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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
162/531

160話 司のいない1日(別視点)

皆の視点での話です。

短い人もいてアンバランスが否めないですが…

 ◇◇◇




 ダグさん達に相談してから翌日…。


「……というわけなんだが、頼めるか?」

「頼むも何も…俺が使っちゃいましたから当然です。ならすぐに入手してきますんで…」


 ポポとナナと共に、珍しくもカイルさんと対面して座り、話をしている最中。

 ギルドだと下手に騒ぎが大きくなったりする可能性が高いという理由から、カイルさんの選んだギルドの近場の喫茶店で話をしている。

 別にそこまで秘匿性の高い内容ではない。多分これは俺が目立つ存在だということを気遣っているのが大半だと思われる。

 なんにせよ、俺もそれの方が都合が良いので助かっていたりする。昨日の夜に話がしたいとの連絡が俺の元に届き、何事かと思って今日ここにいるわけである。


「お前さんの機動力ならあっと言う間だろうな……悪いが任せた。あと…多分向かう途中でハープルという町があるんだが…ついでにこれをそこのギルドに届けてくれないか? これはギルマスからの頼みだそうだ」

「はいはい。了解です」

「じゃ、俺からは以上だ」


 カイルさんから書簡を受け取り、了承する。

 どうやらカイルさんが俺へと使った例の最上級薬、俺がジークと戦って死にかけた時に使用したものだ。あれはギルドマスターに頼まれていて入手したものだったそうな…。

 それはカイルさんの依頼とは別件で、ギルドマスターから個人的なものとして頼まれていたらしいが、帰る途中、俺という超重体患者がいたので見過ごせずに使用し、消費してしまったとか…。


 ええ人ですな。多分駅のホームで非常停止ボタンが咄嗟に押せるような人なんだろうな、カイルさんは。

 その場その時の判断力に目を見張るものがおありで。作戦指揮等に才能が向いているんではないですか?


