で分かるとはなぁ…」

「竜はこの世界では上位に位置する生物。ならその強者たる竜が弱者に与える威圧は…そら恐ろしいだろうね。スキル名通り、やっぱりドラゴンの魂の力が宿ってるんだろうね」


 ドラゴンの力…か。

 俺は人なんですけどね…。それは龍人とか限定でいいんじゃないでしょーか? 

 この世界の龍人がドラゴンの力を持っているかは知らんけどね。


「【ドラゴンソウル】に関しては現状それくらいしか分からないかなー。…あとさ、ご主人って我慢強いと思ってたんだけど、今回はえらく沸点低かったね?」

「え? そ、そうか? いつも通りだと思うんだけど…」


 龍人がどんな種族的特徴を持っているのかはまだそれほどは知らないため、あくまで予想の範疇に留める。

 すると、その考えをしている最中に、ナナが話を急に変えてきた。

 俺は思ったことをそのまま伝えるが…


「ううん、絶対おかしい。それならジークがギルドで威圧を放ったときだって怒ったはずでしょ? あの時は…もっと大勢いたし、ご主人が子供限定でしか怒らないわけがないもん」


 ナナがそれを否定してくる。

 聞いてきている割に随分と早い返しに、最早最初から俺の返答を先読みしていたかのような早さだった。


 …にしても、ナナ。お前って結構色々と周りを見てるのな。

 ご主人はもっと食い物とかおバカな所にしか目が向いてないと思ってましたよ。


 真面目な顔をしているナナには悪いが、そんなことを思う。


「今日だけで結構分かったことって多いよ。ご主人は今まで、怒りそうなことが会った時は…まだあのジャンパーを着てた。でも今回はあのジャンパーを着てないで怒る場面に遭遇した。これから察するに、ご主人が今まで保有していた【忍耐力】って、ご主人を冷静にいさせるための役割を果たしてたんじゃないの?」

「は? 【忍耐力】って痛覚とか同じことを継続する我慢強さとかに影響してたはずだろ? 心を落ち着かせるわけじゃないだろ」


 これまでの経験を元にするなら、それが一番しっくりくる。

 第一それだと俺は、自分の感情を抑圧されていたようなことになってしまう。


「う~ん、その忍耐って言葉がどれだけ幅広い意味を持っているかは不明だけど…神様って結構説明とかアバウトなんでしょ? ならワンチャンあるって。とゆーか、この世界に来た時からそれ着てたから気づけなかっただけだと私は睨んでる」

「考えすぎだろ。流石にそこまでチートじゃないって…」


 俺は冗談だろと手を振るが…


「…いや、裏付けはあるよ。その忍耐がどれくらいの範囲で効力を及ぼしてるのかは分からない。だけどさ、痛みとか苦痛を耐えるのにも勿論影響は与えてくれてたのかもしれないよ? でも、それならジークと戦ってる時にジャンパーが壊されたけど、あの時は死にそうなくらいにご主人は傷ついてたにも関わらず……普通その状態でまだ戦うとかの意思を持ち続けられると思う? あんな化物相手に…。しかも最後は私達の心配を優先する判断ができたのは…ハッキリ言っておかしいとしか思えなかったよ」

「…なんか話がズレてね?」

「ううん、このまま聞いて。それでさ、私が言いたいのは…【忍耐力】って痛覚とかには一切影響していないんじゃないの? ってことを言いたいの」

「………」

「ジャンパーが壊れたことで、付与されていたスキルも発動しなくなったのはこの前聞いたよ。だからこそ不思議に思ったの、じゃあ何でジークとの戦闘中に、最後まで戦えたんだろう…って。壊れた瞬間から…ご主人が影響を受けていた【忍耐力】は効力を失うはずだよね? それならそこで…激痛が体を襲っているのに耐えられるわけがない。あんな…全身の皮膚が裂けるような姿で思考が止まらないわけがない。ましてやそのまま魔法を放てるなんて…」

「…アドレナリンがドバドバに出てたとか?」

「信憑性に欠けない? それ…」


 意外と真面目な顔で返答したが、ナナはそれを馬鹿か? と言わんばかりの顔で俺を見てくる。


 あ、ハイ。なんかすんませんした。

 でも、ちょっと呆気に取られててどう反応していいか分かんなかったんだもん。


「つまり、【忍耐力】は痛覚には一切影響しない。作用するのは…心とか精神、そして激情の部分なんじゃないの?」

「ちょっと待てっ!? なら俺はあの時、普通に激痛に耐えてたってことになるぞ!? 俺にはそんな精神力なんぞねぇ「それだと…それも【忍耐力】の効力ってことになるよ?」…あぁ、そうだよ」


