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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
160/531

158話 ヴァルダ再来

 ◆◆◆




「あ~…来ねぇなぁ…」

「どうしたよ急に…。今飯食ってる最中なのに行儀悪ぃな」


 王都からグランドルの町へと戻って2日。俺はあることを考えていた。

 皆と朝食中にそれが表情と声になって出てしまい、シュトルムに行儀が悪いと称された。


「だってさぁ………はぁ~……」

「だからなんなんだよ一体! 早く言えよ!」


 その理由を説明しようとしたが、代わりに出たのはため息だけで説明にならず、それを見たシュトルムが早くしろと言わんばかりに催促してくる。


「先生?」

「来ないということは…誰かいらっしゃる予定なのですか?」

「いやぁ実は…「もしかして神様の件ですか?」…そーそー」


 ポポが俺の言いたいことを言ってしまったので、俺が話す必要がなくなってしまった。


「そういやそろそろ来るとか言ってたよなお前。ホントに来んのかぁ?」

「神様の話だとそう言ってたぞ。あれからもう一ヵ月半くらい経つんだけど…まだ来ないんだよなぁ」


 ジークがそのことに対し、半信半疑で聞いてくる。

 もう…あれから随分と経っている。ジークと初めて会った時の時点で1ヵ月は過ぎていることから、もはや約束した月イチでの会合ではなくなっている。


「何か兆候とかってないんですか? この日に会いにくるよみたいな…」

「特にそんなことは言ってなかったかな。前回もえらい唐突だったし…」


 アンリさんに俺はそう返す。

 日時を指定されたりはせず、大雑把に一月後に来ると伝えられただけだったはずだ。


「確かアネモネにいた時でしたよね? 確かその日は……」

「…? どうかしました? ヒナギさん…」

「い、いえっ!? なんでもないです…」


 途中で言葉を止め、何やらほんのり赤い顔をしているヒナギさん。


 …はて? 一体何を考えてらっしゃるのでしょうかね? 

 でも珍しいな。ヒナギさんのこんな顔…初めてみたかも。


 気になるけど…まぁ今は置いとこう。


「…神様に伝えたい情報が結構できたしね。神様の方でもどうやら調べてくれてるみたいだし、聞きたいことも結構あるんだよ」

「ん、東からっていうと…あれから結構色んなことあったね」

「ブラッドウルフのこと、ご主人と皆さんの結束、アンリさんが来たこと、ジークさんとの戦闘、それから先日の王都に行ったこととかですね」

「…長かったような短かったような…なんとも言えないな」


 皆でここ最近のことを振り返る。

 言われてみると実に濃密な時間を過ごしてきていたと思う。地球だったらこの1ヵ月の出来事に匹敵する時間は得られなかっただろう。


 一番記憶に残ってるのは…アンリさんと恋人になったことかね? あとは…本気で死にかけたことか。

 地球じゃまず考えられない怪我だよなぁ…アレ。俺は自分のあの時の姿をよく覚えてないけど、ポポ達曰くグロイ見た目をしていたらしい。全身から血が流れてて、まるで内側から皮膚が裂かれたかのような具合だったそうな。


 …あぁ、あの時の痛みと苦しみは今じゃ忘れられない思い出ですな。二度としたくないが。


「というかさ、俺ちょっと聞きたかったんだけど…皆って何かやりたいこととかってないの? いっつも俺に付き合ってくれてるけど…ランク上げたいとかさ…」


 当時のことから意識を今に戻し、俺は聞きたかったことを聞いてみることにする。

 このパーティが結束してからというもの、それぞれで自由に依頼を受けたりすることはあるとはいえ、基本的には俺に付き合わせるような形になっていることがしばしばである。そのため、それが皆にとってはどうなのかが知りたかった。


「ランクはツカサを見てたら上げたいとは思わんわ。というか俺はお前に教えて貰うことの方が多いしな。この前王都で見つけて複写した分もあるし…それ以外は別にねぇな」


 これはきっと異世界語の解読のことを言っているのだろう。

 実にシュトルムらしい。


「ん、私は暇つぶしができればそれでいい。皆といるとなんか落ち着くし…。あと…ポポとナナがいるから」


 ん、貴女はそういう娘ですもんねー。

 こちらも同様に、セシルさんらしいな。


「私は……皆様と一緒に精進していきたいので…」


 …皆と一緒で変わらないですね貴女も。

 だが…はて? さっきから気のせいか?


