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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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164話 一悶着

 姫様との通信を終えたので、姫様の伝言通りにランバルトさんを呼びにいく。

 部屋の外へと出てランバルトさんを探そうと思ったが、聞き耳こそ立てていなかったものの、静かにドアの隣に立っているランバルトさんを見て、その手間はいらなくなった。

 部屋へと再度招き入れて話をする。


「話は終わったのですか?」

「はい、一応は…。でもまだこれからも連絡は取り合うことにはなりそうです。直接会う予定も少し話しました」

「そうですか…。……はぁ、どうやら本気みたいですね」


 ため息を吐いてゲンナリとした顔をしたかと思った矢先、すぐに苦笑した様子を見せるランバルトさん。

 少々姫様の行動力に対し思うことがあるようだが、決してそれを悪く捉えているような節は見られないことから、まぁいつも通りのことなんだろうと推測する。


 ただ…


「ランバルトさん…もしかして今回のこと知ってたんですか?」

「……えぇ。姫様に想い人がいらっしゃることは聞いていましたからね。もしやとは思っていたのですが…まさかその通りだとは…」


 その様子から、俺達の会話の内容が分かっていたようなことを言い始めた。

 元々心当たりのあるような口振りをしてはいたが、大体察していたらしいが…


 直接聞いてるんかい…。

 全部知ってるから言えるけど、すっげー大胆なことしてんな姫様…。てかその想い人って貴方なんですけど…。

 でもこの様子じゃ気づいてなさそうですな。なぜそこまで分かってて気づかんのじゃい。

 この朴念仁さんめ。


 目の前の人物に対し、内心でそんなことを思った。

 恐らくこれは、この場にいる者全員の認識だろう。


「…その人物に心当たりはないんですか?」


 それをどう思ったのかは知らないが、アンリさんがランバルトさんに尋ねる。

 それはまるで、早く気づいてあげて欲しいと言う願いが込められているかのようだったが…


「それは…判断しかねますね。姫様が異性の方とご一緒の所事体見ることがありませんし…いつもお一人でいるようなお方ですから…。その代わりかは分かりませんが、私が話し相手になることが大半だったかと…」


 真剣な顔で今までのことを思い出しているランバルトさんからは…嘘を言っているように見受けられなかった。

 アンリさんの思いは通じなかったようである。


 それ多分、貴方がいるから満足してるだけだと思いますよ? なぜに自分を異性の対象としてカウントしないんだ…。


「(…気づいてないっぽいね)」

「(真面目そうな方ですけど…意外と鈍いお方なのでしょうね)」

「(姫様…可哀想だな…)」


 女性3人がヒソヒソと後ろで会話をしているのが耳に入ってくるが…気持ちは分からんでもない。

 あれだけ情熱的に語れる姫様のことだ。普段からアピールとか絶対にしてきたに違いないし、俺もそれには同意見である。




 正直鈍感とか言われている人種は頭がおかしいとしか思えない。

 人間なら、ほんの僅かにでもそれとなく想いを感じ取れるだろうに…。言われるまで気づきませんって…現実にはあり得ないっしょ。

 それが勘違いで早とちりだというなら、それはそれで仕方ないさ。ナルシストやらキモイのレッテルを張られてハイ終わり…。自意識過剰な人と思われるだけだ。

 でも俺からしたらそれの方がまだマシだと思う。だって少なくともその人は、周りから向けられている感情に意識を向けているということになるから。

 そういう感情を最初から分かっていて受け付けないって考えならまだ良しとしよう。ただそんな考えもなく、ただただ相手の想いを空回りさせるだけの人はNGだろうな。いたらシバいていいんじゃね? 