 命の恩人感謝永遠に…。




 そして…ハープルは俺も知っている。町全体で花や木の実からエキスを抽出してシロップを作り、それを特産としている町だったはずだ。

 そこの町原産のシロップは俺と2匹も味わったことがあるが…なんとも幸せな気持ちになれそうな、そんな感想を抱けるほどに上品なものだったと記憶している。


 また食いたいと思ってたから丁度いいし、皆にもお土産として買って帰ろう。特にジークは死ぬほど食いそうなので多めに買わねば…。


 だがハープルに寄るのはあくまでついでだ。本命は最上級薬の調合に必要となる素材の入手がメインである。

 ここから遥か遠く…『魔滅の山』と同じくらい距離の離れた秘境が目的地になる。


 最上級薬に必要となる素材は、その秘境…A⁺ランクの危険地帯にあることから、俺に頼んでいるらしい。つっても、俺が消費したんだから当然だが…。


 取りあえずカイルさんの借りを返す前に、俺の負債を帳消しにしないといけない。

 借りを返すのはその次だ。利子も含めたらこの依頼はサービス精神で応じなければいけないくらいだ。


「あと…ヴァルダが色々とお前さんのことを気に入ってるみたいなんだが…迷惑か?」

「え? そりゃもう」


 依頼の話が一通り終わると、カイルさんは話題を変えてそんなことを聞いてきた。

 その内容に対し…俺は即答した。


 …即答しない方が難しくね? 迷惑じゃなかったらきっとそいつは同族なんだろ。

 変態と言う名の先人類だが…。


「ハハッ、なら注意しとくから勘弁してやってくれよ」

「? カイルってヴァルダと仲良いの~?」

「まぁ…それなりにはな。歳はちと離れてっけど…昔から世話焼いてたな…」

「へぇ…意外ですね」


 ナナの聞いたことは俺も聞きたかったことだったが、どうやら仲は悪くないらしい。

 ヴァルダと昔からの付き合い…。それだけでゾッとするというのに、カイルさんはその期間を共に過ごしていたようだ。パネェ。


「ふむ、もしかしてカイルさんって…ヴァルダさんと同じでそっちの気がおありなんですか?」


 ハッ!? もしや付き合うって突き合うの間違いじゃ…。

 まさかカイルさんも…。


 ポポの懸念に俺もそんな不安を覚えるが…


「そりゃ心外だぞポポ。俺ぁそういうのじゃねぇよ、女にしか興味ねぇって」


 どうやら違ったようである。


 勘違いさせないでもらいたいもんですわ、ふぅ…。


「その女にしかって言い方もどうかと思いますよ? それだと女ったらしみたいに聞こえます」

「確かに…」


 性的対象や恋愛感情、欲情を覚えるのは女性だけという意味合いだろうが、確かにそう聞こえなくもない…。

 会話している俺達はいい。でも周りからしたらなんてふしだらな奴だと思われることだろう。


 それに対し…


「失礼だな」

「冗談ですって」


 ラルフさんが再度心外だと言わんばかりに否定してきたので、ポポが軽く謝っていた。


「ま、なんにせよ…よろしく頼むわ。2日くらいで平気か?」

「いえ…今日で終わらしてきますよ。ちゃっちゃと行ってきます」

「…流石と言えばいいのか? それとも…驚いた方がいいのか? 慣れたとはいえどんな反応すればいいのか困るんだが…ジークといいお前さんといい…」

「お好きにどうぞ」


 俺が今日終わらせると言うと、そのことに対してどう反応していいのかが分からなかったらしい。


 なんですかもー、いつものことじゃないですかやだなー。

 でもジークと同列に扱うのはもっといやだなー。

 えへへー、グーパンチしちゃいますよー?




 というわけで、今日はそのことを皆に説明し、俺は1日だけ外すこととなった。

 迫りくる問題はあるが、その前にできることを早めに消化しておかねば…。


 そして! シロップ食いてぇっ!




 ◇◇◇




 シュトルムside…




 シュトルムは皆と何か依頼でもしようかと考えてはいたみたいだが、メンバーの表情が乗り気ではないことを察し、一人でグランドルの草原へと繰り出していた。

 司がカイルの用件を消化するとの旨を話すと、パーティメンバーはそれぞれで今日一日を自由に過ごすことに決めた様だ。

 草原に生えた大きめの木の下で、シュトルムは座り込んで何やら独り言を呟く。


「…そうか、健在なんだな。そりゃ良かった」

『………』

「ハハハ…そう言わないで欲しいんだけどな…。今までずっと閉じこもってたから…多少の我がままくらいは見逃して欲しいもんだ」

『………』

「それに…今丁度ある意味見極めが出来そうでもあるしな、俺はそれを見てみたい。…ま、この案件は俺に任せといてくれ。…それで…何か変わりはねぇのか?」


 周囲には誰もいない。にも関わらず、シュトルムは独り言を続ける。

 だが非常に楽しそうに話している姿に、まるで誰か別の者と会話をしているようにしか見えない。

 しかし…


「…なに!? それは本当か!? マジかよ…」

『………』

「しかもアルもだと!? こんなこと今までなかったはずなのに…何が起こってやがる…」

『………』


 それまでの柔和な笑みから一転、急に驚愕した表情に変わるシュトルム。

 何がどうなっているのか…とても分からない様子だった。


「分かった。……近い内に顔を見せに戻るって、クローディアには伝えといてくれ」

『………』

「ああ、頼んだぜ」


 誰もいないにも関わらず、誰かへと頼みごとをするシュトルム。

 そして重々しく立ち上がり、西の空を見上げては…心配気な顔で一点を見つめていた。


「……ちと心配だな」




 シュトルムのその声は…広い草原に吸い込まれていった。




 ◇◇◇




 ヒナギside…




「…はぁ。なんでしょう…全く集中できません…」


 一方ヒナギも、シュトルム同様に草原へと繰り出していた。

 ただシュトルムとは正反対側の草原へと出ていたため、鉢合わせするということはなかったようだ。


「…『タイタニス』!」


 ヒナギが魔法を発動させる。

 どうやら魔力循環と魔法の練習を兼て修練中のようである。

 ヒナギの放った魔法は局所的ではあるが大地を揺るがし、本人の想像以上の威力を発揮している。草原を不容易に乱すことはせず加減はしているようだが、本気を出せば大地を崩壊させることくらいは簡単に出来そうであった。

