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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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162話 クリスティーナ姫①

『声越しではありますが始めまして『神鳥使い』様。ワタクシはセルベルティア王家第1王女…クリスティーナ・L・セルベルティアと申します。急な対応に応じていただき感謝致しますわ』

「いえ、それは構わないのですが……」


 姫様の丁寧な挨拶、そして姫様だと言うことを考え…それ相応に身を弁える俺。


『こうしてラトが通信石を渡したと言うことは…本当に異世界人でいらっしゃるのですね?』

「…まぁそうですね」

『それはそれは…大変光栄です』


 だが、やはりどこの場所にも空気を読まない奴と言うのはいるもので、真面目に対応している側の人間がヒヤっとすることをしてくれちゃうんですよこれが…。


「へ~、セルベルティアの姫さんねぇ…。随分と可愛い声してんなぁ」


 無論コイツである。


「オイジーク! 少しは口の聞き方に気をつけろって」

「やなこった。んなめんどくせーことに気ぃ使ってられっかよ」

「おまっ!? …も、申し訳ありません姫様! その…気を悪くしないで頂ければと…」


 ジークのめんどくせーという発言に冷や汗と焦りがどっと押し寄せた俺は、恐る恐るそのことを姫様に尋ねてみるが…


『あら? 随分と面白そうなお方がいるのですね? でもお気になさらずに…。堅苦しいのはあまり好きではありませんの。お好きなように話してくださって構いませんのよ?』


 ……あれ? なんか思ってたのと違うアルよ…。


 ジークの態度に気を悪くするどころか、むしろ好感を持ったように言う姫様。

 言われたことなら仕方ないと思うかもしれないが、体裁というものがあるだろうと思っていた俺は拍子抜けを食らう。


「へぇ?」

「ほぅ…話が分かる姫様じゃん。だってよ…ツカサ?」

「姫様に感謝しろよお前は…」


 いや、お前の言葉遣いが正しくて肯定されているというわけではないからな? 命拾いしたっていう表現が正しいから………あ、でもコイツの場合どうなんだろ? 当てはまらないのか…?


 ジークは命拾いしたという言葉が通じ無さそうな奴だし、むしろコイツの機嫌を損ねたらそれこそ命の危機になるのかもしれない。だから、姫様の方が助かったと言えなくもないと考えてしまった。


「…まぁ、ならお言葉に甘えたらどうだ? それに…早く本題に入った方がいいだろ」


 いらんこと? を考え始めた俺に、シュトルムが話を進めようと進言してくることで意識を元に戻す。


『そうですわね、時間も限られていることですし。ただその前に……そこにラトは一緒におりまして?』

「ラト?」

『ランバルトのことですわ』


 あぁ、そういうことね。略称か。


「はいクリス様。『神鳥使い』殿と一緒におります」


 俺が答えるよりも早く、ランバルトさんが姫様に言葉を返す。


『そう、でしたら少し席を外してくださる? 『神鳥使い』様と少しだけお話しがしたいの』

「御意。…では、しばし席を外しますゆえ…」


 姫様がランバルトさんに部屋から出るよう指示をすると、ランバルトさんが立ちあがり、この部屋から早々と出ていく。

 それから数秒してから、姫様の声が聞こえてくる。


『いなくなりましたか?』

「ええ、今部屋を出ましたけど……何か聞かれたくないことでもあるんですか?」

『その通りですわ。ラトに聞かれるのだけは駄目なのです、どうしても…』


 わざわざランバルトさんだけを部屋から出すと言うことが分からない。俺達はよくてランバルトさんだけが駄目なこととは一体…?