「(ランバルトさん鈍感なんだな…可哀想に…)」


 俺が内心哀れみの眼差しで小声で口にすると…


「「「「(………)」」」」


 何やら無数の視線を感じた気がする。

 それを確認してみると…


「(…何言ってるんですか)」

「(それをお前が言うのか…)」

「(……少なくともご主人はそれを言っちゃいけないね)」

「(馬鹿だ…馬鹿がいやがる…)」

「(は? なんで?)」


 どうやらその視線は、女性お三方以外のものだったようだ。

 ジト目を向けられながら、俺は向けられた視線をただ不思議に思った。


「………?」


 ランバルトさんと俺は、似たような顔で皆を見るのだった…。




 ◆◆◆




「…それでは、私はこれで失礼いたします。例の件……どうかよろしくお願いいたします」

「はい、お気をつけて…」


 ランバルトさんを見送るため、門までやってきた俺達。

 できることならポポ達で送るくらいのことはしたいものだが、ランバルトさんは馬でここまでやってきたらしいのでそれは遠慮しておくとのことだった。

 非常に慣れた手つきで馬の背に乗るランバルトさんは、持っている槍も相まってか歴戦の戦士の姿にさえ見える。

 中々カッコイイし、姫様が惚れた理由の一つにこれも含まれてるんじゃないかと思ってしまった。


 というのも、姫様は何度かランバルトさんと馬で出かけたことがあるらしい。

 あの姫様なら、ランバルトさんのこの姿にときめいて違う意味でドキドキしたんじゃないかな…。

 あのベタ惚れな様子だとそれ以外考えらんねーや。


「…よしよし、帰りも頼んだぞ?」

「ぶるるっ!」


 ランバルトさんは乗っている馬にそう声を掛けると、馬もまた返事を元気に返す。

 意思の疎通が出来ているようで、言葉は分からずとも互いを理解している姿はとても微笑ましいものがある。


 そしてそのまま草原へと駆けていき、やがてその姿を草原に消していった。




 ◆◆◆




 翌日…


 姫様は優秀な諜報員を抱えているんだろう。ランバルトさんもだが、それ以外にもいるはずだ。出なければこの差は出なかったはずだ。

 情報の価値は…その伝わる速さによって変わる。このたった1日という時間がどれほど貴重な時間か、ヴァルダならよく分かっていることだろう。

 もしもの可能性として、俺が姫様の話を呑まなかった場合もあったはずだ。


「………以上が陛下のご意思である。貴殿には今伝えた日時に陛下と謁見してもらう」

「…セルベルティア王からのご招待、大変嬉しく思います。では指定された通り、3日後に王城へと伺うとお伝えください」

「…貴殿の意思は陛下に伝えておこう。異世界人とはいえその謙虚な姿勢…殊勝な心掛けだな。陛下の前でもその姿勢を崩さないようにするんだな」

「…分かりました」


 姫様らから伝えられていた通り、今度は陛下の遣いとやらが俺に会いにグランドルまでやってきた。

 昨日と同じ場所でやり取りを交わしているわけだが、それがようやく終わりを迎え、部屋を後にしていく。


 姫様から言われた通り、俺基準ではあるが当たり障りのない反応を返せたとは思う。

 その証拠に、殊勝な心掛けと言われたし、まぁ及第点くらいの対応は出来たのかな…。


 だが…


「…なにあれ、感じわる~い!」

「まったくですね…ご主人が異世界人じゃなかったら、もっと酷かったって言ってたようなもんですからね」

「…分かってたとはいえ、ランバルトさんとどうしても比較しちゃうよな…。あの人はそんなことなかったのに…」


 部屋を出て行った後、俺達は今の遣いの態度に不満を漏らした。

 ヴィンセントの時と同様の不快感を、今俺達は感じていた。


 …あ、でもアイツは元々庶民寄りの思考をしてるとか言ってたっけ? 洗脳されたことでそれが捻じ曲がっていってしまっただけで。

 まぁ今だからこそ許せるけど、それと同じようなことを素でやってる今の人たちに関してはどうも…な。


 俺達が不服そうな顔をしていると…


「…慣れるしかあるまい。私達とは住む世界の違う存在であるし、大きな意識の違いが出ても無理はないぞ」


 またギルドマスターの部屋を使わせてもらったことで、ギルドマスターも相席していたりする。

 俺達の表情を見た後、そんなことを言われた。


「なんで同じ人間でここまでの差が出るんですかねぇ? 人類皆平等とはなんだって感じですよまったく…」

「…それだと私たちは当てはまらないってことでいいのかなぁ? 鳥だし」

「ナナ、上げ足取ったところで意味ないですから。第一私とナナは人と同じ知能を貰っている訳で…それは当てはまらないでしょう?」

「むー…めんどーい。昨日の姫様ちょーサイコーだったのになぁ…。あんな感じの貴族とかっていないのー?」

「…いる訳なかろう。少なくとも昨日のクリスティーナ姫は稀有な例だと思うぞ?」

「………ちっ、それは残念」


 舌打ちするほどなのか…。

 でもナナは普段からこんな口調だし、話すということでいちいち言葉遣いを気にするのが嫌なんだろうな。

 俺はまぁ、それが常識とまではいかないがモラルのようなものだと認識している分いいけど、それはあくまで地球での基準の話だ。