「俺は…「はいはい、相手してやっから」…おう」


 知ってるっつーの。

 ヒナギさんのことで少し思うことのあった俺だが、ジーク相手で中断を余儀なくされた。


 …まぁ、俺の思い過ごしだから気にする必要はないだろう。こういうことって誰にでもありそうだし。


「アタシは…先生と居られればいいですから」

「「「「「うん知ってた」」」」」


 最後にアンリさんが答えてくれたが、俺が反応するよりも早く皆が反応した。


 …真っすぐですねー。皆もよくお分かりなようで…。

 この発言に対する恥ずかしさよりもそちらに関心がいってしまうよ。




 まぁまとめると…


「えっと…取りあえず皆今のままでいいってことでオッケー?」

「「「「「はい(おう)」」」」」

「…あ、そうなんだ…」


 現状維持ということに落ち着いた。


 …それでいいのかねぇ? 

 なんか人生無駄にしてると思うのは気のせいですかね? まぁ、これはこれでいいのかもしれないけどさ。でももう少しくらい我がまま言っていいんじゃないかと思うぞ。


「…じゃあ話戻すけどさ、ヴァルダもそろっと「お呼びかね?」うわぁっ!? ビックリしたぁ…。何でここにいんだよ!」

「…で、出やがった」


 俺の後ろにある窓から、ヴァルダが首を突っ込んで覗いてきていた。

 真顔で表情がなく、ある意味ホラーだ。俺はそれに驚き動揺した。

 俺と同様にヴァルダをよく理解しているシュトルムも、ヴァルダを見て嫌そうな顔をしている。


 ヴァルダは窓に寄りかかって俺達の会話に入り込んでくる。


「む? たった今俺を呼ぶ声が聞こえた気がしてな。まぁこれが俺とお前の絆の成せる技…いや愛の力さ」

「いや無いから! 相変わらずキモさにブレがないなお前は! てかずっとそこにいて話聞いてたんじゃないだろうな?」


 ヴァルダのキモさとそこに何故いたのかということは今どうでもいい。問題はそれまでに話していた会話を聞かれていたかについてである。


「まさか! そんな怪しいことできるわけないじゃないか! 俺はただ気配を消してここに偶然突っ立っていただけだ! 息子と共に!」

「それ偶然じゃないだろ!? 帰れ不審者! いや土に還れ!」


 何目ぇ見開いて豪語してんだお前は! 

