表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
161/531

159話 仲間とは

 あの後、今後変化するであろうことを皆と相談した。

 皆がこのような事態に陥ったことなどないため中々解決策が出なかったが、年長者で知識が豊富なシュトルムのアドバイスを貰うことで大丈夫そうだった。

 ただ、シュトルム曰く、この問題において解決策なんてないとのこと。貴族と王族のモノを考える尺度は庶民とは随分と違い、相入れないことは必至とかなんとか…。


 極論になるが、お前はそもそも異世界人なのだから、こちらの世界の理屈に合わせる道理なんてないとのこと。

 それに冒険者なのだから、貴族や王族のしがらみにとらわれる必要はないとか言ってた。


 幸いにも、俺には簡単には手出しが出来ない力があるため、基本は向こうからの接触が来るのを待ち、それに対して随時対応していく方針になった。

 受け身はどうなのかと思ったが、こちらから出向くことで相手に警戒心を抱かせ、そのまま危険因子として見られては本末転倒もいいところである。

 それに加え、こちらの世界では異世界人に対して特別視する傾向にあるため、その異世界人を蔑ろにしかねない行為はかえって大衆にマイナスイメージを与えることから、すぐには強行手段はとってこないと見ていい。




「はぁ~…どうしたもんかねぇ」


 そして現在の時刻は昼過ぎ。

 俺はちょっと一人で考え事をしたいこともあって、只今町を一人で散歩中である。いつもはいるはずのポポとナナもお伴にはつけておらず、ぼっちタイムを満喫中だ。


『安心の園』を出てから町をぶらりと一通り散策し、そのまま西の草原へと出る門の近くを通りかかると、草原方面から町に入ってくる小さな女の子が俺の目に止まった。

 というのも、その小さな子は俺が知っている子だったためである。


「あ、ツカサさん?」


 非常に可愛らしく幼さの残る声の正体は…テリスちゃんである。きゃわわ~。

 ロリコンの気質は俺には無いけど、それでもデレッとしてしまうものを持っていると感じるほどの可愛さである。

 何やら大きめの手提げを手に持ってこちらに歩み寄ってくる。俺だと普通くらいのサイズだが、テリスちゃんの体だと大きく見えるくらいか。


「テリスちゃん。こんなところで会うなんて珍しいね?」


 俺が聞いてみると…


「お父さんの手伝いをしてたんです。西の草原にサンプルをちょっと…」


 へぇ…親想いの子だね~。なんていい子なんでしょう。


「サンプル? …って、まさか一人で?」

「そうですよ? この辺りは危険はないですから。ツカサさんから魔法を教えて貰ってからすっごく魔法が強くなりましたから平気です!」

「あ、そう…なんだ…。今も練習は続けてるの?」

「はい! 毎日欠かさずにやってます。最近やっと『アトモスブラスト』が使えるようになりました!」

「…へー、そうなんだー…すごいねー」


 嬉しそうな顔で言うテリスちゃんだったが、完全棒読みで、俺はそんなことしか言えなかった。


 分かってはいるんだけど、こうして現実を突きつけられると…どうにも…ね。少し呆けてしまうというか…うん。


「…それで、何を採取したの?」

「えっと……コレです。スライムです」

「…うそん」


 テリスちゃんが大きな手提げから取り出したサンプル採取用の容器には、モゾモゾと動く半透明のスライムが入っていた。

 ただ…


「あっ…急に動き出しましたね…どうして…」

「…ギュッ!? ビギー! (あっ!? 友よ!)」

「!? お前は…まさか!」


 スライムが急に激しく容器の中で暴れ出し、俺へと語りかけている気がしたのだ。

 俺もそれを聞いて、ある考えが脳裏をよぎった。


「す、スラ吉か? もしかして…?」

「ビギギー! (助けてー!)」