 取りあえず…


「? だったら…声を遮断しておきますからご安心を」


 考えても分からんので、『ジャミングノイズ』を発動して盗聴を予防、今できることをしておく。


 …まぁランバルトさんはそんなことしないと思うが、それ以外の人物に対しての対策でもある。

 どっちにしろこれはこの場の人間以外には聞かせたくないからちょうど良かった。


『あら? ご配慮痛み入りますわ。随分と気遣いのできる殿方なのですね? さぞかし好感の良さそうなお方ですこと…』


 俺が魔法を発動した後に、そんなことを姫様から言われる。

 それと同時に、隣に座っているアンリさんが今の発言に対して対抗意識でも燃やしたのかは分からないが、若干体を寄せて来たような気がしたが。

 触れ合う肩の感触を内心で味わいつつ、話を進める。


「そうでもありませんよ。…して、本題に入らせていただいても?」

『そうですわね…魔力も無限ではありませんし。早速入りましょう』


 これから始まる姫様の話をしっかり聞くため、ジークを除いて皆集中したように俺の持っている通信石を見つめ始めた。




『何故お父様よりも早くワタクシが個人的に『神鳥使い』様とお話がしたかったかと言うと、それは先手を打ちたかったからなのです』

「先手?」

『はい。恐らく『神鳥使い』様の方でも僅かに思いついているとは思いますが、このままの流れだと…ワタクシと『神鳥使い』様の2人を婚姻させようとセルベルティア王家は動くことでしょう。まぁお父様の策略なのですが…』


 姫様から語られる内容は、俺達が危惧していたことそのものであった。そのため、特に驚いたりするようなことはなく、至って冷静に話を聞くことができた。


「それは……ハイ。大変おこがましい限りですけど予想してはおりました。セルベルティアは過去の栄光を取り戻そうと、異世界人に対して積極的に接触を図ってくるということも…」


 自分が姫様と婚約を結ぶかもしれないなどという妄想めいたことを言うのは、おこがましいにも程があるだろう。普通の考えをしていればそんな発言などしないので、一応そう釘を刺しておく。


『おこがましいなんてとんでもない……その通りですわ。セルベルティアは…過去と比べると威厳を失くしつつあります。今ではかの『英雄』の血も薄まり途絶えかけ、都には異世界人の残した遺物が少し残るのみ。栄光を手にしていた時代の面影は…消えそうなほどに根絶しかけています。だからこそお父様はワタクシと…異世界人である『神鳥使い』様が婚姻を結ぶことで、過去の栄光を再び手にしようとしているのでしょう。恐らくそれがワタクシの幸せに繋がるとお考えにもなっているとは思います。ですが………』

「「「「「「?」」」」」」


 姫様の話が途中で止まってしまい、その続きを皆で待っていると…


『もう既にワタクシは…お慕いしている殿方がいるんですの』

「「「「「…は?」」」」」」


 姫様のカミングアウトに、間抜けな声が重なり合った。

 姫様には…既に想い人がいるらしいとのこと。あらま、それはそれは…。


 …つまり、これは俺と婚姻を結ぶのは嫌なパティーンだな?


「…へぇ。よろしければ…その方の名前をお聞きしても?」

『……ラトですわ』

「「「「「………は?」」」」」」


 俺が誰に対して想いを寄せているのかを聞いた返答に、また間抜けな声が重なり合う。なぜなら、今姫様が言った人物というのが、皆絶対に心当たりのある人物だったためだ。

 確認という意味を込めて、アンリさんが姫様に聞き返すが…


「あれ? でもラトさんって…さっきの人じゃ…」

『そうですわ。そのラトですわよ』

「「「「「「えええええええ!?」」」」」」


 やはり、俺達に先ほど自己紹介をしてくれた人物その人だったようだ。

 まさかの展開過ぎる事態に俺達は驚きを隠せず、大声で驚きを露わにしてしまった。『ジャミングノイズ』を張っていなかったら外まで漏れてしまう音量だったため、張っておいて良かったと安堵する。


『幼い頃からずっとワタクシの傍にいてくれて…いつも守ってくださいましたから。ワタクシの我がままにも付き合ってもらって、遊び相手のいないワタクシの相手をしてくれたラトは…兄弟姉妹のいないワタクシにとっては兄同然でした。でもそれはワタクシが成長するにつれ…家族から一人の男性として変わってしまって…。…あ!? 本当に今そこにラトはいませんわよね!?』


 募った恋慕を恥ずかしげもなく口にする姫様にこちらが赤面しそうだったが、突然姫様が取り乱し始めたので…


「ハイ、いないから安心してもらって結構ですよ」

『…そ、そうですか。…少し焦りましたわ、まだ聞かれるわけにはいきませんもの…』


「ランバルトさんのこと…本当に好きなんですね」

『それはもう…。ラトのことは心から愛していますわ。いつも内心では心臓がバクバクですもの』

「バクバクて…」


 …なんか少~しずつだけど、姫様の言葉遣いがおかしくなってきてるような。


「姫さんよ、ちと失礼な言い方になるが…一国の姫がそんな考えでいいのか? 王族なら自国の繁栄のために政略結婚まがいのことは視野に入れていたはずだろ? 短絡的すぎるんじゃないのか?」