 …ちっ、後で確認がてら口封じをせねば! まぁコイツには何かと勘付かれてる節はあるから…適当な事を言ったところで誤魔化しきれないのが実情。それなら…。


 ヴァルダの異常性はともかく、仕事はきっちりやるのは知っているし最悪金でも積むか。金が動けばコイツもそれ相応の対応をすることだろうし。


 俺の懸念とは裏腹に、ヴァルダの暴走は続く。


「そうか、もし帰れるなら…お前のところに帰りたいな俺は…」

「キモイし来なくていいから!」


 手をワキワキさせて俺の方に伸ばしてくるヴァルダを見て、ゾワッと全身の毛が逆立った気がした。


 コイツは人を身震いさせることに関しては一級品のモノを持っているな…強者が持つそれとは別の類だけど…。

 だがある意味恐怖だこれは。


「なんかツカサの周りって変な奴ばっかだよなぁ」

「お前が言うなお前が。でもばっかって一体なんだよ?」

「……いんや、俺がそう思ってるだけだから気にすんな」

「…」


 ジークの言葉に違和感を覚える。


 俺の周りにいる変な奴って言ったら3人しか思い当たらんぞ。

 ジークにシュトルム、そして一際飛び抜けてヴァルダだ。ばっかってほどではないと思うがな…。


「ヴァルダは相変わらずだね…。アンリ、頑張ってね」

「えっ、そんな…」

「ちょっと待ってセシルさん! 何故にヴァルダをアンリさんと同じ土俵に立ててんの!? そもそも戦う分野が違くない!? アンリさんの勝ちに決まってるよ!?」


 いきなりのセシルさんの発言。

 アンリさんとヴァルダで何故に競う流れになってるのかが分からない。

 そこに…それとは関係のない問題が追撃してくる。


「ん~これは薄い本の材料になりそうですな~」


 俺とヴァルダのやり取りをセシルさんの頭の上で見ていたナナが、突拍子もないことを言いだした。


 ファッ!? う、薄い本…だと!?

 それはもしや…アッーーーー♂な奴じゃないだろうな? 

 

「お前その知識どこで学んでんだよ!? ご主人悲しい!」

「ご主人…ゴーイングマイウェイを私も貫くよ!」


 アッーーーー!!? 貫かないでくれぇええええ!!


「いやあああああああウチの子がああああっ!!」


 ナナのその発言に、俺はショックで崩れた。


 なぜそんな偏った必要のない知識を持ってるんだよ!? 

 どこだ…どこで教育を間違えた!? コイツは最初は確かにおっとりした可愛い奴だったはずだ…今も可愛いけど。

 でも! 清く正しい子に育てようと思っていたのに…今のこの状態は何だ!? 何もかも腐りきってやがる…! 遅すぎたか。


 焼き払えと言えるなら…俺は今それを叫びたい。


「あらあら…ヴァルダさん。おはようございます」

「これはこれは…ご機嫌麗しゅうございますフィーナさん。どうですか? 今度ご一緒n「遠慮しておきますね」…それは残念」


 そこに、宿屋の主であるフィーナさん、そしてミーシャさんが現れる。

 ヴァルダの誘いに慣れた対応をするフィーナさんだが、流石のヴァルダも素直に引き下がっていく。


 人妻を誘うとか、見境ないなコイツ…。

 ストライクゾーンはなんぼのもんなんだ? まぁ確かにフィーナさんは若々しすぎて全然いけそうだけど…人類皆兄弟とか言って全員が対象じゃあるまいな?

 あ、兄弟じゃ近親相姦になるからどっちみち駄目か……って、んなのはどーでもいいんだよ。駄目なことに変わりないし。


「まぁいい。さっさと「なに『まぁいい』の一言で片づけてんの!? 良くないよ!? このままじゃ俺もコイツと同類ってことになるから!?」


 俺が変態であるということはまだいい! だがホモのレッテルは駄目だ!