 貴族なんてものは日本にゃいないし…これに関しては少なからず対応をどうしたもんかと考えなくもない…。


「まぁいいや。取りあえず皆のところに戻ろう。3日後に謁見ってこと伝えないと…」

「そうですね」

「…忙しいなお主は。お主の出自なら仕方ないが…。私は基本関与しないようにするが、あまり騒ぎを大きくせんようにな?」

「…善処しますよ」


 王族がしゃしゃり出て来てる時点で既に大きいですけどね。

 というか、俺が悪いわけじゃないんですが…。異世界人ってだけで騒ぎになるこの世界の感性がいけないとお兄さんは思いまふ。


 そして、俺達もまた遣いの後を追うようにすぐにギルドから出ていった。




 ◆◆◆




 しかし、出てすぐに俺達は、とんでもない光景を目の当たりにした。


「その無礼! 死を持って償え!」

「なっ!? っ!」


 ギルドの正面すぐの道で、怒鳴り声と共に、俺達の目には…剣を子供達に振りかざす遣いの1人の姿が映る。

 それと同時に、他の人の目にも触れていたこともあり、その光景に驚愕した人たちがザワつき始めていた。

 俺がいつも遊びに付き合っている子供達の1人を相手に、先ほどの傲慢な表情から打って変わって、遣いの者が今度は怒りの形相に顔を歪ませている。

 対する子供の方はというと、怯えて今にも泣きそうな表情だった。

 そして振り上げた剣が今まさに振り下ろされ始めるのを、スローモーションのように感じつつ、俺はすぐに『転移』でそこまで移動した。


 頭で考えるよりも早く、体が動いた。

 あの子を助けないと…ただそれだけが俺の中にあった。


『転移』で子供を包むように抱きしめ、間に割って入るような形をとる。

 この子からしたら急に視界が塞がったように見えることだろう。そして遣いの方は、予想もしない人物の介入にさぞ驚いていることと思う。


 剣はもう既に振りぬかれている。それを止めることなど、余程の人物でもない限りはもう不可能だろう。

 認知はできても、それを止められるだけの技量があるかはまた別問題だ。

 生憎とこの遣いはそれが無理だったようなので、俺は甘んじてその剣を受けることとする。


 本来ならあり得ない音を立て、俺の右腕と剣がぶつかり合う。

 以前ドミニクの大剣を受け止めた時の再現をしているかのようだったが、あの時と比べて今は少し余裕はない。

 この子がいるし、付与スキルである【衝撃耐性(特大)】も今はないため、多少踏ん張りを利かせる必要があった。じゃなければ軽く飛ばされてしまいそうな感覚を感じていた。


 例え飛ばされたところで怪我なんぞしないだろうが、【衝撃耐性(特大)】のスキルは…破格過ぎる性能があったのを今一度身に染みて感じる。


「なっ!?」

「……ぇ?」


 ただ、それよりも今はこちらが先決である。


「あっぶねぇ~! …大丈夫か?」

「に、兄ちゃん…! け、剣が…!?」

「別に怪我なんてしないから心配すんな」


 俺が抱きしめているこの子が、心配…というよりかは驚いた顔で俺を見るが、それには見ているそのままを事実だと伝える。


 …つーかコイツ、力込めてんじゃねーよ。さっさと緩めろよ馬鹿が。


 腕に掛かる圧力が、苛立ちを感じさせる。

 受け止めた剣の刃先で体が傷つくかもしれないということを気にもせず、俺は腕を剣に滑らせるように動かし、掌で刃先を受け止め、そしてそのまま剣をグッと握りしめて……破壊した。

 金属音と共にその刀身は原型を失い、地面へとバラバラに崩れ落ちていく。


「なんだと!?」

「…ほらな? 剣よりも俺の方が強いんだよ」

「う、うん。兄ちゃんすげー…」


 驚愕している遣いのことは放っておき、この子と話す。

 見れば、目元には涙を溜めており、怖い思いをしたことはすぐに分かった。


 それを見て、俺は遣いに対して怒りが込み上げてきた。


「わ、私の家宝である宝剣が…! 貴様よくも!」

「…壊したことは素直に謝ろう。…だが、先になんでこの子達に剣を向けたか教えて貰おうか? 事と次第によっちゃ…タダでは済まさない…!」


 地面に落ちた刀身の破片を見て俺に憎しげな顔で睨んでくるが、そんなことは知ったことではない。

 俺もそれに対抗するように相手の目をジッと見た。


 なぜ俺がこの剣を壊したかというと、剣に込める力をコイツが緩めなかったからである。

 それは、それくらいこの子を斬ることに躊躇が無かったということを表しており、この行動は俺には非常に目に余る行為として取れた。


 俺に対してもそれを続けたのは…まぁ急なことで驚いてそこまで意識が回らなかっただけだろうからいいけど、その行動に走った時点でもう手遅れだ。

 ましてやコイツらとはまだ先ほど別れてから1分も経っていない。それにも関わらず、この短時間でこの子を斬るに至るなど、何をどうしたらそうなるのか俺には分からなかった。




 さて…その理由を聞かせてもらおうか?

次回更新は土曜です。

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