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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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163話 クリスティーナ姫②

 姫様の要求に面食らってしまったわけだが、その要求はひとまず置き、取りあえず話を進める。


「ですが一体どうするんですか? 何か良い案があるんですか?」

『それは勿論。昨夜ワタクシなりに必死に考えましたから。…おかげで寝不足ですわ。お肌が荒れないか心配ですの…』

「それは…お疲れ様です」


 その当時の思考で苦労したのか、ため息が微かに聞こえた気がした。


 女性はその辺りのケアは大変ですな。俺はあんまり気にしたことないや…。


『まず『神鳥使い』様には…「あの…」…はい?』


 姫様が俺を呼んですぐ、俺は言葉を遮る様に割って入る。

 先程からむず痒く思っていたことがあったため、それを伝えることにした。


「その『神鳥使い』って呼び方…変えません? 言いづらいでしょうし…俺が何よりちょっと…」

『そうでしょうか? 立派な二つ名ですのに…何をおっしゃいますの?』


 それを俺の世界じゃ厨二病と言うんですよ? 無自覚って怖い…。

 …あ、でもそれなら、俺は俺でこの世界の人からしたら考えの違う変な奴と思われることになるのか? 

 だとしたらなんでしょうね、このやりきれない感は…。正しいことしてるのにそうじゃないって言われてる気分ですわ。


 ま、いいや。


「こっちの世界の人と俺の世界じゃ、その辺りの良しあしが違うみたいで……他のでお願いしたいです」

『……分かりましたわ。でしたら…せっかく協力する間柄になったわけですし、信頼の証としてツカサ様とお呼びさせていただきますわね』

「分かりました。ありがとうございます」


 姫様に名前呼びされるのも十分何か感じるものはあったが、それでも二つ名で呼ばれるよりかはマシなので良しとする。

 取りあえず、その問題は解決? した。


『それで考案したことについてですが、まずは前提条件があります。お聞きしたいことがあるので答えてくださいませんか?』

「どうぞ」

『異世界人の方々は歴史に名を残すほどに強大な力を持っておられました。ですからツカサ様もその例に漏れずに、方々同様に力をお持ちなのでしょうか?』

「…判断基準がイマイチなのですが、少なくともラグナ大森林での災厄程度なら一瞬で静められます」

『そ、そうでしたの……それは驚きですわ…』


 素直に俺は事実を伝えると、姫様は驚いたような反応を見せる。

 だが事実は事実である。ラグナの災厄が歴史的に見ても大きな災厄であろうと、できるものは仕方がない。


『では、何に秀でているかはありますでしょうか? 広域殲滅に特化しているのかや、対人戦に特化してるかといった簡単なことでいいので…』

「う~ん………」


 腕を組み、姫様の言葉に頭を捻る。


 秀でていると言えば…やっぱり魔法だろうか? 無詠唱、全属性適性、超級魔法も使用可能だし…。広域はそれで条件満たしてるよなぁ。

 でも、体術もスキルレベルはMaxだし、剣術の方もなんやかんや上がってきてるから、対人戦も秀でているといえば言えなくもない…。

 というか、俺の戦闘スタイルが近接攻撃と魔法をミックスさせた魔法剣士みたいな感じだしなぁ…。【従魔師】としての戦闘は初期の頃しか意識したことないや。今じゃポポとナナは独立して動くことの方が多い。

【従魔師】……改めた方がいいんかな? マッチさんが特技等は変更可能とか言ってた気がする…。


 自身の秀でているものを考えていると、別の考えが脳裏をよぎってしまった。

 そんな状態の俺を見てか…


「お前は真面目に考える必要なんてないだろ。全部得意ですって言っとけばいいんだよ」

「得意ではないんだが…。ただできるだけであって…」

「それを普通は得意って言うんだよ…何言ってんだお前。羨ましいわその発言が」


 シュトルムに呆れた顔をされてしまった。


 俺は…得意なことと断言できるものは本当に何もない。

 なぜならそれは、俺の持つスキルがそれを可能としているからである。これがあってできることに対し、素直に〇〇が得意です! なんて言えるわけないだろうに…。

 ただ、スキルのせいでできてしまうだけ。これが一番正しい返しなんじゃないかな…。


「カミシロ様は苦手な分野がありませんからね…」

「人間味がないとも言えるんですけどねぇ…」

『あら? 初めてお聞きする声ですわね…でもどこか聞き覚えが…』


 俺以外自己紹介はしていないため、声で俺以外にも複数いることは分かっていた姫様だが、ここで始めて聞く声に反応したようだ。…恐らくヒナギさんの声だろうか?