 フィーナさんとのやりとりが間に挟まって解決したかに見える俺とヴァルダのやり取り。それは何も解決なんてしていない。

 抗議の声をあげてみるが…ジークに阻まれる。


「そうだな、悪ぃ悪ぃ。お前は俺と同類だったな」

「それはそれで嫌なんだが…」


 ジークと一緒ってのもなぁ…。なんか複雑だ。

 俺まで戦闘凶みたいに思われるのは嫌だぞ。まだ素っ頓狂の方がマシだ。


「お、お母さん…」

「ミーシャ…恋にはね、色んな形があるの。でも安心して、どの恋だろうと…愛は共通だから…」


 ミーシャさんが困惑した様子をしていると、フィーナさんが論すように話しかけた。

 その場にいた善良な家族に悪影響を与えてしまったようだ。


 ヘイ奥さん。娘に正しい教育してんだろうけど、それは俺の今の状態を否定してくれてないことになるんですが…。

 俺は参考例か何かなんですかね? しかも悪い例という…。


 …ちっ、仕方がない。さっさと話を進めてしまおう。

 逃げるに限る。やっぱ世界が違えども逃げるが勝ちってのは共通だな。


「そんでヴァルダ。聞きたいことがあるんだが…」

「ん? 俺のオススメのヌキヌキポイントか? それなら「聞いてないから! ちと黙れ!」…ショボン」


 いや、ちょっと気になるけどっ! ちげーよ。


 若干心を揺さぶられる内容ではあったが、その気持ちをなんとか押し留めゴリ押した。

 第一俺にはアンリさんがいる。それはアンリさんに対する裏切り行為であり、最低の野郎の所業になってしまうし。


「以前頼んだ例の情報の集まり具合はどうだ? 進展したか聞きたい」

「例のやつか…。悪いがまだ旨みのある情報は入ってないな。割と本気で探っているのだが…これっぽっちも引っかからなくて停滞しているのが現状だ。あらちょー悔しい…。まぁ活動範囲を広げようかと最近では考えているぞ」

「ちっ…そう上手くはいかないか…」


 以前ヴァルダに依頼したノヴァの情報収集。その進展を聞いてみるも、やはりというか…情報は特にないようであった。


「調べているからこそ聞きたいんだが、本当にノヴァなどという組織が実在するのか?」

「それはまぁ…俺がいたとこだしな」


 ヴァルダがこうして改めて疑問に思うのも不思議ではない。

 そもそも存在するのか疑わしいとさえ思われても仕方ないレベルなのだから。


「…ふむ。まぁツカサきゅんの頼みであるし、継続していきまちゅね。手を抜いているつもりはないし、ここまで微塵も情報が無いと少しショックだが…実にやりがいのある情報収集だ」

