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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
163/531

161話 セルベルティアの遣い

 ◇◇◇




 グランドルの町に朝日が差し込む。それは…いつもと変わらない光景。

 グランドルに限らず空から降り注ぐ朝日は、リベルアーク全ての町を照らしていることだろう。

 それと同時だった。


「ここにかのお方がいるのか…。私よりも早く来た者はいないといいのだが…」


 黒装束に身を包んだ男が、馬に乗りながらグランドルの門で足を止めた。

 その手には見事な装飾が成された槍を持っており、片方の手で手綱を引いている。乗馬の心得があるのかバランスは安定しており、落ちるような懸念は誰も抱けないことだろう。

 それだけで一般人ではないということが見てとれる。


 男は馬から降りると、乗っていた馬の手綱を引いて門へと近づいていく。

 そして…


「しかしこれも姫様のご意思だ。私はその勤めを果たすだけ…。早くこれをお渡しせねば…」


 男は槍を慣れた手つきでクルリと背中に回すと、槍を固定する。そして空いた手を懐に忍ばせると、あるモノを手にし、取り出した。


 その手には…光る結晶が輝きを放っており、男は何か使命を帯びたように握りしめた。


「…『神鳥使い』殿…どこにおられる?」




 ◇◇◇




「………」


 金属のような無機質な音が静かに響く。


『安心の園』の1階待合室にて、黙々と自分の武器の手入れをしている俺。

 通常なら自室でやるべきなのだが、最近部屋を掃除していないこともあって埃っぽく、ポポが掃除するから出てけと言うのでココにいる。

 フィーナさんには許可を取ってあるし、お客も今となっては随分と顔なじみになった人であるから、特に怪しまれたり警戒されたりするということもない。一応邪魔にならないように端の方で手入れは行っている。


 そしてそんな俺を見つめる者が5名いるのが分かっているが、俺は特に意識はせず、ただ黙々と手を動かし続ける。

 昨日俺が買ってきたシロップのお土産。そのお土産をジークに全て食われた俺は、少々機嫌が悪かった。

 そこに…


「オイツカサぁ…いい加減機嫌直せよ。空気悪くなるだろ?」


 カチン…


「どの面下げてモノ言ってんだ、あぁん? 俺はお前に飯を運ぶ働きアリじゃねぇんだぞ? 誰のせいで機嫌悪いか分かんねぇのか?」


 ジークの発言が、それまで抑えていた俺の怒りを溢れさせた。


 自分が原因なのを少しも気にしないこの発言。ルール決めの時もそうだが、空気が読めないのかは知らんが我慢ならん。いい加減にしろや!


「なんだ…ちったぁやる気になったか?」

「いい度胸だ…。今度ぁガチでやってやるよ。手も足も出ねぇってことを体に教えてやる。超級魔法…とくと味わえや」


 ジークがニヤッとして俺を見るが、それが誘いだということは分かっている。


 だが、それでも俺は誘いに乗ってやろう。誘いだと分かっていても乗る理由が俺にはある。


「ちょっと先生!? そんなことで超級魔法なんて駄目ですよ!」

「滅ぶ」

「破滅」

「グッバイ人生」


 俺が手入れしていた大剣をゴトッと床に置いて立ち上がるのを見たアンリさんは、俺に制止を呼びかけてくる。

 そしてそのアンリさんの言葉に続いて口を開く3名だったが…どうぞお好きに。


 今の俺は、目の前の奴に与えた『破壊神』の称号を自分につけてもいいとさえ思えるよ。


「先生! …いつもみたいに落ち着きましょ? ね?」

「そーだよご主人。また今度買えばいいじゃん」

「…だって……だって…!」


 ふざけるな! 