 ただ、姫様の方は心当たりがあるかのようなことを言っている。


「ご紹介が遅れた非をお許しください。私は…ヒナギ・マーライトと申します。クリスティーナ姫と話ができたこと…大変光栄です」


 姫様の様子を感じ取ったヒナギさんが自己紹介すると…


『マーライト……あ! もしや『鉄壁』様ですの?』

「はい…お見知り頂き光栄です」


 やはり気づいたようである。

 流石に姫様ともなれば知っていないほうが難しいのかもしれない。


『それは勿論。以前の災厄で王都の守護の任にお就きでしたからね、存じておりますわ。…なるほど、ツカサ様と一緒におられたのですか。先々月程前に王都を出てから行方を聞いていなかったのですが…ツカサ様と一緒におられたのですね』

「はい、誠に僭越ながら…。カミシロ様らと共に、日々精進に励んでおります」

『そうでしたの。なら…今後も日々精進してくださいまし。『鉄壁』様が民に与える安心感はとてつもなく大きいのです。その象徴たる存在として在り続けてください』

「勿体なきお言葉です」


 姫様の姿は見えないが、頭を垂れて敬意を表すヒナギさん。

 真面目さは最早無意識に行われる領域にあるようで、まるで電話対応でも頭を下げてしまう人のようである。

 主と仕える従者のようなやり取りに聞こえるが、ヒナギさんの普段を見ていると様になっているとしか思えなかった。

 ランバルトさんには悪いかもしれないが、ヒナギさんの物腰丁寧な態度は、十分それに値すると感じる。


「(ご主人…なんか会話が厳かでカッコいいよ? 見習ったら?)」

「(…だな。俺もああいう風に言われるようになりたいもんだ)」

「(ですね)」


 でも俺達の場合はあれは似合わないだろう。初期の頃はポポが近い対応をしていたが、それも自然と無くなった。


 無くなった理由としてそれは多分、俺達が自然とそれが好ましく思った結果なんだろう。

 他の【従魔師】とは違った環境にいる俺達だが、それが周りから見ればおかしなことであろうと、俺達はそのスタイルに満足しているから別に構わない。


 今の状態で十分主従関係のようなものは築かれている。


 仮にもしもだが、ナナが今朝俺を部屋から追い出す時みたいなやり取りを今風に言うとしたら…


『主様、今しばらくの間清掃をさせていただきたく存じますゆえ、階下にてお待ちくださいませ』

『ん、今日も精が出るな…ナナよ』

『お戯れを…我が主の為ならば造作もありません』


 うん。正気を疑うよ…間違いなく。

 というか、何か変なものを食って人格…いや鳥格変わったんじゃないかと心配するレベルだな。

 これは気持ち悪い。


『…では話を戻しましょう。単純な話…弱いお方だと困難でしたから。一応他の案も考えてはいましたが、一番楽で効果がありそうな案に必要な条件が強さだったのですわ。話をしている限り…人間的に問題のある方とは思えませんし、常識はある方だと判断します』


 ヒナギさんとの会話を終えた姫様が俺との会話にまた戻ってきたので、俺はそれに対応する。


「……その強さが必要な案と言うのは?」

『至極簡単な話…直接お父様の前に立ち、意思表明することですわ。恐らくお父様の言葉に否定的な態度を取れば、お父様はツカサ様を逃がすまいと強行手段に出ることでしょう。…お父様ならやりかねませんし…。近衛兵から騎士団、魔法師団をけしかけることが予想できます。加えて魔眼による束縛も視野に入れているかもしれません。ですから、それをものともしない力が必要と思ったのですが…その心配はいらなそうですわね』