「…頼んだ」


 動くに動けないこの状態から早く脱却したいのが実情だ。このまま何も出来ないのでは無駄に時間が過ぎていくことと等しい。

 ヴァルダには是非とも頑張ってもらいたいものだ。


「聞きたいことは以上か? それなら俺も聞きたいことがあるんだが…いいか?」

「なんだ?」


 ここで、流れが変わった。具体的にはヴァルダが真面目な顔をしただけだが。

 ただヴァルダの仕事をする時の顔は普段とは似つかないもののため、本来は感じないものを錯覚してしまっても仕方ないと言える。


 まぁこれが本来普通のあるべき姿なんでしょうけども…。


 そして…


「最近ツカサきゅんが異世界人だのという噂が流れつつあるみたいだが…それは真なのか?」

「あ、それは私も最近よく耳に入りますねー。ツカサさん…どうなんですか?」


 ヴァルダの言葉に、ミーシャさんも気になっていたらしいとの旨を伝えてくる。

 今まで気になっていたことを、丁度良いタイミングで聞いてくれる人物が現れたのを好機と見たのだろう。


「ご主人…」


 ポポがどうしますか? という顔をして俺を見る。

 確かにここは適当に笑って誤魔化す、もしくは完全否定のどちらかを選ぶべきだろう。

 だが、今俺はトウカさんに言われた言葉が頭の中で繰り返されている。

 だから…


「…あぁ、そうだよ。信じてくれるかは別だが、俺はお前等が言うところの異世界人って奴だ」

「え!?」

「あらあら…それはビックリね~」

「先生…!?」


 俺は…正直に答えることにした。

 俺がそう言ったことで皆は目を丸くし、ミーシャさんは驚愕していた。今にも声を張り上げそうだったが、声にならないようだった。


 フィーナさんに関してはビックリしてるように聞こえないけど、まぁ動じない人だからなんか納得できる。


「ほぅ…」


 一方ヴァルダは特に驚いたような素振りを見せなかった。むしろ興味深そうな顔でこちらを見ていた。


「今まで隠してたけど…もう無理そうだからな」

「…フフフッ! それにしたって随分とあっさり吐いたな…ツカサきゅん?」


 見た目と口調がさっきからミスマッチだが、ヴァルダが笑いを堪えながら話しかけてくる。


「もうこれ以上疑惑の眼差しを向けられるのは勘弁だ。それに…覚悟はもうできてる」


 覚悟とは、認めたことによる今後の変化のことだ。

 学院長に言われたことが起ころうとも…全てを跳ね除けるつもりだ。


「…それはそれは、情報提供感謝する。これは今なら高い金になるだろうな」

「オイヴァルダ! だからってむやみに…「しないから安心しろ」…その言葉嘘じゃねぇだろうな?」


 俺が認めたことで、ヴァルダが新たに得た情報で金の事をチラつかせるが…そこにシュトルムがいち早く食って掛かってくれた。


 正直…シュトルムの仲間思いの行動にはいつも感謝していたりする。

 こういうのをできる人って中々いないからな…。すげぇよな…コイツ。今じゃ初期と比べて雲泥の評価だ。


 ただ、ヴァルダは今のは冗談で言ったらしく、情報は秘匿してくれるっぽい。


「俺とお前の仲だろう? なら信じてくれて構わんぞ」

「俺はお前さんとはそんなに話したことないんだが?」

「ツレないこと言うなよ…大事なのは話した時間じゃない。ココだろ?」


 ヴァルダがハートマークを両手で作り、シュトルムに飛ばすかのような動作を取った。

 俺からシュトルムへと標的が変わってなによりである。そしてとにかくヴァルダはキモイ。


 さっき感じたシュトルムに対する感謝の気持ち。それはこれとは別問題なのだ。


「うへぇ…ツカサ、俺パス。代わってくれ!」

「やなこった。…あとヴァルダ。さっきから俺のこと変な呼び方で呼ぶなよ」

「じゃあツカサちゃん」

「ちゃんづけやめれ!」


 一度は事なきを得たと思った矢先、標的が俺へと戻ってしまったようである。

 それを…


「…嫌って言いつつ俺と代わったぞアイツ…」

「いやぁご主人ですから…きっと無意識ですよきっと…」

「そういう定めなだけだから…」


 シュトルムがポポとナナとそんな会話をしているが…


 うっせ! ついでで言うことあったからそう見えただけだっつーの! 