 まだ魔力循環を意識する必要はあるとはいえ、実践でも問題ないレベルで無詠唱ができるところまで来ていたが、ヒナギは魔法を放った後…少しの間沈黙した。


 そして…


「………カミシロ様………っ!? 集中しないと!」


 自らが歪ませた地面をボーっと見つめていたヒナギが、ハッとした顔で首を振って我に返る。

 無意識に漏らした言葉。それは自らのパーティの核を成す存在のことである。

 集中しても、気を抜くとすぐに意識が乱れてしまう。ここ最近のヒナギは…そのせいで修練に力が入っていない状態が続いていた。


「まだ……引きずってるんでしょうか…?」


 自分の中にある気持ち。その正体が分かっているがまだまだ吹っ切れていない…受け入れられていないことに葛藤しているようだ。

 心の乱れは体に形となって表れるとはまさにこのことである。


「まだまだ未熟ですね…私は…」


 自分にそう言い聞かせ、その葛藤を振り払うかのように、また修練の続きを始めるヒナギ。




 その姿はまるで、自分に嘘をついて何かに耐えている…見ていて辛い何かがあった。

 ただそれでもヒナギは、修練へと励む姿勢を見せるのだった。




 ◇◇◇




 ジークside…




 日も昇りきり、気温が最も高くなる時間帯の頃…


「今日も勝てなかったな…。アイツマジで化物だな」


『安心の園』の2階廊下。1階へと続く階段を下りているジークは、そんなことを考えていた。

 3日に一度の手合わせ、今日の朝に司と対戦したことを振り返っているようで、その様子から…どうやら負けてしまったらしい。

 司と決めたルールを元に対戦は行い、比較的フェアな状態で戦っているのだが…


「一回くらいは勝ち越してみてぇけど、上には上がいるってことかよ…ったく」


 勝てないことに…そう呟くジーク。

 だが口ではそう言いつつも、あまり悔しさという感情は見られなかった。むしろ…楽しそうな雰囲気を漂わせている。

 ジークはジークで、打倒すべき目標ができたことで今が充実していたりするのだ。これまで対等に値する存在すらいなかったということからくる強者を求める渇望。それは司が想像する以上のものであったらしい。

 本来は嫉妬や苛立ち、もしくは恐怖を覚えるのが普通のところを、ジークはそのように感じているようだ。

 司がジークを化物と思うように、ジークもまた司を化物と思っているのである。




 ジークはそんなことを思いながら、1階へと降りる。

 すると…


「ん? オイ、どうかしたのか?」

「あ、じ、ジークさん」


 ジークが玄関で目に付いた人物に声を掛けると、その人物は少々萎縮した様子で反応を返す。…ミーシャである。

 司が一緒にいる時は安心感のようなものがあって平気だが、ジーク1人の時は若干の恐怖と緊張を感じる様だ。まぁ、無理もないが。

 ミーシャが耳をヘタリとさせ、怖いことを表に出してしまっている。


 忘れがちだが、ジークはこの町に仇成す存在と勘違いされていたこともあって、まだその意識問題は残っていたりするのだ。それはミーシャに限らず、この町にいる者の約半数がである。

 司と死闘を繰り広げてからは特に問題も起こしていないので騒ぎにはならないが、よく司と草原で手合わせをしているのが目撃されていることもあって、心中穏やかではいられないのが現状らしい。


 ただ、それでもグランドルという比較的大きい町で半数ほどが理解を得ているのは…一概に司の普段の行いのおかげである。

 本来なら冒険者と関わりの薄そうな住人の手伝いをあえてすることで、司への住人からの評価と理解は高い水準を保っている。そうなると、安易ではあるがその司と結果的に一緒にいるジークは、きっと平気なんだろうという意識に繋がったわけだ。