 ナナが俺の言葉を遮って自分の考えを伝えてくる。

 俺はそれを肯定するが…


「痛覚と精神の2つ。流石にそれはチートすぎって…自分で言ったじゃん。でも自分のことだよ、よく考えてみて。どちらか一方なら…チートじゃないよね? しかもジャンパーは壊れてたのにご主人は意識を明確に保てていた事実がある。…ということは?」


 的確に穴を突いていくナナに、自分でも信じられないような事実が導き出されていく。


 嘘だろ…? んな馬鹿な…。


「…急にんなこと言われてもな。分かんねーし信じられん」


 俺自身にそんな精神力があるなんて全く想像つかない…。

 だってお化けとか怖がっちゃうような奴だぞ俺は。言ってて悲しいけど…。

 でもそんな奴がとんでもない精神力を持っていました~なんて言って…信じられるか? 俺なら嘘くせぇと思うだろうな。


 ってゆうか、何故にこんな話になるまで発展してんだよ。


「…ま、この辺りは今度神様にでも会った時にでも聞いてみなよ。多分合ってると思うけどねー」


 この話をしていること事体に疑問を感じ始めた所に、ナナのやり投げ宣言である。


 結局はそれかよ。

 確かに神様なら、恐らく俺の知り得る中で一番の回答をしてくれるはずだ。


 なんかナナに振り回された感がすごいと気になっていると…


「…でもさ、私はすごく誇らしいよ。ご主人がすごい誇れる程のものを純粋に持っていることにね…。そして誰の力にも頼らず、あの時私達を真っ先に心配してくれたことが嬉しい。なんか最近だと邪険に扱われてるなぁと思ってたけど、ちゃんと大事にしてくれてるのが分かったから」


 ナナが、照れくさそうに言う。

 照れくさそうだが、同時に嬉しくもある顔をしている。


 ただ…邪険に扱ったつもりはないんだが、そう思われてしまっていたんなら悪いことをした。

 でも最近はスキンシップとかもしてないし、そういうのが少なくなったのは事実だ。

 もしかしたらそれを嘆いていたのかもしれない。


 少なからず、ナナの言うことには思い当たる節があった。


「あの後さ、ご主人のことでちょっと怒りたかった。自らを厭わないのは感心できないからね。もっと自分を大事にして欲しいって思ってた。でも、それが自分達のことを考えてだとちょっとね……怒れないかな」