 代わりたくて代わったんじゃねぇよ! 何が定めだ。


「それを人は…天然と言うんだな」

「「うんうん」」


 頷いてんじゃないよ。いいから助けろ、俺じゃコイツは止められない。


 シュトルムとポポ達のやり取りを聞きながら…俺はヴァルダと名前についての話をしぶしぶ続けた。


「…だったらツーちゃん」

「だからちゃん付けはなしだって」

「ならツカピー」

「……普通に呼ぶっていう考えはないのかお前…」

「ありまちぇん♪ ツッ君」

「君もなしだ! というかあだ名はいらないだろ」

「あだ名がないとかふざけ~! 欲しい欲~しぃ~!」

「欲しくない!」

「ぶー!!」

「駄々捏ねるな!」


 窓の淵に顎をつけて口を尖らせているヴァルダ。その顔になんとも苛立ちを覚える。


 ウゼェ、しつこい、懲りない。嫌われる要素がてんこ盛りだなオイ。


「…では、話が逸れてしまったがさっきのを続けようか?」

「ヴァルダが逸らしただけじゃん」

「というか…落差が凄い気が…」


 ヴァルダの豹変ぶりに、アンリさんがドン引きしている。

 アンリさんのコイツに対する印象は冒険者ギルドで助けられた姿だと聞いていたが、それがどうも崩れ去っているようである。

 アンリさんという美少女からの印象が崩れようともそれを特に気にしない精神には目を見張るものがあるだろうが、真似はしたくないとしか思えない。


「まぁ言いふらしたりはしないから安心しろ。金を渡されようとも受け取らないし、仮に受け取っても教えない。情報屋の前に俺も人だからな…そこだけは忘れたつもりはない」

「…あれ? なんか俺の知ってるヴァルダじゃないんだけど…」

「私も思った」

「俺も」

「良いこと言ってるように聞こえるが、ヴァルダ…それ詐欺だからな? なら金は受け取るな」


 シュトルムがヴァルダがサラッと言った問題点を指摘するが、同意見だ。


 貰い逃げはイカンだろうに…。人ならその考えは忘れろよ。


 だが、いつもの定まらない不規則な表情とは違い、フッ…と、今のヴァルダは非常に爽やかな笑みを浮かべていた。私欲に塗れたゲッスい表情は皆無である。

 俺だけでなく、皆がその顔に注目していた。


 普段からこんな顔してればいいのに…。

 でも…


「まぁなんにせよ……悪いなヴァルダ…」

「フッ…愛人の頼みと「違うから」……プンプン! ヴァルダ君怒っちゃいますぅ」

「「「ウゼェ…」」」


 ほぅらこうなった…。

 うん、知ってたよ俺達…。ハモっちゃうくらいにはな。


 俺とシュトルムとジークが声を揃えて言う。

 俺とシュトルムはわかる。だが、そこまで接点のないジークでも簡単に予想できたに違いない。


 …まぁいいや。


「でも皆に知れ渡ったらそんなの気にしなくていいからな? 今だけは遠慮しといてくれや」

「…あい分かったぞい」


 何故ジジイ口調になったかはツッコまない。思う壺だからである。

 ただ今度は…


「ミーシャさんとフィーナさんも…お願いできますか?」


 こっちの2人だ。


「つ、つつつ、ツカサさんっ! 今の話って本当なんですか!?」


 やっとある程度落ち着いたのか、ミーシャさんが慌てた様子で反応してくれた。

 やはり異世界人というワードは影響が強すぎたらしい。これが通常の反応であり、全く動じていないフィーナさんはある意味すごいが。


「うん。今まで黙っててゴメンね。詳しいことはいずれ話すから…今は内緒にしといてくれる?」

「ちょ、ちょっとまだ驚きがあるんですけど…わ、分かりました! ツカサさん、絶対教えてくださいね!」

「アハハ…了解。落ち着いたら話すよ。それまでは内緒にね?」

「ハイ!」


 随分と興奮した様子なミーシャさんにそう伝え、俺は内緒にしてくれるという言葉を信じた。

 ただ、そのやり取りをしたのが原因なのか…


「むぅ…」


 ミーシャさんと親し気に会話していたからか…隣にずっと座っていた我が姫君は少々口をお膨らませになっている。


 前々から思ってたけど…アンリさんって意外と焼きもちとかが若干強い気がするんだよな…。いや、これが普通なのかもしれんけど…。

 比較対象がないから判断できないけど、これは避けては通れない道なのだろうか?