 姫様の話す内容は、言った通り至極簡単な内容であった。


 直接会って、お断りします~って言えばいいだけの簡単なお仕事だ。わーいやったね。

 …って、そんな軽い内容では無いけどね。


「魔眼持ちがいるの~?」

『いますわよ。ですが魔眼は…補助以外の直接相手に干渉できる力に関しては、強い者相手には効果がありません。ちなみに…ツカサ様はレベルはいかが程で? こちらの抱える魔眼持ちのレベルは300程度だったと記憶しているのですが…。一応大国であるがゆえ、強き人材を抱えてしまっておりまして…』

「その辺りはどこも一緒か…ふむ」


 申し訳なさを滲ませた声で言う姫様だったが、それは仕方ないことだから責めることなんてできない。

 というか、王族に仕えてるんならそれくらいはあった方がいいとさえ思っていたりする。むしろそんな人材で大丈夫か? と言っても言い過ぎではないだろう。


 ただ、レベル300となると…冒険者ランクで考えればAランク中堅クラスと言ったところだろうか? それで魔眼持ちって…ギルドマスターと同レベルくらいというわけか…。

 ちなみに、アンリさんが50、セシルさんは80、シュトルムに至っては年齢差が非常に大きいのだろうが…150はあるとのこと。

 ただ、シュトルムは種族がエルフだし、身体能力はそこまでレベル並みに高いというわけではないためCランクに収まっている。シュトルムの精霊を操るスキルがあれば、魔法だけでも普通に考えてAランクくらいは妥当なはずだが、そのスキルを隠していたことからあまり多用はしていないのだろう。


 ぶっちゃけこの辺りのことについてはあまり深く聞いたりはしていない。聞くのは野暮ってもんでしょう。

 俺は自らステータスを皆に開示したが、それはあくまで俺の自己満足が多分に含まれていたからだ。それを仲間だからと言って皆に強要するつもりはない。

 見せたいなら見せる。見せたくないならそれでいいよ…の精神でいいのだ。


 そしてそして、Sランクでもあるヒナギさんに関してなんだが…なんと驚くことにレベルは、『超越者』ではないとのことらしい。ギリギリで…。

 驚いたと言うのは、あれだけの力があってなお『超越者』ではないということに対してである。

 レベルが1000を越えると『超越者』と言われているらしいが、レベルが上昇しても弱い人はいるし、逆にレベルが低くても強い奴はいることから、あくまでも目安なんだなと言うのが俺の認識だ。


 んで、あの脳筋君に関しては当然余裕で『超越者』です。

 俺よりも随分とレベルは低いものの、ステータスの上昇幅が大きいのか、魔力量と魔力強度以外は俺に匹敵するステータスを誇っていたりする。マジもんの化物です。

 ホント何者なんだろジークって…。どんだけ魂強ぇんだよ。


 ポポとナナは…まぁシュトルムと似たようなレベルだが、変化が使える分実質その2倍のステータスである。加えて『才能暴走』なんて使おうもんなら、軽くヒナギさんを越える以上の化物へと昇華するし。

 俺のステータスを約半分補正として加えるのが大きすぎる。

 攻撃力の低いナナでさえ、近接ではヒナギさんを上回るほどの膂力を得られてしまうと言えば、その恩恵がいかに大きすぎるのかがよく分かるというものである。


 シュトルムがぶつぶつ言っているのを横目に…


「あー平気です平気です。その7倍はありますから」


 俺はそう答える。


『……問題なさすぎですわね。この案でいきましょう…というか最善ですわ』


 俺が姫様の言葉に返すと、少しの間の後に、この案で決定と伝えてくる姫様。


 この間というのは…いつものことだからもういいや。

 この辺りの感性は姫様も一般の人と変わらないみたいだ。




 しばらく沈黙が続いた後、皆が姫様の次の言葉を今か今かと待っていると、ようやく言葉が紡がれた。

 沈黙が続いた理由としては、思った以上に俺が条件を満たしすぎていることによる弊害であると思われる。


 普通、もっとここが駄目だとか、ここはこれで代用できます…みたいなやり取りが必要になるところを、あ、大丈夫ですの一言で済ませているわけだから仕方ないことではある。


『えー…コホンッ。取りあえず、こちらの王城にきてもらわないことには始まりません。細かい城内の情報と打ち合わせをしなければなりませんし……城内は実際に見て貰った方が当日は安心だと思いますので』