「俺も食べたかったんだよぉ~ハープルのシロップぅ~! 買い込んで毎日少しずつ食べようと思ったのに…一夜で無くなるなんて誰が予想できるってんだよぅ~! そんなことならもっと買っておけば良かったぁ~!」


 俺は、押さえていたものを思い切り吐き出す。

 そして柄にも無く泣いていた…。


 俺はただあのシロップが食べたかっただけなのだ。それなのに…一口も食べてない…。

 皆にお土産としてドサッとテーブルに広げて置いておいたのが間違いだった。俺が汚れた体を清めようと自室に行っている少しの間に…俺のシロップちゃん達はもう……!


「まぁ…あれだけの量が無くなったから気持ちは分かるけど…」

「それにアレ…俺の金で買ってんだよ? 居候の分際で食費掛かりすぎだろコイツ。もういや…誰かコイツ引き取ってくれよ…俺お家帰るぅ」

「お家遠すぎるけどね…世界レベルで」


 ナナのツッコミに対応する気力は、今の俺には無い。


 もうウチでは手に負えないんですぅ! こんな常識知らずで大食漢の育ち盛りの不良なんて…ポイして燃やしてスクラップにして構いませんから。

 誰か業者呼んで~!


「…ぷっ! ガキかよ…」


 ジークが泣き崩れる俺の姿を見たのか、俺を嘲笑するかのように噴き出したので…


「お前それ人のこと言えると思ってんのか!? お前がガキなんだよ!」

「何を言ってんだお前は。俺はまだまだガキだ! 成人してねぇし…仕方ねぇだろうが!」

「そういうこと言ってんじゃねーんだよ! 見た目だけのクソガキがっ! すくすくと大きくなりやがって…羨ましいじゃねぇかコラァッ!」


 な~にが自分はまだ子供だから仕方ありませんだ。そんなのが通用すんのはせめて中学くらいだ。

 見た目大人のお前が何言ってやがる…!


「なにそれ…完全に私怨が入ってるね…」


 ナナがやれやれとした顔で呟くとドタドタと忙しない足音が聞こえてくる。

 その音がこちらに近づいてくると思っていると、シュトルムが慌てた様子で俺達の元に現れた。




「あ、シュトルムさん! 丁度良いところに…「それどころじゃねぇっ!」…へ?」

「あ? どうしたんだ一体…?」


 アンリさんの言葉を遮り、完全に自分を優先しているシュトルム。

 その姿に、俺とジークは対立することを中断した。


「オイツカサ。お前に王都からの来客が来てるぞ! もう来やがった…!」

「はぁっ!? もう来たのかよ!?」

「そうだよ来たんだよ! 多分セルベルティアの遣いが! 今ギルドでお前が来るのを待ってるって聞いて、飛んできたんだよ」

「も、もう!?」


 グランドルに来たということは…もう俺を目当てに来てるのだろう。

 グランドルと王都の距離は…とても近いとは言えない。そんな距離でもあるに関わらず、今日の朝までにこれたということは…真っすぐに脇目もふらずにここまでやってきたということしか考えられない。

 王都でアンリさんとデートをしたのが5日前。そして大きな騒ぎになったのが4日前だ…。その時点ではまだ俺だと特定されてはいなかったとヴァルダが言っていたから…間違いなく当たりをつけてここに来たと見ていい。

 ギルドの精鋭が移動に使った早馬なら…半日はあれば平気だ。だが、俺だと特定するまでに掛かった時間を考慮すると…早すぎる気がしないでもない。


 ちと謎だなこの辺は…。分からない。


「っ………ちっ、ナナ! ヒナギさんとポポを呼んできてくれ!」

「りょーかい!」


 バレるまでの経緯を考える時間はあまりない。

 少し思案したのち、俺はナナにそう頼んだ。


 ジークとの話どころじゃない。どうするべきか…この事態。




 ナナが呼びに行くのを見ながら…俺はただ不安を覚えていた。




 ◆◆◆




 数十分後…


「…行こう」


 そのセルベルティアからの遣いに会いに、ギルドの建物の前に立った俺達は、ギルドにぞろぞろと入っていく。


 準備はもう万端だ。

 今の俺はまさに鬼に金棒状態。心を見抜くセシルさんと精霊の見えるシュトルムで、相手の内面は丸わかり。常識と強さを兼ね備えた最強女神のヒナギさんに、歩く災厄であるジークで戦闘面は敵なし。そしてポポとナナとアンリさんという俺の心の支えがある今、このパーティを陥落させることなどできまい! 