 まぁ好いてくれるのが実感できるから嬉しいことは嬉しいんだけど…。


「あらあら…若いっていいわねぇ」

「!? アハハ…すみません。顔に出てましたか…」

「そらもうバリバリ出てたぜ?」


 フィーナさんの発言に、アンリさんは自分の今の状態を把握することができたらしい。どうやら無意識にやっていたっぽい。

 そしてジークもアンリさんの様子を伝えている。


 掛けられた言葉を否定しないのは…きっとデートの時に遠慮しないと言ったことの表れだと推測。

 いつも恥ずかしがっていた表情が嘘のようだ。


「あ、アンリさん! ゴメンなさい! 私そんなつもりじゃ…」

「ミーシャちゃんがそんなに謝る必要ないから気にしないでいいよ?」


 俺に謝れと遠回しに言ってるんでしょうかそれは…。


「ツカサさんをそういう対象に見てるとかじゃないですから! 言うなればそう…お兄ちゃんみたいな感じです!」


 あ、そういう風に見てたんだ。知らんかった…。


「…う~ん。そこまでは聞いてないんだけどなぁ…。でも、仲良いんだね?」

「だってツカサさん優しいですから。頭撫でられた時が一番お兄ちゃんみたいな感じがします」

「…へぇ…頭撫でるんだ…」

「はい」


 ミーシャさんがそう思っていてくれたことにいい気になっていた俺だが、アンリさんがジト目で俺を見つめる。

 その様子に…


 …うん。やっぱり焼きもち焼きだ。きっと頭を撫でたっていうワードに反応したに違いないと思われる。


「あ、アンリさん?」

「いえ、別に…(プイ)」


 そう言って、俺から顔を背けてしまった。


 う、う~む。女の子ってホント難しい…。こういう時に掛ける言葉をすぐに見つけられるようなできた男って凄いよなぁ…。尊敬しちゃうわ。


 女の子の難しさを身に染みて感じていると、ヴァルダが俺へと話しかけてくる。


「さて、俺も焼きもちを焼きたいところだが、面白い情報を確定してくれたお礼に、ツカサきゅんにタダである情報を教えてやろう」

「何だ急に…。あと焼きもち焼かなくていいからな?」


 コイツまで今の状態で混じってきたらカオスすぎる。断固として拒否させてもらおう。


 だが俺は次のヴァルダの言葉には…驚きを隠せなかった。


「それは残念だ。…まぁ聞け。今から言うことはお前が異世界人だと認めたことで意味のある情報となったものだ。…今セルベルティアでは異世界人がこの世界に現れたという話題で持ち切りになっているのは知っているか?」

「は?」

「もうそこまで情報が…!」

「一体何故…?」

「そいつぁ一体どういう意味だ?」


 俺を含め、皆がヴァルダの言うことに興味を示す。


「待て待て慌てるな。まだツカサ個人が特定されているというわけではないから安心しろ」

「そうなんですか…」


 その事実に胸を撫で下ろす。

 だが、今さっきここで打ち明けたばかりの内容が、先行して王都で広まっていることには驚きを隠せなかった。

 どこでどのようにしてそんな事態になったのかが分からなかった。


 ヴァルダの話は続く。


「事の発端は2日前だ。王都にかの『勇者』が残していったとされる宝剣があることは知っているな?」

「あぁ知ってるけど…。それがどうしたんだ?」


 この時点で俺は…何か嫌な予感を感じていた…。なんとなくこの先の展開が…想像できてしまった。


 …2日前って、そういうことでしょう?


「俺の独自のルートでの情報によるとな、その宝剣なんだが……どうやら適合者が現れたらしい」

「適合者? まさか抜ける奴がいたのか…」


 シュトルムが目を丸くして適合者と言う部分に反応した。


 ………。


「あぁ。精霊王が授けたと言われるあの宝剣がだ…。その人物は恐らく…精霊に愛されているのだろう…。過去にも抜けかけたといった噂話はあったようだが…今回はどうやら本当の話らしくてな。昨日正式にそれが確定され、王城にいたセルベルティア王家直属の魔法師部隊が、適合者は異世界人特有と思われる波動を感知したそうだ。今セルベルティアの王族が主導となってその人物を探している状態だ」

「…異世界人特有って…コイツしか…」

「それに愛されてるって…」

「………」


 ジークとシュトルムが俺を凝視してくる。その視線に俺は無言を貫いた。

 内心俺の中ではどんどん心当たりが指摘され、心拍がとんでもないことになっている。


 …それはやっぱりあの時か? というかそれしか…。

 つーか異世界人特有の波動って何だよ!? んなもんバレるに決まってんじゃねーか! ふざけんな!


「せ、先生? あの…それって…」

「…」


 アンリさんも俺を見てきたが、俺は目を逸らした。


 見たら認めたことと同義。まだ終わらぬ…!