 それは異世界人という疑惑があっても変わっていなかったりする。




「あ…その、夕飯の材料が切らしてて買いに行ったんですけど…売り切れで…」

「今日の飯か…。何のメニューの食材が足りねぇんだ?」


 ジークに聞かれたことを、恐る恐る話すミーシャ。夕飯の材料が不足しているとのことだそうだ。

 いつも食事メニューのことなど気にもしていないジークだが、この時は珍しくミーシャと話したこともあり、聞いてみたようである。

 だが…


「…ハピナッツっていう木の実です」

「ぬ!? それは…デザートの材料じゃなかったか?」

「あ、ハイ…そうですけど「どこにある?」…はい?」


 ミーシャが言ったハピナッツという単語に、過敏に反応を示すジーク。

 ミーシャが不思議に感じて理由を聞こうとするも、間髪入れずにジークが言葉を挟んだことでそれは聞けなかった。


「だから何処にその食材はあるかと聞いてんだよ」

「お店で売り切れで…」

「いや、原産はどこだってことだ」

「ラグナ大森林とかに群生してるらしいって話は聞きますけど…詳しいことまでは…」

「おし分かった。その食材ってまだ少し残ってるか? あるんなら見せろ」

「ちょ、ちょっとだけならあります。……ちょっと待っててください」


 ジークの命令口調に、パタパタと厨房の方へと走っていくミーシャ。

 そして待つこと約数十秒。戻って来たミーシャの手には…綺麗な薄桃色の木の実の欠片が握られていた。


「これがハピナッツです…」

「…(スンスン)。…おし分かった。採ってくる」

「へ?」


 ジークはミーシャが持ってきたハピナッツの匂いを嗅ぐと、そうミーシャに告げて『安心の園』から出ていった。

 ミーシャはそれをただ、見ていることしかできなかった。




 ◆◆◆




 約2時間程経った頃…


「おーい、ミーシャいるかぁ?」

「はひっ!? じ、ジークさん? 驚かさないでくださいよ…というか、何処に行ってたんですか?」

「は? 採ってくるって言っただろうが。ホレ…これだろ?」


 ミーシャが厨房で今日の夜のメニューについて唸っていると、ジークがぬっ…とそこに現れる。

 それに大変驚いて尻尾がピンと伸びたが、ジークが大量に手に持っているものに目が止まった。


「え? これハピナッツじゃないですか…。まさか本当に採ってきてたんですか!? ラグナ大森林まで…!」

「…そうだが?」


 信じられないといった顔でジークを見つめるミーシャ。

 まさか夕飯のたった一つのメニューの欠落だけでここまで行動を起こすとは思っても見なかったのである。今日は別のもので代用しようと考えていたが、その考えはこのジークの行動で吹き飛んでしまった。


「ツカサがいねぇから代わりにやっただけだ。アイツがいたらお前を手伝ってただろうからな…気にする必要ねぇよ。それに…そのメニューは俺も食いたいだけだ」

「…え、好きなんですか?」

「俺ぁ甘いもんが好きなんだよ。ここの宿のあのハピナッツが入ったデザートは結構好きだからな」

「! あ、ありがとうございます…」


 耳をピンと立たせ、嬉しそうな顔をするミーシャ。耳はパタパタとし、尻尾はブンブンと振っている。

 というのも、そのメニューはミーシャが『安心の園』で仕事を手伝うようになってから、初めて自分で考案したものだったためである。

 ジークにそれが好評され、嬉しかったのだろう。


「ただ……採りに行った貸しはいらねぇから…夕飯は多めに頼むぜ?」

「はい!」


 ジークに対する恐怖というものは…この時ミーシャには既に無くなっていた。

 嬉しさが恐怖に勝った瞬間であった。


 この日を境に、ミーシャはジークに司同様に懐くことになる。




 その夜、ハープルで司が大量に購入したシロップに大変喜んだジークは、司の目を盗み、一夜にして20人分はあるであろう量を一人で平らげた。

 ジークが夜に急遽、ミーシャにそのシロップを使ったデザートを作らせてはいたが、そのミーシャの姿は嬉しそうだったそうな。


 シロップを食い尽くし、満足気に横になるジークとは裏腹に、シロップを失った司はその事実に打ちひしがれて地に突っ伏していたのだった。




 ◇◇◇




 アンリside…




「~♪ ~♪」


 ジークが食材集めに出ているその時、『安心の園』の自室で鼻歌を歌いながら、楽しそうに手紙を書くアンリ。

 どうやら先日会った友人らに手紙を書いているらしい。

 手紙に走る筆は止まることを知らず、スラスラとその文面を連ねていく。話したいことが色々とたくさんあるようで、以前王都で再会した時も十分話したはずだが、それでもまだ足りなかったようである。

 始めにクレア、次にエリック、メイスンと手紙を順々に書いていき、あっという間にその作業は終わってしまう。


「ふぅ…言いたいことはこれで全部かなぁ。後はお父さんとお母さんと……アレクは無理そう…かな」


 3人以外にも、両親に宛てた手紙と、それ以外にももう1人の友人であるアレクに対し書こうと思ったようだが、アレクのことである事実が脳裏をよぎったようだ。

 というのもアレクは所在が不明のため、何処宛てに出していいのかも分からないのが現状だからである。書いた所でその手紙がアレクには届かないと…アンリは思っていた。


「まったく…何処にいるんだろアレク…。皆にも詳しいことを言わないなんて…」


 ぶつくさとアレクに対し愚痴まがいのことを呟くアンリ。

 クレア達同様に仲の良かったアレクには…思うところがあるようである。


「多分1人で冒険者やってるんだろうけど、怪我とかしてないかな…? アレクは群を抜いて強かったけど…ちょっと心配だな…」


 アレクの戦闘訓練の成績は…同学年中ではぶっちぎりでトップだったりする。司と放課後に手合わせをしていたのも影響してか、卒業する頃には軽くBランク並みの強さを誇る程だった。