「…えっと?」


 テリスちゃんにサンプルとして捕まったスライム。それは、俺が以前仲良くなってドラゴンの肉を与えたスライムの1匹だった。


「あ、ゴメンテリスちゃん。コイツ…俺の友達なんだ、ちょっとサンプルにするのは勘弁してやってくれないかな?」

「え!? そうだったんですか!? ゴメンなさい…私てっきり…」

「いやいや、テリスちゃんは悪くないから……な?」

「ビギッ! (うん!)」




 俺はテリスちゃんへと事情を説明し、スラ吉を容器から解放した。

 すると…


「おお~スラ吉ぃ~、よく生きてたな~」

「ピギギ~♪ ピギュピギュ! (お蔭様で~♪ 助かったよ!)」


 俺が容器の蓋を開けると、スライムのスラ吉が俺の体に纏わりつき、喜びの声をあげる。

 傍目から見れば襲われているように見えるその姿も、俺の姿を見れば違うということはすぐに分かることだろう。


「…あの、この…スラ吉ちゃん? と、話せるんですか?」

「んー、話してると言うよりかは通じ合うっていうか…。なんとなく言いたいこと分かるんだよね」

「ピギピギ(うんうん)」

「そ、そうなんですか…。お父さんが見たらビックリしそうですね…」


 …確かに。あの人ってモンスターの研究者ではあるけど、研究対象はスライムを専門としているらしいからなぁ…。

 俺が意思疎通まがいのことができているのが分かったら、俺がサンプルにされかねんぞ…。そんなのいやん。


「テリスちゃん…今見たのは内緒にしてね?」

「え? なんでです?」

「それは…大人の事情ってやつかな…」

「はぁ…? それなら…喋らないです」

「ありがと」


 大人の事情なんかではないが、取りあえずそう言っておく。

 俺が言いたくない理由は…テリスちゃんが大きくなるにつれていずれ分かるさ。


「それにしても、よくダグさんが許可したね? 止められなかったの?」


 俺はここで気になっていたことを聞いてみた。テリスちゃんが一人で草原に出ていたことにである。


「最初は駄目って言われました。でも、もう私お父さんよりも強いですから。この前お父さんに勝ちましたし…。だから、お父さんもいいよって言ってくれたんです」


 あー…なるほど、そんな感じか…


『お父さん。私も手伝うよ』

『駄目だ! テリスに危険なことはさせられない!』

『お父さんよりも強くなったよ! ホラッ!』

『テリスがこんなに逞しくなって…私は嬉しいぞぉぅ! そうだよな、いつまでも子供扱いしてちゃいけねぇんだよな………分かった! サンプルの採取はテリスに任せる!』

『うん!』


 多分こんなんだろ。親ばかの過保護が、親ばかな見守りに変化したんだなきっと。

 親ばかには変わりないけど。


 ただ、親を越えるのが早すぎやしないですかね? この3ヵ月半で親を越えられては、それはそれで親は喜ばしいというより悲しさの方が勝る気がしないでもない…。

 ま、私のせいなんですけどね。


「ふ~ん…今帰りなの?」

「そうです。…でも、もう一回草原にいかないとダメみたいです…」


 俺が聞くと、テリスちゃんはスラ吉を入れていた容器に目を見やる。

 俺がサンプル(スラ吉)を解放したことで、また捕まえに行かないといけなくなってしまったようだ。これはマズイことをした。


「あ、ゴメン…。俺がすぐ捕まえてくるから…ちょっと待っててくれる?」

「あ、ハイ…」




 俺はテリスちゃんから容器を受け取り、急いで草原へと飛び出した。

 草原に出て目に入ったスライムを魔法で身動きを取れなくして捕獲し、容器に入れる。

 これはスラ吉が生きるために必要なことである。捕まえたスライムには犠牲フライ1号としてその人生を全うしてもらおう。悪く思わんでくれ。


 そしてすぐさまテリスちゃんの元に戻った。ついでに…その時にスラ吉は草原へと帰した。