「そこで聞きたい。ツカサきゅんよ…もしやその宝剣に触れちゃったりしたか?」

「そういえば2人って神殿に行ったんだよね?」

「…それでは……!」

「ご主人。何かバレるようなことしてないでしょうね?」

「………(プイッ)」


 俺は全員から顔を背けるため、顔を右へと背けた。

 終わりへのカウントダウンが…始まってしまった。


 そこにナナが…俺のすぐ真正面までテーブルをトコトコと歩いて近づいてくる。


「ご・しゅ・じ・ん? なんでそっちを見てるのかな~?」

「い、いや~…ちょっと寝違えちゃって…」


 俺のその場凌ぎの下らん言い訳は…ポポで終わりを迎えた。


「嘘はいらないですから! 何でこっち見ないんですか! 絶対何か心当たりあるんでしょう! …アンリさん! 何があったんですか!?」

「えっと…アタシ達が神殿で宝剣に触ろうとした時にね、宝剣の光が強まったの…。その状態でアタシ達は宝剣に触れたんだけど…別に抜けなかったよ? ですよね、先生?」


 アンリさんが俺の代わりに当時の状況を伝えていく。


 …最初に謝っておきましょう。ゴメンなさい。俺…ほんの僅かとはいえ抜いてました。


 言う決意を固めた俺は…


「お、俺…抜けるのかなぁって思って試したんだけど……抜けたんだよね、あの剣。一瞬抜けかけてすぐに戻したんだけど…アハハ…」

「「「「「「「………」」」」」」」

「あ、ハイすんません…多分それ俺です…エヘヘ」

「エヘヘじゃねーでしょーが!」


 皆が絶句してしまったけど、ちゃんと正直に伝えました。

 でも…やっぱりこういうのは最終的にバレるんですね。やっぱり人間嘘と隠し事はできないってことなんですかね? 

 でも言えるわけないじゃない、あっさり抜けましたなんて…!


「「「「「「はぁ」」」」」」


 皆一緒のタイミングでため息つかれると何も言えねーんですけど…。


「フ、フハハハハッ! その人物が目の前にいるとは…しかもそれがツカサだとは…! 面白い…面白すぎるぞ!」

「俺は面白くねーわ…」


 ヴァルダの言うことは今どうでもいい。

 俺が気にしていることは、ついこの前学院長に言われた言葉だ。


 …子種を求められる。あれがどうやら現実となりかけてしまった可能性が高いらしい。早すぎるわ。

 貞操の危機がまた…! あ、アレは夢だからまたじゃねーか…。これは初めてだな。


 学院の悪夢を思い出してしまった。


「いやぁこの噂を聞いた時に真っ先に思いついたのがツカサきゅんでな。こっちではツカサきゅんが異世界人などと噂になっていたからもしやとは思ったのだが…」

「へーへー。大当たりで良かったですねー」

「また懸念事項が増えたな…話題に事欠かなさ過ぎるのも問題だな」

「このことがどう影響していくんだろ…」


 まぁ…言われたことは貴族と王族が接触を図ってくるってことだな。幸いにも王都では名前がまだ広まっていないから、ほんの少しくらいは時間がある。


 この間に対策練るか。

 もし周りに危害を加えようとするなら俺の全てを持って排除してやる! 王族だろうが貴族だろうが関係ない。


「ミーシャさん、フィーナさん! これ…周りに自然と広まるまでは秘密でお願いします!」

「わ、分かりました! はわわっ…凄いことになってきちゃった…」

「分かったわ。言わないから安心してくださいね」


 焦りを感じながら、再度2人にお願いをした俺。

 2人はそれを快く了承してくれた。

 それが少しだけ俺の安堵へと繋がったが、危機感の無さをまたもや痛感している。


 何が神殿のシステムガバガバだな…だ。俺の方がもっとガバガバな危機感じゃねーか!

 まずこの思考がガバガバだよ!? 俺の馬鹿!




 新たな問題に頭を悩ませる俺だった。

次回更新は火曜です。

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