 その口調がまず失礼ではないのかねシュトルム君や…。相手は姫やぞ。さっき良いって言ってたけどさ。

 というか、せっかくいい流れだったのに何故にそんなことを言いだすんだお前は。


 シュトルムの発言に疑問を持った俺だったが…


『当然ですわ。ですが…ワタクシだって普通の人のように自由に恋をしたいんですの。政略結婚? そんなことお断りですわ! 乙女から恋愛を奪って何が残ると言うのですか! 例え…どんな障害があろうとも抗ってやりますわ! 想い人と一緒にいられないなんて…そんなの苦痛すぎますもの。顔も人柄も知らない人に純潔を渡すなんて真っ平ごめんですわ!』


 …すげぇ色々言ってるな姫様。


 姫様の意思は固そうで、シュトルムの言い分を理解している上でこの行動に出たいようだ。

 ただ言っていることは確かに一理あるが…


「……それが王族の身であると重々承知していてもか?」


 シュトルムの問いに対し…


『ハイ! 恋…それは誰もが等しく与えられた感情の結晶! その結晶は想いが強ければ強いほど輝き…美しさを増すのです! ワタクシの持つ結晶は…もう輝けない程に眩しいのですわ!! 見ていなさいラト! 必ずや貴方の心を掴み、何が何でも振り向かせて見せますわ! そして障害を乗り越えた先に、ワタクシ達の愛は確かなものとなるのです! オーッホッホッホッ!』

「…っ!」


 そう…豪語していた。


 な、なんか始まったぞ…。


 恋についてを熱弁し始める姫様。はっきり言ってもう何を言っているのか俺にはサッパリである。

 そしてそれに対してヒナギさんが驚いたような表情をしているが……うん、気持ちは分かります。ここまでくると多分手ぇつけらんないでしょうね。


 一方シュトルムはというと、顎に手を当てては難しい顔をしていたが…次第にその顔を軟化させていき…


「……そういう…もんなのか…。…ハハ…なんつーか、面白れぇ姫様みたいだな? …そんなら俺は応援したいぜ。……そうか……こういうのもあるんだな…」

「…?」


 シュトルムは何度も頷いては、独り言と共に納得したような顔を見せた。

 ただ、シュトルムの様子がいつもと違うことに疑問を感じるも、姫様の話は続いた。


 …ちなみに、まだ豪語は続いていたりする。


『幸いにもお父様はワタクシを溺愛しております。それを逆手に取ってやるのですわ! ワタクシと『神鳥使い』様。ワタクシらの2つの牙で…お父様の首元に噛みついてやりましょう! ワタクシの毒牙でお父様が慌てふためく姿が楽しみですわ! オーホッホッホッ!』


 何この人…面白。てか毒牙って何だよ。殺す気か…。


 気品に溢れた最初の自己紹介はどこにいったのか、暴走気味の姫様。




 その暴走だが、ようやく我に返ったようで、落ち着きを取り戻す兆しが見え始める。


『オーホッホッホッ……ホ? …コホンッ、少々取り乱しました、ゴメンあそばせ…』


 高らかに笑うのが次第に止まっていく。


 取り繕って誤魔化してるけど、もうおせーよ。姫様がどんな人物なのかもう分かったわ。

 恋に恋しすぎる暴走列車ですね貴女様は…。途中の駅(障害物)には目もくれず、終点(成就)に向かって一直線かい。


 ま、良いんじゃないですか? 見ている分には面白いし。

 でも終点についてもその暴走が終わらないでむしろ悪化しそうな気がするのは……いや、考えるのはよしておこう。

 文面だけで見たらなんて一途で真っすぐな人って感じだし。


「ぷっ、アハハハハ! …ですけど姫様、それって…反乱ってことになりませんか?」

『傍目から見れば確かにそうかもしれません。ですが…ただのワタクシの我がままということに仕向けますし、『神鳥使い』様はただ何も知らずに巻き込まれただけという流れにしますので…。貴方様が今後生活していく上で心配ないよう配慮することを保証いたしますわよ?』