 その間、時間にして約30秒未満。門がすぐそこだということもあり、時間は全く掛からなかった。勿論、手続きは面倒なのでパス(規則違反)だ。

 もしラルフさんが門にいたらちゃんと手続きしただろう。でもいなかったからする気にならなかったのだ。あの人のいない門に規則は存在しない。

 ラルフさんこそ規則を守る基準であり、最後の関門なのだ。


『バレなきゃいいのさ』という学院長の言葉はこういう時に使うんだなきっと…。なんて便利な言葉なんだ。


「ただいま」

「え? もう!?」


 俺がスライムを入れた容器を持って戻ると、テリスちゃんが大変驚いた様子で俺を見る。


「うん。…ハイ。これでいい?」

「あ…ハイ。これで大丈夫です。でも……え?」


 俺が容器を手渡すとテリスちゃんは素直に受け取ってくれた。だが、その後信じられないといった顔でまた俺を見始めたので…


「アハハ…一応これでもSランク冒険者だから…。これくらいは…ね。…じゃ、戻ろうか? テリスちゃん、それ重いでしょ? 家まで持つよ」


 テリスちゃんが重そうにしている手提げを指さしながら聞いてみた。


「そんな…悪いですよ」

「いいからいいから。テリスちゃん女の子なんだから、こういうのは男に任せときなさいって」

「…う~ん……分かりました。ありがとうございます」


 最初は遠慮していたようだが、素直にカバンを渡してくれたテリスちゃん。

 普段こうしたことができないから、会った時くらいは優しくしてあげたいと思ったのだ。




 それから…俺はテリスちゃんを家まで送っていった。




 ◆◆◆




「ただいまー」

「おー、おかえ…あん? ツカサもいるじゃねぇか…」

「すみません…」


 テリスちゃんを家まで送り届けると、ダグさんが迎えてくれた。

 ただ、俺がいることに対して若干不思議そうな嫌そうな気がしたので、反射的に謝ってしまったが…


「ちょっとそこで会ったの。せっかくだから上がってもらおうと思って…」

「…テリス、お前気遣いのできる子になったなぁ…。私は嬉しいぞぅ」


 テリスちゃんがその光景を見てフォローのような言葉を掛けてくれると、ダグさんはテリスちゃんの頭を撫でて褒める。


 …この時点で親ばかだなと思いつつも、ダグさんの言うことには確かにそう思わないでもない。


 テリスちゃんと初めて会った時は、とても人見知りが激しく、そんな余裕はないと思わせる行動が目についていたからだ。

 俺とはもう既に知っているからという理由もあるとはいえ、すんなりここまで変われたのは褒める点だと確かに思う。


「ま、せっかく来たんだ。少し上がっていけよ」


 そして、どうやら俺の考えは杞憂に終わったようである。

 別に俺が家に来たから嫌というわけではなさそうだ。せっかくなので、俺はその厚意に甘えることにした。




 それから…家へと上がらせてもらった。




「お父さんハイ…スライムのサンプルだよ」

「おう、助かるよ」


 リビングでお茶を出され一息ついていると、テリスちゃんがスライムのサンプルをダグさんへと渡す。

 その光景を見ながら俺は…午前中の話をまた再度思い返していた。


 特にこちらからは動かないという方針に決まったこと、俺はともかく皆へ危害が加わる可能性があること、どうやって対処していくか…などである。

 特に、皆へ危害が及ぶということが一番俺としては困る。普段から迷惑を掛けている分、その思いは強かった。


 すると…


「…どうしたんだ? 随分難しい顔をしてるな?」

「え?」


 開口一番に、ダグさんからそんなことを言われた。


「今のお前さんの顔は…何か考え込んでいる奴の顔だ。テリスもよくしてた顔だから分かる」

「アハハ…分かっちゃいますか」


 そう言いながらダグさんは俺の前の椅子へと座り、対面する形となった。

 ダグさんには俺がそう見えていたらしい。顔に出ていたようだ。