 そんな布陣で遣いとやらに会うことに決めた。


 どっからでも掛かってこいや! その気ならけちょんけちょんにしてやるよ!


 ドアを潜ると…


「あ、ツカサさん…。あの、来たみたいですよ?」

「…あの方が……ふむふむ」


 俺達を視界に入れたマッチさんが、見知らぬ人物へと呼びかけている。いつもなら挨拶を真っ先にしてくるマッチさんだが、今回はそれよりもまず相手を優先したようだ。それだけで事の重大性が少なからず見て取れる。

 マッチさんに呼びかけられると、カウンターでマッチさんと対面していたその人物は反応し、こちらを見ては観察し始める。俺達もその人物を見るのは初めてのため、向こうと同様に観察してみた。


 見た目は黒装束であまり目立たないような感じだな。俺のローブとは様相が違うとはいえ、目立たないということに重点を置いていそうな格好だ。

 得物は…誰でも分かるほどに背中から自己主張している槍ですか…。見た目がせっかく目立たんのに、それじゃあ返って目立つ要因になってしまってますね。

 というか…目立っても別に良かったりするのか? その辺りのことは憶測だと分からないな…。

 んで、歳はカイルさんと同じくらい…か? ギルドマスターとその中間くらいだろうか…。


 まぁいい。


「貴方が…俺を探しているという人でしょうか?」

「はい。確認しておきたいのですが…貴方が『神鳥使い』殿で間違いないでしょうか?」

「ええ、そうですが…」

「(ご主人…これは間違いないかと)」

「(だよなぁ…)」

「…?」


 ポポと小さな声で会話をし、想像通りの人物だと確信した俺。


「………確かに特徴は一致していますね。ただ……ジャンパーではないのですか?」

「は?」


 予想外の言葉に気が抜けてしまう。


「ぷっ…ジャンパー定着してたからなお前。アイツらも言ってたわ」

「二つ名の決まった時はジャンパーだったし…仕方ないよ。まだ今の恰好は広まってないし…」


 ジークとセシルさんが、そのことに対して口を開く。

 ジークのアイツらというのはノヴァのことだろう。そしてセシルさんの言うことには確かに一理ある。


「う~ん。ジャンパー=俺っていう認識はやめてもらいたいんだけどなぁ……まぁいいや」


 否定することも出来ないのは事実なので、一応納得した姿勢を見せると…


「…それは失礼しました」


 なんか謝られました。

 向こうからしたら、これが俺の機嫌を損なうように見えていたのかもしれない。


 実際はそんなことないんですけどねー。


 そして…


「……コホンッ、それで挨拶が遅れましたが…私はセルベルティア王家h「あ、ちょっと場所移動しましょうか。ここだとアレなんで…」…はぁ…?」


 この人の言葉を俺は途中で遮った。


 ハイもう分かりましたから。貴方が遣いの人だってことは今ので分かりましたから…場所移動しましょうや。王家なんてワードが出た時点でネタは上がってんだよ。

 こんな所じゃ他の人にも聞かれてしまう。TPOを弁えないと…。


「お気遣い感謝致します…?」

「あ、ツカサさん!? そっちは駄目ですよ!?」

「すいません、見逃してください!」




 困惑したような反応を見せていたが、俺達はギルドマスターの部屋へと急遽移動することにした……無断で。


 マッチさんの制止の声は気にしな~い。今はそんなことを守っている場合じゃないので…。




 ギルドマスターの部屋をノックすることもなく開け、中に入る。

 本来ならこんなことしたら…というか、そもそもする奴なんていないのが普通だが…。


 すると当然…




「むっ! カミシロ? 急にどうしたのだ?」


 ギルドマスターが驚いた顔で反応をしてくる。まぁそりゃそうだ。


「すんません。部屋貸してください!」