 獣人の血を引いていることもあり、『身体強化』を使えばAランクにもそのうち届くのではないかと思わせる才能を持っていると、司も手合わせをして感じていた。


 アンリの心配が、アレクへと届いているのかは分からない。

 ただそれでも、アンリは心配せずにはいられなかった。




 それから少しして…


「うん、できた! 早く出してこなきゃ!」


 両親の分の手紙を書き終え、アンリはすぐに椅子から立ちあがる。

 思い立ったらすぐに動くのは…実にアンリらしい。アレクのことは考えても仕方がないため、アレクならきっと大丈夫だと思い、切り替えることにしたようだ。


「………」

「…? セシルさん、部屋で誰かと話してるのかな…? …珍しい」




 微かに隣の部屋から聞こえてくる声。

 それが若干気になったアンリだったが、そのまま外へと手紙を出しに行くことにしたのだった。




 ◇◇◇




 セシルside…




「さて…誰が適任かな…。できるだけ不自然じゃないようにしたいところだけど…。ポポとナナに相談したかったな…」


 静まり返った自室で、セシルが呟く。

 いつもは比較的眠そうな目をしているセシルだが、この時のセシルの目は真剣そのものの目をしており、何か重大なことを抱え、悩んでいるのは明白だった。

 そこに…


 コンコン…


 ドアをノックする音が、静かな部屋に響いてきた。

 セシルは一旦考えることをやめ、そちらに意識を向ける。


「? どうぞ?」


 誰だろうとは思ったようだが、来客を部屋に入れることにしたらしく、来客へと扉越しに声を掛けるセシル。

 すると…


「ジャッジャジャ~ン! 愛人の友の悩める声を聞き、お助けに参りました。情報屋のどうもヴァルダでっす!」


 扉を開き現れたのは…ヴァルダであった。

 饒舌かつ快活に、ピシッと決めた敬礼をしてヴァルダがそこに立っていた。


「え…別に呼んでないんだけど。というかなんで私が悩んでるの分かって……ホントに何者なのヴァルダって…?」

「変態です! キュピーン☆」

「あ、そう…」


 自分の状態を知っていたことに対してセシルが疑問を感じるも、その返答を聞いて、ヴァルダを白い目で腐ったものを見るようにしている。普段からヴァルダを見ている分、この反応は至極普通の反応ではある。


 目元でピースをし、舌を出している今のヴァルダの状態は…まるでお調子者の女子高生のようである。それでも度が過ぎるが。

 そのヴァルダが急に部屋に入って来たと言うのに微動だにしていないセシルは、結構な胆力の持ち主だと思われる。


「さっきまで純真な子供達に性の知識をご教授していたところ、助けを求める乙女の波動を感じまして…その波動を辿ってみればああっと! なんとそこにはセシル譲がいるではないですか!? …キャッ!」


 何故自分がココに来たのか、そしてその前に何をしていたかを話すヴァルダ。最後は自身の顔を両手で覆って恥ずかしがる仕草は…まるで奇奇怪怪としか言えない。


「そりゃそうでしょ、ここ私の部屋だし。あと何教えてんの。…子供達の親に代わって殴っていい?」

「それは…もしやご褒美で?」


 セシルがヴァルダの行動に対し制裁をしようとするが、一方ヴァルダは喉元をゴクリと鳴らし、良いんですか? とばかりに嬉しそうな顔をする。

 そんなヴァルダを見たセシルは…


「う…! いつもツカサが味わってるのってこんな感じなんだね…これは嫌だな。確かにキモイ」

「お褒めに預かりこーえーですっ!」

「(そしてウザいな…)」


 いつも司が感じているものをしかと味わい、深くその身にヴァルダというものを改めて刻み込んだようである。


「駄目だこりゃ…。でもまぁ…丁度いいかも。ヴァルダ」

「…なんでござんしょ?」


 ヴァルダにウザさを感じつつも、現れたことには若干都合が良いと言うセシル。


「ヴァルダって…仕事はキッチリやるタイプだよね?」

「それは当然。…ヤる仕事ならむしろ「冗談抜きで」…あい」


 ヴァルダの言いたいことを先読みし、先手を取るセシル。その対応にはヴァルダも大人しく引き下がったようだ。


「…ツカサにツケといていいから…ちょっと協力して欲しいんだけど…駄目?」

「フッ、俺はそのためにきたんだぞ? 喜んで協力しようじゃないか」

「最初からその態度でいてほしいけどね。面倒だし」


 セシルの頼みに、営業モードで返答するヴァルダ。というよりも、最初からそのつもりでこの場に現れているのだから、セシルの頼みを聞くことは既に決まっていたはずである。




 じゃあなんでこんな遠回りして本題に入らなきゃいけないんだと思いつつも、セシルはある考えの元、ヴァルダに協力を求めたのだった。

次回更新は月曜です。

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