「何か相談にでも乗ってやろうか? 何ができるかはわからねぇが…一人で抱えるよか楽なはずだぞ?」


 ダグさんがそんなことを言ってくれたので、俺は少し相談をしてみようと思った。

 皆にはしたくないけど、ダグさんならいいかもしれない。


「実は…ちょっとこれから仲間に迷惑を掛けちゃいそうで…。いつも俺の迷惑に付き合わせちゃってるのに、そこに更に迷惑を押し付けるとなると申し訳なくって…」

「迷惑? それはどんなだ?」


 ダグさんに迷惑の内容を聞かれるも、それをすんなり言うことはできない。だから…その部分は適当にはぐらかす。


「…詳しくは言えません。ただ…皆は気にしないみたいなこと言ってるんですけど、本当は違うんじゃないかって思ったらずっと気になっちゃって…」

「ふむ…迷惑…か」


 迷惑の内容も分からないのに、ダグさんは俺の言っていることを何やら真剣に考えてくれているようだった。

 その姿に少々申し訳なさがあったが、俺はそれが嬉しくもあった。


 暫しダグさんの思考が続くと…ダグさんが口を開いた。


「ツカサ…迷惑を掛けてしまいそうな奴らってのは…お前さんの仲間なんだろ?」

「そうですよ?」


 じゃなきゃここまで気落ちしませんって。


「なら…それでいいんじゃないか?」

「え?」

「迷惑を掛けずに人間なんて生きていけやしねぇんだ。例えば今日の私だって、テリスにスライムのサンプル採取をお願いした。それだってテリスからしたら迷惑に該当するだろう?」

「お父さん、私迷惑になんて思ってないよ? だって私がお父さんを手伝いたいんだもん」

「テリスぅ~、お前は本当にいい子だなぁ~。ありがとよ」

「うん!」


 俺の隣に座っていたテリスちゃんがダグさんの言葉に反応する。すると、ダグさんはテリスちゃんの言葉に顔をデレッとさせた。

 俺に話しかける顔と比べると雲泥の差である。


「……ま、今テリスが言ったように、迷惑だと思えることが迷惑じゃないってこともあるんだよ。それは厚意だったり善意だったり…色んな要素があるにはあるだろうけどな。テリスの場合、親孝行っていうモノに分類できると言える」

「…」

「お前さんの仲間っていうと…パーティの人達だろ? 私は又聞き程度でしか知らないが、この町じゃ随分と仲のいいことで有名だと聞いたぞ。よく笑ってるってな…」


 まぁ、色々はちゃめちゃな問題に遭遇してばかりで難しい顔もたくさんしたけど、それと同じくらい笑ったりもしたな…。


「多分それは…絆っていう分類に該当するんじゃないかと思うぞ。どんな迷惑かは知らんから詳しく言えないが、テリスと同じで笑って受け止めてくれるんじゃないのか? お前の迷惑を…」


 ハハ…。分類とかって言葉を使う辺り、ダグさんらしいというかなんというか…。

 でも、分かりやすい。


「もしそれでも不安なら…お前が皆が掛けてくる迷惑を笑って許してやれ。そしたら今のお前さんと一緒だろう?」

「でも…皆は俺に迷惑を掛けてこないですから…。仮にあったとしても、それは小さなものでしょうし…」

「大小なんて関係ないさ。お前さん…そんなのを気にしてんのか?」

「いえ…そんなことは…」


 ダグさんの言葉に納得はできるが…


 でも皆は俺に迷惑なんて掛けてこない(ジークは除く)。それなのに俺だけってのは…図々しくないか?


「だろう? それが…本当の意味での仲間ってのものじゃないのか? 迷惑の大小なんて気にせず、迷惑を掛けて掛けられる…持ちつ持たれつの関係がよ」

「…!」

「第一お前さんは迷惑を意識して誰かに掛けるような奴じゃないだろうが。そこに責める理由は見当たらねぇ。私がそう思ってるんだ…皆は私以上にそう思ってるはずだ。だから気にしてるんじゃねぇよ。迷惑は掛けろ、むしろ掛けられないことの方が迷惑だと思え。迷惑を掛けた分だけ、お前らの絆も深まるんだからよ」