「は? 一体どうした…「説明は後で」…お、オイッ!?」


 説明を求められるが、まずは来客をおもてなしせねば…。

 備え付けられているソファに皆を座らせ、対談する準備を淡々と行う。

 全員が座り、完全個室で誰にも見られていない状態を作った所で…


「ふぅ……ここなら一先ず安心です」

「お気遣い…痛み入ります」

「安心ではないぞ! いきなり私の部屋に入ってきてどういうつもりだ!?」

「いやぁ、ここ以外に良さそうな所がなくって…つい」


 俺達が押しかけて来たことに文句を言われるが、ここ以外に話すのに適した場所がなかったのでそう説明すると…


「お主…この部屋の扱いを勘違いしてないか? 一応私の仕事部屋なのだが…」

「ごめんなさい。でも、ギルドマスターも聞いといた方がいいと思いますよ? 二度手間になるの面倒ですから…」

「………はぁ。お主はいつも慌ただしいな。この部屋がこんなに人で溢れかえるなど滅多にないぞ…」


 寂しいよりかはいいんでねぇの? 貴方1人で居る時間多いし…偶には他者との交流をしないと心が荒みまっせ。

 まぁ私たちのことは、引きこもった貴方を救出しに押し掛けた幼馴染みたいに思ってくんさい。

 孤独死するよかマシでしょ?


 ギルドマスターは適当にあしらった俺だが、目の前の来客者がいよいよ話を始めそうだったので、皆そちらに目をやった。


「では改めて…私の名はランバルト・ブランアームと申します。セルベルティア王家姫君であらせられるクリスティーナ様が幼少の頃より、その側近を務めております。此度は…姫様の厳命により貴方の元へと馳せ参じた所存です」

「…こ、これはどうもご丁寧に…」


 遂にこの時がやって来てしまったか…。

 姫様の名前は前もって知ってはいたけど、なんか美味しそうな名前ですな。…あ、冗談ですけど。

 俺の名前も寿司の『司』に使われてるくらいだし、あまり人のこと言えませんな。


「姫? 陛下じゃなく?」


 シュトルムが疑問を持ったかのように口を開く。


 確かに、ここは陛下の命で来たと言うのが普通な気がしなくもない…。


「少々理由がありまして…。私が今ココにいるのは陛下の命ではなく姫様の命でして…」

「姫様の?」


 どうやらシュトルムが疑問に思ったことに対しては理由があったようだ。

 だが、それについては今はいい。今一番気になるのは…なぜ俺が異世界人であると特定できたのかについてだ。


「ですが…なぜ分かったのですか?」

「それは…『神鳥使い』殿がこちらにいるということに対してでしょうか?」

「えっと…それもそうなんですが…」

「簡単な話です。情報収集をしただけですので…。ただ…ジャンパー姿が有名だとお聞きしていたのですが…違うようですね」

「いや…最近までジャンパー着てましたよ? 今はコレ着てますけど…」


 俺がジャンパーを着ていないことを示唆されたので、過去には着ていたということを伝える。

 なにやら少し話が噛み合わなかったが、なぜ分かったのかという質問そのものが紛らわしかったから仕方ないか…。


「なるほど…やはりそうでしたか。……なぜ私が貴方が異世界人であると分かったかについてですが、事は4日前に遡ります。夕刻に差し掛かる頃、とある反応を神殿にて確認したのが発端です」


 反応って宝剣が光ったことだろうなきっと…。


「……反応というのは異世界人の波動のことで、セルベルティア王家はすぐに動き始めました。まずはその波動が本物だったのかどうかの確認。すぐさま反応のあった神殿へ急行し、事実確認を行ったのです。そして玉座の間を担当していた神官に問いただしたところ…確かに通常とは違う反応が宝剣にあったそうです。そして反応があった人物というのが…黒ローブの男性と、赤い髪をした女性の組だったと…」