「あの…一応姫様がお住まいになられている所ですよ? それなのにいい「構いませんわ」…あ、ハイ」


 それは流石にどうかと思ったものだが、姫様に俺の意見ははバッサリと切られてしまった。


 …立場は違うけど、窃盗犯が犯行前に下見をする時と同じ感覚なんでしょうかね…。

 私もその仲間入りですか、そうですか。しかも姫様の後ろ盾つきという普通は考えられない状態とか…内部に協力者がいるようなものですね。

 …犯罪ってのはこんな具合に成り立っていくのか。お兄さん一つ勉強になったよ。

 ま、私がその気になったらいくらでも完全犯罪まがいのことなんていくらでもできるわけですがね…。『シャドウダイブ』と『インビジブル』で姿見えなくできるし、【隠密】もあるから物音立たないし。

 盗人涎物のスキル満載ですわ。


 自分が簡単に完全犯罪を可能にできることにツッコみを入れたい所をグッと堪え、今回の計画にそのものを聞いてみる。


「ですが…こんなことで大丈夫なんですかね? 姫様の案を否定するわけじゃないんですが…」

『良いのです。乱雑かつ情熱的に…否定の思いを伝えれば良いのですから…。頑固なお父様にはそれが一番効果的でしょう。…まったく、何が過去の栄光ですか…馬鹿馬鹿しい。過去は過去、今とは状況が異なると言うのに。せっかく平和な世の中になってきたというのに争いの火種を作ろうとするなんてあり得ませんわ! 今のお父様はワタクシに気を取られてばかリで、周りを…民の未来を考えていませんわ! (ブツブツ)』


 な、なんだ情熱的にって…。王は感情を大事にする精神でも持ってんのか? あと姫様、愚痴入ってるぞ…。

 もっと言えば、貴方の今の会話全ても周りが見えていない結果と言えなくもないんですけどねー。…言わないけど。

 というか、姫様の地が出ていることに関してはある意味信頼されているということと捉えていいんだろうか? 初対面の人間に対して普段からこんな言動してたら、流石に姫様は口が悪いという噂が流れてそうだし、それが無いのを見るとその辺りは上手く隠してるっぽいんだよなぁ…。


 でも、姫様の言葉にはちょっと感心した。姫様は…争いを好まないってのが分かっただけでも好印象だ。

 自国の強化も十分に大事だ。だが、そもそも争いを極力起こさないようにするというのも大事だからな…。今は昔よりも平和みたいだし、それを継続できるならそれに越したことはない。


 それに…気持ちには敏感な人なんだな…。

 一応親の愛情? から発生した問題だっていうことは分かっているみたいだ。


『ですから…一度直接お話がしたいと存じます。お父様の指定する日時の前にはこちらに来ていただけると助かるのですが…』

「はい、了解しました。ですが何処で会いましょうか? 軽々しく会うなんて無理そうですし…」

『私は不用意に外に出ることが叶いませんので、出来ればワタクシの部屋までお越しいただきたいのですが…可能でしょうか?』


 姫という立場上動きは制限されていることを考えたが、案の定唯一のプライベート空間である自室を会合の場所に姫様は指定してくる。


 お部屋へのお誘いだって! 不用意に男の人を部屋に上げるなんざ大胆だねぇ姫様や。それはランバルトさんだけにすべきでは? 