 ダグさんの言ったことが、俺の胸の中奥深くに響いてきた。


 そうか…ポポとナナに言われた時と同じか…。

 迷惑…掛けてもいいのか…。

 確かに限度はあるだろうけど、その限度を気にしてはいけないということを言いたいんだろうな…きっと…。


 悩んでいたけど…答えは結構簡単だったんだな。

 ポポとナナみたいに考えればいいのか。


「ダグさん………はい! 分かりました」

「…それでいい。少しいい面になったな? お前さんのさっきまでの顔の方が迷惑に思われてたりしてな…」

「ハハハ…かもしれませんね。でも、もう大丈夫ですから。助かりましたよ」


 ダグさん、どうもありがとう。


「ツカサさん…ツカサさんは迷惑な人なんかじゃないですよ? だって…私に魔法を教えてくれて、すごい上達させてくれましたから…。そのお蔭で友達もできました、魔法の成績も上がりました。ツカサさんは…逆な気がします」

「だな。ツカサは迷惑掛ける側じゃなくて、感謝される側の人間だろうな」

「…ありがとう、テリスちゃん」


 親子揃って、俺を笑って見てくる2人。

 その光景が、非常に暖かな気持ちにさせてくれる。


 ダグさん…良い娘さんを持ったなぁ…。テリスちゃんこんないい子でさ…。


 ただ…


「最近お前が異世界人だって話が噂になってるがよ…ありゃどうなんだ? それがどうなのかハッキリしないのも…ある意味迷惑だからな? 余計な時間を浪費するからな…心配って形で」

「それは…」


 流石にこれには言葉が詰まった。

 まぁされても不思議じゃないことなんだが、今の話をされてどうしたもんかと考えてしまう。


「まぁ、大体分かってるさ。普通は否定するに決まってる。だが、それを今しないんだから…つまりそういうことなんだろ? ぶっちゃけ正体バラしてるようなもんだと思うがな…」

「………」

「…え?」


 ダグさんの言葉に…一瞬時が止まった。

 その俺を見て、テリスちゃんもダグさんの言っていることを察したようだ。驚いた顔をしている。


 う~む、確かに…。これだとバラしたも同然ですわ。

 というか…勘がいいとか察しがいいとかそれ以前に、もう分かり切ったことと思われてんでしょうかね? もしかして早くその事実を認めてほしいと思われてんのか?


『知らないの君だけだからー(クスクス)』

『馬鹿じゃないの? (ぷぷっ)』

『遅ぇよ。はよ認めろや! (イラッ)』


 …みたいな。


 だったら…なんて恥ずかしくて馬鹿なことをやってんだ俺は…。


「…ハハ…お恥ずかしい限りです」


 苦笑いしか出てこなかった。


「…そのうち話に来い。お前が思っている以上にこの町の奴らは寛容的だぞ? それにお前はこの町の英雄だろ? そんな奴を不当に扱ったりする訳あるかよ…。あんまり張り詰める必要ないぞ」

「そうですね…。分かりましたよ…でもあと少しだけ…」




 ダグさんとテリスちゃんと今日話せて…良かったと本当に思った。




 ◇◇◇




 深夜…セルベルティア王城。

 静かになった王城に、囁くような小さな声が聞こえる。


「それは本当なの?」

「はい。私が知り得た情報ですと…間違いないかと…」


 ドレスを着た非常に身なりの良い女性と、膝をついている騎士恰好の男性。その2人が、暗闇の中人目を忍び、密談をしている。

 騎士の方はドレスの女性に敬意を表しているようで、その姿勢に迷いはなかった。


「…そう。でしたらラト。貴方にお願いしたいことがありますの。聞いてくださる?」

「なんなりと…」

「そのお方に接触して欲しいの。お父様の遣いよりも早く…」

「…また、何かお考えで?」

「そんなところね。…フフフ。一時はどうなることかと思いましたが、まだ運は尽きていなかったようですわ」


 女性は騎士に曖昧な返答をすると、笑ったような仕草を見せた。

 表情は見えずとも、その顔が笑みに満ちていることは容易に想像できるほどに…。




 2人の密談は…そのまま闇に溶けていった。

次回更新は金曜です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