「へー…それはそれは…」


 まさに俺達じゃないですかーやだー。


 俺達がその騒ぎに気付かなかったのは、朝早くにグランドルに戻ったからだったのか…。

 でもそういえば…あの日は確かに少し兵士さんたちがザワついてたりしていた気がしなくもないような…。もしかしたらあれはそういうことだったのか? 今だから分かるけど。


「ただ、その方々は神殿を早々に出て行ってしまったことで行方が分からなかったので、セルベルティア王家は大規模な聞き込み調査を始めました。その黒ローブの男性と赤髪の女性の2人組についてを…。一応目撃情報はありましたが、特に決め手となる情報は無く、その時は途方に暮れたものですが…思わぬ人物達の証言があったのですよ」


 思わぬ人物? 誰だそりゃ…。


「噴水広場で身動きが取れなくなっている2人組の冒険者がいたのですが…「もういいです!」…はい?」


 ブランアームさんの言っているその2人組の冒険者。そいつらがすぐに分かった俺は…言葉を遮った。


「ご主人…どうしたの?」

「先生…多分あの人達ですよね…?」

「うん。だと思う…」


 アンリさんも俺と同様の考えなのだろう。その2人について理解したようだ。


 ぜってーアイツらだ。アイツらは俺のジャンパー姿とポポとナナ。そしてこの前の俺の姿を見てる。確かにバレても仕方がない…。


 脳裏にチラつくのは、デートに横やりを入れて来たあの2人組の卑しい奴ら。思い出すだけで気分が悪くなる。


 こんなことなら地面にでも埋めてやればよかったか。


「もしかして、カミシロ様達に絡んできたという方々ですか?」

「それ以外思いつきませんから、多分そうでしょうね」

「手掛かり残しすぎだろお前。これじゃ見つけてくださいって言ってるようなもんじゃねぇか」

「ぐぬっ…」


 な、何も言えねぇ…。

 甘いと思った行動が肯定されていくのを実感する。


「それで……その者らが言うには、一月以上前の男性の方は以前はジャンパー姿だったそうです。3日前に会った時は黒ローブだったようですが。他には喋る黄色い鳥を従えているとのことで、その鳥が巨大化もすると供述されていました。あと…白い鳥も共にいたとのことです」

「…そりゃお前しかいないわな」


 俺の両肩にとまっているポポとナナを、ジークが俺をチラリと見る。


「ここまで知って、あることが気になったのですよ。先日あったラグナの災厄…。それを鎮めた人物はジャンパーを羽織り、2匹の鳥型の従魔を従えていたはずだと…。4日前の情報ではジャンパーを着ていなかったようですが、それでも一致する情報が多いため仮定したのです。災厄を鎮めた人物が今回の該当者なのではないかと…。その裏付けとして、事の前後の王都の人の出入りを調査したところ、西門…グランドル方面で貴方方の出入りの記録を見つけましたので、そこで仮定が確信へと変わりました」


 情報収集はしっかりと的確に行われており、ランバルトさんの言うことは全て俺らの行動と特徴を捉えていた。

 そして最後…ランバルトさんは今の説明の締めへと入る。


「黒ローブの男性は…ツカサ・カミシロ殿であると…。グランドルを拠点にしており、セルザード学院に講師として招かれたという…。そして先日のラグナの災厄を鎮め、2匹の神鳥を従えていたことから『神鳥使い』と呼ばれ、Sランクになられたお方だとの結論に至りました」