 一応俺は男ですし、簡単にそんな発言はしない方がよろしいんでは…。


 恐らく要らぬ心配ではあるが、そんなことを考えてしまった。

 なんにせよ、取りあえず話を進める。


「城の警備態勢によりますね。まぁ…【隠密】がありますからあまり心配はいらないと思います。魔力やスキルを無効化するような結界は張られていますか?」

『スキルについてはありませんが、魔力に関しては城の周囲一帯には結界が張られていますわ。結界の内側へと入ってしまえば魔法の行使は可能です』


 ふむ…結界はやはり張られているか…。城の周囲一帯だけというのは意外だが。

 でもそれだけデカい結界だから維持も大変だろうし、良い人材がいないとそもそも出来ないから、相当な人数の魔法師がいるんだろうな…。その辺りのことは直接会った時に聞けばいいか…。


「なるほど。でしたら姫様、姫様の部屋の窓の隅に…小さくて構いませんから丸い印をつけておいてもらえませんか? それを目印に誰にも気づかれずにそちらにお伺いしますんで…」

『印? それは…どれくらいがよろしいかしら?』

「拳よりも小さいくらいで結構です。あまり不自然に見えない色でも結構です。俺の従魔が見えると思うので…」


 会うのは恐らく夜になることだろう。だがそれでもポポとナナの視力ならそれくらい確認することくらいわけないはずだ。

 鳥は本来鳥目で夜間は視界が悪くなるはずだが、ウチの子達はそんなのおかまいなしである。


 第一…『覚醒』したら自らが発光するし、暗かったとしても明かり代わりになったりするからなぁ…。


『…かしこまりました。なら準備をして待っております…。あと、お渡しした通信石はそのまま所持してもらって結構です。昼間の時間帯は計画が漏洩する危険性がありますから、深夜の時間帯であればいつでも連絡は受け付けますわ』

「了解いたしました」

『ただし…あんまり遅い時間は極力勘弁して欲しいですわ。お肌が荒れる…いえ、壊滅してしまいます』

「あはは…善処します」


 途中で言葉を言い直す姫様。


 …結構気にしてるらしく、そして症状も結構大きい様だ。

 体調不良がすぐに体に出てしまう体質なのかもしれない。…めっちゃ体が正常でいいことですけども。


『それでは、後日来るお父様の遣いには……そうですわね、適当に当たり障りない程度に対応してくだされば結構ですわ。高圧的な態度が目につくやもしれませんが、もしも度が過ぎると判断した場合は遠慮なく制裁を加えて下さっても結構です。地位が高かろうと…人は人。理不尽に屈する必要はありませんもの。抗うことはむしろ正常なことですわ』

「…は、はい」


 まるで論すように言ってくる姫様に対し、あぁ…やっぱり姫様なんだなと思ってしまい、少しどもってしまった。


『それでは通信石の魔力も枯渇し始めたのでまた…。ラトには王都へと戻ってくるようお伝えくださいまし。…会える日を楽しみにしております………』


 その言葉を最後に、姫様との会話は通信石が停止したことによって終わりを迎えた。

 最後は結構早口になってしまってはいたが、伝えるべき内容は話せたので良い時間だったと思う。


「う~ん。終わり良ければ全てよしって感じだったな…」

「ま、理不尽は許容できない器量の持ち主ってのは分かったがな…。ただ、あれはあれで高貴な者の立場としてはどうなんだろうな? 敵視する輩も多そうに見える」

「姫様だし、位の高いことも影響してなんとかなってんじゃね? その辺りはなんとも分からんわ」

「でも…変わった姫様だったね」

「「「「「うん、確かに…」」」」」


 皆の声が、セシルさんの言葉に同意した。


 姫様の人柄とか考えはまぁ、俺達庶民からしたら良識的に見える……が、それでも姫様が他と比べて変わっているということは否定できなかった。


 姫様には…暴走プリンセスの称号を与えたいものだ。


「…あ、ギルドマスター。今聞いたことは内緒でお願いしますね」


 ずっと黙って話を聞いていたギルドマスターに声を掛ける。

 ギルドマスターはというと腕を組んでは眠ったように目を閉じているが、実際に寝ているということはなかったようだ。

 むしろ、よく話を聞くために目を閉じて声だけに集中していたという言い方が正しいだろう。

 俺の声に反応してギルドマスターは目を開いた。


「う~む……サラッととんでもない会話に混ざってしまって後悔しているのだが…。言える訳なかろう」


 開口一番の言葉は、できることなら聞きたくなかったとのことだった。


 まぁお気持ちは分かりますよ? 分かるだけだけど。

 もう貴方も計画を知る者として共犯ですから。逃げられやせんぜ?

次回更新は水曜です。

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