「まだ確定したわけじゃないぞ…」

「いや、私はそう信じてるから」


 あくまで今の話は全て憶測が大半を占めるものばかりの内容だったため、俺は念を押す。

 しかし、ナナはもう自分の考えを真実だと決め込んでしまっている様子だった。

 そして…


「もしかしたら…やっとご主人の本心を見れるのかもね…私達。今までスキルに助けられてはいたわけだけど、ある意味ご主人の人格を拘束されていたわけでもあるし」


 確かに。


 ナナの言葉に素直に納得してしまう。


 ジャンパーの効力で、俺は知らない内に自分の感情を表に出せていなかったことになるわけだからな。

 過去にももしかしたらさっきみたいに、暴走していた可能性があるかもしれなかったわけだしな。

 今後は自力で自制しなきゃいけないとなると…意識しておかないとヤバそうだ。


「…途端に不安になるようなこと言わんでくれよ。第一今はそんなことよりも、さっきのことだろ」

「アハハ、確かに…」


 不明で謎だったスキルの話を終わりにし、先程の問題に話を俺達は戻す。

 まだこっちの話は解決していない。




 ◇◇◇




 ギルド前…


「…どうかされたのですか?」

「お? 良い所に…」

「あ、ヒナギちゃん…。いやそれがねぇ…」


 時を同じくして、ギルドの前には30台半ばの主婦達が集まり、何やら井戸端会議を始めている。

 その近くには、他に冒険者で出来たグループや、暇を持て余していた店番や通行人でできたグループもあり、いつもと違う風景を作りだしていた。

 その表情は皆何やら神妙な顔つきで、決して楽しい話や日常の話題を話していないのだけは誰でも理解できる程だ。

 先程ギルド方面から妙な気配を感じたヒナギは、こうして確認しにやってきたわけである。…皆には内緒で。


 強者特有の気配を感じ取れるようなモノを…ヒナギは感じ取ることができる。

 勿論ヒナギ以上の強者であるジークもそれに気づいてはいたが、特に来るようなことはなかった。

 ジークにとっては司を取り巻く環境がどうなろうと知ったことではない。司が自分と戦えるかどうかが問題なのであって、今回は心配する余地など皆無と判断したようだ。

 王都の遣い程度に司を害することなんてできはしないし、もし仮にできたとしたら…興味を司からそちらへ移せばいいだけだからである。

 ヒナギはそんなことは露程も知らないが。




 集まっていた者達に、今このように皆が話し込むことになった理由をヒナギは聞いた。


「カミシロ様が…!?」

「まるでドラゴンでも乗り移ったのかと錯覚したよ。あの子のあんな顔…今までに見たことが無いくらいに怒ってたわ」


 ヒナギは伝えられたことに驚愕する。

 今まで司のそのような状態は見たこともなかったし、聞いたこともなかったのだ。

 ましてやそのように激怒する姿を…ヒナギは過去に見たことが無い。

 ヒナギは、司の喜怒哀楽の『怒』の部分だけは…未だに見たことはないのだ。


「そうですか…しかしカミシロ様がドラゴンのように…ですか」


 一通り話を聞き終えたヒナギは、司がそのように見えたという事実を深く考え始める。

 すると…


「私以外にもそう見えていたはずよ。…ねぇ? そこの奥さん」

「え、えぇ…。正直…怖かったわ。ただ、矛先がそのお偉いさんに向いていたから良かったけど…」


 頬に手を当てて、当時を思い出す仕草を主婦の1人はする。

 嘘を言っていないと思える姿に、ヒナギは眉をしかめた。


「今までカミシロ様のそのようなお姿はお聞きしたことがないのですが…。分かりました。教えて頂きありがとうございました」


 そう言って、ヒナギはその場から離れ何処かへと行こうとしたが…


「あ、ヒナギちゃん? もしあの子に会ったらさ…ちょっと気にかけてあげてよ。その子供を連れてここを離れた時…ちょっと悲しそうな顔してたんだよ…。何か放っておくとマズイ気がするから…」


 呼び止められ、司のことを心配する主婦の言葉を聞いた。


 あの子というのは、無論司のことである。

 最近はやや頻度は減ったが、これまでに幾度となく依頼で関わりのあった司は、主婦達の間ではあの子呼ばわりされていたりする。

 それは例え司が異世界人であっても健在で、そう呼ぶことに関しては、異世界人と言う特別な出自は特に影響を及ぼさなかったようだ。


 非常に慣れ親しんだような呼び名である。


「私からもお願いするわ。少なくとも、あの子はその男の子を守ったのは皆分かってるから。それだけは伝えてあげて。…それに、その男の子が全く怖がってなかったからね。安心させてあげて欲しいわ」

「…分かりました」


 安心というのは、司の心境のことを言っているのだろうと迷わずに理解したヒナギ。

 司が最近グランドルの生活で居心地の悪さを感じていたのを、皆分かっていたのだ。そしてそれは自分達も感じていたことだったりする。

 理由としては、異世界人なのかどうかハッキリしない司にヤキモキしていたのだ。

 しかし、それが払拭された今となっては、もう悩む必要もなくなった。今まではどっちつかずで困惑していただけで、もうそれに戸惑うことはなくなっている。


 司の考えとは対照的に、この町は司が異世界人であることをそれほど気にしていない人が多い。

 第一司はこの町の人達からしたら、災厄の被害から救ってくれた英雄としての印象が強いのだ。そしてそんな英雄である存在が、通常だったらあり得ない程に非常に身近で働くのを見ていたため、誰もが司という人物をよく知っている。

 今回の事にしても、確かに王族と貴族に喧嘩を振るような対応を司がしたのは確かに非はあった。

 個人の感情を優先し、体裁を考慮していなかったのだ。いかに相手が横暴であろうとそれは否めない。


 だが、一般庶民や一介の冒険者には…上流階級のしがらみなどは馴染みのないもので、傍目から見たら子供を救うために動いた司に正義があると思うのも無理はないのである。

 司は今自分のやらかしたことを若干後悔していたりする訳だが、この町の人からしたらそれは正しい姿として映っていた。


「(カミシロ様はやはり、この町の方に理解されていらっしゃるみたいですね。普段の行いが現れているかのようです)」


 予想していなかった事実には戸惑いを隠せない。

 だが、それでもヒナギは司が皆から心配されているということには嬉しさを感じていたのだった。

 まるで自分のことのように…。




 そしてヒナギは、司を探しにその場を離れていった。

ちなみに、司がデート前にアンリに対して大胆な行動に出れた理由もスキルの消失が原因だったりします。


次回更新は木曜です。

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