 ここまで説明すると、ランバルトさんは俺の目を見てジッとし始める。それは今の説明の回答を求めているかのようだったと感じた俺は…


「いやぁ~……これはもう言い逃れできないところまでバレてますね…。認めましょう。……俺は確かに貴方が言った通りの人物ですよ」

「それでは…間違いないのですね?」

「…はい。異世界人です。証拠は出すに出せないのですが…」

「はぁ~…それは良かったです。これで姫様の命を守ることができそうです」


 その安堵する姿は、見た目とは裏腹に柔和な表情であった。堅苦しさがないと言えばいいのだろうか…。


 さっきから思ってたけど…なんていうか想像していたものと違う雰囲気だなこの人…。もっと高圧で傲慢な奴が来ると思ってた分、拍子抜けが大きい。

 だが、最初感じていた不安は杞憂だったのかもしれないが、まだ気は抜かないでおこう。


 ま、取りあえず本題へと入りますかね。


「それで…俺が異世界人だと特定された経緯は嫌って言う程分かりました。それで、何の用件で来たんですか? やっぱり…王家に来いとか…?」

「それは恐らく、後日また私とは別の者がやってきて話すことでしょう。ただ私の今回の用件はそれとは異なります」

「違う…? どういうことなんですか?」


 肩の荷が下りたように、リラックスした状態になったランバルトさんが言う。

 俺はそれに対し詳細を尋ねるが…


「先程申したように、私は今回陛下のご命令ではなく姫様のご命令でここにいます。詳しいことは…こちらでご確認いただきたい」


 ランバルトさんはそう言うと、懐に手を忍ばせて何かを取り出し、それをこちらに差しだしてきた。

 それに見覚えのあった俺は…


「それは…通信石ですか?」


 そう聞いてみた。

 この結晶のような輝きを持つこれは…俺がこの前学院長から貰ったものと似ている。ただ、こちらはそれよりも純度が高いような印象を覚えるが。

 恐らく、価値としては俺の持っている方が低いということは簡単に想像つく。


「ご存じでしたか。今私が持っているこの結晶で姫様と会話ができますので…どうかしていただけないでしょうか? 恐らく…『神鳥使い』殿を見るに、私の予想ではありますが悪い話ではないはずです」

「俺?」


 ランバルトさんが俺から視線を外し、隣のアンリさんに一瞬目を移した。

 それが何を意味しているかは…この時は分からなかった。


 ランバルトさんは続けて…


「恐らくですがその……クリス様は貴方が王家に来ると都合が悪いのですよ…ハハ…。詳しくは話を聞いて差し上げて欲しいのですが…」


 ランバルトさんの表情は、まるで世話の焼ける子供に困っているような表情であった。

 クリス様と愛称で呼んでいることから非常に親しい間柄なのは分かるし、妹のように思ってたりするのかもしれない。


 だが……はて? 都合が悪いとはどういうことですかね?


 その顔に隠された真意を読み取ろうと思案していた俺だが、セシルさんが俺に話しかけてくる。


「ツカサ…(コクリ)」


 セシルさんが頷く。

 頷いたということはつまり…悪意はないのを感じ取ったということだろう。セシルさんにはその力がある。


「こっちもそれでいいと思うぜ」


 今度はシュトルムが同意する。こちらもセシルさん同様に問題ないとのことだった。

 精霊がどれだけついてるのかは知らないが、問題ない範疇なのだろう。


 俺は2人に対し頷き、ランバルトさんに向き直る。


「? …魔力は既に限界まで込められておりますので、通信に必要な魔力を込める必要はありません」


 俺達の言葉足らずなやりとりに不思議そうな顔をしながら、追加で説明を加えてくれた。


 準備のよろしいことで…。


 俺は学院長から教わった要領で通信石を使用する。

 無機質な音とは違う、澄んだ何かが響き渡るような感覚がし始めたかと思うと…


『………はい。もしや…『神鳥使い』様でしょうか?』


 気品を感じるような声が…俺達の耳へと入り込んできた。


「はい、失礼を承知でお尋ねしますが…クリスティーナ姫ご本人で?」

『左様でございます。ラトは…無事に接触してくださったようですわね』

次回更新は木曜です。

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