 …ま、それくらいは当然だろうな。

 やろうとしている事が事なだけに、それ相応の配慮はして貰わないと困る。

 今後の面倒事は最早確定事項なわけだが、それがいくらか軽減できるのであればやらない手はない。


「……いいでしょう。姫様の話…お受け致します。俺も金輪際こういうのは勘弁ですからね。これが最初で最後のきっかけになればいいですし」

「オイ、いいのかよ?」


 シュトルムが確認の意味も込めて聞いてくるが…


「いや、むしろチャンスだよ。向こうから願っても無い協力者が現れたんだから…。今後予想できる面倒なしがらみを断ち切ることができるかもよ? ここで成功すれば他の王族達に制止を掛けることになるし、抑制効果が期待できる。当然…その辺りはうまいことやってくれるんでしょ?」


 それにはセシルさんが俺の代わりに対応してくれた。

 さっきから黙ってたからよく分からなかったが、ちゃんと話は聞いていた模様。眠たそうな目をいつもしているので判断しにくいが、結構しっかりした娘である。


『勿論。協力していただけるならワタクシもそれ相応の対応をさせていただきますわ。報酬だってお支払いしたって構いません』


 …それなら、セシルさんの言ったその辺りの保証を報酬としてくれればいいかな。

 どっちにしろ俺もこの提案は願ったり叶ったりだ。


「加えてそこで力の証明もしちまえばいいんじゃねぇの? お前が世界的に目立つことにはなるが…変な輩は出てこなくなんだろ。ポポ、ナナ。お前等も覚醒して現れたらどうだ?」

「私とナナは構いませんけど…そこまですると反逆みたいに見えないですかね?」

「…むしろ侵略?」


 ジークの提案に疑問の表情を浮かべる2匹。


「あ~…デカいしなぁコイツら…」


 う~ん…一応神々しい姿だし、神聖視されるような気もしなくはないが、確かに侵略とかに見えなくもない…。

 判断がしづらい所だなそれに関しては…。


『もしやそれは…お連れになっている従魔のことで?』

「はい、そうですが…」

『それはそれは…頼もしいですわね。それでも引き下がらない方は出てしまうでしょうが、今回の騒動の後に愚かな行動に出る者の抑制はできるでしょう』

「…やっぱりいますよね、そういう人って…」

『はい。非常に申し訳ないのですが…。こればっかりは最早様式美と捉えるほかないですわね…』

「…いえ、仕方ないですよ。ただ、もしそんな輩が俺達を襲ってきた場合、多少手荒なことをしても後ろ盾になってくれるんですよね?」

『…勿論。理不尽なことにはそれ相応の罰が必要ですからね。加害者側が一方的にメシウマとか最悪ですわ、そんな輩は死ねばいいのです』


 言葉遣いがとうとう誤魔化しきれない領域まで酷くなりやがった…。少なくとも俺の想像していた姫様の言葉遣いとは思えない。これが現実…か。

 今俺が経験していることは物語のようであってそうじゃない、完全に現実。

 俺の元々持っていた知識とのギャップに驚きを隠せない。


「「「………」」」


 同じ女性であるお三方はそんな喋り方はしないためか、姫様の口悪さに絶句している。

 アンリさんは引きつったような表情、ヒナギさんは目が点に、セシルさんは口を開けてポカンとしている有様である。

 一国の姫たる存在が気品の欠片もないことを口走っているんだから当然だろう。


 だが、姫様の言うことにはそれなりに納得はできる。

 理不尽なことは社会に出ればたくさんある。理不尽は受け入れるしかない。…というのが地球じゃ一般的だとは思うが、それを覆せるんであればやらない手はない。


 理不尽には理不尽なことで対応してやればいい。

 それ以外にどうすればいいのかなんて俺は分からないから、もし何かされそうになったら身分など無視して抵抗してやる。

 それが俺以外への攻撃なら尚更だ。




『とにかく、ワタクシが今回の件には反対の意思を持っているということはお分かり頂けましたでしょうか?』

「それは…ハイ」


 十分すぎるわ。


 要約すると、私には想い人がいるから今回の計画をめちゃめちゃにしてお父様を困らせたいです…ってことだな。


『ですので、ツカサ様にはこの決め台詞をお父様に叩きつけて欲しいのですわ!』

「それは…?」

『恋を忘れた人間に…価値などなし! ましてや娘の真の幸せも理解出来ないなんて親として、そして人間としてあり得ない! 情緒の欠片もない人には王は務まらない! ……と、言ってくださいまし』

「流石にそこまでは嫌だよ!?」




 なんとも青臭い発言要求に、素で返してしまった。


 そんなこっ恥ずかしい発言できるか!

次回更新は日曜です。

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